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5章 東の地

第263話 地下の隠し部屋

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「こんなに地下深くとは思いませんでした......。」

階段を折り返すこと四回、ようやく俺達の目の前には扉が現れた。
カザン君は最初明かりを持たずに入っていったからな......言葉通りすぐに下に辿り着くと思っていたんだろうな。

「......ここも鍵がかかっていますね......上で使った鍵は......合わないみたいです。」

「ふむ......カザンよ、鍵を逆に......持ち手部分を挿してみるのじゃ。」

「持ち手部分をですか......?あ、確かに丁度入りそうです......。」

ナレアさんの言葉にカザン君が鍵を挿しなおしてみるとすぐにカチリという音が聞こえる。

「開きました......ナレアさんがいなかったら、この部屋に入るのに数日かかっていたかもしれませんね。」

「ほほ、もっと称賛してもいいのじゃよ?」

カザン君の感心したような声にナレアさんのご機嫌が急上昇する。
確かにカザン君の言う様にナレアさんのお陰でスムーズに探索が進められそうだね。
カザン君に続けて俺もナレアさんに称賛の声を上げる。

「いや、本当に凄いですね。これも遺跡での経験によるものなのですか?」

「遺跡と言えなくもないのじゃが......どちらかというと遊び心の賜物といったところかのう?ここに来るまでに同じ鍵を二度使わせておいて、三度目もあるかも?と意気揚々と鍵を差し込んだら今度は違った......それを見てニヤニヤ出来るじゃろ?」

遊び心というか性格悪い感じじゃないですかね......?

「ここで恐らく、別の鍵が必要と考え引き返す......じゃが実はすでに持っている鍵を逆にすれば良いだけという所で、もう二、三回は楽しめるのじゃ。」

完全に性格悪い人が設計していますね、これ。
仕掛けとしては面白いし、技術も凄いのだろうけど......ナレアさんの話を聞くと底意地の悪さしか感じないのは......ナレアさんがいけないのでは......。
カザン君も微妙に笑顔が固まっているし......恐らく設計したのは違う人物だろうけど、この地下室を用意させたのはカザン君のご先祖様だろうしなぁ。

「じゃ......じゃぁ、そろそろ入りましょうか。ここは狭いですしね。」

気を取り直したカザン君がドアをそっと開ける。
部屋の中から流れ出てきた空気は予想していたよりも淀んだ感じはなく、比較的頻繁に開け閉めされていたような印象を受ける。
とは言え、ここ最近は開けていなかったのは間違いない筈だし、これだけの地下なら換気は簡単にはいかないはずだから何らかの仕掛けがあるのかもしれないね。
入口のすぐ脇には魔道具が設置されていて、カザン君が魔力を流すと部屋全体に明かりが灯された。
部屋はそこまで広い物ではないが、狭くもない。
ただ上の書庫とは違って雑然としているな。
上と同じように本棚が壁際に並び、机や椅子、それに本以外が収められた棚などが置かれている。
机の上にこれ見よがしに置かれた本の表紙には、以前見たカザン君のマントに刺しゅうされていた紋章が描かれていた。
カザン君がその本を開いてすぐに声を上げる。

「これは......父の手記のようですね。書斎にもいくつかありましたが......これは私的な物......。」

そこまで言ったカザン君が言葉を止める。

「......すみません、皆さん。恐らくこれは僕が探していた物です。少し時間を貰ってもいいですか?」

「あぁ、構わないぜ?俺達は上に上がっとくか?」

「いえ、皆さんは良ければこの場所を調査してもらってもいいですか?ざっと目を通したら私も調査に移りますので。」

「そいつは構わねぇが、煩くねぇか?」

「ざっと目を通すだけなので大丈夫です。皆さんのお手を煩わせて申し訳ないのですが......。」

「そいつは気にしなくていい。じゃぁ軽く調査させてもらうとするぜ。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

