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5章 東の地
第226話 心、繋がる
しおりを挟む「でもセラン卿やレーアさんが、よくカザン君達を囮にすることを許してくれたよね。」
襲撃者二人の治療を済ませた後俺はふとセラン卿の事を思い出した。
いや、エルファン卿やトールキン衛士長もそう簡単には許してくれないと思うけど。
レーアさん以上にセラン卿が全力で阻止してきそうだよね。
「えっと......実は母には相談したのですが......お爺様には......。」
「......内緒で出てきちゃったの?」
「......実は。」
それって大丈夫......いや、セラン卿にバレたら俺達大変なことにならないかな?
「皆さんには絶対に迷惑はかけないようにします。」
カザン君はそう言ってくれるけど......セラン卿の感情的にそれは中々難しいんじゃないかなぁ。
「カザンとノーラを囮にすると提案したのは妾じゃ。責められるのは覚悟の上じゃが、せめてこの仕事が終わるまでは自由にさせてもらいたいのう。」
「お爺様は私と母で絶対に納得させてみせます。」
是非とも説得を成功させてもらいたいなぁ。
なるべくセラン卿との確執は生みたくない。
「まぁ、もう既にやっちまった後だから。セラン卿の事はカザン達に任せよう。とりあえず、センザにカザン達を送る必要があるが......ケイ、ナレア、カザン達を送ってやってくれるか?俺達はこいつらを見張っておく。」
「分かりました。」
「弱体魔法も一度掛けたら強化魔法みたいに距離が離れても効果は残るよな?」
「えぇ、大丈夫です。動きは完全に封じた状態で維持できるようになっています。」
「分かった。じゃぁ俺とリィリはここに残るから二人を頼んだぜ。」
「了解じゃ。それじゃぁカザン、ノーラに声を掛けてセンザに戻るとするのじゃ。」
「了解です。ケイさん、ナレアさんよろしくお願いします。それとレギさん。申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」
「おう、気にするな。」
カザン君が改めてレギさんに頼んでいる。
まぁ......多分これから尋問だよね......レギさんは俺達を遠ざけようとしているけど......回復魔法を意識を取り戻したこいつらに見せるわけにもいかないし、そんなひどいことはしないと思うけど。
またグルフにお願いするって手もあるしね......。
とりあえず、俺はカザン君とノーラちゃんをセンザに送り届けてくるとしよう。
「マントを羽織るより女装した方がいいのではないかの?」
「「それはやめておきましょう。」」
「母様も見てみたいって言っていたのです。」
俺達はセンザの街に向かいながら雑談をしていたのだが......ナレアさんがとんでもないことを言い出した。
後ノーラちゃんもさりげなく危険なことを言っている。
カザン君がフードに隠れた顔を抑えている。
ここが往来じゃなければうずくまっていたかもしれないな。
「母様にも見せてあげたかったのですけど、ナレア姉様達がいないと兄様を綺麗にするのは難しいのです。」
「いや、ノーラ。必要が無いのに変装したりはしないよ?」
「母様が見てみたいって言っているから、見せてあげるのは必要じゃないのです?」
「え......いや......それは......。」
「母様を喜ばせてあげたいのです!」
「うぅ......。」
ノーラちゃんの純粋な瞳が、カザン君の心に刺さっているようだ。
「うむ、母君を喜ばせるのはとてもいいことじゃ。のうケイ?」
「あー、ソウデスネ。」
カザン君が裏切られた!って感じの目でこちらを見てくる
いや、ここだけ切り取って聞かれたらそう答えるしかないじゃない?
そうかもしれませんけど、これはまずいですよ!
......これはもうあの時決まってしまった運命だったんだよ。
助けて下さいよ!
......またカザン君と目だけで明確な会話が出来ている気がする。
念話が出来るようになったのだろうか?
「何やらケイとカザンが目と目で通じ合っておるのじゃ。」
「仲良しさんなのです!」
俺達はどちらからということもなく、お互いに目を逸らす。
......もしカザン君が女装していたらもっと色々言われた気がするな。
やっぱりカザン君に女装させるのは避けた方がいい気がする。
「......ところで、貴族区にはどうやって入るの?俺達はトールキン衛士長の部下の方に頼めば入れてもらえるけど、流石に二人の顔を見せずに入るのは無理だと思うけど。」
「あ、大丈夫です。母からトールキン衛士長に協力を要請してもらっているので、ケイさん達と一緒にいる二人の確認はしなくていいと通達してもらっています。」
トールキン衛士長は知っているのか。
まぁ警備の責任者だし知らなかったら大変なことになるよね......。
セラン卿の家の中でトールキン衛士長に感づかれずに行動するのはかなり難しそうだ。
「なるほど。じゃぁ家に戻るのは大丈夫そうだね。人目に付く前に戻ろう。」
一応周辺はネズミ君達によってかなりの警戒網が敷かれている。
アザル兵士長の部下がいないのは分かっているけど、万が一カザン君達の顔を誰かに見られて密告されるとまずいしね。
街の外に箱馬車を置いてあるので、馬車に乗ってしまえばカザン君達は外から見えることは無い。
それにしても......アザル兵士長が部下の一人でもセラン卿の所に送り込んでおけば、こちらとしてはかなり動きにくかったのだけどね。
恐らく領都で頑張っているコルキス卿が上手いこと言っているのだろうけど......コルキス卿が優秀過ぎて怖いな。
コルキス卿が潰れる前に政権を取り戻さないといけないけど......それにはアザル兵士長をどうするかが決まらないとな......。
「捕虜にした連中から組織の事が聞き出せるといいけど......。」
考えていたことをつい口に出してしまった。
「そうじゃな。尋問についてはファラがやるそうじゃが......。」
「......え?ファラがやるのですか?」
てっきり俺達が離れている間にレギさんがやるものだと思っていたけど。
「ん?聞いておらぬのか?ファラが、捕らえた後は自分に尋問させてもらいたいって言ってきておったのじゃ。」
「......いつの間に。」
俺に内緒でやろうとしたのかな?
「ケイには後で許可を取ると言っておったのじゃ。先に妾達に言っておかないとやってしまいそうだからとな。」
「あぁ、なるほど。そういうことですか。」
「ケイがカザンと共に別行動をしておる時に配下のネズミが言いに来たのでな。」
「ファラが直接こっちに来るのですか?」
「いや、領都をあまり離れるわけにはいかないということで、領都付近までは妾達で運ぶ必要があるのじゃ。それ以降は情報収集担当に任せるとするのじゃ。妾達もあまり領都を離れてはおれぬしのう。」
「そうですね。今回みたいな事があった場合領都にいれば取れる対応が増えますしね。」
嘘の密告だったみたいだけど、盛大にこちらの邪魔になる所だったしね。
上手く対応できて良かったと思う。
コルキス卿がアザル兵士長を抑え込んでくれているとは言え、それは政治的な部分であって組織としての動きに関しては把握出来るものではないだろう。
今回は懸賞金目当ての密告ということでコルキス卿も把握していたかもしれないけど、アザル兵士長がどう動いたかまでは把握しきれていなかっただろうし......領都にいるコルキス卿がセラン卿に情報を伝えるのも時間が掛かるはずだ。
その点、俺達は移動に掛かる時間、情報を得て連絡を取るまでの時間がこれ以上ないくらいに短い。
このアドバンテージをしっかり生かすことが出来れば......アザル兵士長の好きにさせずにカザン君達の助けになれるはずだ。
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