狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片

文字の大きさ
上 下
363 / 528
7章 西への旅路

第362話 未知との遭遇

しおりを挟む


小さな人影は地面に降りたつと、体をほぐす様に背伸びをしている。
あれがゴブリンか......。
身長一メートルくらいだろうか?
灰色の体に体毛は殆ど無いように感じるけど......長めのポンチョのような毛皮を纏っており体はあまり見えない。
頭はレギさんを彷彿とさせ......いや、なんでもありません。
っていうかその殺気的な何かって気づかれませんか?
あ、そうですか、俺だけにしか届かないのですね、分かりました。
......今これ以上ないくらい明確な言葉がレギさんから聞こえた気がするのだけど......もしかしたら皆も俺の声がこんな風に聞こえているのかもしれないな。
いや、そんなことよりもゴブリンだ。

「どうやって接触しますか?」

俺が小声で皆に聞くとナレアさんがこちらを見て軽く笑いながら応える。

「ほほ、声を潜める必要はないのじゃが......そうじゃな、こちらから声を掛けるにしても十中八九逃げるじゃろうな。」

「まぁ、退路を塞ぎたい所だが、とりあえず四方を塞いでおくか。声を掛けるのは......。」

そういってレギさんがナレアさんの方を見る。

「うむ、妾の役目じゃが......ケイ、どうするかの?」

「そうですね......やらせてもらってもいいですか?」

本来はナレアさんがワイアードさんから受けた依頼だから、俺が率先して声を掛けるものではないのだけど、今後の事も考えて俺が最初に声を掛けさせてもらおうと思う。
まぁ最初だけになるだろうけどね。
レギさんやナレアさんもそう考えたから確認してくれたのだろう。

「うむ、任せるのじゃ。」

ナレアさんがそう言って役目を譲ってくれる。

「ありがとうございます。えっと、シャル。そのままの姿だと怯えさせちゃいそうだから少し小さくなってくれるかな?」

『承知いたしました。』

俺達は打ち合わせ後すぐに行動を開始する。
幸いゴブリンはまだストレッチ中でその場から動いていない。
余程体が凝り固まっていたのだろうね。
皆が素早く展開したのを確認してから、俺はナレアさんに合図を送り幻惑魔法を解除してもらう。
まだゴブリンはこちら気付いていないようなので、俺はゆっくりと歩き始める。
足音を殺すようなことはしていない。
すぐに近づく俺に気付いたゴブリンが、こちらに顔を向け警戒を露にする。
完全に重心が後ろに下がっているし、いつでも逃げられるって体勢だ......これ以上近づくのは無理そうだね。

「こんにちは。これ以上近づかないから、逃げないで欲しいのだけど......こちらの言葉は分かるかな?話がしたいんだ。」

俺の言葉に若干動揺した様子を見せるゴブリン、こちらの言葉を理解している気がするけど......。
しかし腰の引けたゴブリンは俺に背中を見せると、脱兎のごとく駆け出そうとして......突然目の前に現れたシャルに驚いて足を止める。
......ってシャル、いつの間に......声を掛けた時は俺の横にいたはずなのに。
今のシャルは体の大きさこそ大型の成犬サイズだけど、その身からにじみ出る威圧感が半端ない......。
威嚇しているわけでは無いけど......睥睨するかのようなシャルの様子にゴブリンはよろよろと二、三歩後ずさると尻もちをついた。

「......シャル?」

『......申し訳ありません。ケイ様のお言葉を無視するような態度につい......。』

申し訳なさそうにするシャルだったけど......ゴブリンは完全に怯えちゃっているね。
ここから友好的に話が出来るだろうか......?
なんかここから姿は見えないけど、ナレアさん達のにやにや顔が目に浮かぶ......。

「あー驚かせてごめんね?でもこちらに危害を加えるつもりはないから、安心してくれると助かるな。もし俺の言っている事を理解出来ているなら立ち上がってこっちを見てくれないかな?シャル、その子が怖がっているから俺の後ろに。」

こっちを見てとは言ったけど......シャルから目線を切れないようで......シャルの動きに合わせて首を動かしている。
俺の声聞こえているかな......?
ってかシャルに合わせて視線を動かしているから、こちらの言葉を理解しているのかが全く分からないな......。
尻もちをついたままシャルの動きを追っていたゴブリンがゆっくりと立ち上がり、視線をシャルから俺へと移動させる。

「こ、こんにちは。」

立ち上がったゴブリンが挨拶をしてきた。
少し聞き取りづらいけど、ちゃんと分かるな。

「初めまして、こんにちは。少し話がしたいのだけどいいかな?」

まだ少し腰が引けているけど、ゴブリンは俺の言葉にゆっくりと頷く。

「ありがとう。最初に確認するけど、俺の言葉は理解できるかな?難しかったら言ってね。」

「だいじょうぶ。わかる。」

「良かった。じゃぁ、続きを話すけど、近くの村に行って野菜を盗っているのは君で間違いないかな?」

「......。」

ゴブリンは若干後ろに後ずさりながら頷く。

「あぁ、大丈夫だよ。俺は別に君が野菜を盗ったから捕まえに来たわけじゃないんだ。まぁ、それが切っ掛けではあるけど......そのことについて話がしたいんだ。とりあえず、君がこちらに危害を加えたりしない限りはこちらも手を出したりしない。それは約束するよ。」

