狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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6章 黒土の森

第287話 焦り

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ナレアさんの推測を聞いて背筋がゾッとする。
俺はまだ幻の怖さについての考えが甘かったみたいだ。
幻の向こうに何があるか......それを調べる術がないならむやみに幻に突っ込むべきではない......でも神域があるとしたらシャルが見つけた幻の壁の向こうだと思う。
絶対にその先に行く必要があるはずだけど......どうやっていけば?

「ほほ、こういう化かしてくる相手に固定概念は禁物じゃ。ケイは結構色々と考えるタチじゃが......それ故に考えてたどり着いた物以上の可能性への対応に遅れる危険があるのじゃ。慎重さは当然大事じゃが、それと同じくらい臨機応変な対応というのも大事なのじゃ。」

「色々な可能性を考えるのは得意みたいだけどな。こうなった場合はこうやって対応する......そういう風に様々な可能性に対する対応を考えておくのは大事だ。だが当然だが相手もその可能性を考えて対応された時の対応を考えてくる。今まではこういった類の搦め手と対峙することはなかったし、基本的にこちらが守りだったからな。」

確かに......罠を仕掛けて守りを固める相手っていうのは対峙したことが無かったな。
相手の姿が見えない状態での守りってのはあったけど......攻めと守りじゃ考え方が違うよね......。
来ると分かっているなら守りが有利、来ないと思っているなら攻めが有利って感じか。

「とは言え、じゃ。どうしたものかのう?恐れておっては何も出来ぬが......気軽に突き進むには想定できる危険が大きすぎるのじゃ。」

「......正直、一番対応力のある奴が身体を張るくらいしか思いつかねぇな。」

「......。」

対応力......精神的なものはさておき、魔法の事を考えて俺が行くのが一番いいよね?

「んー、前に遺跡で見たゴーレムとかいたらよかったのにねー。」

ゴーレムか......確かに、あれがあったら色々と強引に突っ込んで行ってもらえるのだけど......。
でもここに持ってくるまでがかなり大変だよね。

「むぅ......ゴーレムか。確かにアレがあればこの局面でかなり頼もしかったじゃろうが......通信用の魔道具を優先したからのう......。」

ナレアさんが顎に手を当てながら呟く。
流石のナレアさんでもゴーレムの研究まではまだ出来て無いか......。
まぁ、全力で調べ違っていたから順番の問題だと思うけど。

「通信用の魔道具にはグラニダですっごいお世話になったからね。そっちを優先してもらって助かったと思うな!」

そう言ったリィリさんがナレアさんに笑いかける。
うん、確かにリィリさんの言う通り通信用魔道具は大活躍だったからな。
情報通信って大事だよね......タイムラグ無しの通信って初動のアドバンテージが強すぎる。

「よし!じゃぁ私が突っ込んで調べてくるよ!」

「突然何を言っておるのじゃ!?危険すぎるのじゃ!」

突然のリィリさんの宣言にナレアさんが慌てる。
いや、俺も驚いたけど。

「んー、でも誰が行っても危ないのは一緒だよ。それにほら、私は死なないからね!」

リィリさんが快活に言った瞬間、レギさんの表情が消える。
俺に向けられた表情ではないのに背筋がゾクッとした......レギさん本気で怒っているよね......?
しかしレギさんは表情を消しただけで、リィリさんには何も言わない。
あれは......リィリさんの台詞に怒っているけど......その怒りの向いている先は自分自身なのかもしれない。
とりあえず......心臓が痛いので何か言おう。

「あー、リィリさん。折角の立候補ですが、今回は僕が行きます。」

「ケイ君?本当に、幻の向こうは危ないと思うよ?私に任せてくれた方が良いと思うけど。」

「いえ。僕が行くのが一番いいと思います。魔法を全力で使えば大抵の事には対応できますし......それにこれは僕の用事ですからね。誰がやっても一緒と言うなら、余計人任せには出来ませんよ。」

「でもなー心配だよ。」

リィリさんが頑なに譲ってくれないな。
リィリさんがこうなる原因は......やっぱりさっきレギさんが落ちたことだろうけど......。

「......リィリ。」

リィリさんの言葉を聞いている内に落ち着いたらしいナレアさんがリィリさんに近づいていく。

「少し早いが、今日は拠点を作らぬかの?」

リィリさんの傍に立ったナレアさんがこちらを見ながら言う。

「拠点ですか?」

「うむ。少し戻って穴を掘って居住出来るようなものを作ってみぬか?ケイは何か凝った感じの風呂とか作ってくれぬかのう?」

「凝った感じのお風呂ですか......。」

「うむ。魔法のいい練習になるじゃろう?それに自分達で掘った穴なら罠の心配もないのじゃ。」

「確かにそうですね。」

このまま進まずに時間を空けようってことだよね?
確かに......ちょっとリィリさんの様子がおかしいし、このまま進むのは良くない気がする。
それにしても凝った風呂か......檜風呂みたいなの作れないかな......?
どうせ使い捨てだしそれっぽいのなら作れそうな気がする。

「それに、もし向こうがこちらに気付いて何か動きを見せてくれるのなら......幻の奥に引っ込んでいるよりも、出て来てもらった方が助かるのじゃ。」

「あぁ......なるほど。それは確かにそうですね。」

正面からぶつかるだけが砦の攻略法じゃない。
寧ろ搦め手を使う方が正攻法って気もするね。
リィリさんの様子が気になるけど......ナレアさんが傍に着くようだし、とりあえず任せよう。
そう思いレギさんの方を見るが......あぁ、まだ無表情だ。
なるほど、俺の担当はレギさんってことか。



View of ???

レギにぃが目の前から消えた時、良く見える筈の目が一瞬何も見えなくなった気がした。
次いで、無い筈の心臓に氷の剣を挿されたような物凄い冷たさと痛みが私を襲う。
何が起こったのは分からなかった。
でも私は次の瞬間飛び出そうとして、ナレアちゃんに引きずり倒された。
正直、あの時ナレアちゃんに言われたことは全く聞こえてなかった。
ただただ、目の前が暗くなって......色々な音が遠ざかり......続いてケイ君が飛び出したのもあまり見えていなかった気がする。
ナレアちゃんに強く抱きしめられて、その体温を感じたことでようやくナレアちゃんの声が聞こえる様になった。
私は忘れていた。
私達は冒険者だ。
冒険者が冒険に出るとき、どんな事態になるか......私は痛いほど理解していたはずなのに。
ナレアちゃん、ケイ君、シャルちゃん、グルフちゃん、マナスちゃん、ファラちゃん......レギにぃ。
皆と一緒に旅をすることで安心していたんだ。
物凄く強くて、常識では測り切れない程の能力を持った人達。
そして、本当に優しくて、可愛くて、頼りになって、格好良くて、素敵な人達。
ヘイルにぃとエリアねぇを失った時に感じた痛み......レギにぃともう二度と会えないと思った時の喪失感。
それを忘れたことは無い......でもナレアちゃん達となら、あんなことにはならないと......二度と誰かを失ったりしないと、心のどこかで油断していたんだ。
......レギにぃの事はケイ君が助けてくれた。
ケイ君がレギにぃの命を救ってくれたのはこれで二度......そのどちらも私では助けることが出来ない内容だ。
本当に......本当にケイ君にはいくら感謝してもしきれないと思う。
でもだからこそ、その強さや優しさに甘えているばかりではいられない。
私はリィリ。
リィリ=ヘミュス。
一度は全てを......自分の命を含めて、全てを失った女。
私はもう二度と忘れない。
全ては薄氷の上を進むがごとく、幻のようにいつ消えてもおかしくない。
だから私が全て引き受ける。
一度は朽ちたこの身を使って。
絶対に......私達の物語を悲劇になんかさせない。

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