277 / 528
6章 黒土の森
第276話 食材は豊富
しおりを挟む黒土の森の探索を始めてから十日程が経過した。
ファラが事前に調べてくれていた森の範囲から考えると、土が黒い範囲の三分の一くらいは調べたと思う。
それにしても......。
「遅々として調査が進みませんね。」
「そうだな。幻惑魔法を警戒しているってのもあるが、森の険しさが尋常じゃないな。」
「どこも同じ景色にしか見えぬしのう。目印を設置しながら調べてはいるが......今の所何の変哲もない森でしかないのう。」
「グルフちゃん達がいるから魔物は殆ど寄ってこないけど......遠目に見える魔物はあまり見たことが無い子ばっかりだね。」
リィリさんが遠くの方で息をひそめている魔物を見ながら言う。
あれは......二足歩行の魔物かな?
「そう言えば、グラニダ領内では殆ど魔物は見ませんでしたね。」
「まぁ、そうじゃな。兵が巡回を結構力を入れてやっておったしのう。龍王国は山が多いから騎士団が巡回しても限界があったが、グラニダは平地が多く、森もあまり大きなものがなかったからのう。」
「この森は魔物の宝庫って感じですね。母さんのいた森とはかなり違います。」
「確かにそうじゃな。シャル達がいなかったら探索どころではなかったかも知れぬのじゃ。」
シャル達のお陰で魔物がびびって近寄ってくることが無い。
もし探索中に現在もそこかしこからこちらを窺っている魔物が押し寄せて来ていたら、いまだに殆ど探索は進んでいなかっただろうことは想像に難くない。
「しかし、この調子だと一通り調べ終えるのにはまだまだかかりそうだな。」
「もう食材もグラニダで仕入れた分は尽きましたね。」
「そうだな......まぁ食材には困らないが......。」
そう言って顔を上げたレギさんの視線を追いかけると、何やら果物が生っているのが見える。
「あれは初めて見る果物だね。」
同じくレギさんの視線の先を確認したリィリさんが呟くと、次の瞬間ひょいと言った感じで果物のなっている枝まで跳び上がったリィリさんが果物を手にして降りて来た。
「匂いは......ちょっとスッとした感じかな?」
そう言って手で皮を剝き、中身を自分の手の甲に乗せる。
リィリさんはそのまま暫く果物を手の甲に乗せていたがやがて口に含んだ。
俺達が見守る中、舌の上にのせていた果物を吐き出したリィリさんが少し残念そうな声を出す。
「とりあえず毒は無さそうだけど、あまりおいしくはないかなぁ。えぐみが強い......そのまま食べるのは向いてないから持って帰ってみようかな。」
そう言って腰に下げた袋に丁寧に果物を入れるリィリさん。
一応持って帰って食べようとするのは相変わらず......まぁ確かに森の恵みは豊富とは言え、新しい食材を得るのは大事なことだからね。
そんな風に細々と採取もしつつ探索を続けていると、俺達とは少し離れた位置を調べていたファラが近づいてきた。
『ケイ様。向こうに洞窟を発見しました。調べてこようと思いますが、よろしいでしょうか?』
「洞窟か......ここまで怪しいと思えるような場所もなかったし、レギさん僕達も洞窟に行ってみませんか?」
「そうだな。気分転換がてら洞窟探索をするのもいいかもしれないな。」
「うむ、妾も賛成じゃ。」
「洞窟かー果物は無理だろうけど......蛇とか獲れるかな?」
リィリさんはともかく、他の皆も賛成のようだね。
まぁこの十日間の探索で初めての変化といってもいいからな.....行けども行けども風景は変わらず木々が生い茂る暗い森の中。
肉体的な疲労は殆ど無いにしても、精神的には皆疲れていたのだろう。
付き合ってもらっている身としては心苦しいばかりだけど......。
「じゃぁ、ファラ。その洞窟まで案内してもらえるかな?」
「承知いたしました。こちらです。」
ファラの先導に従って俺達は洞窟を目指す。
それにしてもさっきリィリさんが言った蛇って......食用だよね?
まだ食べたことはないけど......なんかよく鶏肉みたいだって聞くね。
でもそれなら鳥を頂きたいな......。
木の上に止まっている鳥を見上げながら、蛇が出てこなければいいなぁと祈らずにはいられなかった。
ファラの案内で辿り着いた洞窟は俺が想像していたよりもかなり大きな口を開けていた。
俺達四人が横並びで進んでもとりあえずは問題なさそうだね。
俺は手に持った松明に火をつけて洞窟の中に放り込む。
松明の火が消えないところを見ると空気はあるみたいだ。
「流石に中に魔物がいたら戦闘は避けられぬじゃろうな。」
仮に入り口が複数個所あったとしても、自由に逃げられる野外と違って襲い掛かってくる可能性の方が高いだろう。
どんな魔物がいるか分からないけど......よっぽどの事がない限り大丈夫なはずだ。
「寧ろ中に魔物がいる方が安心できますけど......神域には遠ざかりそうですね。」
母さんの神域も応龍様の神域も、付近に普通の魔物は生息していなかった。
仙狐様も同じであるならば、寧ろ魔物のいない方に行った方がいいのかもしれないな......。
そう考えた俺はファラに提案をしてみる。
「ファラ、ネズミ君達を使ってこの森の魔物の分布を調べられないかな?母さんや応龍様の神域の事を考えると、例え結界があったとしても神域の傍には普通の魔物はあまりいなかったと思うんだ。」
『承知いたしました。最優先で調べさせます。』
「ふむ......魔物の分布か......悪くないかもしれぬのう。」
俺がファラに出した指示を聞いてナレアさんが言ってくる。
「まぁ、そううまくはいかないかもしれませんが。母さん達の神域と違って仙狐様の魔法が魔物の感覚を狂わせている可能性は高いですし。」
「駄目元であれ、やっておいて損はしないのじゃ。もし調べた分布図が神域を見つけるのに役に立たなかったとしても、グラニダに戻った後カザンにでも売りつけてやれば感謝されるじゃろ。無駄にはならんのじゃ。」
......なるほど、それは考えていなかったな。
「そうだな。今は隣接していないとは言え、俺達が通ってきた土地の様子を見る限り......そう遠くない内にあそこもグラニダの領内になるだろうよ。そうならなかったとしても魔物の情報は嬉しい筈だ。」
レギさんも悪くない話だと言ってくれる。
ただの思い付きで出した指示だったけど......皆色んなことをパッと考えつけて凄いなぁ......。
「食材分布地図もしっかり作ってるよ。」
リィリさんはいつもブレなくて凄いなぁ。
「よし、そろそろ洞窟探索を始めるとするか。入り口付近は広いみたいだが、一応隊列は組むぞ。先頭は俺が、その後はケイ、ナレア、リィリの順で。グルフは入り口で待機だ。」
「了解です。」
レギさんの指示に全員が頷く。
入り口は大きいからグルフも中に入れそうだけど、奥の方が狭くなっている可能性は高いからね。
少し寂しそうにしているグルフだったが、背伸びをして耳の後ろを撫でてあげると気持ちよさそうにした後、洞窟の入り口の横でお座り状態になった。
「レギにぃ、蛇がいたら教えてねー。」
やはり蛇を食すことを諦めていないのか......。
今の所食料の確保には苦労していないので、是非ともこの洞窟にいる蛇君は巣穴の奥で震えながら眠っていて欲しいものです。
レギさんがリィリさんに適当な感じで返事をした後、洞窟へと足を踏み入れる。
さて、鬼が出るか蛇が......いや蛇は出たらダメだな。
3
お気に入りに追加
1,734
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。


無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる