244 / 528
5章 東の地
第243話 嫌な奴
しおりを挟む特に当てもなくフラフラと街を歩いてみているけど......町全体の活気はやはりなくなって来ているな。
店に並んでいる商品も減ってきているようだし、残っている商品も食料関係を中心に値段が上がっている。
カザン君が領主を継いだとして......最初に取り掛からないといけないのは治安の回復、流通の正常化......ってところだろうか?
上層部の腐敗はコルキス卿がある程度掃除をやったようだし......後はアザル兵士長に呼応して反旗を翻した地方軍の処理か。
地方軍への手回しはセラン卿がやっていたみたいだけど......確かこの前聞いた感じでは全てに根回しが済んでいるわけではいないようだ。
派閥というのがどういう感じなのかは分からないけれど......カザン君の味方になるように働きかけている......最低でも邪魔はしない様に根回しをしていたって感じなのかな?
その辺の政治的なことはちょっと俺には分からないけど......上手くいくといいな。
『今後はどのような展開になるのでしょうか?』
俺と同じように街の様子を見ていたシャルが問いかけてくる。
「うーん......俺もよく分からないけど......グラニダに仕掛けられた陰謀を暴く......いや表沙汰にするのかな?それも簡単には出来ないかもしれないけど。」
その問いに俺はシャルだけに聞こえるように口の中で呟くように返事をする。
『既に犯人は捕らえているので公表するのは簡単なのではないですか?』
「公表するだけならね。でもそれで領民を納得させられるかどうかはまた別だから......アザル兵士長はグラニダでは英雄とされているでしょ?そんな人物が領民に非道を行った領主を断罪したっていうのが現状だから......それを身内であるカザン君が陰謀だったと言っても中々ね......。」
人は......権力者を嫌うからね......。
善政を敷いていたカザン君のお父さんも、陰謀によってあっさりとその名声を叩き壊された。
傍にいる近しい人たちは人となり......いや、一人の人間として付き合っているからこそ理解できる思いがあると思う。
逆に式典などで遠目に見る程度の人達にとっては権力を持っているだけの人間......嘘にまみれた人間という様にしか見えないものだ。
まぁ俺自身、日本のテレビで見ていた政治家の言葉なんか一欠けらも信じていなかったしなぁ。
『真実であっても信じる者は少ないということですか?』
「うん。人は信じたいものを信じるものだからね。そして自分に近い人の意見を信じて、遠い存在の意見は聞き入れない。皆が皆、そうではないけどね。」
カザン君達が今まで何をどんな思いでやって来たかを知っているからこそ、俺達は信じることが出来るけど......事情を知らない民衆にとってはそうではない。
セラン卿達も全ての領民に信じてもらえるとは思っていないだろう......まず優先するべきは影響力を持つ人間、力を持つ人間か?
