245 / 528
5章 東の地
第244話 あの時のあいつら
しおりを挟むナレアさん達が領都を発ってから数日、毎日定期連絡は欠かさずに行っていたのだが今日は少しナレアさんから報告があるという。
『奴等の歯になっていた魔道具の解析が完了したのじゃ。』
「あぁ......口の中のアレですか......結局全員仕込んでいたんですよね。」
『うむ。しかし......ロクでもない効果を及ぼすのじゃ。正直、自分の口の中には絶対に仕込みたくないのう。』
「一体どんな効果だったんだ?」
心底嫌そうな声で言うナレアさんにレギさんが問いかける。
『起動すると毒を発生させるのじゃ。強力な毒ですぐに死に至る。』
「自決用か......。」
『うむ。そんなものを自分の歯に仕込んで......間違って起動でもすればその場で終わりじゃな。解毒剤を持っているのかどうかは知らぬが......少なくとも解毒用の魔道具は持っておらぬようじゃったな。』
うっかり起動したら即死って......怖すぎるのだけど。
奥歯に毒を仕込むってよく物語とかで見たことあるけど......それより安全なのかな?
ってかあの手の話でよく思うのは......奥歯に仕込んだ毒ってどうやって使うんだろ?
食事中にうっかり、とかないのかな......?
そんなしょうもないことを考えていたが、その間もナレアさんの話は進んでいる。
「それで、思い出したことがあったのじゃ。龍王国の時の襲撃者。あやつらの死因は毒じゃった。」
「あぁ、そう言えばそうだったな。」
『毒の出どころが分からなかったこともあって、自殺か他殺なのかは分からなかったようじゃが......この魔道具を使っていたのかもしれぬ。』
「......ナレアさんは龍王国の襲撃者たちも檻の構成員だと考えているのですか?」
『まだ確証はないが......恐らくはそうじゃろうと考えておる。口内に仕込んだ魔道具もそうじゃが......今回回収した魔道具は解析をしなければ効果が分からない物が殆どじゃった。一般に出回っているような魔道具であれば、妾は一目で大体の効果が把握できるにも拘らずじゃ。』
一目で魔道具の効果が分かるってのはどのくらい卓越した技術なのか......少なくとも俺の目には羊皮紙に掛かれた大きな魔術式ならともかく、魔晶石の中に転写された魔術式はすべて同じものに見える......。
『口の中に仕込まれていた毒の魔道具は一回限りの使い捨て、一度発動してしまえば魔晶石内の魔力を全て使い切りただの石に戻る。これは魔物の体内に入っていた魔道具と同じ仕組みじゃな。魔術式としては別の物じゃったが隠蔽の仕方は同じと言える。』
なるほど......確かに同じ魔術師......もしくは同門や同じ組織の作った魔術ならその辺は似通っていてもおかしくはない。
「そう言った魔道具の隠蔽っていうのは珍しいのですか?」
『そうじゃな......基本的に魔晶石は貴重じゃからな。そのような勿体ない使い方をする物ではないのじゃ。よほど魔晶石や資金に余裕があったとしても、中々そういう発想は出てこないじゃろうな。』
神域産の魔晶石は魔力量も豊富で......魔力の補充も俺なら可能だけど......普通、魔晶石はダンジョンか攻略済みのダンジョン跡地から発掘するしかない。
それ以外の場所でも極まれに採れるらしいけど......基本的にはダンジョン関係だけだ。
そのダンジョンも発生してすぐに攻略してしまっては魔晶石は大して取れない、しかし長年存在し続けたダンジョンは中にいる魔物もボスも強力になる。
当然攻略は一筋縄ではいかない......普通はレギさん達から聞いているように時間と人員、お金を多く使い攻略する物だ。
そうやって手間暇かけて攻略したダンジョンから採れる魔晶石をほいほい使い捨てにするような魔術式は、そうそう組めないだろう。
そんな代物を檻は構成員をも使い捨てにする魔道具として使っている。
人員も魔道具も......使い方が勿体なさすぎる。
そんな組織が複数あると考えるよりも、同じ組織と考える方が自然か。
一体どれほどの規模の組織なのやら......。
『やはり、ヘネイに連絡を取った方が良さそうじゃな。』
龍王国のヘネイさんか......確か動物とも視界が共有出来る魔道具の事を伝えようとしていたんだっけ?
「すぐにグルフ達に行ってもらいますか?」
『難しいところじゃな......正直妾自身が足を延ばしたいところでもあるのじゃが......アザル兵士長達を捕らえたとは言え、まだグラニダから戦力を離すのは得策とは言えぬ。分体を送れるマナスならともかく、妾やグルフはまだここを離れない方がいいじゃろうな。』
「確かに......そうですね。」
回収した魔道具の中にまだ危険な代物があるかもしれないし、その辺の解析も必要だろう。
ナレアさんが今龍王国に行ってしまったら、魔道具への対処がかなり後手に回ってしまう。
アザル兵士長達が手持ちの物以外で魔道具を何か仕掛けていた場合、かなり困ったことになるのは想像に難くない。
特に領主館辺りはアザル兵士長が常駐していたわけだし、何か仕掛けられていてもおかしくはない。
「そういえばナレアさん。よく口の中に仕込んであった魔道具に気付きましたね?覗いたんですか?」
『......覗くわけないじゃろ。気色悪い。魔道具を検知する魔道具を使っただけじゃよ。武装解除をする時は必須じゃな。レギ殿達も持っておるじゃろ?』
「あぁ、常備してるぜ。」
『私も持ってるよー。』
「初耳......だと思うのですけど。」
そんな魔道具があるって話は聞いたことがないような......あるような......でも常備しているって話は聞いたことが無い。
「すまん。確かにケイに教えた覚えがないな。対人戦において魔道具切り札......一般的には切り札だってことは理解してるな?」
「えぇ。」
レギさんの説明に頷く。
俺は今まで魔道具を使って戦う人をナレアさんくらいしか知らないけど......魔道具とは本来切り札として、ここぞって時に使うものだって話を以前にも聞いたことがある。
効果もさる物ながら高価な物だからという面が大きいとも。
「それでだ......対人戦ってのは基本的にロクでもない理由で発生することが多いだろ?」
「えぇ。まぁ......対人戦に限らず戦闘は基本的にそうだと思いますけど。」
俺の揚げ足取りの様な返答にレギさんは軽く笑うと言葉を続ける。
「確かにな。まぁ対人戦において、襲い掛かってきた奴の身ぐるみを剝がすのは常識だ。」
「み、身ぐるみをですか?」
それって強盗なんじゃ?
「盗賊にせよ、襲撃者にせよこちらの命を狙って襲い掛かってくるんだぞ?最低でも倒したら武装解除するだろ?」
「あぁ、それは確かにそうですね。」
倒した相手の装備をそのままにする意味はない......寧ろ手痛い反撃を受ける要因を排除するのは当然の事だ。
「そういう場合に、相手が隠している魔道具を調べるのに使うのがこの魔道具だ。」
そう言ってレギさんは指にはめている魔道具を見せてくれる。
正直レギさんには似合わない、ちょっとかわいいデザインの指輪だなぁと思っていたけど......魔道をを検知する魔道具だったのか。
「まぁ、これはそこまで性能のいいものじゃないけどな。」
『妾という魔術師とケイの魔晶石があるのじゃから、いつでも良い物を作れるのじゃぞ?』
「ははっ、それもそうだな。こいつは思い入れがあったから使っていたが、そろそろ代え時だな。」
そう言ったレギさんは感触を確かめるように手を握ったり閉じたりしている。
何かを思い出しているだろうレギさんはとても穏やかな顔をしている。
『......。』
何やら通信用の魔道具の向こう側がキャイキャイと騒がしい気がするけど......もしかしてその指輪についてリィリさんが語ったのだろうか......?
よく聞き取れないけど非常に楽しそうなナレアさんの声と慌てた感じのリィリさんの声が聞こえて来た。
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる