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7章 西への旅路
第324話 初めての訪問
しおりを挟む「じゃぁ、今からグルフの所に行ってくるよ。幻惑魔法で見えないとは言え、夜の方が人通りが無くて安全だろうしね。」
俺は窓の外を見ながら言う。
領都とは言え、そこまで魔道具が普及していないグラニダでは街灯も殆どなく、街は静まり返っている。
「ケイさん。流石に門はもう閉まっていますが......。」
「あ、そっか。」
街壁はもう通れない......カザン君であれば許可は出せるだろうけど、出てすぐ戻ってくるってのは時間も相まって不審過ぎる。
そんな人物が領主の許可を携えていても......普通に足止めを喰らいそうだ。
行きはともかく帰りはグルフがいるしな......。
「......壁......飛んで越えていい?」
「......領主としてそれは困ると言いたい所ですが......それが一番穏便ですね。でも絶対に見つからないでくださいね......?」
俺の質問に眉をハの字にしつつ頬を掻くカザン君。
「それは細心の注意を払うよ。ナレアさん、念の為一緒に来てもらっていいですか?」
「うむ。大丈夫だとは思うが万が一があってはならぬからのう。任せるのじゃ。」
ナレアさんが来てくれれば問題ないだろう。
幻惑魔法の精度が俺とは桁が違うしね。
正直、次の模擬戦が非常に恐ろしい。
......そういえば......なんで最近模擬戦をしないのかちょっと疑問に思っていたけど......幻惑魔法にもっと慣れてからってことじゃないかもしれない......なんとなくノーラちゃんの事を見てそう感じた。
俺とナレアさんが領都の外に出てしばらく進んでいると、遠方からグルフが駆けてくるのが見えた。
こんな時間に街から出てグルフに会いに来るのは初めてだったが、すぐに俺達に気付いたみたいだね。
全身で喜びを表現するグルフだったが、以前のように飛び掛かっては来ずに俺の目の前で止まるとゴロンと寝転がってお腹を見せる。
俺はグルフのお腹をわしゃわしゃと撫でながらグルフに話しかける。
「グルフ。ノーラちゃんがグルフに会いたいらしいんだ。だからグルフをノーラちゃん達の家に連れて行こうと思う。」
俺がそう告げると、でろんと伸びていたグルフが顔を起こしてこちらをキョトンとした表情で見る。
「うん、グルフも街の中に入るんだよ。まぁ自由にって訳にはいかないけど、ノーラちゃんの家の庭......外から見えない中庭だけになるかな。もし窮屈だったらすぐに街の外に連れて行ってあげるけど、試しにどうかな?」
俺がそう告げると、一気に身を起こしたグルフが俺に伸し掛かりその大きな舌で俺を舐めまわす。
全身で嬉しいアピールをしているね。
グルフにはいつも寂しい思いをさせていたからなぁ......何とか体の大きさを変化させる魔道具を作ろうとしたけど、そもそも自分でその魔法が使うことが未だに成功していないからね......。
以前シャルに頼んでみたけど、魔晶石に上手く籠められなくて頓挫していたし......今回の幻惑魔法は悪くない案だろう。
まぁシャルみたいに肩に乗せたり、一緒に歩いたりは出来ないと思うけど......村とかなら一緒に居られるかもね。
もしくは馬車でも用意してグルフを乗せとくとか......いや、普段の移動に邪魔過ぎるか。
シャル達の速度で馬車なんか牽いたら......まぁ、一瞬で壊れるだろうしね。
っと、また思考が明後日の方向に。
俺は大興奮中のグルフを宥める。
普段であればここまではしゃぐとシャルが物理的に黙らせるところだろうけど、流石にいつも一人で留守番をさせているグルフの事を想ったのか、咎めることはしなかった。
「しかし、カザンはあっさり許可したが......中庭とは言え大丈夫かのう?」
「どういうことですか?」
「いや、カザンの家族だけがあの家にいるのであれば問題ないじゃろうが......領主館には働いておる者達も大勢おるじゃろ?いくら口止めをしたとしても秘密なんぞあっさり漏れる物じゃ。」
「あー、なるほど......。」
確かに領主館で働いている人達はかなりの人数だ。
警備は勿論、メイドさんや料理人、庭師とか......それに文官の方々の出入りも多い。
いくら外からは見えないとは言え、中庭にグルフが鎮座していたら大抵の人は腰を抜かすだろう。
「カザンはノーラの事を大事にしておるからのう。うっかりその辺を考えるのを忘れておる可能性はあるのじゃ。」
「あの場にはレーアさんもいましたが......。」
「レーア殿はカザンの判断には基本的に口出しはしないからのう。まぁ、面白がっている節はあるが......一足先にノーラとレーア殿には妾の幻惑魔法を見せておるからの。どうにでも出来ると思っておるのじゃろう。」
「あぁ、なるほど。リィリさんやレギさんも同じように考えていますよね?ってことはそこまで思い至らなかったのは、僕とカザン君だけ......?」
なんか、物凄く間抜けな二人って感じなんだけど......。
「カザンは、結構浮かれておるのじゃろうな......普段であればすぐに思い至るはずじゃ。ケイは......まぁ変な所で抜けておるからのう。」
ぐうの音すら返せないな......外から見えなければ大丈夫ってなんで考えたのやら......いや、幻惑魔法があれば問題ないってどこかで考えていた可能性も......いや、ないな。
俺のイメージの中では中庭で遊ぶノーラちゃんとグルフの姿があったし......。
「新しい魔法を手に入れたとは言え......いや、手に入れたからこそ慎重にのう。過信は身を亡ぼすのじゃ。己だけならまだしも、ケイの持っている力は必ず周りを巻き込んでしまうじゃろう。」
「......はい、すみません。」
「ほほ、説教するつもりはなかったのじゃ。まぁ、ケイもカザン達と会って気が緩んでおったのじゃろう。」
「そう、なのでしょうか......?」
普段から迂闊だからその辺は微妙だな......。
「ケイにとってカザンは気兼ねなく話せる友人の様じゃからのう。若干兄貴分を気取っておるか?」
「そ......そんなつもりは......。」
無いとも言い切れない様な......。
しかし......指摘されると滅茶苦茶恥ずかしい......。
そんな俺の様子を楽しそうに見るナレアさんが言葉を続ける。
「ほほ、悪いことでは無いのじゃ。妾達もノーラに対して姉として接しておるからのう。特にリィリはノーラの事が可愛くて仕方ないと言った感じじゃな。まぁ、妾も人の事は言えぬが。」
「......二人の為にも、慎重に......ですね。」
「うむ。ではそろそろ準備を始めるとするかの?」
「えっと......グルフを連れて行くのは良いのですか?」
「まぁ、カザンに許可は貰うが......中庭を暫く立ち入り禁止にでもしてもらえば、遠目に見ても普段と変わりないように幻を掛けておくことは可能じゃからな。」
「あぁ、なるほど。」
「案が無ければ館を出る前に反対しておるのじゃ。」
そういってナレアさんが笑う。
「それもそうですね......じゃぁ、シャル、グルフお願いね。」
『承知いたしました。』
俺達は普段街に入るときは手荷物以外はグルフに預けているのだが、その荷物も全部運び込まないといけない。
多くは野営用の道具だけど、魔道具やお金の類も預けてある。
まぁ、魔道具は殆ど出番がないし、今度母さんの神域に帰ったらおいてきてもいいかもしれない。
レギさんとリィリさん用の奴だけ見繕っておけばいいかな?
そんなことを考えながらナレアさんと二人で荷物をシャルとグルフに積んでいく。
「二人の背に乗って、それぞれ空を飛ばせばよかろう?」
「そうですね。わざわざ街中を走らせるのも危ないですし......足跡とか明日の朝見つかれば大騒ぎになりそうですしね。」
「うむ。では妾はグルフに乗って飛ばすとしよう。グルフよ、明日はノーラとたっぷり遊んでやると良いのじゃ。じゃが、庭をあまり荒らさぬように気を付けるのじゃぞ?流石に幻惑魔法や天地魔法で庭を戻すのは無理じゃからな。」
ナレアさんがグルフの背に飛び乗りながら話しかけると、グルフがきゅーんと甘え鳴きをする。
今はちゃんと理解はするだろうけど......テンションが上がってくるとグルフは色々やらかしちゃう可能性があるからな......。
色々壊しちゃうと......ノーラちゃんと二人で怒られるかもしれない......弱体魔法とかかけて力とかを制限しておくか?
いや、何かあった時に咄嗟に動けないと危ないか......。
どうしたものかと考えながら、俺達は領主館に向かい飛び立った。
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