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6章 黒土の森

第303話 さすマナ

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View of ナレア

予めシャルの戦闘を見ておったとは言え......これは相当キツイのじゃ。
姿も無ければ音もしない......地面を見ても砂ぼこりすら立っておらぬ。
まぁ分かってはおったが、やはり妾では相手を捉えることはできなさそうじゃな。
先程はケイの指示で魔力弾を放ったが......ケイの様子を見るに悪くない位置に撃ちこむことが出来たみたいようじゃな。
しかし、この後はどうするかの......。
ケイはマナスを突き出すようにして、マナスを盾にしているようにも見えなくもないが......あれはマナスになんとか幻惑魔法を感知させようとしておるのじゃろうな。

「どうじゃ?マナス。コツは掴めそうかの?」

妾は自分の肩にいるマナスに問いかける。
妾の肩に乗っているのは分体じゃが、恐らくこちらのマナスも幻惑魔法を感知しようとしておるはずじゃ。
妾も何か手助けしたい所じゃが......マナスがどうやって感知するのか分からぬしのう......というか妾、殆ど案山子じゃな。
相手も妾の事はとりあえず放置して、ケイの方に迫っておるようじゃしな。
まぁ、じゃからといって何もしないというのも違うからのう。
ケイの顔の向き、そして差し出している左手の向きで大体の位置は分かる......先程のように魔力弾を撃つのもありじゃが......。
妾は魔法でケイの右手側に大きめの壁を作り出す。
相手の行動の阻害とマナスの援護といった所じゃが......。
それが功を奏したのかは分からぬが......ケイの肩に乗っていたマナスが大きく弾み前へと飛び出す。
妾はちらりと肩にいるマナスに視線をやる。
どことなくマナスが誇らしげにしておるのう。



View of ケイ

ナレアさんが俺の横に壁を作り出して霧狐さんの動きを制限してくれた。
霧狐さんは現在俺の真正面......距離は五メートル程、右側への移動はナレアさんによって制限されたため、少し動きが止まっている。
それを俺が確認した瞬間マナスが俺の肩から飛び出し、体を伸ばしてナレアさんの作った壁へと引っ付く。
これは牽制かな?
霧狐さんの位置が分かったわけじゃないのか?
こちらに向かって移動しようとしていた動きを阻害され、霧狐さんもマナスを警戒したのか一瞬立ち止まったようだが、壁に張り付いたまま動きを止めたマナスを見て再び俺への距離を詰めてきた。
そして霧狐さんがマナスとすれ違おうとした瞬間、マナスが体の一部を霧狐さん目掛けて伸ばし......纏っている幻を消し去った!
マナスの動きを見た俺は大きく踏み込み掬い上げる様にナイフを振るう。
霧狐さんは体が小さめだからこちらの攻撃は当てづらい。
マナスに幻を消されたことを驚いていた霧狐さんだったが、すぐに切り替えて俺の攻撃を避ける様に後ろに跳び......ナレアさんが新たに霧狐さんの背後に生み出した壁に阻まれた!
体勢を崩した霧狐さんとの距離を詰めてローキックを放ったが、ナレアさんが最初に作った壁を蹴って三角跳びをした霧狐さんが俺の頭を越えて逃げていく。
追撃を仕掛けようとしたがそれよりも早く、地面から何本もの石柱が生み出されて霧狐さんを追撃を仕掛ける!
やはり天地魔法はナレアさんの方がキレがあるな......連続行使や精度なんかは真似出来そうにない。
とは言えぼーっと見ているだけというのも芸がない。
俺は霧狐さんが地面から生えてくる石柱を躱すために、横っ飛びをして四肢が地面から離れた瞬間を狙って上方から叩きつける様に強力な風を起こす!
突然の強風に地面に縫い留められた霧狐さんを目掛けて、ナレアさんが周囲に配置された石柱から石弾を放った!
石弾は霧狐さんに殺到し、大量の砂ぼこりを巻き上げながら激突した。
もうもうと立ち上る土煙に大丈夫だろうかと心配になってくる。
霧狐さんは身体強化が使えないのだからいくら何でもやり過ぎではないだろうか?
しかし俺の杞憂は的外れだったようで、石弾が着弾した場所とは少し離れた位置から霧狐さんが姿を現す。
どこかで幻と入れ替わっていたのかも知れないね。

