246 / 528
5章 東の地
第245話 忘れていませんでしたとも!
しおりを挟む「ところでセンザの街は今どんな感じですか?」
魔道具の向こう側が落ち着くのを待ってから声を掛ける。
『おぉ、すまぬのじゃ。中々興味深い話だったので盛り上がってしまったのじゃ。うむ、センザは今どんどん人が集まって来ておるな。』
「人がですか?」
「うむ、セラン卿達の呼びかけに応えてといった所じゃな。それと明日、カザンが声明を出すそうじゃ。その後、領都に向けて行軍を開始とのことじゃ。妾達はカザン達の後に領都に向けて発つ。」
「人が集まると言っても、まだアザル兵士長を捕らえると決めてから十日くらいしか経っていないですよね?そんなにすぐ集まるものですか?」
『元々集め始めていたということもあるじゃろうが、別に兵力を集めておるわけでは無いからのう。主要な人物が取り急ぎ馳せ参じた、といった所じゃな。』
「なるほど......。」
『行軍と言っても基本はセンザの兵じゃからな。地方軍や辺境軍が勢ぞろいして轡を並べるわけでは無いのじゃ。そもそも戦闘が目的ではないしのう。儀式のようなものじゃ。』
復権したっていうデモンストレーションが目的ってことか。
そういう分かりやすさが大事ってことだね。
『領都に着くまでは半月ほどかかるはずじゃが......既に領都内での敵対勢力は排除が済んでおるようじゃかならな。アザル兵士長の率いていた兵はコルキス卿によって領都より移動させられておる。』
「そうなのですか?」
『聞いたところでは、こちらの勢力下の地方軍に名目上は上役として分散配置しておるようじゃな。明日のカザンの声明と同時に大多数が捕縛される手筈じゃ。』
「なるほど......。」
『ちなみにカザンもセラン卿もエルファン卿も死にそうな顔になっておったのでな。薬を飲ませながら疲労回復魔法を少し掛けてやったのじゃ。その甲斐あって多少は顔色が良くなったが......本当に休まず動き続けておるようじゃな。やることが多いのは分かるが、今奴らが倒れてしまっては意味がなくなってしまうというにのう。』
ナレアさんが少し呆れたような声で言っているけど......仕方ないと思っている部分が多そうだ。
上の人達が忙しそうなのは......それを実際見ていない人たちには理解出来ないことだよなぁ。
『今はナレアちゃんやケイ君の回復魔法があるからいいかもしれないけど......私達がグラニダを離れたらカザン君倒れちゃうんじゃない?』
魔道具の向こうからのんびりした口調で不穏なことを言うリィリさんの声が聞こえてくる。
しかし、話を聞くに今のままだと遠からず訪れそうな未来だな......。
「魔法を込めた魔道具を作って渡しましょうか......ナレアさん、以前カザン君達の魔力量は結構あるって言ってましたよね?それって魔法系の魔道具も使えますよね?」
『うむ、一度に何度も使うのは難しいとは思うが......恐らく問題ないじゃろう。』
「疲労回復の為の魔道具を使って、魔力が全部なくなってしまっては本末転倒ですよね......一度試してもらいましょうか。」
センザの街に初めて行った時にナレアさんお手製の魔道具をいくつか渡しておいたけど......魔法を込めたものは渡していなかったからな......。
『それがいいじゃろうな。一気に回復する物より回復力向上の方が良いかも知れぬがのう。一気に回復する物を渡したら魔力の限界まで無茶をしそうじゃからな。』
「確かにそれはそうですね......。」
無理をさせない様に渡そうとしているのに、渡したことによってよりいっそう無理をされては本末転倒だ。
『そう言えば、ケイよ。以前ノーラに空を飛べるようにしてあげるとか約束しておらなんだか?』
......言われてみれば......ノーラちゃんに約束していたな。
「も、勿論覚えていましゃにょ!?」
『ノーラに伝えておくのじゃ。』
「やめてください!?今!今作ります!」
俺は懐から革袋を出し、その中に入っている神域産の魔晶石を手の上に出す。
とりあえず宙に浮くだけの魔法を籠める。