上から掌握していき徐々に民衆にも浸透させていく......時間はかかるかも知れないけど一番問題は起きにくい方法だろう。
『民衆に受け入れられやすい話を用意するということでしょうか?』
「それも一つの手だね。嫌な言い方をするなら......カザン君は陰謀にはめられて命を落とした領主の息子。そんな人物が親の仇を捕らえ、陰謀を暴き新たな領主として立ち上がった。とても分かりやすい美談だ。しかもその仇は英雄として名をはせていた人物というのだから出来過ぎているとも言えるね。」
出来過ぎていて疑われる可能性もあるけど......真実だからなぁ。
しかし我ながら本当に嫌な考え方をするものだ......。
自己嫌悪に陥っているとファラが心配そうに声を掛けてくる。
『大丈夫ですか?ケイ様。何かご懸念がおありでしょうか?』
「いや、大丈夫だよ。カザン君達の身に起きた不幸を利用するようなやり方を口に出した自分にほとほと呆れ返ってね。」
『それはケイ様が起こってしまったことを最も効率よく......いえ、意味のあるものにしようとした結果ではないでしょうか?ケイ様があの二人の事を大切に思っているのは間違いありません。それは誰に聞いても断言するでしょう。』
「そうなのかなぁ......?」
『一番傍で見てきた私達も断言します。』
右肩に掴まっているシャル、そして左肩に乗っているマナスがこちらを見ている。
いや、マナスの視線は何処を向いているか分からないけど......こちらを見ていると思う。
「うん、ごめんね。まぁ俺が嫌な奴ってのは十分自覚していたしね。今更かな。」
『ケイ様はとてもお優しい方です!』
シャルが語気を強くして言ってくる。
マナスもまた大きく弾んでシャルの台詞を肯定しているようだ。
うん、こういうのはやめておこう。
聞いている方も気分悪いだろうしね。
「重ね重ねごめんね。自己嫌悪していても仕方ないよね。」
俺は気分を変えるように背筋を伸ばす。
「まぁ、多分セラン卿達もこんな感じの話を考えているんじゃないかな?民衆受けは良さそうだしね。」
恐らく領民用のシナリオとしてはこんな感じだろう。
セラン卿とエルファン卿がやっていたのは領都以外の場所にいる有力者への根回し......完璧とはいかなかったみたいだけどある程度の成果が出たからこそ、コルキス卿が完全に限界を迎える前に動き出したはずだ。
『あの者達がこの街に来れば黒土の森について確認出来ますね。』
「......そうだね。」
......うん、その事完全に忘れていたとはシャルには言えないな......そう言えば報酬でカザン君が以前書庫で見たっていう昔の地図を見せてくれるんだっけ。
カザン君達の事やアザル兵士長、檻の事なんかがあってすっかり忘れていたよ。
『すぐに見つかると良いのですが......仙狐様の魔法の事を考えると地図を発見できたとしても神域に辿り着くのは一筋縄ではいかないかもしれません。』
「仙狐様の魔法......幻惑だよね......幻を見せるって言う。」
『はい。天狼様から少し聞いておりますが、相当恐ろしい魔法のようです。』
「うん、俺も母さんから聞いたけど......幻が現になるって言ってたね......。」
幻が現......幻が現実に影響を及ぼすってことだろう。
夢で怪我をしたら起きても同じ場所を怪我している......みたいな感じだろうか?
幻だからと言って相手の攻撃を受けるようなことをしたら死んでしまうかもしれない......しかも相手は幻なんだから何でもあり......なのか?
物語なんかでは幻惑系って物凄く弱いとされる時と手が付けられないくらい強い時があるけど......仙狐様の幻惑魔法は後者だ。
それに......母さんと仲が悪いというか......相性が良くないみたいだし......応龍様に会いに行った時よりも緊張する......。
『はい。術者の力量にもよる様ですが......敵対したのなら最も厄介な魔法だと思います。』
「敵対するつもりはないけど......注意は必要だね。」
神域を幻惑魔法で隠しているだろうし......黒土の森を見つけてからが神域探しの本番と考えた方がいいだろう。
「まぁ、それもカザン君が前に見たって言う地図が見つかってからの話だけどね。」
俺は領主館のある方角に目をやる。
街並みに阻まれてここから見ることは出来ないけど......アザル兵士長はあそこで、カザン君のお父さんの書斎で何を調べていたのだろう?
その辺も尋問によって分かるだろうけど......尋問を始めるのはトールキン衛士長が領都に来てからって聞いている。
アザル兵士長は......最終的には裁かれて......処刑......されるんだろう。
その前に出来る限り情報を得るはずだけど......なんにせよ碌な目にはあわないはずだ。
嫌な気分にならないと言えば嘘になるが......あの時、龍王国の神殿でナレアさんと話した通り......大事なものは決まっている。
だから思う所は未だ無くなりはしないけど......あの時のように悩んだりはしない。
俺は活気のなくなりつつある街を見て大きく伸びをした。
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる