狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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6章 黒土の森

第296話 罪悪感

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霧狐さんに案内されてまずはシャルと合流した。

『おかえりなさいませ、ケイ様。』

「ただいま、シャル。」

俺の姿を見つけたシャルが近寄って来る。

『如何でしたか?』

「特に問題は無かったよ。まだ加護は貰っていないけど......とりあえず皆と合流しよう。仙狐様に頼まれたことがあるんだ。」

『承知いたしました。』

シャルは多くを聞かずに俺についてくる。
因みに霧狐さんはシャルの接近に立ち止まることはなく先導を続ける。
......別れる前も少し思ったけど、シャルと霧狐さん......若干仲が悪いというかピリピリしていない?
若干居心地の悪さを感じながら、俺は霧狐さんの先導に従って歩いていく。
マナスがシャルの背中から俺の肩に移動してくるけど......この二人と一緒に残されたマナスの本体は大丈夫だったのだろうか?
俺の気のせいかもしれないけど、どことなく疲れた様子のマナスをぷにぷにと揉んでみる。
マナスにはこれから頑張ってもらわないといけないし、今のうちにしっかりとケアしておこう。
俺の手の中で嬉しそうにぷるぷる震えているマナスを見ながら、どうやって仙狐様の眷属の方々と戦ったものかと考える。
霧狐さんは眷属の取りまとめと言っていた。
必ずしも強さが基準ではないかもしれないけど......母さんの所ではシャルの母親がその役目を担っていて、眷属の中で彼女が一番強いと聞いたことがある。
そのレベルの相手が出てきたら......戦闘にならないだろうなぁ......シャルより強いって......うん、やっぱりこの世界怖すぎるね。
最近また油断している気がしていたし、丁度いいのかもしれない。



俺達が霧狐さんに案内されて皆の所へ行くと、大きな木の傍で椅子に座って寛いでいる様子の皆がいた。
俺に気付いたナレアさんが立ち上がりこちらに近づいてくる。
しかし、それよりも一瞬早く気付いたグルフが既にこちらに向かって走り込んでくる。
弾丸とまでは言わないけど、かなりの速度で突っ込んできたグルフを受け止め......られるようなサイズではないので押しつぶされる。
随分とグルフは心配していたようだ。
そのままグルフの大きな舌で舐め......られることはなく俺に伸し掛かっていたグルフが突然吹っ飛んでいく。
俺が横を見ると、何やら据わった目をしたシャルが前足を振りぬいていた。
......ちょっと八つ当たり入ってない?

「......シャル?やりすぎじゃない?」

『少しだけ力が入りましたが......最近彼も調子に乗っていたようなのでいい薬です。』

こちらに向かって歩いていたナレアさんも、吹き飛んだグルフを見て若干顔が引きつっている気がする。
流石に心配だったのでグルフの傍に行こうとしたが、それよりも早くグルフが飛び起きて伏せの状態になる。
耳も尻尾も力なくへにょんとなってしまっているが、ケガはないようだ。
俺が近寄るよりも先にシャルがグルフの傍に行ったので、俺はナレアさんの方に向かうことにする。

「意外と早かったのう。加護は貰えたのかの?」

「いえ、まだ加護はいただいていません。」

「ふむ。断られたのかの?」

ナレアさんが若干心配するような表情になる。
俺は慌てて問題ないという様に手を振った。

「いえ、そういうわけではありません。少し頼み事をされましたが、加護自体は後でくれるそうです。」

「ふむ。頼み事か......大方安請け合いをして加護はそれが終わってから......とかそんな話になったのじゃろ?」

「......えぇ、まぁ......。」

寸分の違いもなくその通りですね。

「......まぁ、いいのじゃ。とりあえず皆と話を聞こうではないか。」

そう言ってナレアさんが皆の元へと歩いていく。
仙狐様の依頼の件を皆に相談......ナレアさんには参加してもらわないといけないからちゃんと説得しないといけない。
ナレアさんの後ろを着いて行きながら、頭の中で仙狐様との会話を整理しておく。