レギさんと話し終えたカザン君が立ったままお父さんの手記を読みだす。
座っていいのにな......。
まぁとりあえず適当に調査してみよう。
俺は手近なところから調べて行くことにする。
ナレアさんは早速本棚、レギさんは一通り部屋を調べた後リィリさん達を呼びに行くとのことだ。
上の書庫みたいに領主別に物が分かれているわけではなさそうだ。
明らかに古い物と比較的新しい物がごちゃ混ぜになっている。
整理されていないのか、それとも目的別に分けられているのかな?
上の書庫は歴代領主の資料、ここにあるのは実用的な資料って所だろうか?
そう考えた俺は部屋の隅に束になっている少し大きめな羊皮紙に目を付けた。
古い雰囲気の物から比較的新しいものまであるな......とりあえず古いものだな。
羊皮紙を慎重に広げてみると......予想通り、古い地図だった。
次に比較的新しい物を広げてみると、やはり同じように地図だった。
うん、いきなり当たりを引いたけどこの一角に地図が置かれているみたいだね。
書庫よりも物が探しやすくていいや。
昔の地図と比べると領地の形も周辺勢力も全然違うな......とは言え、測量技術的な問題もあるだろうし、地理の授業なんかで見て来た地図に比べると適当......と言うのは良くないか、間違いなくこれは当時の人達のとんでもない労力と努力の結晶なはずなのだから。
それにしても面白いな......地図。
上の書庫にある年代別の政策なんかと照らし合わせながら見てみたいな......。
地図を見比べながら楽しんでいると、丁度この部屋に着いたらしいリィリさんが俺の様子に気付いたのか近づいてきた。

「なんか楽しそうだね、ケイ君。」

「えぇ、地図を見つけたのですが歴史を感じると言うか......グラニダや周辺勢力の変遷が面白くて。」

「へぇ......。」

「初めて見るのです。」

リィリさんとノーラちゃんが俺の見ていた地図を覗き込み、同じように興味深げに二つの地図を見比べている。
そして俺達の話が聞こえていたらしいナレアさんがこちらに顔を向けた。

「ふむ......ケイは歴史に興味があるようじゃな。そう言えば遺跡の話をした時もそんなことを言っておったな。」

「そういえばそうでしたね。結構そういうことに興味が向きやすい気がします。どんなことが起こってどんな対応をしたか、その結果どうなったか。ナレアさんのように解き明かすところまでは出来ませんが、それを知るだけでも楽しめるのだと思います。」

「......興味があるのなら、今度一緒にそういう作業をやってみるかの?」

「やってみてもいいですか?足を引っ張ると思いますけど。」

「最初はそんなものじゃ。それにどんな経験のある人間でも間違えてしまうのがこういった作業の面白いところじゃ......気兼ねなくやってみるといいじゃろう。」

そう言いながら本棚に本を収めたナレアさんが近づいてくる。

「しかしケイよ。妾達に散々真面目に調査しろと言った感じの目でこちらを見ていたわりに、自分が興味あるものを見つけたら調査を放り出すのかの?」

「えっ?いやっこれはそういうアレではなく!」

確かに!
これは完全に昨日のナレアさん達と同じことをしている......!

「アレではなくー?」

ナレアさんとは反対側に回り込んでいたリィリさんがにやにやしながら問い詰めてくる。
ノーラちゃんは......部屋に置かれた物に興味津々なようでこちらに気付いていない。

「いや......はい、すみません。書庫にあった物は偶々僕の興味を引くものじゃなかっただけで、お二人は遊んでいたわけじゃないと思います。」

「そうじゃよな?妾達も真面目に調査しておったのよな?」

「うんうん、ちゃんと働いてないみたいな視線で見られてとても悲しかったな!」

「スミマセンデシタ。」

このパターンは......また何かを要求される奴だ。

「まぁそれはそうと、地図を見つけたのならここにカザンの見た地図があってもおかしくないのう。」

そう言って古そうな羊皮紙を手に取るナレアさん。
これは昨日みたいに、知識欲優先ということだろうか?
ってかそんなに毎日要求されてもね?
そんなことを考える俺の横でリィリさんが妖しく笑っていた。

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