狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片

文字の大きさ
上 下
260 / 528
5章 東の地

第259話 やられたらやり返す

しおりを挟む


「魔術的な仕掛けもなさそうじゃな。罠もなさそうじゃし、鍵さえあれば問題なく使えそうじゃな。」

鍵穴を調べていたナレアさんが、先ほどのレギさんと同じように顔を上げながら調査結果を教えてくれる。

「ここの鍵って心当たりある?」

「......いえ、それっぽい物は知りません。母に聞いてみましょう。」

俺の問いに少し考えたカザン君が答える。
鍵がすんなりと見つかるといいけど......次は鍵を探す必要があるのかな?
そもそも探していたのはなんだっけ......?



「書庫の本棚に鍵穴?うーん、聞いたことは無いですね。」

「そうですか......。」

俺とカザン君はレーアさんに書庫の鍵穴について尋ねに来たのだが、問いかけに対しレーアさんは眉をハの字に曲げながら答える。
残念ながら今度は鍵を探して館をさまよわなければいけなさそうだ。

「ですが、書斎の机の中にお父様の使っていた鍵束が入っているはずですよ。」

「そういえば、そんなものがありましたね。ありがとうございます、お母様。」

「それは構いませんが、皆様が探している物はあったのですか?」

「いえ、それも含めて書庫を探していたのですが、その時に鍵穴を見つけまして......ところで母様、この辺りの古い地図を見た覚えはありませんか?」

「古い地図ですか?地図その物は見た覚えはありません......ですが地図はかなり数があるはずなので、探せば古い物もあるかも知れませんよ。」

「そうですか、分かりました。探してみます。ではケイさん、書斎で鍵を取ってくるので先に書庫の方へ戻っておいてください」

「了解。それではレーアさん失礼します。」

「お力に慣れることがあったら遠慮なくお話しください。」

にこりとこちらに微笑みながら協力を申し出てくれるレーアさんにお礼を言って、俺とカザン君は部屋から出る。
書斎と書庫は別の方向なのでここで別れる予定だが......俺はなんとなくカザン君に着いて行くことにした。

「あれ?ケイさん、書庫は反対方向ですよ?」

「あー、うん。なんとなく、書斎についていこうかなと。もし書斎ですぐに鍵が見つからなかったら人手が必要かもしれないしね。まぁ、今書斎に置いてある書類を俺が見るのはまずいかもしれないから、当たり障りのない場所しか探せないかもだけど。」

「今はまだ大丈夫ですよ。父が使っていた書類はあるかも知れませんが、ケイさんが見て不味い物はないはずです。今後、私が本格的に政治に携わるまでは問題ないと思います。」

「そっか、じゃぁ見つからなかったら書斎をひっくり返すとしますか。」

「ケイさんが言うと物理的にひっくり返しそうで怖いですね......お手柔らかにお願いします。」

「あはは、精々部屋の中身全部吹き飛ばすくらいだよ。」

「......あはは。謝るんで勘弁してください。」

くだらないことを言い合いながら俺とカザン君は書庫へと向かっていると、ご機嫌な様子のノーラちゃんが廊下の向こうから歩いてくるのが見えた。
レーアさんも部屋に戻っていたし魔道具は十分堪能できたようだね。

