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6章 黒土の森
第273話 黒土の森へ
しおりを挟む「なんかこの四人で行動するのってそんなに久しぶりってわけじゃないのに、なんか足りない気がするね。」
「領都に潜入した時も四人だったのじゃが......リィリの言うことも分かる気がするのう。」
領都から出てグルフの待つ森までのんびりと歩いてきた俺達だったが、ナレアさんとリィリさんが凄い気落ちしている感じだな。
ノーラちゃんも泣くのを我慢していたけど、もしかしたらナレアさん達もやばかったのかもしれないな。
「まぁ、気持ちは分からなくもないが。これからまたグラニダを離れるんだ。グラニダにいると忘れそうになるが、今いるのは東方だ。あまり気は抜き過ぎるなよ?」
レギさんの言う様に、確かにここは紛争地域とも言える場所だ。
グラニダに来るまではそういったことに巻き込まれない様に慎重に動いてきたが、それでも東方で最初に遭遇した人達のように穏やかではない雰囲気は至る所で感じられた。
これからまた東進するに当たって危険が増えるのは間違いないだろう。
「うん、そうだね。まぁ黒土の森で用事が終われば、とりあえずグラニダに戻ってくるんだしね。」
「うむ。気合を入れて神域を探すとしよう。」
「仙狐様の幻惑魔法ではちょっと難しいですが、最後にお会いする妖猫様の加護を頂けたら西方からでも一瞬でグラニダまで来れるようになるかもしれません。そうなれば隣の家に遊びに行くくらいの感覚でノーラちゃん達に会えるようになりますよ。」
「それは楽しみだね!がんばってね、ケイ君!ナレアちゃん!」
「うむ。御母堂の加護は残念ながらうまく使いこなせなんだが、残りの神獣の魔法は何とか使いこなしたいものよのう。」
二人が少し元気を取り戻したみたいだ。
そこで丁度俺達が森に来たことに気付いたらしいグルフが俺達の元に走ってきた。
相変わらず俺達が来たことを喜んでいるようで、遠くからでも尻尾が千切れんばかりに振られているのが分かる。
「距離的にはグラニダを抜けるまでに馬車で十日くらいだ。急ぐ必要は無いが......どうする?」
駆け寄ってくるグルフを見ながらレギさんが問いかけてくる。
「そうですね、グラニダ領内は人目につかない様に行ける道......のようなものは聞いていますし、グラニダ領内から出る直前に補給できる場所も教えてもらっています。三日くらいかけてゆっくりグラニダから出ますか。」
「馬車みたいに道なりで進まないし、シャル達の足なら二日もあればグラニダ領外まで行けると思うぞ?」
俺の提案にレギさんが訂正を入れてくれる。
それもそうか、森や道を通しにくい場所は避けて作られるわけだからかなり蛇行するもんな。
その点シャル達なら道がない場所を突き進んで行くわけで、かなりショートカットが出来る上に森なんかをありえない速度で駆け抜けるからな......。
ナレアさんは森の上を飛んで行くけど、いつか誰かに見つかりそうで怖いよね......まぁそれも仙狐様の加護を貰えれば解決すると思うけど、今は保護色マントだからね......。
っと、また思考が余計な方向に逸れたな。
「なるほど......じゃぁ二日かけて領境まで行きましょうか。隣の領地は出来れば一気に抜けたいですしね。」
「それがいいだろうな。」
駆け寄ってきたグルフをレギさんが豪快な手つきで撫でた後、荷物を背中に乗せていく。
グルフはレギさんに会うのが結構久しぶりだから物凄く嬉しそうだね。
砂ぼこりが立たんばかりに尻尾を振っている。
凄く微笑ましい光景だけど、いつまでも見てないで俺もシャルに荷物を持ってもらわないとね。
「黒土の森か......東方に来てから結構時間が掛かったけど、何とかたどり着けそうだね。」
荷物を乗せながらシャルに話しかける。
『はい。恐らくここから神域を見つけるのは一筋縄ではいかないと思いますが......先行しているファラがどのくらい範囲を絞り込めているか......。』
「配下のネズミ君達じゃ今回は調べられないって言っていたもんね。」
『はい、ファラなら何かしら痕跡に気付けるかもしれませんが......それも確実とは言えません。神域に施された結界だけであれば恐らく気づけるとは思いますが......仙狐様が全力で幻惑魔法を掛けていたとしたら......幻惑されていることにすら気づけない可能性は十分あります。私も幻惑魔法を見たことはないので確かなことは言えませんが......。』
「そうだね......前も話していたけど、黒土の森についてからが本番だね。一応母さんからコツは聞いているけど......母さんでも油断していると気づけないって言っていたからな......。」
『決して油断はしないつもりではありますが......。』
こんなに不安げなシャルは初めて見るかもしれないな。
俺はシャルの横腹をぽんぽんと叩いてからゆっくりと撫でる。
「大丈夫だよ、シャル。グルフやマナス、ファラもいる。俺やナレアさん達もね。皆で探せば何とかなるよ。シャルの事はとても頼りにしているけど、シャルにだけに任せたりはしない。皆と一緒に頑張って仙狐様の神域を探そう。」
『はい、ありがとうございます。ですが......必ず私が見つけてみせます!』
元気を取り戻したシャルが、珍しく冗談めかした雰囲気で言ってくる。
「うん、頼りにしているよ。勿論マナスもね。」
左肩に乗っているマナスが微妙に自己アピールを始めたので、右手でぶにぶにとマナスを撫でる。
「こっちは準備できたぞ。」
レギさんとリィリさんがグルフに乗ってこちらに近づいてきた。
その後ろからゆっくりと宙に浮いているナレアさんがついてくる。
「こちらも大丈夫です。それじゃぁ、出発しましょう。」
俺はシャルの背に飛び乗る。
飛び乗った俺がしっかりと座ったのを確認し、シャルがゆっくりと進み始める。
すぐに森の中を走っているとは思えない様な速度に達した。
グルフも慣れたものでしっかりとついて来ている。
森の中なので上を見てもナレアさんの姿は見えないが、シャル達に負けない速度で移動しているだろう。
今日はまだグラニダ領内を進むだけだし特に問題はないはずだ。
盗賊みたいな無法者がいるようなら積極的に叩いておきたいけど、グラニダ領内ではあまりいないらしいからね。
そういったものが出ないように地方軍がにらみを利かせているらしいし......治安が悪くなっているのは領都の北西方面で、東に進む俺達とは逆方向だ。
まぁセラン卿主導でくだんの地方軍の上層部の粛清は済んだらしく、今は組織の再編を進めているらしい。
そう言えばカザン君は領都軍の指揮を執らないといけないとかで、色々と軍事についてもセラン卿から講義されていたな。
まぁ、多少横で聞かせてもらったけど......戦術とか戦略とか陣形とかなんだとか、なんとなく話は分かるけど......それをどんどん先読みして指示を出していくなんて俺には不可能だ。
しかも俯瞰で戦場が見えてリアルタイムで駒が動くような地図なんてものはない、戦局は精々櫓のような高台や各部隊から送られてくる伝令でしか判断が出来ないわけで......当然命令後、即部隊が動き始めるなんてことだってあり得ない。
カザン君も頭から煙を噴いていたように見えたけど......頑張っていたなぁ。
演習とかはしっかり指揮を執ってやらないといけないみたいだけど、出来ればカザン君が実戦で指揮を執る様な機会が無ければいいなと思う。
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