狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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7章 西への旅路

第351話 怪獣大決戦

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俺達が見守る中、再び灰色のドラゴンがナレアさんに向けて氷の槍による雨を降らせる。
今度は石壁を生み出したナレアさんが氷の槍を防ぐ。
傍から見ると怪我のせいでナレアさんの動きが鈍いようにも見える......わざとらしいとは思わないけど......恐らくあの姿は怪我だけじゃなくすべてが幻なんじゃないだろうか?
恐らく実際のナレアさんはあの辺りにはいないはずだけど......でも幻惑魔法の反応が広範囲過ぎて、どこにいるかは分からない。
戦場の全体を見ながらナレアさんの仕掛けを見破ろうとするが......駄目だ、全く分からない。
俺が必死に戦場の変化を探していると、ナレアさんの周りに散らばっていた氷が宙に浮き一つに纏まっていく。
無数の氷の槍が一つに纏まり......氷塊がどんどん大きさを増していく......というか、既に氷の槍は一本も落ちていないのだが、何故か留まることなく大きくなっていく氷塊は既に灰色のドラゴンよりも大きくなっていた。
その氷塊が轟音と共に地面に落ち、無数のひびが入っていく。
そのまま砕け散るのかと思っていると、ひびの入った氷塊が突然咆哮を上げながら巨大なドラゴンの姿へと変化した。
......え?

「これはまた......随分と派手な......。」

「派手だねー凄く綺麗だけど。」

「咆哮上げちゃっていますし......。」

リィリさん達の言う様に派手で綺麗だとは思うけど......これは完全に幻だよね?
氷がドラゴンに変化したと言うより、氷の卵からドラゴンが生まれたかのような演出だった気がする。
俺は氷のドラゴンの足元にいる血まみれのナレアさんに目を向けると、俺の視線の先でナレアさんが赤く濡れた右手を灰色のドラゴンに向けてゆっくりと上げる。
ナレアさんの指示に従い、氷のドラゴンが灰色のドラゴンに向けて低空を飛ぶように突撃していく。
幻......だよね?
氷のドラゴンが大きく腕を振りかぶり......反転して横薙ぎに尻尾を灰色のドラゴンに叩きつけた!
いや、正しいと思うけど......パンチを正面から受け止めようとしていた灰色のドラゴンもびっくりしているし......いや、違う、突っ込むところはそこじゃない。
俺はあの氷のドラゴンを幻だと思っていたけど......今確実に尻尾の攻撃が灰色のドラゴンに当たっていた。
ってことは、アレは幻じゃない?
俺の疑問を他所に氷のドラゴンは連続攻撃を仕掛ける。
両手と尻尾を使い攻撃を繰り出して灰色のドラゴンに攻めかかるが、全ての攻撃を灰色のドラゴンは防いでいる。
その様子を見る限り、氷のドラゴンの攻撃は確実に現実のもののようだ......。

「ねぇ、ケイ君。あれって幻じゃないのかな?」

「いや......幻だと思います。天地魔法では氷のドラゴンを作ることは出来てもあんな風に動かすのは無理ですから......。」

「うーん、でも攻撃が当たっているみたいだけど......?」

「恐らくですが......幻のドラゴンの動きに合わせて、氷による攻撃を撃ち出しているのではないでしょうか?」

攻撃の激しさを増していく氷のドラゴンの姿を見ながら、俺はリィリさんに言う。

「そこまでする必要あるか......?」

「ナレアさんの狙いは分かりませんが......恐らくそれくらいやっていると思います。」

レギさんが眉をひそめながら必要性を訪ねてくるが......もしかしたら面白そうだからっていう理由でやっているかもしれない......。
もしくは幻惑魔法と天地魔法の融合を、眷属の方や応龍様に見せているのかもしれないかな?
そんなことを考えていると灰色のドラゴンが反撃に出て、氷のドラゴンの右腕を吹き飛ばした。
しかし相手の攻撃が当たり右腕を粉々にされた氷のドラゴンは、すぐさま右腕を再生させて相手に絡みつくように掴みかかる。
灰色のドラゴンは振り払う様に藻掻くが、藻掻けば藻掻くほどに氷のドラゴンはその体を変化させて絡みついていき......やがて灰色のドラゴンは完全に体を氷に固定されてしまった。
脱出しようと体に力を込めている感じだけど、力の入りにくい体勢で固定されたのか氷はびくともしていない様だ。

『そこまで!』

応龍様の終了宣言が響き、試合が終わる。
宣言と同時に氷は姿を変え、灰色のドラゴンは石によって絡めとられた姿へと変わり、血まみれだったナレアさんは姿を消し、固定された灰色のドラゴンのすぐ傍に本当のナレアさんが姿を現した。
その姿は当然のごとく無傷だ。

「ほほ。今拘束を解除するから力を抜いてくれるかの?」

強化した聴力にナレアさんの声が聞こえてくる。
それから少しして灰色のドラゴンの拘束が解かれた。

「レギさん、リィリさん。僕達も向こうに行きましょうか。」

「そうだな。とりあえず一通り戦ったしな。」

「ナレアちゃんの試合は最後まで派手だったねぇ。」

「いや、リィリさん達の試合も凄かったですよ。」

それぞれ一発ずつでドラゴンをひっくり返したのだから......。

「ケイ君も物凄く光ってたじゃん!」

「......そういう意味では僕も派手でしたかね?」

少なくとも遠くからでも良く見えた事は間違いないだろう。

「まぁ、それはさておきだ。やはりナレアが怪我をしたのは幻だったようだな。」

そう言ってレギさんが目を凝らす様に細める。
あ、とりあえず試合は終わっているからレギさん達に強化魔法掛けておかないとな。

「そうですね。怪我をしている様子はありませんし......どこからが幻だったのか......。」

「賭けるか?」

レギさんがそう言ってにやりと笑う。

「いいですよ。次の街の晩御飯でいいですか?」

「楽しみだなー。」

リィリさんは既に勝った気でいるようだ。

「じゃぁ、ケイから予想してみろ。」

レギさんに促されて俺は考えを巡らせる。
ナレアさんの事だからフェアに戦っているはず、したがって応龍様の開始の合図より前はない。
確か、戦闘開始直後に石弾を撃ちながら後ろに大きく飛んだ......あの前後......いや、石弾は相手に当たって砕けていた。
ってことは石弾を放つまでは本物......か?

「開始直後に後ろに下がりながら石弾を放った時。あの時に幻と入れ替わったのではないでしょうか?」

「なるほど、石弾で目くらましをしながらってことだな。リィリは?」

「私はー、戦闘開始の合図と同時にかな。」

「リィリは最初からと。俺は......そうだな、開始直後と言いたい所だが......先に言われちまったからな、最初の氷の槍が飛んできた時にするか。氷の槍に紛れてって感じだな。」

レギさんは怪我をする直前からってことか。
どれもありそうだけど、どのタイミングも幻惑魔法を使った感じはしなかった。
最初から魔力視にしていれば気付けたかもしれないけど、その場合幻惑魔法以外何も見えなかったからな......それでは意味が無い。
そんな風に予想をしながら歩いているとナレアさんの所までたどり着いていた。

「どうだったかの?」

「いやー大変だったよー、ナレアちゃんが怪我したと思ったケイ君が飛び出そうとして......。」

「む......それはすまなかったのじゃ。慌てさせるつもりは無かったのじゃが......色々な幻惑魔法を応龍達に見せたかったのでのう。」

う......そうやって素直に謝られると一言言ってやるって気持ちが萎んでいくな。

「いえ......冷静さを欠いた僕が悪いので......とはいえ、心臓に悪いので出来れば、あの手の幻はやめて頂けると嬉しいです。」

「む......ま、まぁ......そうじゃな。相手を油断させるにはいい幻なのじゃが......ケイの前では極力使わぬようにするのじゃ。」

確かに油断を誘うには効果的だと思うけど......。

「すみません。そうしてくれると助かります。」

「う、うむ。心配させて悪かったのじゃ。」

何故かお互いぺこぺこと頭を下げる結果になったけど、あの時のゾッとした感覚を再び味わうよりは断然いい。
例えリィリさん達に生暖かい目で見守られようともだ。

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