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5章 東の地
第246話 現状を教えてもらいました
しおりを挟むカザン君がセンザの街で声明を発してから数日。
残念ながら俺はカザン君の演説を聞くことは出来なかったが、領都についてからもう一度演説をするらしいのでそれを楽しみにしようと思う。
それはともかく、本日トールキン衛士長がカザン君達に先駆けて領都に到着したのだ。
「ご無沙汰しております。レギ殿、ケイ殿。この度は不甲斐ない我らに代わり、アザルを捕獲していただき誠にありがとうございます。」
「不甲斐ないなどとは。偶々我らが依頼を受けたに過ぎません。それにトールキン衛士長の部下の方々のお力添えがあったからこそ全ての者を捕らえることが出来たのです。それは我らだけでは到底出来ぬことでしたので。」
「そう言って頂けるのは嬉しいのですが......現に配下の者達は取り逃がしておりますので。あるまじき失態です。」
そう言ったトールキン衛士長は無表情ながらもどこか怒気を湛えているような気がする。
「申し訳ありません。その件に関しては我らの見通しが甘かったせいであると存じます。調査を担当していた我らが相手の戦力や備えを甘く見積もっていたせいで起こった事態だと。陳謝させて頂きます。大切な部下の方々を危険晒してしまい誠に申し訳ありませんでした。」
「レギ殿......申し訳ありませんでした。そのようなお言葉を言わせるつもりはなかったのですが......。」
お互いに謝り続けるレギさんとトールキン衛士長。
二人とも物凄く謙遜するタイプだからな......。
暫く申し訳ありませんと言い続けていた二人だったが、やがて苦笑を始める。
「申し訳ありません......ははっ、いえ。この辺にしておきましょう。先ほどからケイも呆れているようなので。」
「申し訳ない、ケイ殿。見苦しい物をお見せいたしました、つまらない言い合いでしたね。」
結構この二人は気が合うのだろうか。
お互いに苦笑しながらこちらを見てくる。
「いえ、僕は大丈夫です。それより、今回トールキン衛士長がカザン様達に先立って領都に戻ってこられたのはアザル兵士......失礼しました。アザルの尋問を行うためですよね?」
カザン君の声明以降、アザルは役職を解かれているので今までのように役職付けで呼ぶ訳にはいかなかったのだ。
なんとなく呼びなれないな......。
「はい。証言については以前レギ殿達に捕獲して頂いた者達にさせればいいのですが、アザルからは必ず手に入れなければならない情報がありますので。私が直接尋問をすることになっています。」
「では、すぐに向かいますか?私はいつでも構いませんが。」
アザル達は魔法によって意識を奪っているのでそれを戻す必要がある。
魔道具によって意識を奪っていると説明しているので、トールキン衛士長が尋問を始めるタイミングで魔道具の効果を切る名目で同行するのだ。
「それではお手数ではありますが、早速お願いしてもよろしいでしょうか?」
「承知いたしました。それと......不躾で申し訳ありませんが......檻の情報が分かった際には......。」
「はい、カザン様からも厳命されておりますので。アザルより得た情報は全てケイ殿達にも開示させていただきます。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
アザル達が捕らえられている牢に行く道すがら、馬車の中でカザン君達の現状をトールキン衛士長から聞く......街中を往く馬車くらいなら俺も慣れたものですよ。
まず現在各地の地方軍ではアザルの配下として強権的な振る舞いをしていた人物が次々と捕まっているそうだ。
そしてカザン君の元には地方軍の八割以上が恭順を示し、辺境軍もカザン君を支持しているとのこと。
障害となるのは反乱に加わった一部の地方軍、そして前領主によって襲撃をされたと考えている開拓民達だけのようだ。
しかし地方軍はともかく、開拓民の方はカザン君のお父さんの事を信じている人達もまだ多くいるらしく、エルファン卿が折衝を続けているらしい。
「反乱に加わった地方軍はどうするのですか?」
レギさんの問いにトールキン衛士長は一度瞑目した後に答える。
「現在彼らの担当する地域は急激に治安が悪化しています。上層部が腐っているだけであれば上を挿げ替えるだけで良かったのですが、末端まで腐敗が進んでいるとなると非常に厄介と言わざる得ません。カザン様とノーラ様を襲った兵も恐らく件の地方軍の兵と考えられています。」
「あの兵はセンザの常駐兵では無かったのですか?」
「はい、徹底的に調べ上げましたが、センザの街にいる兵にカザン様の命を奪おうとした者共は存在しませんでした。恐らくではありますが、地方軍の兵士が手配書をみてカザン様を探していたのだと考えています。」
確かに、センザの街の治安や領都の衛兵の方達を見ていて違和感があった。
特に彼らが属していたと言っていたセンザの街の兵はぱっと見でも規律正しく、しっかりと仕事をしている雰囲気があり、あの時カザン君達を追いかけて来ていた兵とは纏っている空気そのものが違ったように感じている。
「そうでしたか......確かにセンザの街に着いた後違和感はあったのですが......。」
そういえば、カザン君があの兵と話した時、センザの街の様子を聞かれて顔を背けていたっけ。
カザン君も俺も、あの時はセンザの街でカザン君には言えないようなことが起こったのだと推測したのだが......実際にはセンザの街では貴族区やセラン卿の家が封鎖された程度の事しか起こっていなかった。
言い淀むような内容ではない。
あれは、ただ単に知らないことを聞かれて言葉に詰まっただけだったのだろう。
ロクでもない状況だったこともあり、俺達が早とちりしただけだったようだね。
「地方軍に関しては......最悪こちらも軍を動かすことになりそうですが......実際に戦闘まではならないでしょうね。」
「そうなのですか?」
軍を動かすのに戦闘にならないってどういうことだろう?
「えぇ、総兵力が違い過ぎますからね。相手は軍とは言え所詮は一地方軍。対してこちらはその軍を除く全ての地方軍を動員することが可能です。勿論全動員は出来ませんが......相手からすれば大した違いはないでしょう。さらに辺境軍が動けば一地方軍ではなすすべもなく殲滅されるでしょう......まぁ辺境軍が動くことはありませんが。制約は色々とありますがそれでも動員できる規模が違い過ぎるので、軍が起こった時点で相手は投降するでしょう。」
「自暴自棄になって突撃とかは......。」
俺の問いに淡々とした雰囲気を変えずにトールキン衛士長が答える。
「絶対にないとは限りませんが......基本的に責任を取るのは上の人間ですからね。上の自暴自棄に下が付き従うことはないでしょう。その為の流言も既に流していますしね。」
流言ってあれだよな噂とか相手を混乱させる類の......反乱に加わった軍に在籍していたとしても、末端の兵までは責任を問わないって感じで言っているとかかな?
「カザン様達の道中の安全についてはどなたが担っているのですか?トールキン衛士長が離れても大丈夫なのでしょうか?」
「カザン様の周囲には辺境軍より派遣された精鋭が配置されております。アザルの事を考えると絶対の安全とは言い切れませんが、あの者達以上の手練れはグラニダにはおりません。」
レギさんの問いは俺も心配していた所でもあったが、どうやら問題はないようだね。
「なるほど......それは心強いですね。」
「辺境軍がカザン様の事を支持しているといういい宣伝にもなります。」
なるほど......色々考えているんだな......。
そこまで話したところで馬車が停止するのを感じた。
どうやら目的地に着いたようだね。
俺の仕事は魔法の効果を切ることだけだから手早く済ませるとしますか。
若干窮屈な箱馬車を降りて見上げた空はどこまでも青く澄んで見えた。
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