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5章 東の地
第265話 大体分かった
しおりを挟む「しかし、治療も終わって、その後の検査も普通に受けていたのだろ?なんでそれでわざわざ狙う必要がある?」
カザン君の話を聞いてレギさんが疑問を呈する。
確かに、検査をすると言えば拒否はしないよね......それとも連れ帰る必要があったとかかな?
「檻から抜けた人間が私達を手土産に檻への復帰を目論んでいる、と檻から伝えられたようです。ただ、父は誰が檻の構成員かは知らされていなかったようですが。」
「檻から見放されたっていうのは残された文章に書いてあったな。」
「でもカザン君達を連れて行くことが失態を取り返せるって考える程のことなのかな?」
「領主の子供たちをどういった手段にせよ連れて行けるのは凄いことだと思いますが......。」
自分達の能力を示すって意味ではいいのかもしれないけど......そんなことに意味があるのだろうか?
「じゃが、良い取引相手との関係を悪化させてまで連れて行く利点が分からんのう。」
ナレアさんの言う様にマイナス点の方が多い気がする。
「カザン君達以外に同じ処置をして成功した人がいなかったとかですかね?」
「ふむ......確かカザン達の事を成功例と言っていたと......ファラから聞いたんじゃったかの?唯一の成功例であるなら確かに貴重かも知れぬが......だとしたらもっと頻繁に検査にくるのではないかの?」
「意識を取り戻した直後は色々と検査を受けましたが、最初の数か月以降は年に一度来るかどうかといったところでしたね。」
「あまり重要、というか熱心な感じではないのう。」
ナレアさんが白けたような表情で言う。
「組織からいつ見放されたか分かりませんが、アザルが組織から離れた当時は重要視されていた可能性はあるんじゃないですか?」
「なるほど......勘違いって線か。確かに秘密の多い組織のようだし、情報を得た時期が違っていたとしたら考えられない話じゃないな。」
俺の言葉にレギさんが相槌を打つ。
「ふむ......そう考えるならば、残された文章にも信憑性が出てくるかもしれんのう。檻の事を口外しなければ関わることはないということは、檻はカザン達には興味がないとも取れるのじゃ。」
なるほど......お父さんの手記によって裏付けが取れてあの文章の信憑性が少し増したということか。
カザン君達を狙うつもりがないって言うのが本当だといいのだけど......。
......いや、それ自体は考えても仕方がないことか。
勘違いだろうと何だろうとカザン君達が狙われたことは事実で、今後カザン君達が絶対に襲われない保証はない。
なんであれ、今後ずっと警戒を続ける必要があるってことだよね......。
「檻との今後の関係は分かりませんが、とりあえず私達が狙われた理由というのは檻による実験を受けたからということですね。」
「ふむ、そこは間違いなさそうじゃな......。」
「それまでの記憶を失ったとは言え、意識を取り戻させてくれたことには感謝を覚えなくもないですが......放逐されていた人間であったとしても、その組織の人間がしたことを考えれば感謝はあまりできませんね。」
複雑な表情でカザン君が言う。
まぁ、それはそうだよね......グラニダの受けた被害、そしてカザン君のお父さんの命。
その治療を受けた身としては、とても許容できる対価ではないだろう。
カザン君のお父さんにとっては違ったかもしれないけど......そこは......もしかしたら手記に書いてあるかも知れないね。
「カザン達が狙われた理由はそれでいいとして......復讐っていうか、前領主によって阻まれた計画って言うのは何だったんだ?」
そう言えばアザルの目的はカザン君達だけじゃなくって計画を潰された復讐ってのもあったんだっけ?
「......それが、それらしきことはこの手記には何も書いていなかったのですよね。」
「カザン君のお父さんも知らない内にアザルの計画を潰したってこと?」
カザン君の回答にリィリさんがキョトンしている。
知らない内に潰したのか、意図的であったとしても手記に残す必要が無かったのか......どちらにしてもあまり深刻な印象は受けないな......。
「その点については父の手記に書かれていなかった以上、当時の出来事から掘り返すくらいしか出来ないかもしれませんが......調査は続けようと思います。」
「今の所それしかなさそうだな......。」
以前捕らえた檻の構成員も情報源としてはあまり役に立たない感じだったしな......せめてアザルが生きてさえいれば......いや、これは考えても仕方のないことか。
「それとこのこと......檻との取引や、私達の治療に関してノーラには絶対に知られるわけには......いえ、母や祖父、誰にも知られたくないと思います。」
「......それは確かにそうかもしれないが。」
カザン君の言葉を聞いたレギさんが難しい顔をしている。
確かにノーラちゃんに教えないというのは賛成だけど......他の人達にまで隠すのはちょっと難しいだろうな......。
領主館を調べればカザン君達が狙われた理由が分かると残されているし......この文章をどのくらいの人が確認したのか分からないけど......判明しなかったと言っても、その人たちが納得出来るものだろうか?
「はい。あの文章がある以上、祖父やエルファン卿等には伝える必要があります。まずは祖父に伝えて......その後どうするかは相談する必要がありますね。」
「カザン君はどうしたいの?」
「例え祖父であっても全てを伝えるつもりはありません。父の手記によると誰にも話さずに事を進めていたようですし、基本的に詳細は私の胸の中に止めておこうと思っています。」
「俺達が聞いても良かったのか?」
「皆さんはグラニダと関係ない上にここまで散々助けて頂きましたから、どちらかといえば聞いて欲しかったです。」
「......そうか。」
カザン君が少し照れたように笑う。
ノーラちゃんがいればまた甘えているとか言いそうだけど、純粋にカザン君の信頼を嬉しく感じた。
先程まで少し難しい表情をしていた皆も優しく微笑んでいる。
「そう言えば先程ケイさんに聞きましたが、黒土の森の場所が分かったそうですね。」
カザン君は気恥ずかしくなったのか、咳ばらいを一つすると話題を変えるように言う。
「うむ、グラニダよりさらに東方、隣に位置する勢力の更に向こうに広がる森が、昔黒土の森と呼ばれていたようじゃな。聞いていた距離や方角とも概ね一致するし、妾達が探していたもので間違いなかろう。」
「そうですか......では、皆さんは近々グラニダを発たれるのですね。」
少しだけ、寂しげにカザン君が言う。
「そうなるな。」
レギさんが腕を組みながらカザン君に応える。
色々とまだ心配なことはあるけどずっとここに居るわけにもいかない......急ぐ旅ではないけど、一応目的もあるしね。
とは言え......。
「まぁ、ナレアさんがここの書庫の整理をしたりとかもあるし、今日明日いきなりってわけじゃないよ。」
「あ、そ、そうですよね?少しは皆さんも骨休めが必要でしょうし。」
再度照れたように顔を赤らめるカザン君。
しょんぼりしたことと、それを見透かされたこと......すぐには出ないと言ったことで安心したこと、それに自分で気づいたこと。
その辺をひっくるめて恥ずかしかったのだろうな。
「今日も皆さんうちに泊まられますよね?あ、ケイさんお風呂どうですか?リィリさん、食材はあまり豊富ではありませんけど......何か食べたいものありませんか?」
色々と誤魔化す様にカザン君が色々と提案をしてくる。
でもお風呂か......昨日も用意してくれていたけど......あれってどうやって沸かしているのだろうか?
そこまで大きなものではなかったけど......沸かすのは大変そうだし......俺がお湯作った方がいいだろうか?
俺がそんなことを考えているとカザン君が挙動不審な様子で部屋から出て行った。
「照れてたねー。」
「照れていたのう。」
部屋を出て行ったカザン君の背中を見送ったリィリさん達がぽつりと呟く。
「あまり揶揄ってやるなよ?まぁ、それはそうと俺達はこれからどうする?」
「そうじゃな......さっきケイが言ったようにもう少しグラニダに滞在するとして......カザンとノーラの護衛じゃな。」
「引き続きネズミ君達にはかなり厳しく監視をしてもらっていますが......ネズミ君達だけでは監視は出来ても何かあった時の対応も出来ませんし、すぐに僕達に連絡を入れることも出来ませんね......。」
監視は問題ないと思う......ある意味戦闘も問題ないとは思うけど......犠牲もかなり出るしな......それに何十匹も何百匹もネズミ君達が集まってカザン君達を守ったら目立ちまくるし......色々と問題だろう。
「ネズミ達に監視してもらうのは必須として、最低でも足止めするくらいの戦力は必要か?」
檻の構成員は手練れが多いみたいだし、最低でも護衛の人達が集まる時間を稼いだりは出来た方がいいだろう。
シャルなら......ある程度周囲に溶け込みつつ戦力としては最強だ。
ただここに残ることはあり得ない。
グルフは戦力としては完璧だし、カザン君達を乗せて逃げることも出来るだろうけど......全力で目立つ......。
ファラは戦力としても隠密としても完璧だし、念話も出来る。
しかしファラはファラでやってもらわないといけないことが多い。
しかも今役目を外して暫くカザン君達の護衛をして欲しいって言ったら......めちゃくちゃへこみそうだ。
ということで、いつも通りマナスに頼むしかないよね......。
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