上 下
402 / 528
8章 魔道国

第401話 王都って凄い

しおりを挟む


魔道国。
この大陸において最も発展しているその国は、魔族と呼ばれる種族が主だって建国した国である。
その発展は魔族という種族の特性でもある長寿、そして保有魔力の多さによって支えられたと言われているが......魔族を知り合いに持つものならこう言うだろう。
彼らの偏執的なまでの知識欲、探求心の強さが国を発展させたのだと。
大陸で最大の版図を有し、大陸の最先端を行く技術、更には種族的な長寿と膨大な魔力。
魔族と言う種族がそう望めば、大陸の覇権は間違いなく魔道国、そして魔族の手に握られていただろう。
しかし、魔道国は......いや、その元首である魔王はそれを望まなかった。
他を制するどころか、自分たちの強みである様々な技術を他国へと提供していったのだ。
技術提供を始めた当初は他国は相当に警戒をした。
だが、技術提供に加え、学生の受け入れ、技術者の派遣......経済、食料支援。
至れり尽くせりと言える支援の数々、当然ながら胡散臭さはどんどん増していきそれらを受け入れる国は無いように思われた。
しかし、意外にもそれを受け入れた国が現れる。
大陸中央に位置している国、龍王国だ。
龍王国は治水技術を学ぶ為の留学、そして技術者を国に受け入れる。
それにより龍王国の生活水準は向上し、多くの民を抱えてなお養っていくことが出来る大国へと成長した。
残念ながら治水技術の習得を主として学習した龍王国は、自国内での魔術の発達が少し遅れてしまうのだが、魔道国から便利な魔道具を輸入することで自国内は安定していった。
輸入に頼ることでより一層自国内の魔道技術の発達が遅れてしまうのだが、その辺は仕方ないと言えるだろう。
魔道国と歩みを共にし、発展していった龍王国を見て......他国も考えを改めていくことになる。
勿論、無条件にすべてを受け入れていったわけでは無いが、徐々に魔道国の支援は各国へと広がっていった。
しかし、それでもやはり魔道国の発展に追いつける国は無く......魔道国は大陸の最先端を未だに駆け抜けている。



「これが魔道国の王都......レギさんに聞いて色々と想像はしていましたが......これは予想以上でした。」

「ほほ、驚いてくれたようで何よりじゃ。」

俺はナレアさん、シャル、マナスと一緒に魔道国の王都に到着した。
予定通りレギさん達から分かれて三日目にここまでたどり着いたのだが、遠目から見ても王都の異質さは際立っていた。
水門の町周辺も街道はかなり整備されていていたけど、王都に近づくにつれて街道のレベルが格段に上がっていったのだ。
舗装されているのは当然として......街の外であっても街灯まで建てられているのだ。
街の外でも街灯っていうのだろうか......?
まぁ、それはさておき......街道は二車線のようになっていて、左側通行になっている。
そしてさらに、脇には歩道があった
いや、それだけであれば交通ルールがかなりしっかりしているんだなくらいで済んだのだけど......そこを走っている馬車が、馬車では無かったのだ。
いや、何を言っているのだろうかって感じではあるけど......そうとしか言いようが無かったのだ。
幌馬車ではなく箱馬車なのだが、馬が引いていない......というか箱馬車だけで自走している。

「あの......なんか箱馬車が馬無しで走っているのですが?」

「走っておるのう。」

「御者もいないみたいですが。」

「おらんのう。」

「どうやって走っているのですか?」

「不思議じゃのう。」

そう言ったナレアさんはニヤニヤしながら俺を見ている。
確実に驚いている俺を見て楽しんでいるね、これは。

「あれは......自動車ということですか?」

「ふむ、妾達はそう呼んではおらぬが、ケイ達の世界で言う所のそれと似たようなものじゃろうな。まぁ、勿論......ケイの話にあった鋼鉄製で馬よりも遥かに早いとかいう、ふざけた乗り物ではないが。」

