391 / 528
8章 魔道国
第390話 船上の戦い
しおりを挟む甲板にいた乗客から悲鳴があがり、船員さん達は慌ただしく動き始める。
激突音もしたし、間違いなく何かがぶつかったと思うのだけど......座礁とかではないよね?
河は相当深いって聞いているけど......。
俺は手すりから顔を出し河を覗き込む。
船は停止せずに進み続けているし、座礁してしまったわけではなさそうだけど......。
その時何か大きな魚影のようなものとすれ違ったように見えた。
もしかして先程の鳥を逆に襲った魚の魔物だろうか?
魔物とぶつかっちゃったとかかな?
そう考えていると船を再び衝撃が襲った。
河を覗き込んでいたせいで危うく落ちそうになる。
「ケイ!身を乗り出すのは危険じゃ!」
「す、すみません!」
この状況で船から身を乗り出すって、怒られて当然だな......。
俺がバツの悪い思いをしていると甲板の反対側から悲鳴があがる。
声に釣られてそちらを見ると甲板に巨大な魚の魔物が立っていた。
......。
魚が立っているのである。
「あれは......なんですか?」
「魔物じゃな。」
『あれはシェルフィッシュです。』
俺の疑問にナレアさんとシャルが答えてくれるけど......違う、俺が聞きたいのはそうじゃない。
「魚が立っていますけど。」
腹びれと尻びれで垂直に立っているのだ......全体的にカサゴみたいに刺々した感じだけど......毒とかありそうだ。
「魔物じゃからな。」
魔物だったら立てるのか......。
後、肺呼吸なのだろうか?
「いや、落ち着いている場合じゃないですよね!?」
「うむ、じゃがまだ妾達の出る幕では無いからのう。」
ナレアさんがそう言うと同時に槍を持った船員さんが三名で魔物を囲む。
他の船員さんに先導されて甲板にいた乗客が船の中へと逃げ込んでいくと同時に、追加のシェルフィッシュが甲板へと飛び込んでくる。
乗客の悲鳴が大きくなり我先にと船の中に戻ろうとしているが、入り口で渋滞が起きていて避難が進んでいない。
槍を持った船員が何人か新しく出て来たけど......最初に囲んでいた一匹を相手にしている三人はまだ攻めあぐねている感じだ。
そうこうしている内にさらに追加の魚が甲板へと上がってくる。
「流石にまずくないですか?」
「そうじゃな......ちと数が多すぎる。」
シェルフィッシュという名の通り、随分と硬い魚のようだ。
さっきから船員さんが槍で突いても全然傷をつけることが出来ていないにも拘らず、魔物の数だけが増えていく。
既に甲板の上には四匹の魔物が飛び乗ってきている。
「上級冒険者のレギ=ロイグラントだ!俺が魔物の相手をする!」
俺達とは離れた位置にいたレギさんが名乗りを上げ、傍にいた傍にいたシェルフィッシュに斬りかかる。
いつもの斧は流石に持っていなかったようで、街歩きの時にいつも腰に下げている予備の剣を使っている。
レギさんが名乗りを上げると同時に、レギさんの傍にいたリィリさんも剣を抜いてレギさんとは別の魔物に飛び掛かった。
上級冒険者の名乗りを聞いて船員さん達が顔を輝かせる。
槍を持った船員さん達は必死に攻撃を続けているけど、やはり効果的なダメージを与えられていなかったので、レギさんの参戦は地獄に仏と言った感じだろう。
「ほほ、二人に任せておけば問題ないとは思うが......妾達も少しは働いておくかの?」
「とりあえずは大丈夫そうですけど......って、また増えましたね。多過ぎませんか?」
「まぁ、魚の群れと考えれば多いとは思わぬが。キリがないのう。」
ナレアさんが魔力弾を撃って上がって来た直後の魚を河へと落とす。
俺も続けて魔物を処理しようとしたのだがナレアさんに手で押しとどめられる。
「ケイ、待つのじゃ。人目があることを忘れてはならぬのじゃぞ?」
「あ、はい。そうでした。ありがとうございます。」
そうだった......今は俺達以外にも人が多くいる。
迂闊に魔法をバンバン使うわけにはいかないだろう。
......そう言えば身内以外の人が魔物と戦っている所を見るのは初めてな気がする。
船員さん達は体格も良く非常に強そうだったけど......シェルフィッシュに有効打は与えられていないみたいだ。
っていうか......どうしよう。
俺は人前でどうやって魔物と戦えば......?