「探し物は見つかりましたか?兄様、ケイ兄様。」

「いや、まだ見つかっていないんだ。」

「そうなのですか......じゃぁ私もお手伝いするのです!」

カザン君がノーラちゃんの頭を撫でながらこちらを見てくる。

「そうだね、目線が違うし、ノーラちゃんが手伝ってくれた方が見つかりやすいかもしれないな。お願いしていいかな?」

「はいなのです!」

俺は頷きながら答えるとノーラちゃんが片手を上げながら元気よく答える。

「じゃぁ、ノーラこれから書斎にいって鍵を探すから手伝ってくれるかい?」

「鍵なのですか?父様の使っていた束になっている物ですか?」

「うん、とりあえずそれかな。」

「了解なのです!」

意気揚々と先頭を歩くノーラちゃん。
俺達はその後ろを着いて行きながらその微笑ましい後ろ姿を見つめていた。



「......なんか、あの鍵穴に合いそうな鍵は見当たりませんね。」

「......確かに。」

あの本棚にあった鍵穴は少し丸い感じの鍵穴だったが、鍵束についている鍵は全て平べったいタイプの鍵だ。
恐らくあの穴には入れることすらできないだろう。

「まぁ、あんな感じに隠している鍵を普段使っている物と一緒にはしないのかな?」

「となると......やはり書斎をひっくり返す感じですかね......。」

カザン君がため息交じりに頭を抱える。
お父さんから色々な物を引き継げなかったことを悔やんでいるのではないだろうか?
俺はカザン君の肩を軽く叩く。

「そこまで深刻になる必要は無いよ。檻の事はあるけど......とりあえずじっくりこの部屋を探してみよう。いざとなったら俺が屋敷ごとひっくり返すからさ。」

「......ありがとうございます。そうですね、今は悩むよりも手を動かさないといけませんね。後屋敷をひっくり返すのは勘弁してください。」

カザン君が笑みを浮かべながら言ってくる。

「手がかりが無かったら屋根と床を逆さまにすることも辞さないつもりだったけど......まぁカザン君がそういうなら、止めるかどうか考えるとするよ。」

「......僕が頼んでも考慮してくれるだけなんですね。」

「ケイ兄様、家をひっくり返してしまうのですか!?」

しまった!
カザン君と二人で話していた時のノリで喋っていたけど、よく考えたら今ここにはノーラちゃんもいるのだった!
口をあんぐりと言った感じで大きく開けたノーラちゃんが、目を真ん丸にしながら慌てて尋ねてくる。

「そ、そんなことしないよー。誰がそんなこと言ったの!?」

「え......でも、さっき......ケイ兄様が......。」

「あ、あーアレかー。違う、違うよー。ほら探し物する時に家をひっくり返す様にって言い方することあるでしょ?あれだよ、あれ!」

「そうなのです?」

「そうなのですよ!」

ノーラちゃんの家を吹き飛ばす話をして泣かせたとか、色々な意味で不味すぎる。
俺の言い訳を信じてくれたのかノーラちゃんが落ち着きを取り戻す。
せ、セーフか?

「いやー、ケイさんは鍵が見つからなかったら家を吹き飛ばすってさっき言っていたよ、ノーラ。」

「やっぱり言っていたのです!大変なのです!」

おのれ!
カザン、貴様!

「そんなことしないよー。」

冷や汗を垂らしながら言う俺の否定の言葉は、再び慌てふためくノーラちゃんの耳には届いていないらしい。
大急ぎといった感じで色々な場所を探し始めるノーラちゃん。

「......。」

俺がカザン君の方を向くと顔を逸らして肩を震わせている姿が見える。
妹を使って攻撃してくるとは......なんたる外道!
もしこの部屋で鍵が見つからなかった場合、俺達は書庫の方に移動することになるだろう。
そしてその場合間違いなくノーラちゃんは、俺が家をひっくり返すと言ったことをナレアさん達に言うだろう......その先の展開は......。
これはまずい、非常にまずい。
ノーラちゃんを使ってひたすら弄り倒してくるパターンと、ノーラちゃんを虐めたとして折檻されるパターンが考えられる。
どっちも最悪だ......せめてカザン君を巻き込みたい......。
いや、この部屋で鍵を見つけてからノーラちゃんに口止めをすれば......なんとかなるか?
そうと決めた俺は急いで行動に移す......。

「とりあえず机周りが怪しいかな?引き出しとか開けても大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですよ。ところで、さっきまでよりもなんか必死になっています?」

微妙ににやけた顔でカザン君が応える。
......ソノニヤケヅラヲユガマセタイ。

「......そっちの引き出しを調べてくれるかな?カルナさん。」

「あ、は......ぃ......。」

サーっという音が聞こえてきそうなくらいカザン君の顔色が一気に青くなる。

「......あの......ケイ、さん?」

「どうしたの?カルナさん?」

笑顔ながら顔面蒼白と言った感じのカザン君の動きが完全に固まる。

「あ、そう言えばノーラちゃん。」

「なんですか?ケイ兄様。」

本棚の下の部分にある引き戸を覗き込んでいたノーラちゃんが、顔をあげてこちらを向いた。

「ちょっと気になったんだけどさ、カザン君がカルナさんになった時の服って、誰の服だったのかな?ナレアさんは小柄だから、リィリさんの服かな?」

「あれはナレア姉様とリィリ姉様の二人の服を色々と組み合わせたのです。」

「へぇ、そうなんだー。因みにお化粧は?」

「それもお二人が持っていた物を色々使ったのです!私もお手伝いしたのです!」

ノーラちゃんが嬉しそうに語る中、カザン君が視界の隅で石のように固まっているのが見えた。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

処理中です...