俺達の横を早歩きくらいの速度で追い越していく車を見ながらナレアさんが言う。

「アレは魔道馬車と言う。うむ、馬がいないと突っ込むでないぞ?発明した者がそう名付けたのじゃからそういう物だと受け入れるのじゃ。」

「はぁ、わかりました。」

「アレの操作は馬車の中でしておる。じゃから御者が外におらぬのじゃ。まぁ、操作は非常に難しく、走らせておる間は一瞬たりとも気が抜けぬ。しかも走らせるには国の管理する試験を突破して資格を得る必要がある。正直馬車の方が楽じゃな。」

普通自動車免許が必要なのか......。

「それに車内に大型の魔道具を設置せねばならぬから車内は狭く、多くても二人しか乗れぬ。操作しておるものを含めて二人じゃ。操作しておるものは必死じゃから会話も出来ぬし......まぁ殆ど趣味道楽の乗り物じゃな。」

「馬を飼うより楽って感じですか......?」

「まぁ、その辺は確かに楽かもしれぬが......費用対効果という点で言えば微妙じゃな。あれに使われておる魔晶石はケイの魔晶石と違って消耗品じゃぞ?しかも一つや二つではない、一体どのくらいの距離を走ることが出来るのかは知らぬが......維持費は馬のそれとは比べ物にならぬはずじゃ。」

「なるほど......後は、定員が二人って言うのはかなりきついですよね。もう少し大きくは出来ないのですか?」

「流通しているような魔晶石ではこれ以上大きくすることは難しいようじゃな。」

「なるほど......でも、ナレアさんが欠点をあげつらった割には結構見かけますよね?」

欠点しかないと言わんばかりのナレアさんの説明だったが、王都を行きかう馬車の中には五台に一台くらいの割合で魔道馬車が混ざっているように思う。
流石に王都の外の道を走っているのは見かけなかったが。

「新しい物、珍しい物が大好物じゃからな、魔族と言うのは。」

「まぁ、技術の発展に好奇心はとても大事な要素ですから。」

そう言って俺はナレアさんを見る。
ナレアさんやデリータさんが特別好奇心旺盛なのかと思っていたけど、魔族の方々は得てして似たような感じなのかな?

「寿命が長いせいか、己のやりたいことを追求しがちな奴等じゃ。その癖新しい刺激を常に求めておる。矛盾を感じないでもないのじゃが......まぁ、妾も人の事は言えぬがのう。」

ほほほといつものようにナレアさんは笑った後、街並みへと目を向ける。
釣られて俺も視線を移す。
通りに面した建物はどうやらお店みたいだけど、窓には大きなガラスが嵌め込まれていてお店の中を覗くことが出来るようになっている。
ガラス自体は龍王国でも見た事はあったけど、ここのガラスはサイズが違う。
全部が全部とは言わないけど、所々ショーウィンドウの様な展示がされていて前面には俺の身長よりも大きなガラスが設置されている。
透明度もばっちりで元の世界で見ていたガラスと大差なく感じる。
魔術を使って作ったものかもしれないけど......街に入ってまだ少ししか経っていないにも拘らず驚きの連続だ。

「ん?それが欲しいのかの?何と言うか......ケイには必要ないと思うのじゃが......。」

「え?」

ナレアさんの声に俺は意識をガラスからその奥に展示されている商品へと向ける。
なるほど、これは確かに......。

「それとも、もしや......危うい感じなのかの?」

「いえ、その心配は全く必要ありません!」

俺はナレアさんの言葉を力強く否定させてもらう。

「ふむ......それは良かったが......あぁ、もしやレギ殿の為に?」

「い、いや、ガラスが凄いなぁと思ってい見ていただけで、他意は無いです。いや、本当に。」

ディスプレイされていたのは、新発売の強力毛生え薬とカツラだった。
それ、並べて売るのおかしくない?

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...