「よぉ、ケイ。」

「お疲れ様、ケイ君。」

「お二人もお疲れ様です。仙狐様との話は特に問題ありませんでした。」

「そいつは良かった。天狼様から色々聞いていたからな......。」

後半は少し声を潜めてレギさんが言う。
うん、俺も同じような懸念をしていましたから気持ちは分かります。

「話に聞いていたのとは随分と違う感じでしたね。とても優しい方でしたよ。」

「そっかー、それはよかったね!」

「はい。加護はまだ頂いていないのですが......。」

「何かあったのか?」

レギさんが気遣わし気な表情をする。
先程のナレアさんの時も思ったけど、俺は話の組み立てが下手なんじゃないだろうか?
一々心配させるような話し方をしている気がする。

「仙狐様に自分の眷属と戦って欲しいと言われました。」

「眷属と戦う?どういう事じゃ?」

ナレアさんが椅子に座りながら訝し気に問いかけてくる。
俺は開いている椅子に腰を下ろしながら説明を続ける。

「仙狐様が言うには眷属の方の鼻柱を叩き折って欲しいとのことでしたが......少し娯楽に飢えている節もありましたね。」

「......なるほどのう。」

「まぁ......何千年も神域を守っているんだから仕方ないよねー。」

ナレアさんは呆れ顔だがリィリさんは笑っている。

「模擬戦ってことだよな?ケイが戦うのか?」

「それなのですが......僕とマナス、それとナレアさんが指名されています。」

「妾が?何故じゃ?」

「......恐らくですが......ナレアさんに関しては深い意味は無いかもしれません。加護を受けたいと言っていたものを、と指名されたので。」

「あぁ、なるほど。それなら納得じゃ。自分の加護を得るのに相応しいか見極めたいということじゃな?」

「......いえ......多分その意図はないのではないかと......模擬戦を受けなくても加護はくれると言っていましたし。」

「そうなのかの?」

ナレアさんがキョトンとした表情で聞き返してくる。
偶に見るけど......ナレアさんのこの表情はあどけないというか......年相応というか......いや年相応ではないのか......?
余計な事を考えた俺はゆっくりと崩れ落ちた。



「崩れ落ちた......じゃない!」

俺は跳び起きると同時に叫び声を上げる。

「あ、ケイ君が起きた。」

「いきなり寝るとは随分疲れておったようじゃな。」

「いや......いきなり意識を失うほど疲れていた覚えはありませんが......。」

というか物理的に寝かしつけられたと思うのですが......。
ナレアさんから目をそらして横を見ると、レギさんは寝たふりをしている。
......我関せずモードか......ん?
レギさん......意識飛ばされてないよね......?
ナレアさん達の様子を見るに、俺が意識を失っていたのはそんなに長い時間じゃないはず......グルフもまだお説教中みたいだし。

「では多分アレじゃな?」

「そうだね。アレだと思うよ。」

「アレって何ですか?」

物理的なパンチか何かだと思うけど。

「あまりにも失礼なこと考えたから、罪悪感のあまり失神したわけじゃな。」

「間違いないね。」

「......ソウデスネ。」

失礼なことを考え......る前に意識を失ったような気がするけど......迂闊だったことは間違いない。
でもいきなり気絶させられることになるとは思わなかったな......。

「自らの罪悪感に押しつぶされたのじゃ。」

「......ソウデシタネ。スミマセンデシタ。」

これ以上この話題は良くないだろう。

「ふむ?よく分からぬが、その謝罪は受け取っておくのじゃ。さて、そろそろ先ほどの話の続きをするとしよう。」

そう言ってナレアさんが頬杖をつきながら俺を見る。

「ほら、レギにぃもそろそろ起きなよ!」

俺の横で寝たふりをしていたレギさんの事をリィリさんが揺さぶる。
......寝たふりだよね?

「......お、おう。いや......迂闊だったぜ。」

うん、これ寝たふりじゃないな。
一体何をしたのだろう?

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