「......わかった。あなた、こわい、かんじ、ない。しんじる。」

「そっか、ありがとう。それで、申し訳ないのだけど、俺には他にも仲間がいるんだけど......ここに呼んでもいいかな?勿論絶対に危害は加えないって約束は破らない。」

「すこし、こわい。でも、はなす、したい。」

腰は引けているけど、受け入れてくれたようだ。

「ありがとう。あ、君に仲間はいないのかな?ゴブリンは群れで生活するって聞いているのだけど。」

「おれ、ひとり。おれ、なかま、でた。」

「そうなんだ。分かったよ、君とだけ話をすれば良さそうだね。」

俺の言葉にゴブリンが頷く。
群れから外に出たって事だろうけど、この辺にはゴブリンは生息していないらしいから随分と遠くから来たのだろうか?
っと、とりあえずナレアさん達を呼ぼう。

「それじゃぁ、今から呼ぶね。皆さん!出て来てください!話は聞いていたと思いますが、決して危害は加えない様にお願いします!」

勿論皆が危害を加えるとは思えないけど、こう言っておけばゴブリンも安心するだろう。
俺が声を掛けるとすぐに皆が姿を現す。
逃げた時の為に四方に散っていたはずだけど、揃って俺の後ろから姿を現した四人を見て、ゴブリンは驚いたように目を見開く。

「いる、わからない。みんな、つよい。」

あぁ、気配を感じ取ることが出来なかったって感じだろうか?
ぎりぎりまでナレアさんが幻惑魔法を使っていたみたいだし......気づかないのは無理ないと思うけど。

「もり、ひと、ふえた。つよい、ひと、たくさん。おれ、つかまえる?」

「えっと......そうだね。君が村にいって野菜を盗っていたからこの森に探しに来たんだ。」

「ごめんなさい。」

「あ、うん。」

物凄く素直に謝られて思わず頷いてしまった。
何か後ろで物凄く笑いを嚙み殺している感じがする......とりあえずファーストコンタクトは上手くいったっぽいし、ここから先はナレアさんにバトンタッチしよう。

「ナレアさん、ここから先はお任せしていいですか?」

「ほほ、了解じゃ。さて、ゴブリンよ、妾はナレアと言う。お主の事は何と呼べばよい?」

俺の横まで出て来たナレアさんが自己紹介をする。
......そういえば俺はしてないな。

「よぶ、ない。おれ、ごぶりん。」

名前はないってことか......まぁ一人で生活していたら名前って必要ないから仕方ないか。

「ふむ......ではとりあえずゴブリンと呼ぼう。先程この者が言っておったが、お主が村に現れたことで少し混乱が起こっておってな。それを解決するために妾たちがお主を探しに来たのじゃ。」

「めいわく、ごめんなさい。」

再び謝るゴブリン。
野菜を盗ったことに対してか、混乱させたことに対してかは分からないけど、言葉を話すことが出来るだけじゃなく、やはり頭もかなりいいみたいだ。

「ほほ、それは良いのじゃ。妾達はお主を探すことを頼まれておるだけじゃからな。まぁそれでじゃ、お主と話をしたいとこの辺を守るものが言っておる。あくまで話がしたいという事じゃ、その場での安全は妾達が保障する。」

「はなし、なんで?」

「うむ、この辺りを縄張りとしておるのは人でお主は魔物じゃ。それは分かるかの?」

ナレアさんの言葉に頷くゴブリン。

「そして人は魔物を恐れておる。お主は違うようじゃが、魔物は基本人や動物を襲うじゃろ?」

再び頷くゴブリン。
身長の低さも相まって子供にものを教えているみたいな感じだな。
言葉が拙いせいもあるかな。

「基本的に魔物は人にとっては敵じゃ。じゃが、今回お主が取った行動は普通の魔物の枠から外れておる。それ故、お主と話し合いがしたいと言っておるのじゃ。お主がどうしたいか、これからどうするのか、そして人としてはどうして欲しいのかをな。」

「......はなし、する、わかった。」

「感謝するのじゃ。話し合いの結果、この森を出て行かなければならないこともあるが、いいかの?」

「ひと、たたかう、いや。もり、でる、だいじょうぶ。」

喋り方は拙く単語だけだけど、こちらの意図をかなり正確に把握している感じがするな。

「そうか、すまないな。この森を出なければならない事態になっても、妾達が力になると約束するのじゃ。」

「ありがとう。はなし、すぐ、する?」

「そうじゃな、今すぐに連絡を取れば今日中に会合が出来そうじゃ。お主が良ければすぐに連絡をするが、良いかの?」

「だいじょうぶ。」

「では、ケイよ。妾は野営地にいってハヌエラにこのことを話してくるので、お主はこの者と一緒におってくれるか?」

「了解です。マナス、ナレアさんに付いて行ってもらえるかな?」

流石に通信用の魔道具をワイアードさんの前で使う訳にはいかないだろうし、マナスにナレアさんに付いていくようにお願いしておく。
意外とすんなりとゴブリンとの話が進んだおかげでこの後の展開も早そうだ。
後はワイアードさんがこの子と会ってどうするかだな......。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...