狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片

文字の大きさ
上 下
372 / 528
7章 西への旅路

第371話 上級冒険者ならば

しおりを挟む


レギさんにダンジョンを攻略したのは俺も一緒だと言われたギルド長が、少し困ったように俺の方を見ながら口を開く。

「あ、あー、えっとーイクサル君だったかな?」

「いえ、それはあの舞台の役の名前ですね。ケイ=セレウスと申します。」

イクサルって言うのは絶賛公演中である不屈の英雄に出てくる残念な新人冒険者の名前だ。
流石にあそこまでポンコツでは無かったと信じたいけど......もしかしてレギさん達から見たら俺はあんな感じなのだろうか......。

「あぁ、ケイか。あー君はーまぁ、ダンジョン攻略者と言っても、サポート的な役割だったのだろ?今回はすまないが......。」

「いえ、お構いなく。ギルド長のおっしゃる通り、僕はレギさんのお供としてついて行っただけですので。大した働きはしていません。分相応です。僕は下級冒険者で大丈夫です。」

俺がギルド長にそう言ったところ、ギルド長は少しほっとした様子を見せたのだが......何故か俺の仲間達から胡散臭そうな顔で見られた。

「そうかそうか、いや、すまないな。今もレギについて行っているのだから実力は十分だろうし、あれだったら中級になっておくか?」

「いえ、依頼の解決件数も足りていませんし、そう言った横紙破りは色々と軋轢を生みかねません。お言葉はありがたいのですが、今回は遠慮させていただきます。」

「そうか。うむ、流石レギを師事しているだけあるな。冒険者らしからぬ丁寧さと謙虚さだ。」

「ありがとうございます。」

「レギ、お前は指導者としても素晴らしいな。まぁ、謙虚さは冒険者として必ずしも美徳とは限らんが......っとそうだ、上級冒険者になったことだし、正式な二つ名がいるな。」

そう言ってレギさんの方に話を戻すギルド長。
やはり二つ名はつくのか......確か正式にギルドからつけられるってレギさんが言っていたっけ。
レギさんの最強の下級冒険者って二つ名は正式につけられたものじゃないとかなんとか。

「まぁ、二つ名自体は既に決まっているんだがな?」

「......どんな二つ名が?」

レギさんが警戒を露にギルド長に自分の二つ名を聞く。
物によってはリィリさんのおもちゃになる事請け合いだろう。
現にリィリさんは滅茶苦茶ワクワクした目でギルド長を見ている。

「不屈だ。何なら英雄も着けるか?」

「いえ、それはやめておきます。しかし......不屈ですか......。」

「それか......そうだな。遺跡狂いと一緒に居ることだし似た感じで......仕事狂いとかか?」

ギルド長やめてください。
俺達三人だけじゃなくって受付のおねーさんも吹き出しています。
でもナレアさんの遺跡狂い以上にぴったりな気がするな、仕事狂い。

「流石にそれは......。」

「だよな?じゃぁ、下水大好きとかどうだ?」

「完全に悪口ですよね!それ!?」

......ギルド長、本当にやめてください、死んでしまいます......。
もうリィリさんは声を上げて笑っているし、ナレアさんも肩を震わせている。
いや、俺もレギさんが真面目な顔をして......。

『俺は上級冒険者の下水大好き。』

そんな名乗りをしている所を想像してしまったせいで、顔中の穴から体液が出そうになった。

「しかしギルド長よ。それだと下水自体が好きって感じがするのじゃ。掃除を入れねば色々と危険じゃろう。」

「確かにそうだな......だが、下水掃除大好きって二つ名は......語呂が悪くないか?」

先程の想像の中のレギさんの武器が斧からデッキブラシに変わった!
もはやただの清掃人だし!