俺が悩んでいる間にナレアさんは魔物に魔力弾を連続して撃って、次々と河へと叩き落している。
レギさんやリィリさんはシェルフィッシュを叩き斬っているけど......俺は腰に差しているナイフを見る。
普通の魚ならともかくあの大きさの魚を解体するには少々......いや、刃渡りがかなり足りない。
普段であればナイフを伸ばすところだけど......この魔道具は魔法を使った魔道具だ。
残念ながら衆人環視の中で使うのはちょっと危険だろう。
特にここは魔道国......魔道具最先端の国だ。
そんなところで未知の魔道具を使って目立つのは得策ではない。
となると強化魔法で魔物を素手で殴り飛ばす......いやいや、どう考えても目立つ。
ナレアさんも近接格闘ではなく、一般的な魔道具で戦っているのはそういう事だろう。
まぁ、魚らしく滑っとしている感じがするので、触りたくないだけの可能性も否めないけど......。
それはともかく、俺の方だ。
現在魔物に襲われている乗客は見た感じいない。
相変わらず船内に降りる扉の前は詰まっているけど、魔物はレギさんや船員さん達に抑えられていてそこには近づけないでいる。
俺が戦わなくても大丈夫かもしれないけど......レギさん達はともかく船員さん達はそこまで余裕がありそうな感じはしない。
今も追加で魔物が甲板に飛び乗ってきている以上、いつ均衡が崩れてもおかしくないだろう。
人手は多いに越したことはない。
しかし、弱体魔法もまずいよね......?
触れもせずに魔物を動けなくするなんて......いや、待てよ?
いつものように完全に動けなくするのではなく、船員さん達が相手をしている魔物を少しだけ弱体化させるのはどうだろうか?
それなら問題なく船員さん達でも魔物を処理できるだろう。
でも問題もある。
弱体魔法でこっそりと弱らせるのはいいけど、それで自信をつけて俺達が居ない時に今日と同じ感覚で魔物と戦った場合、大怪我をする可能性があるよね......。
そう考えるとほんの少しだけ弱体させるくらいに留めた方が良いかもしれないけど......それで意味があるだろうか......?
幻惑魔法、天地魔法もダメだ......どう考えても滅茶苦茶目立つ方法しか思い浮かばない......。
甲板の上で皆が戦闘を続ける中、すっかり足と思考が止まってしまった俺の足元に船員さんの使っていた槍が弾き飛ばされてきた。
「しまった!」
「下がれ!二人で抑えるから、早く武器を!」
「すまん!」
船員さん達の叫びが聞こえて来た方に目を向けると、手を抑えながら戦線を離脱する一人とその開いた穴をカバーするように動く二人の船員さんがいた。
これならいけるか?
俺は足元に落ちている槍を拾うと船員さん達の元に駆け込む。
「加勢します!」
声を上げながら二人の船員さんの邪魔にならない様にシェルフィッシュの左側から接敵すると、その勢いのまま手にした槍をねじ込むようにシェルフィッシュへと突き刺す。
弱体魔法を使ったので硬い鱗を貫いて槍が刺さった。
今までにないダメージを受けたシェルフィッシュは、尾びれを使って俺を打ち払おうとしてくる。
槍を引き抜きながら後ろに下がると、俺の攻撃を見た船員さんがシェルフィッシュの退路を塞ぐように立ち位置を変えた。
お陰で俺のいる側から攻撃がしやすくなる。
槍を構え直した俺はエラに槍を突き込み、続けざまに眼球を貫く!
槍ってちゃんと練習したことないから使い方は無茶苦茶かもしれないけど......弱体、強化魔法によるごり押しだ。
多少不自然かもしれないけど、他の魔法で戦うよりは目立たないだろう。
もう少しレギさんから槍の使い方を聞いておけばよかったかな......。
そんなことを考えながら槍を引き抜くと、支えを失ったシェルフィッシュが倒れた。
2
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる