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5章 東の地
第222話 雑用ギルド
しおりを挟む『アザル兵士長とその部下は最初の計画に失敗したのが相当な失点だったようです。』
カザン君達に情報を伝えた後、俺達はすぐに領都へと戻ってきていた。
今後は新しい情報が入ってもいちいちセンザまで戻らずに、以前ナレアさんが実験していた遠距離通話の魔道具を使うことになった。
勿論まだ改良が出来ていないのでお互いの音が丸聞こえになってしまう問題は解決しておらず、普段は遮音ケースの中に片付けてある。
マナスが分裂しているので、お互い用事があるときはマナスが合図をくれることになっている。
カザン君には苦労を掛けるけど......当然通信用の魔道具の事は秘密だ。
......秘密ばっかり作らせてい本当に申し訳ない。
っと今はファラに返事をしないとな。
「失点?それは組織内での地位が危ないとかそういう話かな?」
『はい、どうやらかなり大きな失敗だったようです。現在グラニダにいるアザル兵士長の部下は七名ですが、それまではもう少し人数がいたようです。』
「それは失態によって部下を減らされたってこと?」
『減らされたというよりも......アザル兵士長は組織に見捨てられたようです。アザル兵士長の元に残った部下以外は組織に戻ったようですが。』
「見捨てられた?それってもう必要ないって言われたとか、そんな感じ?」
『そのようです。』
......その組織が何を目的として動いているとか分からないけど、失敗一回で見捨てられるって相当シビアじゃない?
いや一回かどうかわからないけど......相当な無能で失敗しまくっていた可能性も否定は出来ない。
そもそもアザル兵士長は一兵士としては優秀みたいだけど、人を率いるってタイプでは無さそうなんだよな。
そんな人に部下を付けて率いさせておき、失敗したら見捨てるってのはなかなか酷い組織だな。
まぁ、碌でもない組織だろうし、そこの雇用体制なんかどうでもいいのだけどね。
「ってことは......アザル兵士長は、その失態を挽回して組織に戻ろうとしているってことかな?」
『はい、その為に是が非でもカザン様達を確保しようとしているみたいですが......どうやらそういった情報収集や追跡が得意な部下がいないようで、領都から逃げられて完全に見失ったようです。』
「カザン君達が領都にいる間に捕まえてしまえばよかったのに......復讐に頭がいっぱいで一番肝心な目標を取り逃がすって......馬鹿じゃないの?」
『その辺が短絡的かつ直情的と言われる所以だと思います。』
いや......それは目的を忘れすぎだと思うのだけど......。
考えていたよりも相当お馬鹿さんだぞ......?
よくそんな人物が今回の計画の指揮をとれたな......いや、カザン君達が無事だったのだから別に構わないか。
「しかし、そんな人物が戻りたがる組織ってどんなものだろうな?」
ファラの報告を一緒に聞いていたレギさんがぽつりと呟く。
「確かに......しかも見捨てられているのですよね?忠誠心に厚いって感じもしませんし......それでも戻りたいってのは......相当いい目が見られるってことですかね。」
「そういう即物的なもので見捨てた相手の所に戻りたいと思う物か?」
「......普通は他所でいいやってなりますね。暮らすだけなら安定したグラニダで結構な役職についているわけで......。」
「だろ?一体どんな組織なんだかな......。」
アザル兵士長が見捨てられてもなお戻りたいと思うような組織......話に聞いているアザル兵士長の性格は......唯我独尊って感じなんだけどな......。
自分の事を要らないと切り捨てた組織に戻ろうとするだろうか?
