上 下
302 / 528
6章 黒土の森

第301話 明日に向けて

しおりを挟む


「それじゃぁ、仙狐様に模擬戦の件は了承とお伝えください。」

『承知いたしました。』

模擬戦は明日行われるので、その前に俺とナレアさんとマナスの三人で霧狐さんとお手合わせさせてもらおうと思ったのだが、その前に俺の返答を仙狐様に伝えるために霧狐さんがここから少しの間離れることになった。
霧狐さんとの模擬戦の前に打ち合わせも必要だし、丁度良かったかもしれないね。
俺は広間を離れていく霧狐さんの後ろ姿を見ながら、先ほどの戦いを反芻する。

「さて......どう戦いましょうか?」

「先ほどのシャルとの模擬戦では辛うじて妾達でも何をやっているか見ることが出来たが......あの速さで動くのはケイの強化を貰っておったとしても正直ちょっと無理じゃな。」

「そうですね......僕も遠目でなんとか追えるって感じでしたから......最初の一撃を何とか凌げてもすぐに対応が追いつかなくなると思います。」

「最初のシャルの一撃を凌げるのか?」

レギさんの問いに一番最初のシャルの動きを思い出す。
......いやあれはちょっと。

「......最初の一撃を凌ぐのは無理ですね。」

「......だよなぁ。」

「まぁ、あれは仕方ないのじゃ。これから戦う相手があのような動きをしてこないことを願うしかないのう。」

ナレアさんが苦笑しながら言ってくる。

「まぁ、いくらなんでも強化魔法無しにあんな動きは......シャルも出来ないよね?」

『......そうですね。』

俺が傍に控えているシャルをちらりと見ながら聞くと、少しだけ首を傾けるようにして考えたシャルが答えてくれる。

『今回の戦闘で私は最初の一撃以降、強化魔法は幻惑魔法の感知以外には殆ど使っていません。』

「なるほど......強化魔法無しだと霧狐さんとシャルの身体能力はほぼ互角って感じかな?」

『いえ。あの者が意識を幻惑魔法に幾分か割いている事を考慮に入れても、身体能力は私の方が若干上といった所です。大きな差はありませんが。』

霧狐さんには何かしら思う所があるみたいだけど......評価はしっかりしているみたいだ。
シャルが冷静にそう言うのであればその評価は間違っていないだろう。

『ケイ様が最初にこの神域に入った時、最初に遭遇した眷属。あの者は魔法無しであればグルフとほぼ互角だと思います。』

「あぁ、あの最初に対応してくれた眷属の方か......あの方がどのくらいの位置の人なのか霧狐さんが戻ってきたら聞いておきたいな。」

「何か分かったのかの?」

どうやらシャルの念話は俺にしか届いていなかったらしく、ナレアさんが尋ねてくる。

「ナレアさん達が神域に来る前に最初に対応してくれた眷属の方がいたのですが......あ、ナレアさん達をここまで案内してくれた方です。その方の身体能力がグルフと同じくらいだそうで、その方が仙狐様の眷属の中でどのくらいの強さなのかを確認しておきたいなと。」

「なるほどのぅ。あの者が一番弱いという事でもなければ、ある程度力量が計れそうじゃな。」

「そうですね。とりあえずその辺は霧狐さんが戻って来てくれるのを待ちましょう。」

「後はどう戦うか、だな。」

レギさんの言葉に俺は少し考え込む。
模擬戦に参加するのは俺とマナス、そしてナレアさんだ。
ナレアさんは近接格闘を除けば基本は遠距離主体。
マナスは近距離での戦闘しか出来ないけど、そのスタイルはかなり変則的......特に拘束や妨害が得意だ。
俺は近接主体で天地魔法による遠距離も多少は出来る。
バランスを考えれば俺が前衛でマナスが中衛、ナレアさんが後衛とするのが一番いいだろう。
でも問題は幻を見破るのは俺の役目って所だ。
シャルがやっていたみたいに一瞬で強化、弱体の切り替えが出来るのであれば前衛を張っても問題ないと思うけど......まだ俺の魔法を行使する技術はシャルには遠く及ばない。
最近やっと戦闘中に適切な魔力量で強化魔法を使えるようになったって感じだ。
しかも調子に乗ればすぐに失敗する程度のレベルだ。

「その辺はもう少し話を聞かないと決めにくいのう。三対三になるのか一対一を三カ所でやることになるのか......相手次第の部分もあるが、こちらとしては三対三の方が良いのう。」

「仙狐様としては三対三でってつもりだったみたいですし、その辺は向こうの誘いに乗らずにこちらは連携して動けば大丈夫だと思います。」

「それは重畳じゃな。であれば、妾達は連携して戦うとして......ケイは前に立てるかのう?」

「今回はちょっと難しいと思います。幻惑魔法を見破りながら先ほどのシャルみたいに動くのはまだ僕には無理です。さっきもシャル達の模擬戦を見ながら五感を切り替えていましたが......無防備に棒立ちの状態であってもシャルの言う様に素早く切り替えるのは無理でした。」

俺が答えるとナレアさんが口元に手を当てながら考え込むように目を瞑った。
魔法によって姿を消していてもその場にはいるわけで、攻撃すれば当然当てることが出来る。
しかし相手も棒立ちしているわけでは無い。
先程の霧狐さんのように高速で動き回られては姿を消してなくても厳しいけど......なんにせよ、相手の位置が分からなければどうしようもない。
全員の目の役割は俺が担わなくてはならないのだが、それを戦闘中に行うとなると......。

「......ふむ......マナスよ。お主は幻を消すことを出来るわけじゃが、感知は出来ぬのかのう?」

ナレアさんが自分の肩に乗っているマナスに問いかける。
マナスは肩の上で暫くプルプル震えていたが、ファラが翻訳してくれた。

『もう少し経験を積めば判断出来るとのことです。』

......うちの子達はなんでこう......物凄く頼りになるけど......かっこいいなぁ......。
俺は自分の肩にいるマナスをぷにぷにと揉む。

「であれば、先ほどの者が戻ってきた後、模擬戦でマナスとケイに最前線を張ってもらうとするかの。」

「分かりました。」

上手くマナスが幻惑魔法を感知出来るようになれば、明日の戦いはかなり有利になるだろう。
いくら五感を騙す幻惑魔法とは言え、そもそも幻自体を消し去ることの出来るマナスがいればそこまで脅威ではない......といいな。
......五感と言えば、マナスって五感あるのかな......?
目とか耳......いや触覚以外無さそうだけど......いや、離れていても俺達の事を感じているみたいだし触覚以外もあるか。
俺達の声も聞こえているみたいだし聴覚も問題ない......ってかナレアさん達並みに俺の考えている事が分かっている節もあるし......うん、多分マナスは色々感覚があるのだろうね。
深くは考えまい。
いや......シャル達に聞いてもらってもいいのだけどね?
そんな感じでマナスの不思議について考えていたら、霧狐さんが帰ってくるのが見えた。

『神子様お待たせいたしました。明日の模擬戦の件を仙狐様へお伝えした所、楽しみにしていると伝言を承りました。明日はよろしくお願いいたします。』

「ありがとうございます。」

『礼は不要です......仙狐様よりくれぐれもとお達しを受けておりますので。それよりも、この後はどうされますか?先程おっしゃられていたように神子様と模擬戦をすればよろしいでしょうか?』

「模擬戦は是非お願いしたいのですが、その前に一つ伺いたい事があります。僕達が最初にこの神域に入った際、一番最初に対応してくれた眷属の方がいらっしゃいますよね?あの方の強さは仙狐様の眷属の中でどのくらいに位置する方なのでしょうか?」

『神子様が神域にいらした際に対応した者......あぁ、あの者ですか。彼は中位に属しますが......幻惑魔法の使い手としては上位の者とも遜色ない程ですね。神域に至るまでの幻は地底湖を除いてほぼ彼が掛けたものになります。』

「なるほど、そうでしたか。因みに幻惑魔法を除いて純粋な戦闘力のみだと眷属の中ではどのくらいの強さですか?」

『幻惑魔法を考慮に入れず、となると......難しいですね。試したことがないので......。』

まぁ......それはそうだよね。
普通は持っている力に制限を加えて強さを決めたりはしないだろう......スポーツじゃあるまいし......。

『とは言え、下位の者よりは肉体的に強いと思います。中位の中では......どの程度に位置するか私にも分かりかねます。』

「ありがとうございます。参考になりました。」

下位の方達よりも強いってことが分かれば十分だ。
後は霧狐さんに模擬戦で相手をしてもらって明日に備えるとしよう。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...