あまり高く飛べるようにしてしまうと危ないので、とりあえず五十センチ程浮くだけの代物だ。
二つ目の魔晶石には、前後左右に歩く程度の早さで移動出来る魔法を込めた。
この二つを使えば、ふよふよと低速で宙を飛ぶことが出来るはずだ。
きっとノーラちゃんはあの時の模擬戦で見せたように、空高くまで飛ぶことを望んでいるのだろうけど......いきなりあれは危険すぎる。
「出来た!出来ました!動作確認もしておくので、ノーラちゃんが領都に来る頃には渡せますよ!?」
『約束を忘れておったのでないのかの?』
「まさかー。ノーラちゃんとの約束を忘れるなんて、とんでもない!」
『そうじゃよなぁ。とんでもないことじゃ。』
『うんうん、ケイ君がそんな人でなしじゃなくって私は安心したよ。』
因みに俺は今現在、全く安心できていません。
『ところでケイよ。妾、前から欲しい本があるのじゃが。』
『私は食べてみたいご飯があるんだよね。でも食材の確保が凄い大変なんだー。』
『俺は最近予備の武器がへたれてきてなぁ。』
「勿論皆さんの相談にもしっかり乗らせていただきますよ!」
レギさんまで参加してくるとは予想外だったけど......。
そんなことを考えているとトントンと肩を叩かれる。
そちらに目を向けるといつも通りマナスが肩に乗っていたのだが......何故かいつも身体を拭いてあげている布をこちらに差し出している......。
マナス......君もか!?
まぁ要求が可愛いし、いつもしてあげていることだから全然問題ないけど......いつもより入念にしてあげるとしよう。
ふと気になって反対側の肩に掴まっているシャルに目を向けると......つぶらな瞳でこちらを見ながら尻尾がパタパタと揺れていた。
口には出さないけど、物凄く期待されている気がする。
シャルにも入念にブラッシングをしてあげるとしよう。
窓際にいるファラは......目を瞑って俺達の話を静かに聞いているように見える......でも、何やら髭がぴくぴくしているような......。
まぁ、マナスやシャルにだけやってあげるって選択肢はないよね。
最近三人にもゆっくりと構ってあげられなかったしな......グルフもだけど......一先ず今傍にい三人をしっかり労わろう。
グルフは領都に戻ってきたらいっぱい遊んであげるとしよう。
「......一気に魔道具を作ってしまいましたが......ノーラちゃんが使う前にナレアさんも試してもらえますか?一応安全を考慮して大人の膝くらいの高さまでの浮遊と、歩く速度くらいの横移動が出来る物を作ったのですが......。」
『ふむ、そのくらいであれば安全面は問題なさそうじゃが......少しノーラの希望とは違うのではないかの?』
「それはそうですが......いきなり魔道具で空高く飛ぶって言うのは危ないと思いますし......まずはこの魔道具で練習ってことで何とかなりませんかね?」
『そういうことであれば納得してもらえるとは思うが。次の段階の物も必要になるのう。』
「それは構いませんが......魔術式の無いタイプの魔道具を大ぴらに使うのはまずくないですか?」
『確かにのう......では偽装用の魔道具を妾が作るのじゃ。それと同時に使う様にすればある程度は誤魔化せるはずじゃ。魔術師自体数が少ないしのう。それにノーラであれば扱いに気を付けるように言っておけばしっかりと守るはずじゃ。』
確かにノーラちゃんであればその辺はしっかりしそうだ。
ただ飛ぶことに関してはテンションが上がって無茶しそうなイメージが払拭出来ないし......段階を踏んでもらおう。
「そうですね。ではいくつか高度や速度の段階を踏んだ魔道具を作っておきます。偽装用の魔道具はお手数ですけどナレアさんお願いします。」
『うむ、そう難しいものではないからのう。領都で合流する前には用意するのじゃ。』
「ありがとうございます。」
これでとりあえずノーラちゃんとの約束は守れそうだ。
すっかり忘れていたけど、約束を破ることにならなくて良かった......。
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる