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5章 東の地

第240話 一夜明けて報告会

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「ふむ、リィリ達の方は特に問題なかったようじゃな。」

「うん、こっちの相手はナレアちゃんが相手した奴みたいに気持ち悪い感じではなかったねー。普通だったよ。」

アザル兵士長達の捕獲作戦の後、捕らえた六人をトールキン衛士長の部下の方達に引き渡しを終えた頃には太陽が昇り始めていた。
とりあえず全員の装備を解除して、意識は取り戻さない様に弱体魔法を掛けてある。
尋問を始めるまではこのまま意識を失ったままにしておけば安全だ。
相手の持っていた魔道具はナレアさんの調査待ちだけど、とりあえず全員の歯に仕込んであったものから調べるらしい。
その辺の調査は一休みしてからするらしい。
今は皆で朝食を取りつつ昨夜の報告会をしているのだが......ナレアさんの相手は随分とアレな相手だったようだね。

「それは羨ましいのじゃ。なんというか......物凄く背中がぞわぞわする言動だったのじゃ......正直誰か交代してくれる相手が居るのであれば全力で逃げたかったのじゃ。」

「災難だったねぇ......。」

リィリさんが同情の視線をナレアさんに向ける。
あれか......生理的に受け付けないってやつなのだろうけど......若干憐れみを覚えないでもない......。

「妾も多くの人間を見てきたが......あの手の人間は偶におるのじゃ......腰から首の辺りまで冷たい毛虫が這ったような......そんな感覚がするのじゃ。」

「うひぃ......よく我慢して捕まえたねぇ。」

「うむ......あれ程の強敵は滅多にお目に掛かれないじゃ。」

その強敵って精神的な意味ですか......?

「いや、ケイよ。勿論その意味もあるが......あの者は確かに強かったのじゃ。」

「......そうなのですか?」

......話の腰を折るつもりはないので深くは突っ込まない。

「うむ......以前の妾では捕らえるのはほぼ間違いなく不可能じゃったじゃろう。態度は最悪じゃったが、あれだけの実力者はそういないのじゃ。ケイ達が以前捕まえた者達とは実力が隔絶しておったと思う。」

「......レギさんやリィリさんのほうはどうでした?」

「俺の方は以前捕らえた連中と大差はなかったな。後から捕まえた方も特に強敵と言った感じではなかった。トールキン衛士長の部下は上手く逃げられちまったようだが、予め逃走経路を確保していたから上手いこと逃げることが出来たって感じだったな。」

「私の方も特に強いって感じはなかったかなー。」

二人が戦った相手は以前捕まえた奴等と大差なしか......。

「ふむ......ということは妾の相手が特別じゃったのか。ケイ、アザル兵士長はどうじゃった?」

「......ひたすら罵倒され続けました。」

「罵倒?」

俺の台詞にみんなが疑問符を浮かべる。

「えっと......クソ猿とかクソ蠅とか他にも色々......とにかく動物に恨みでもあるのかって感じの罵倒でしたね。」

「あぁ、そう言えば他人を見下すような感じの人なんだっけ?」

「そうですね......ただ、話に聞いていたみたいに短絡的って感じではありませんでした。口ぶりは確かにそんな感じだったのですが......動きは結構慎重で、僕の誘いに乗りながらも距離は詰めずに様子を常に見ている感じでした。」

「ふむ......短絡的なのは見せかけだけかもしれないということかの?」

「そこまでは分かりませんでしたが......ただ檻への忠誠は感じられました。尋問で簡単に口を割るとは思えませんね......。」

「なるほど......本当に面倒な組織だな......檻ってのは。」

レギさんが顎を掻きながら眉を顰めつつ言う。
相手にするには本当にやっかいな組織だと思う......相手の狙いは分からない、構成員を捕まえても口を割らない......やっと口を割ったとしても碌な情報を持っていない。

「組織としては実に使いやすい駒といった所じゃな。何も知らせずとも忠誠心厚く任務に従事する。何がそこまでさせるのかのう。」

「前レギさんが言っていましたが......。」

「ん?......あぁ、洗脳か。」

「洗脳......あぁ、随分昔の話じゃが......問題になったことがあったのう。」

「私達が冒険者になる前の話だよねぇ。」

「......。」

リィリさんの言葉に何故か明後日の方向を向くナレアさん。
どうしたのだろうか?

「私はあまり知らないんだけど......どんな感じなのかな?」

「あー、俺も詳しくは知らねぇんだ。狂信者って感じって聞いたことはあるんだがな。」

「そうじゃなぁ......妾も詳しくはないが。洗脳と一言で言っても色々な方法があるのじゃ。感謝や忠誠心、恐怖による洗脳。薬物を使った洗脳。子供の頃からの教育による洗脳。一見すると......いや、話してみても普通の人間と変わらない者が多いのじゃ。あからさまにおかしい人間では工作等の任務は出来ぬしのう。」

「なるほど......確かにあからさまにおかしい人間を量産しても使い勝手が悪そうですね。」

「何かしら目的があって洗脳するわけじゃからな。使いづらい人材を集めても仕方ないのじゃ。そういう使いにくそうな人材は......使い捨てされておったのう。」

なんともどんよりした気分になる話だな......。

「しかし......ふむ、確かにレギ殿の言う様に檻の構成員は洗脳されておると言ってもおかしくないかもしれぬのう。」

ナレアさんが何かを思い出す様な仕草をしながら目を瞑る。

「なるほどねー。その洗脳って簡単に治ったりするの?」

「簡単に治るようでは洗脳とは言えぬのじゃ。それに外から見て洗脳が解けているかどうか、判断が難しいのじゃろ?口ではなんとでも言えるからのう。」

「あぁ、そっか......思っていたよりもずっと厄介なものだねぇ。」

ナレアさんの言葉にリィリさんがしみじみと呟く。
端から見て、洗脳されているのかされていないのか、解けているのか解けていないのか分からないからこそ恐ろしいものなのだろうね......。

「まぁ、そういった輩から情報を聞き出す技術もまたあるのじゃ。まぁ、あまり気持ちのいい話ではないので割愛するが......トールキン衛士長であれば洗脳の可能性を伝えればそう言った手段を取るじゃろう。」

ファラの尋問も恐ろしかったけど......プロフェッショナルって感じのするトールキン衛士長の尋問も怖すぎるな......。
まぁ......そう言った技術ってどんな世界でも発展していくものなのだなぁ......。

「怖い世の中だねぇ。」

口ではそう言っているけど、のんきな様子で背伸びをするリィリさん。

「まぁ、洗脳云々はさておき、他に気になったことはあったか?」

俺とリィリさんは首を振る。

「妾は奴等の持っていた魔道具が気になるのじゃ。パッと見た感じ、見た事のない魔術式の物も含まれておった。檻の魔術師は相当な腕前じゃな......アース並みかも知れぬのう。」

「アースさんがどのくらいの腕前なのか分からないのですが......。」

相当長い年月、遺跡の魔道具に囲まれて自分で色々と勉強していたってことは知っているし、現代の普通の魔術師よりは凄いのだろうけど......。

「そうじゃな......アースの魔術師......開発、解析能力はこの世界でも指折りじゃろうな。低く見積もっても五本の指には入るのう。」

低めに見積もっても世界で五位以内?
予想以上に優れたスケ......人物のようだ。

「......因みにナレアさんは?」

「妾かの?五本の指となると少し厳しいかもしれぬのう。解析には自信があるのじゃが、開発となると独創力と言う点で少し劣ると分析しておるのじゃ。」

独創力......か。

「ケイの話を聞いて、それを魔道具によって実現してみると言ったことは比較的得意なのじゃが......自ら新しい物を思いつくという所に辿り着かないんじゃよなぁ。」

少しナレアさんが拗ねたような口調で言う。
ナレアさん的にその辺がコンプレックスなのだろうか?
素人である俺からしたら、軽く話を聞いただけで自分の知る技術に落とし込んで再現出来るって言うのは物凄いことだと思うのだけど......。

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