狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片

文字の大きさ
上 下
307 / 528
6章 黒土の森

第306話 爪牙

しおりを挟む


昨日は霧狐さんに色々なパターンの幻惑魔法を使ってもらいながら模擬戦をかなりの回数こなした。
念の為俺達三人だけではなく、レギさん達も参加してもらったりもした。
突然仙狐様がやっぱり全員で、と言わないとも限らないからね。
色々な組み合わせで模擬戦をしてもらった為、霧狐さんはかなり大変だったと思うけど......俺達が幻惑魔法に慣れ始めてからは霧狐さんも結構楽しそうにしていた気もする。
娯楽に飢えているのかなぁ......。

『それではこれより、神域間交流試合を行う。代表者三名は舞台上に!』

既に舞台上にいる霧狐さんの言葉に従い、俺達は地面よりも一段高くなっている舞台へと上がる。
舞台の周りはスタンドがあるわけではないけど、ここは若干くぼ地になっているようで仙狐様の眷属の多くが覗き込むような形で観戦しているみたいだ。
そして一際高くなっている所に仙狐様が鎮座してこちらを見下ろしている。
睥睨って感じではないけど、俺と二人で話していた時よりも威圧感のようなものがある気がする。
ナレアさんは俺の隣、マナスは俺の肩の上に乗っているので一見すると舞台の上に上がったのは二人に見えるね。
少し遅れて、俺達の向かい側から舞台に上がってくる仙狐様の眷属が三名......霧狐さんに比べると体はかなり大きいね。
三名ともシャルと同じか少し大きいくらいだ。
しかし、身体の大きさよりも気になるのは......その目、というか視線だ。
完全に初対面のはずなのに、こちらを見下しているというか蔑んでいるというか......そんな雰囲気だ。
しかし......俺も人間以外の表情がかなり分かるようになったものだね......。
まぁ、俺がそう思っているだけで至極真面目な顔かもしれないけどさ。
でも相手が舞台に上がってこちらを見た瞬間、俺の背後......仲間たちがいる側から物凄い威圧感というか怒気のようなものを感じたから間違ってはいないと思う。
ちなみに俺が感じた怒気は、俺が振り返ると同時に霧散した。
誰が発したものか......流石に分からなくはないけど......とりあえず後で注意しておこう。
俺は軽くため息をついた後、意識を舞台の上で対峙する三名へと向ける。
......どうも俺達の背後から放たれた怒気には気づかなかったらしい彼らは、なんともにやにやした雰囲気を崩さない。
いや、気づいた上でその態度を貫いているのなら大したものだけど......霧狐さんでさえ多少の反応を見せたというのに、彼らからはそんな様子は感じられなかった。
俺に向けられたものでもないのに気付けたのだけど......彼らは大丈夫なのだろうか?
俺は相変わらず殺気とかは感じられない......でもすっごい怒っている、みたいなのは何となく分かるものだけどな。

『まさか我らが手ずから相手をすることになるとはな。いやいや、哀れな野猿と言わざるを得ないな。』

念話で三人の真ん中にいる灰色に近い毛並みの狐が右隣にいる金......と言うには若干くすんだ毛並みの狐に語り掛ける。
っていうか念話にも拘らず俺に聞こえているという事はわざと聞かせているのだろうけど......中々趣味が悪い......というか態度が悪い。

『然り。同情を禁じ得ないといった所ですが......おや、猿どころかスライムまでいますぞ?』

話しかけられた方も諫めるどころか更に煽っていくスタイルのようだ。
俺は別に気にしないけど......隣にいるナレアさんは......気にしていないような感じだな。
若干口元が薄く笑みを浮かべているような気がしないでもないけど......気のせいだろう。
この程度の煽りで揺さぶられる人なんて......そこまで考えて俺は後ろを振り返る。
リィリさんはいつも通りニコニコしているけど......レギさんは若干額に汗を流している。
グルフは若干低くうなっているようだけど、俺と目が合って伏せの体勢に移行した。
そして問題のシャルは......物凄く静かだった。
凪いでいる......というか......無だった。
殺気とか怒気とかそういったものは一切感じさせない。
表情も体の動きも、感情さえも何もない。
俺が見ているのに目も合わせないシャルは本当に珍しい。
というかシャルの目の奥に闇が宿っている......いや虚無?

『同情するという所には賛成しますが、お二方......あちらの方は天狼様の神子様であらせられるらしいですぞ?』

俺は寧ろ君達に同情......というか、なんかもう怖いよ。
気付いてくれないかな!?
野生......って言うのは失礼かもしれないけど......そういう何かで気づいてよ!

『ほう、天狼様の......ということは......ふふ。』

『何がおかしいのですか?』

『いや、何......天狼様の加護の話は以前聞いたことがあってな。力だけで全てを解決しようとする野蛮な魔法と。』

......まぁ、そういう部分が無いとは言わないけど力だけで全てをって程ではないような。
ってかなんか母さんに対して悪意がある様な......これはもしかして仙狐様が言っていたんじゃ?
俺が仙狐様の方をちらっと見るとすっと目を逸らされた。
恐らく、仙狐様が言っていた悪口をこの眷属の方が聞いたってところじゃないかな?
しかし、この場合眷属の人が悪いというよりも仙狐様が言ったことだろうからなぁ......普段だったらイラっとしそうなところだけど悪いのは仙狐様だし......そもそも母さんも色々言っていたからな......まぁだからと言ってその眷族が馬鹿にしていいものではないと思うけど......。
とりあえず、今回については飲み込みます......だからシャルも少し落ち着いてください。

「ナレアさん、すみません。少しだけ舞台から降りますね。」

「うむ。早く戻った方がいいじゃろう。このままではあやつら毛皮も残さぬ死に様確定じゃ。」

俺はナレアさんに一言断りを入れてから進行役になっている霧狐さんの方を見る。
俺のやりたいことが伝わったようで霧狐さんは俺を見返しながら頷く。
俺は一度舞台から降りてシャルへと近づく。

『ケイ様......もう、よろしいでしょうか?』

「駄目だよ。」

何が、とはちょっと怖くて聞けなかった。

『しかしケイ様......!』

「昨日約束したでしょ?どんな相手でも俺に任せるって。」

『それは......はい......申し訳ありません。』

血でも吐きそうな様子でシャルが謝ってくる。
シャルが怒る気持ちは分からなくもないけど、シャルが本気で威嚇を始めたらいくら彼らが鈍感でも気づくよ。

『おや?猿......いや、神子様ともあろうお方が、もしや恐れをなして下がってしまわれたのかな?』

『ははっ、我らの風格は抑えようにもあふれ出てしまっていますからな。致し方なし。』

いや、ほんと止めてくれないかな!?
ほんと死ぬぞ!?
俺が少しでも怒ったりしたら......シャルは間違いなく飛び出すだろう。
俺は未だかつてない程感情を抑え込みながらシャルに言い含めた後、舞台上に戻る。

『まぁまぁ。ほら、戻って来ましたよ。やはり最低限の意地や恥を感じる心くらいは持ち合わせているようですよ。』

確か......増長しているって霧狐さんが言っていたけど......これは増長......なのだろうか?
いや、まぁ尊大ではあるけど......。
とりあえず、精神的にダメージを与える作戦だったのなら大成功だよ!

『さて、相手になるかどうかはさておき......これから戦う相手には名乗りくらいはさせて頂こうか。』

おや......?
この子達は名前があるのかな?

『我が名は漆黒の爪牙!』

真ん中にいる眷属の方が名乗りを......ん?
尊大な感じ悪い系から急に厨二っぽくなったぞ?
しかも漆黒っていうか灰色だし......。

『我が名は疾風の爪牙!』

爪牙二人目だし!

『そして我が名は千里を行く神狐!』

『い、いや......待ちたまえ......流石に神狐は......。』

『うむ......それは......不味かろう。』

三人目が名乗った瞬間、残りの二人が急にきょどりだした。
まぁ、確かに仙狐様の前で神狐を名乗るのは、眷属としてどうだろうね......?
二人に指摘されて自分の失言に気付いた三人目がおろおろしながら名乗りを訂正する。

「え?あ......、いや......わ、我が名は疾風の爪牙!」

結局全員爪牙だし!
っていうか疾風の爪牙二人目だし!

『『我ら三人揃って、暁の焔!』』

爪牙どこ行ったし!
暁の焔を名乗ると同時にポーズを取った三人は......どう見ても招き猫ポーズだし......突っ込みどころが多すぎて処理しきれない......。
ってかこれは何だろう......誰の影響?
俺が霧狐さん、そして仙狐様の方をそれぞれ見るが......二人とも決して目線を合わせてくれなかった。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

処理中です...