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7章 西への旅路
第361話 思っていたよりも軽かった
しおりを挟むテーブルの上に置かれたランプ型の魔道具が皆の顔を照らしている。
こんな森の中で煌々と明かりを点けていればいい的になりそうだけど......シャルやファラの警戒網を抜けて近寄ってくる獣や魔物はいない様だ。
っと、今はそんな心配は必要ない。
「えっと......もしゴブリンが龍王国に受け入れられず、その上で人と関わりを持って生きていきたいと希望した場合......連れて行くのはどうかと思いまして。」
「まぁ、概ね予想通りじゃが......。」
「ケイの言いそうなことだな。」
「ケイ君が言わなかったら偽物かどうか疑わないといけないよね。」
それはどういう意味でしょうか......?
そう思って皆を見回すが、苦笑しながら首を横に振られた。
「まぁ、相手次第ではあるが......いいのではないかの?」
「そうだな。色々と確認は必要だと思うが、別に構わないぜ?」
「えっと......そんなあっさり、いいのですか?」
あっさりとゴブリンを連れて行くと言ったことを受け入れてくれる皆。
本当にいいのだろうか?
「随分以外そうな顔をしているが......今更だろ?」
「今更ですか?」
「ほほ......確かにケイにとっては眷属なのかもしれぬが......事情を知らぬ者達にとっては、シャル達は皆魔物じゃぞ?それもゴブリンなぞとは比較にならぬ程強力な者達じゃ。今更ゴブリンが一体増え所で妾達にとってはあまり変わらぬのじゃ。」
「そうだねー、寧ろシャルちゃん達に許可をもらった方がいいんじゃないかな?」
「え?」
リィリさんの言葉に俺の後ろに控える様にいるシャルを見る。
いつもと変わらぬ様子で座っているシャルだけど......。
「......どうかな?シャル。」
『それがケイ様の望みであるならば、私達に否はありません。』
なんだろう......肯定してくれているのだけど......物凄く含みを感じるような......。
「えっと、シャルが俺の眷属としてそう言ってくれているのは分かったけど......シャル個人の意見が聞きたいかな?」
『......個人的な意見であれば......今は肯定も否定も出来ません。ケイ様が連れて行くという事は、遅かれ早かれその者も眷属になると思われます。ですが私達はその者の心根を知りません。ケイ様に絶対の忠義を払えるのか、その一点が確認出来れば答えは出せます。』
ちゅ......忠義か......そう言われるとあれだけど......いや、信頼できるかどうかって言う風に考えれば大事な事か。
「えっと、強さとかは?」
『強さは問題になりません。弱ければ鍛えます。』
シャルがそう言った瞬間、その声が聞こえていないはずのグルフが身震いをして縮こまる。
グルフでもあんな風になるシャルの特訓......果たしてゴブリンに耐えられるだろうか?
そう言えば、ファラやマナスも特訓とかしたのだろうか?
マナスは最初の頃から滅茶苦茶強かったけど......ファラはすぐに情報収集をするために傍を離れてしまっていたからな......強いってことを知ったのは......あぁ、クレイドラゴンさんの聖域に初めて行った時だったかな?
なんか違う気もするけど......まぁどうでもいいか。
「うん、分かったよ。確かにシャルの言う様に、相手の事を知らなかったら何も決められないよね。この話は明日ゴブリンと会ってからまたしよう。」
『承知いたしました。』
シャルがゴブリンを受け入れるかどうかは明日に持ち越しだな。
翌日、俺達はファラの案内に従ってゴブリンが隠れている場所に向かった。
森の奥深くと言う訳でもなく、寧ろ森の手前の方......探索に出る前にワイアードさんから聞いていた騎士団が捜索した範囲内に潜んでいるようだ。
今日はファラも一緒に動いているのでナレアさんに全力で幻惑魔法を掛けてもらい、俺達の姿や気配を悟られない様にしてもらっている。
ファラのお墨付きもあるので、俺達の事を発見するのはまず不可能だと思う。
そんな外から全く感知されない一団がファラに先導されて進むことしばし、俺達は一本の木の元に案内されていた。
「ファラ、ここ?」
『はい。木の上にいるのですが、下からだと枝や葉が邪魔して見えない様になっていますね。』
なるほど。
騎士団の人達が見つけられないのも無理はないね。
鎧を着ている騎士の人達が、わざわざ木に登って探したりはしないだろう。
まぁ、木の上で休むのなら下から見えなくするのは野生的には当然なのだろうけど......そもそも森での探索なんてど素人には無理だよね。
まぁ、それはともかくとしてだ......。
「......どうします?」
俺は木を見上げながら誰に聞くとは無しに呟く。
「どうしようかー。」
おでこに手を翳しながら同じように木を見上げるリィリさんも、やはり同じように呟く。
「流石に木に登って会いに行くのはな......。」
「うむ。降りてくるのを待つのがいいじゃろう。驚かして落下でもされたら困るしのう。」
「それもそうですね。」
怪我でもさせちゃったら話し合いにもならないかもしれないしね。
二人の言う様に下で待っていた方がいいだろう。
「じゃぁ、相手が動き出すまで待機ですかね。」
「そうなるな。一日中木の上にいないといいが......。」
流石に一日中木の上にはいないと思いたいけど......多少、食糧や水の備蓄はあるってファラが行っていたけど......排泄もあるし......一日中木の上にいたら体凝り固まっちゃいそうだよね?
『昨日監視していた限り、一か所に長く留まることはしない様なので、遠からず降りてくると思います。』
俺とレギさんの話を聞いていたファラが相手の動きについて教えてくれた。
「ほほ、それはありがたい情報じゃな。流石に降りてくるかどうか分らぬ相手を待つのはしんどいからのう。」
ナレアさんもファラの言葉に少し安心したように言う。
そこでふと疑問が生じたのでファラに尋ねてみる。
「木の枝を伝って移動したりはしないのかな?」
ファラ達が監視している以上気づかれずに移動されるってことはないだろうけど、下で待ち構えているのにずっと木の上を移動されて中々接触できないって可能性は零じゃない。
その場合は多少危険でも俺達が木の上に向かわなくてはいけないだろう。
まぁ、俺とナレアさんが空を飛べばいいだけなのだけどね。
『はい、昨日の身のこなしから察するに。あくまで危険回避の為に樹上に拠点を構えているだけで、木の上で生活するのを得意としているわけではないようです。なので移動の際には必ず下に降りてきます。』
「それは良かった。じゃぁこのまま待機していれば会えそうですね。」
「そうじゃな。ハヌエラ達に報告に戻るのは明日の予定じゃが、上手く話が纏まれば今日中に連絡を取って明日には会合が出来そうじゃな。」
俺達は日が昇る前から行動を開始してここに来ている。
時間的には普段なら朝食準備中といったところだろう。
相手がどのくらいの時間から行動を開始するか分からなかったから早めに動き始めたのだが、ファラの部下に見張ってもらっている以上そこまで急ぐ必要は無かっただろうか?
寧ろ地面で活動している所に会いに行った方が話は簡単だったかな?
木から降りたら囲まれているって状況はとてもじゃないけど友好的とは言えない、どのように接触するか相談しておいた方がいいか。
そんなことを考えていたところ、木の上でごそごそと物音がして枝が揺れ出した。
どうやら相談する暇はないようだ。
俺達は顔を見合わせて、少し木から離れる様に移動する。
俺達が少し離れた位置から見つめる中、小さな人影が慣れた様子で木から降りて来た。
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