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6章 黒土の森
第301話 明日に向けて
しおりを挟む「それじゃぁ、仙狐様に模擬戦の件は了承とお伝えください。」
『承知いたしました。』
模擬戦は明日行われるので、その前に俺とナレアさんとマナスの三人で霧狐さんとお手合わせさせてもらおうと思ったのだが、その前に俺の返答を仙狐様に伝えるために霧狐さんがここから少しの間離れることになった。
霧狐さんとの模擬戦の前に打ち合わせも必要だし、丁度良かったかもしれないね。
俺は広間を離れていく霧狐さんの後ろ姿を見ながら、先ほどの戦いを反芻する。
「さて......どう戦いましょうか?」
「先ほどのシャルとの模擬戦では辛うじて妾達でも何をやっているか見ることが出来たが......あの速さで動くのはケイの強化を貰っておったとしても正直ちょっと無理じゃな。」
「そうですね......僕も遠目でなんとか追えるって感じでしたから......最初の一撃を何とか凌げてもすぐに対応が追いつかなくなると思います。」
「最初のシャルの一撃を凌げるのか?」
レギさんの問いに一番最初のシャルの動きを思い出す。
......いやあれはちょっと。
「......最初の一撃を凌ぐのは無理ですね。」
「......だよなぁ。」
「まぁ、あれは仕方ないのじゃ。これから戦う相手があのような動きをしてこないことを願うしかないのう。」
ナレアさんが苦笑しながら言ってくる。
「まぁ、いくらなんでも強化魔法無しにあんな動きは......シャルも出来ないよね?」
『......そうですね。』
俺が傍に控えているシャルをちらりと見ながら聞くと、少しだけ首を傾けるようにして考えたシャルが答えてくれる。
『今回の戦闘で私は最初の一撃以降、強化魔法は幻惑魔法の感知以外には殆ど使っていません。』
「なるほど......強化魔法無しだと霧狐さんとシャルの身体能力はほぼ互角って感じかな?」
『いえ。あの者が意識を幻惑魔法に幾分か割いている事を考慮に入れても、身体能力は私の方が若干上といった所です。大きな差はありませんが。』
霧狐さんには何かしら思う所があるみたいだけど......評価はしっかりしているみたいだ。
シャルが冷静にそう言うのであればその評価は間違っていないだろう。
『ケイ様が最初にこの神域に入った時、最初に遭遇した眷属。あの者は魔法無しであればグルフとほぼ互角だと思います。』
「あぁ、あの最初に対応してくれた眷属の方か......あの方がどのくらいの位置の人なのか霧狐さんが戻ってきたら聞いておきたいな。」
「何か分かったのかの?」
どうやらシャルの念話は俺にしか届いていなかったらしく、ナレアさんが尋ねてくる。
「ナレアさん達が神域に来る前に最初に対応してくれた眷属の方がいたのですが......あ、ナレアさん達をここまで案内してくれた方です。その方の身体能力がグルフと同じくらいだそうで、その方が仙狐様の眷属の中でどのくらいの強さなのかを確認しておきたいなと。」
「なるほどのぅ。あの者が一番弱いという事でもなければ、ある程度力量が計れそうじゃな。」
「そうですね。とりあえずその辺は霧狐さんが戻って来てくれるのを待ちましょう。」
「後はどう戦うか、だな。」
レギさんの言葉に俺は少し考え込む。
模擬戦に参加するのは俺とマナス、そしてナレアさんだ。
ナレアさんは近接格闘を除けば基本は遠距離主体。
マナスは近距離での戦闘しか出来ないけど、そのスタイルはかなり変則的......特に拘束や妨害が得意だ。
俺は近接主体で天地魔法による遠距離も多少は出来る。
バランスを考えれば俺が前衛でマナスが中衛、ナレアさんが後衛とするのが一番いいだろう。
でも問題は幻を見破るのは俺の役目って所だ。
シャルがやっていたみたいに一瞬で強化、弱体の切り替えが出来るのであれば前衛を張っても問題ないと思うけど......まだ俺の魔法を行使する技術はシャルには遠く及ばない。
最近やっと戦闘中に適切な魔力量で強化魔法を使えるようになったって感じだ。
しかも調子に乗ればすぐに失敗する程度のレベルだ。
「その辺はもう少し話を聞かないと決めにくいのう。三対三になるのか一対一を三カ所でやることになるのか......相手次第の部分もあるが、こちらとしては三対三の方が良いのう。」