「不屈でいいです。」

「そうか?下水大好き、意外と悪くないぞ?畏怖を覚える。そんな名乗りされたら......滅茶苦茶怖い。」

「不屈でお願いします!」

そんな感じでレギさんは上級冒険者『不屈』となった。
下水大好きにならなくて本当に良かったと思う。



ギルド長とのやり取りの後、ギルドを出た俺とレギさんはナレアさん達と別れて、デリータさんのお店に向かっていた。
別れる時にナレアさんの様子がおかしかったのはちょっと気になったけど、リィリさんから大丈夫と言われたのでそのまま別れて来た。

「それにしてもあの劇についてすぐに答えが分かったのは良かったですが......まさか上級になるとは思いませんでしたね。」

相変わらずレギさんは街を歩くだけで注目されているので、極力名前は呼ばずに話さないといけない。
いや、風貌でバレているのだろうけど、一応気を付けておいた方がいいだろう。
もしかして......ってレベルにわざわざ確信を与える必要はないしね。

「あぁ、まさか俺自身が変人の仲間入りをすることになるとはな。」

「あはは。そういえば、以前上級は化け物だって言っていましたね。」

「まぁ、俺は偽物だと思うがな。俺自身は上級と呼ばれるだけの実力はない。」

「そんなことは......。」

俺は否定しようとしたが、レギさんに止められる。

「ナレアがいい例だ。あいつは......ケイと同じ力が無かったとしても、魔道具を作り使いこなす技術、魔術や遺跡に関する深い知識に探求心。あれこそまさに上級って感じだ。」

「確かにナレアさんは凄い方だと思いますけど......。」

でも凄いのはレギさんだって同じだ。
確かにナレアさんのように突出した能力や膨大な魔力は持っていないかもしれない。
しかしその経験や判断力、そして何よりレギさんが居てくれるという安心感は他の誰にも真似できるものではない。
俺は勿論、リィリさんやナレアさんだってレギさんの事を頼りにしている。
それは能力や人柄によるものだと思うけど......俺はナレアさん以外の上級冒険者の方を知らないから、レギさんが他の人に比べてどうなのかは分からない。

「まぁ、ケイが俺を買ってくれるのは嬉しいがな。だが攻略の時もそれ以降も、戦闘においてケイの力に頼り切りだ。魔道具だってケイやナレアが用意してくれたものだからな。」

「それは......確かにそうかもしれませんが......。」

「ははっ!すまねぇ、そんな顔をしないでくれ。」

どうやら言葉に出来ないもやもやした感じが表情に出ていたらしい。
そんな俺を見てレギさんが明るく笑いながら言葉を続ける。

「能力的に劣っている事は自覚しているが、上級として推挙されたんだ。精々あの演劇を観た連中にがっかりされない様にがんばるさ。あー、でも力は貸してくれるとありがたいな。」

最後の一言を冗談めかしながら言うレギさん。

「えぇ、勿論。全力でお手伝いさせてもらいますよ。僕はお供ですからね。」

「そりゃあのダンジョンだけの話だろ。あれ以降は俺がお供しているはずだぜ?」

「まぁ、それもそうですね。付き合ってもらっているのはこちらでしたね。」

そんなことを話しながら歩いているとふと思い出したことがあった。

「話は変わりますけど、ギルドからデリータさんのお店に向かうこの道は何か懐かしいですね。」

「まぁ、この街に来るのは久しぶりだからな。」

「あはは、いえ、そういう意味ではなく。冒険者ギルドで初めて会って、そのままデリータさんの所まで案内してもらったじゃないですか。」

俺がそう言うとレギさんが納得したように頷いた。

「あぁ、ケイと初めて会った時の事か。そういえばそうだったな。最初は随分頼りないというか危なっかしい奴だと思ったが......まさか、あんな事情があるとは考えもつかなかったぜ。」

「まぁ、特殊過ぎますからね......想像できる人が居たら驚きですよ。」

「それもそうだな。しかしお前に常識を教えた方も、ちょっと規格外の存在だからな。色々と今の常識を知らなかったとしても仕方ないよな。」

「あはは、母さんからは色々と教えてもらっていたのですが......如何せん情報が古かったですね。」

「まぁ、情報が古いって問題でもない様な気がするが......そういえばデリータのヤツも随分心配していたな。あいつが他人を気にするなんて珍しいが、そんな奴でさえ放っておけないほどの危なっかしさだったってことだな。」

「それは有難いような、有難くない様な......微妙な感じですが......あ、着きましたね。」

「相変わらず鄙びた店だ。」

俺とレギさんは本当に久しぶりなデリータさんの店に辿り着いた。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

処理中です...