「アザル兵士長について、性格的な話はいくつか聞いているけど......もっと他に情報はないかな?」
「......そうですね......食欲や性欲、睡眠欲といったものはあまり感じられないですね。どれも必要最低限と言った感じです。」
欲が薄く常にイライラしている人物か......神域で初めて見た時は......かなり興奮していた様子だったけど、母さんのことをみてすごく嬉しそうに笑っていた気がするな。
気持ちのいい笑い方では無かったけど。
「部下についてはどうだ?」
「部下は、アザル兵士長程無頓着と言う感じではありませんが......いたって普通の人間といった感じですね。」
ストイックなのはアザル兵士長だけか。
自分勝手な理由でグラニダを引っ掻き回し多くの人間が犠牲になっている。
一から十まで、アザル兵士長がやっていることは理解出来ないな。
領都に戻ってきてから数日、俺達は毎日ファラが持ってきてくれる情報を聞きながら各々も街を歩いて情報を集めていた。
とは言え、相手に目立った動きもなく、先日までの情報以上のものは得ることが出来ず膠着状態に陥っている。
定時連絡をしているカザン君達の方は着実に戦力を集めているようだ。
とは言え、まだカザン君は表に出ることが出来ないので、実務はセラン卿やエルファン卿が担っているようだけど。
カザン君はカザン君で二人のサポートや勉強等で目も回りそうな忙しさらしい。
こうしてのんびりと街を歩いているのが申し訳なるようなスケジュールだったからな......聞いているだけでしんどくなったよ。
今俺はレギさん、リィリさんと一緒にで街をフラフラしている。
これと言った目的地があるわけでは無いけど......領都の地理の把握に肌で感じる街の雰囲気を確かめているといったところだろうか?
因みにナレアさんは宿で魔道具を作っているので今回は留守番だ。
「とりあえず今日はどうする?」
「今日は麺料理かなぁ。」
「......一応言っておくが飯の話じゃないかならな?」
リィリさんのいつもの発言にレギさんが半眼で突っ込みを入れる。
まぁこの辺はお約束だとして......うん、俺は特に当てもなく付いてきたって感じだからな......どうしたものか。
「でも麺料理がよくない?」
「......まぁ久しぶりにそれも悪くないが......。」
「評判のいい麺料理のお店があるから今日はそこにしよう!ナレアちゃんもきっと気に入ってくれるはず!」
俺がどうしたものかと考えている間に今日の晩御飯が決まったようだ。
なんだかんだでレギさんはリィリさんの言うことを聞くよな......甘いというか......。
「まぁ、とりあえず晩飯まではまだ時間があるからな......それまでどうする?」
「んーそうだねぇ......この時間じゃ酒場もまだ早いだろうし......ギルドが無いと結構情報収集って大変だね。」
「そうですね......依頼内容を見るだけでも結構色々なことが分かりますし。冒険者の方々は情勢にも敏感ですからね......。」
「......ギルド作ればいいのにねぇ。」
「ギルドの強みは横の繋がりだと思いますけど......流石に西方のギルドと連携するのは距離があり過ぎて無理だと思いますね。」
「そうだな......だが、例えば国が主導で行う冒険者ギルドのような組織と言うのはありかもしれんな。グラニダは領地が広い、領内だけでも情報の共有をして様々な依頼を受けるような組織を立ち上げるのは悪くない案じゃないか?」
国......というかグラニダの公的機関として冒険者ギルドのようなものを作ってみてはって話か。
「ダンジョンや遺跡の攻略を目的と言うよりも、何でも屋の集まりと言った感じですかね。」
「そうだな。ダンジョンや遺跡に関しては国の預かりらしいからな。だが情報集めと言う点でもギルドの存在は大きいが、色々な雑用のような依頼を受けられるというのは貧困層の為にもなるからな。西方のように一攫千金という側面は無いかもしれないが......手に技術や学がない連中からしたらいい働き口になると思うぜ?」
なるほど......ダンジョンや遺跡の攻略という一攫千金は出来ないけど、日々の糧を得るための何でも屋稼業をメインとしたギルドか。
「そうなると、冒険者ギルドという呼び名は相応しくないですね。」
「......雑用ギルドとか何でも屋ギルドとかかな?」
「微妙に締まりのない名前だな......。」
レギさんが頭を掻きながら言うけど......依頼系の仕事ってそんなイメージだよな。
「レギにぃは喜んで登録すると思うけどなぁ。」
「否定はしねぇがよ......。」
レギさん雑用系の仕事大好きですからね......。
「きっと下水掃除の仕事は依頼として出されるだろうねぇ。」
「......やらねぇよ?」
「いや、絶対やりますよ。」
「絶対やるに決まってるよ。」
やや食い気味に俺とリィリさんの突っ込みが入る。
下水掃除の仕事が張り出されていてレギさんが受けないなんてありえない。
しかも初めての街の下水掃除だ。
例え報酬がほぼ無いに等しかろうとやるに決まっている。
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