『見事な連携でした。まさか幻惑魔法を消されるとは思ってもいませんでした。一瞬の隙をつかれて一気に後手に回ってしまいましたね。』

ナレアさんの作った石柱の上に飛び乗った霧狐さんが語り掛けてくる。
見た感じ、怪我を負っている様子はないな......。

「三人がかりの、不意打ちに近い連携をあっさりと凌がれてしまってはかなり厳しいですね......。」

俺が霧狐さんに返事をしている間にマナスが肩に戻ってくる。
マナスが幻の判断が出来るようになったのであればもう少し戦えるかもしれないけど......。

『今のは応龍様の加護による魔法の連携ですね?素晴らしい魔法の発動速度に精度でした。狭所に囲まれる前に離脱しておかなければ成す術もなかったと思います。』

石柱から飛び降りながら霧狐さんがこちらを......いや、ナレアさんの事を称賛する。
俺がやったのは最後の一撃だけだしね。
それはそうと、やっぱり霧狐さんは途中で幻と入れ替わっていたみたいだね。

「マナス。さっきの動きは、霧狐さんの幻惑魔法を見破ることが出来たってことで大丈夫かな?」

肩に戻って来たマナスに問いかけてみる。
マナスは......なんか胸を張っている気がする......一度だけ大きく弾んだ。
うん......心強いね。

『ではそろそろ続きをやりましょうか。先程の模擬戦と同じように、今度は分身をしかけますよ。』

そう言って霧狐さんは姿を消したかと思うと、宣言通り四体の分身を生み出した。
俺は感覚を殺して本体を探そうとしたが......あぁ、今回は姿を消しているわけじゃなく、シャルと戦っていた時みたいに幻を纏っているようだ。
とりあえず俺にはどれが本体か分からない。
だが、マナスが幻惑魔法を感知することが出来るようになったおかげで、本体を見つける必要は俺にはない。
マナスに頼り切りって感じではあるけど、幻を消してもらえば本体も幻も関係ないからね。
俺が身構えると同時に後方にいるナレアさんが小走りに近づいて来た。

「マナスがもう問題ないというのであれば、先ほどに続きこちらから積極的に攻撃をして行こうと思うのじゃが......どうじゃ?」

「そうですね......マナスによる幻惑魔法の無効化を主軸に、僕達はそれを補助。無効化に成功したら今度は僕達が主軸になって攻撃を仕掛ける。僕は前衛、ナレアさんは後衛......どうでしょうか?」

「了解じゃ。一先ず牽制はさせてもらうとするかのう。距離を詰めるのは任せるのじゃ。」

そう言ってナレアさんが四体いる霧狐さんに石弾を撃ち出す。
幻なら石弾を無視するかと思ったけど、全ての霧狐さんがそれぞれ石弾を回避した。
まぁ石弾をすり抜けさせたら、どれが本体か一発で分かっちゃうか。
着弾を確認するまでもなく、俺はナレアさんの撃ち出した石弾を追うように移動を開始している。
マナス頼りであったとしても全てをマナスに任せるつもりはないので、五感の切り替えは先ほどまでよりも若干ペースを落として継続している。
今の所、四体の分身以外に幻惑魔法の痕跡はない。
石弾を回避した四体の霧狐さんが、距離を詰めて来た俺に対して構えている。
小柄な霧狐さん相手だと接近して戦うと攻撃手段がかなり限られてくるからな。
今までここまで小柄な相手と戦ったことはなかったし......蹴りとか放つと動物虐待っぽくって非常に躊躇いが生じる。
いや、まぁ......俺より霧狐さんの方がはるかに強いのだけどね。
見た目って大事だ。
そんなアホな事を考えている内に、一番近くにいた分身の一体が俺に向かって飛び掛かって来る。
この距離で見ても、分身なのか本体なのか全く見分けがつかない。
恐らくこの霧狐さんは幻だと思うけど......シャルのように確信があるわけでは無いので無防備にその攻撃を受けることは出来ない。
俺が攻撃を避けると同時に、俺の肩にいたマナスが身体を伸ばして飛び掛かって来た霧狐さんの幻を消し去る。
更にナレアさんが石柱を生み出して残りの三体の分身に攻撃を仕掛ける。
その内の一体だけがその攻撃を綺麗に躱したが、残りの二体は一瞬だけ尻尾と後ろ足をそれぞれ石柱の中にめり込ませていた。
本体は一番奥で綺麗に躱したあれだね!
俺は本体と目した一体に向かって、一気に距離を詰めた。

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