狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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6章 黒土の森

第304話 作戦変更

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霧狐さんに向かって一気に距離を詰めた俺は蹴りを放ち牽制する。
軽く飛び下がった霧狐さんに対し、体を伝って俺の足へと移動していたマナスが身体を変形させて霧狐さんに追撃を仕掛ける。
マナスの体が霧狐さんの体に触れた瞬間、予想外の光景が広がった。
霧狐さんの姿が消えたのだ。
今度は姿を消した?
俺は慌てて五感を殺して魔力視に切り替えたが魔力の痕跡は見えない......どういうことだ?
視界を元に戻したがやはり目の前に霧狐さんの姿は無い......俺は戦闘中に完全に思考停止してしまった。
不味いと思った次の瞬間、俺の背中に衝撃が走った!



View of ナレア

妾が石柱で霧狐の分身を攻撃した次の瞬間、ケイがその内の一体目掛けて一気に距離を詰めた。
どうやったかは分からぬが、どうやら本体を見つけたようじゃな。
妾はケイの攻撃に合わせて追撃をするために魔法のイメージを練る。
しかしケイが蹴りを放ったかと思うと攻撃を仕掛けられた霧狐が掻き消えてしまった。
姿を隠したのかの?
ケイも驚いたのか動きが止まってしまっているが......ケイにしては珍しいのう。
妾も追撃を仕掛けるべきか迷っていると、先程ケイに無視された霧狐の一体がケイの背後を取り体当たりを仕掛けた。
あれは幻じゃよな?
ケイの動きからそう思っていたのじゃが、体当たりを受けたケイがよろめいた後目を丸くして振り返った。
......どうやら完全に騙されたようじゃな。
体当たりと言っても攻撃と言った感じではなく、後ろから驚かすような一撃だったようでケイに怪我は無さそうじゃが......。

『見事に引っかかりましたね。』

残っていた分身を消しながら霧狐がケイに向かって話しかける。

「......してやられました。」

ケイはバツが悪そうな顔をしながら頭を掻く。
どういう状況か分からぬが、とりあえずケイに合流しておくのじゃ。
妾がケイ達に近づく間も霧狐の言葉は続けられている。

『神子様は非常に目がいいようなのでこういったものが効きますね。』

「今のは......纏っていた幻をワザと不自然な感じで攻撃を受けさせたってことですか?」

『えぇ。囮となる一体には完璧に避けさせて、私自身が纏っている幻は攻撃に当たりながらもそのまま行動しているように見せかけました。』

......どうやら妾の放った石柱を罠に利用されたようじゃな。
これは妾のせいでもあるかのう?

『石柱を生み出す攻撃は先程見ていたので、次に放たれた時は利用しようと考えていました。』

......妾のせいじゃな。
手練れ相手に同じ攻撃を撃つのは下策じゃったな。
妾が反省していると、妾の接近に気付いたケイがこちらに向かって歩き出した。

「見事に嵌められてしまいました。」

「そのようじゃな。すまぬのう、妾が迂闊じゃった。」

「いえ、霧狐さんの仕掛けた罠に思いっきり飛びついたのは僕ですから......。」

お互いに反省する点があったようじゃ......。
妾の位置からは見えなかったが幻にワザと攻撃をすり抜けさせて、それをケイに対応が遅れて当たってしまったかのように見せたといったところかのう?
やはり相手の対応力に三人がかりでも遠く及ばない感じがするのう......幻惑魔法の技術を見せてもらうという目的は果たせておるが......戦闘訓練としてはもう少しどうにかせんとのう......。


View of ケイ

「マナスは罠を見破れなかったのかの?」

霧狐さんの話を聞いて、少し考え込んでいた様子のナレアさんが、俺の肩に乗っているマナスに問いかける。
マナスはプルプルと震えているが......これは......難しいな。
幻かどうかは判断出来るようになったけど罠には気づかなかったって感じかな?
まぁ、マナスは俺に合わせるように動いていてくれたからな......。

「マナスも罠自体は分からなかったみたいですが......マナスが幻を消してくれるからと油断していました。やはり一筋縄ではいかない感じですね。」

「それでもまだ手加減してくれておるのじゃろうな......。」

「動き自体はかなりゆっくり動いてくれていますしね。でも予めシャルの時に見ていた魔法であっても全然対応出来ないことが分かりました......。」

目に映るものが幻だと分かっていても、さらにその先を行かれてしまう。
それにさっきやってくれた、聴覚への幻覚も混ぜられたら......。
うん......対応出来るようになる気がしない。
非常にきつい......一瞬の攻防の中に考えることが多すぎる。
思考速度を強化しているにも拘らず、さっきは完全に停止しちゃったしな......。

「すまぬが少し時間をもらってもいいかの?」

俺が頭から煙を出さんばかりに悩んでいると、ナレアさんが霧狐さんに小休止を申し出る。
霧狐さんは承諾すると俺達から少し距離をとり、模擬戦開始前の位置へと移動した。
ナレアさんはその姿を見送るとこちらに向き直り、若干苦笑するように眉をハの字に曲げる。

「まぁ、落ち着くのじゃ。ケイ、戦う上で相手に対応するというのは大事な事じゃ。特にケイは先手を取らせておいてから相手の隙をついて一気呵成に出るという、厭らしい戦い方を好んでおる。」

いや......それはそうなのですが、なんか一言多くないですか?

「前にも言ったことがある気もするのじゃが、慎重なのは悪いことでは無いのじゃ。じゃがケイの対応できる範囲を超えた場合、成す術もなく圧倒されてしまうじゃろう?」

「そうですね......。」

多分......この戦い方は俺の臆病さからくるものだと思う。
相手に攻撃させる、手の内をさらさせて対応する。
こちらが踏み込んだ時に思わぬ反撃を受けない様に......相手の隙を狙って戦う......。
流れで相手の体勢を崩すことはあっても、こちらから仕掛けて隙を作るという戦い方は殆どしたことが無いはずだ。

「相手の隙をつく、不意をつく。確かに戦法としては有効じゃが......他の戦い方も出来ぬとのう。」

「他の戦い方......先手を取るという事でしょうか?」

「簡単に言うとそうじゃが......ケイの好みで言うなら......先手をとってワザと隙を見せてそこに誘いをかける、という手もあるのう。」

誘い受けって感じか。
って言うか好み......いや、まぁそう言えなくもないですけど......。

「じゃがそれは今とあまり変わらぬかのう。妾としては先手を取ってからそのまま押し切る戦い方を押したい所じゃが。」

「なるほど......ですがその場合......。」

「うむ、相手の対応力が勝っていた場合押し切ることが出来ずにやられる可能性が高いのう。」

「ですよねぇ......。」

ちょっとリスクが高い気がする......。

「しかしのう、格上と戦う上で、相手を自由にさせるというのは悪手ではないかの?」

「それは確かにそうですね......。」

相手に自由にさせるということは、相手の得意な行動をとらせるという事。
普段の俺はそれを見てからどう対応をするかを決めて実行に移す。
でもそれは俺がそういうのが得意だからと言う訳ではなく、相手の手の内を確認しないと不安だからだ。

「先手を取り続けて押し切る。そう言った戦い方も時には必要じゃろうな。特に今回のように相手が厄介な戦い方をする場合は相手に動かれる前に倒す方がいいじゃろ?」

それに、と言ったナレアさんが底意地の悪そうな笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「ケイは不意打ちとか好きじゃろ?」

「......いや、好きってわけでは......。」

奇襲は......何度かやっているけど......。

「相手に立て直す暇を与えず押し切るという点は不意打ちと変わらぬじゃろ?相手に完全に反撃させるなと言っておるわけでは無い。相手の余裕を削り、苦し紛れの一撃を引き出すことが出来れば願ったり叶ったりと言ったところじゃ。恐らくケイにはそういう戦い方の適性があると思うのじゃ。」

意表をついて相手を崩すってやり方は普段から心がけているし......先制攻撃から一気にってのも悪くないか......?
いや、相手の手の内が分からないってのは恐怖以外の何物でもないけど......。

「まぁ、今回は幻惑魔法を体験するという目的があったから仕方ないが......今度はこちらから攻めた場合、どういった対応をされるのかというのを知っておく必要もあるとは思わんかの?」

「それは......はい、そうですね。」

いつも相手がこうしたらこう返す、みたいな動きを主軸にしていたせいかその事に考えが及ばなかったな......霧狐さんはこちらが幻を消すのであれば、幻と思わせておいて隙をつくというやり方を見せてくれた。
俺は更にその対応を考えていたけど......そもそも騙されない様に立ち回らないといけないよね。
霧狐さん相手に押し切れるとは到底思えないけど......訓練なのだから色々試さないとね。

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