「仙狐様としては三対三でってつもりだったみたいですし、その辺は向こうの誘いに乗らずにこちらは連携して動けば大丈夫だと思います。」
「それは重畳じゃな。であれば、妾達は連携して戦うとして......ケイは前に立てるかのう?」
「今回はちょっと難しいと思います。幻惑魔法を見破りながら先ほどのシャルみたいに動くのはまだ僕には無理です。さっきもシャル達の模擬戦を見ながら五感を切り替えていましたが......無防備に棒立ちの状態であってもシャルの言う様に素早く切り替えるのは無理でした。」
俺が答えるとナレアさんが口元に手を当てながら考え込むように目を瞑った。
魔法によって姿を消していてもその場にはいるわけで、攻撃すれば当然当てることが出来る。
しかし相手も棒立ちしているわけでは無い。
先程の霧狐さんのように高速で動き回られては姿を消してなくても厳しいけど......なんにせよ、相手の位置が分からなければどうしようもない。
全員の目の役割は俺が担わなくてはならないのだが、それを戦闘中に行うとなると......。
「......ふむ......マナスよ。お主は幻を消すことを出来るわけじゃが、感知は出来ぬのかのう?」
ナレアさんが自分の肩に乗っているマナスに問いかける。
マナスは肩の上で暫くプルプル震えていたが、ファラが翻訳してくれた。
『もう少し経験を積めば判断出来るとのことです。』
......うちの子達はなんでこう......物凄く頼りになるけど......かっこいいなぁ......。
俺は自分の肩にいるマナスをぷにぷにと揉む。
「であれば、先ほどの者が戻ってきた後、模擬戦でマナスとケイに最前線を張ってもらうとするかの。」
「分かりました。」
上手くマナスが幻惑魔法を感知出来るようになれば、明日の戦いはかなり有利になるだろう。
いくら五感を騙す幻惑魔法とは言え、そもそも幻自体を消し去ることの出来るマナスがいればそこまで脅威ではない......といいな。
......五感と言えば、マナスって五感あるのかな......?
目とか耳......いや触覚以外無さそうだけど......いや、離れていても俺達の事を感じているみたいだし触覚以外もあるか。
俺達の声も聞こえているみたいだし聴覚も問題ない......ってかナレアさん達並みに俺の考えている事が分かっている節もあるし......うん、多分マナスは色々感覚があるのだろうね。
深くは考えまい。
いや......シャル達に聞いてもらってもいいのだけどね?
そんな感じでマナスの不思議について考えていたら、霧狐さんが帰ってくるのが見えた。
『神子様お待たせいたしました。明日の模擬戦の件を仙狐様へお伝えした所、楽しみにしていると伝言を承りました。明日はよろしくお願いいたします。』
「ありがとうございます。」
『礼は不要です......仙狐様よりくれぐれもとお達しを受けておりますので。それよりも、この後はどうされますか?先程おっしゃられていたように神子様と模擬戦をすればよろしいでしょうか?』
「模擬戦は是非お願いしたいのですが、その前に一つ伺いたい事があります。僕達が最初にこの神域に入った際、一番最初に対応してくれた眷属の方がいらっしゃいますよね?あの方の強さは仙狐様の眷属の中でどのくらいに位置する方なのでしょうか?」
『神子様が神域にいらした際に対応した者......あぁ、あの者ですか。彼は中位に属しますが......幻惑魔法の使い手としては上位の者とも遜色ない程ですね。神域に至るまでの幻は地底湖を除いてほぼ彼が掛けたものになります。』
「なるほど、そうでしたか。因みに幻惑魔法を除いて純粋な戦闘力のみだと眷属の中ではどのくらいの強さですか?」
『幻惑魔法を考慮に入れず、となると......難しいですね。試したことがないので......。』
まぁ......それはそうだよね。
普通は持っている力に制限を加えて強さを決めたりはしないだろう......スポーツじゃあるまいし......。
『とは言え、下位の者よりは肉体的に強いと思います。中位の中では......どの程度に位置するか私にも分かりかねます。』
「ありがとうございます。参考になりました。」
下位の方達よりも強いってことが分かれば十分だ。
後は霧狐さんに模擬戦で相手をしてもらって明日に備えるとしよう。
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