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5章 東の地

第221話 お伝えいたします

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「まず、最初に謝らなければならないことがあります。これからお話しさせていただく内容についてですが、物的な証拠はありません。」

トールキン衛士長がエルファン卿を連れて部屋に戻ってきてからレギさんは話をこう切り出した。

「証拠がないのですか......。」

エルファン卿が難しい顔をする。
まぁ、それはそうだろう。
正道としてアザル兵士長の陰謀を暴くのであれば、証拠が無ければ話にならないのだから。

「はい。なのでこれから話す内容を与太話として切り捨てて頂いてもかまいません。」

「「......。」」

「しかし、一応最後まで聞いて頂きたく存じます。」

カザン君やトールキン衛士長はこちらの話を聞くつもりのようだけど、エルファン卿は少し戸惑いが感じられる。
セラン卿は......肯定も否定も感じられないな。

「話を聞く前から虚言と断ずる訳にはいきますまい。疑問が出れば問わせていただきますが、話は最後まで聞かせていただきます。エルファン卿もよろしいかな?」

「え、えぇ。話を聞いてから判断したいと思います。」

難しい顔をしていたエルファン卿だったがセラン卿に問われ慌てて肯定する。
エルファン卿も聞く必要は無いと思っていたわけではなく、証拠がないことを憂慮していたのだろう。

「では、レギ殿。聞かせて頂けますかな?」

「承知いたしました。まず今回の件の黒幕をアザル兵士長だと先ほどお伝えさせて頂きましたが、正確には計画の実行部隊の責任者と言った方が正しいかもしれません。」

「......責任者......つまりアザル兵士長の背後には何者かがいると言うことかな?」

「はい。アザル兵士長が元々率いていた傭兵団、そこに所属していた者の数名がアザル兵士長と同じ組織に所属しているようです。」

レギさんがファラの調べた情報を一つ一つ伝えていく。
アザル兵士長と組織の事、アザル兵士長の目的とカザン君達を狙っている事。
そしてカザン君とノーラちゃんが成功例と呼ばれていたこと等。
話がカザン君達の事になった時、憤怒の表情を見せたセラン卿だったが......その時以外は冷静に話を聞き、時に疑問を投げかけていった。



「以上が私達の仲間が調べた情報になります。何かご質問はありますか?」

一通りの話を終えたレギさんが四人の顔を見ながら問いかける。

「......その組織についてはまだ何も分かってはいないのですね。」

少し考え込んでいた様子のセラン卿が最初にレギさんに確認をする。

「はい、現在最優先で調べておりますが......今の所接触が無いようで苦戦しています。」

「......失礼ながら、ここまでの情報......どのくらいの確度なのでしょうか?」

次いでエルファン卿が情報の信憑性を問うてくる。

「最初に申し上げた通り、物理的な証拠はございません。私達にとっては絶対の信頼を持っている相手からの情報ですが......それを皆さんに求めるのは無理があると存じています。」

うん。
今回の一番の問題はそこだ。
正直俺達だけであれば、ファラが集めてくれたこの情報を基に好きに動くことが出来るけど......今回はそういう訳にはいかない。

「そうですな。とは言え一笑に付すことが出来ない内容であることも事実。けして無視はできませんな。」

「しかし証拠が無ければこちらの正当性を明らかにすることが出来ません。せめて襲撃時に雇われた野盗の証言を聞けないでしょうか?」

セラン卿の言葉に続いてエルファン卿が何とか証拠を得られないかとレギさんに問いかける。

「残念ながら生き残りはいないようです。」

エルファン卿の表情が難しいものに変わる。
証拠が無ければ当事者による証言か......生き残っている関係者となると......。

「ではアザル兵士長の部下を捕らえますか?」

トールキン衛士長が提案してくる。

「免責を与える代わりに証言させるか?」

「拷問をかけて証言を引きずり出すことも可能ですが......公の場で証言させるには相応しくないでしょうね。」

セラン卿の問いに返事をするトールキン衛士長だが......中々物騒なことを言っているな......。
裁判......とは違うのかもしれないけれど、正道とはちょっと違うだろうか......。
いや、公の場で証言させるのに恐怖でしばりつけた相手では土壇場で裏切られる可能性があるって意味か?
情報を得る為だけであれば手段は別に問題ないって雰囲気を感じるな。
まぁ、ジュネーブ条約とかないものね......。

「情報入手の手段はともかく、アザル兵士長の部下を捕らえるのはいいだろうな。背後にある組織についてもその方が調べやすかろう?」

セラン卿がトールキン衛士長の案を推奨するように言葉を綴るが......その辺はどうなんだろうか?
捕らえた相手から上手いこと組織の事を聞き出せることが出来ればいいけど......聞き出すことが出来なかった場合、他の人間の警戒度が上がってそれ以降の情報を得ることが難しくなる可能性も高い。

「確か組織からグラニダに潜入しているのは八名と言っておりましたな......仮に二、三名を捕らえた場合、それ以外の者に逃げられる可能性が高くなりませんか?」

エルファン卿の懸念はもっともだ。
カザン君達の確保を目的としているから完全に逃げられることはないかもしれないけど......表舞台から姿を消して潜伏されるとかなり厄介なことになりそうだ。
......いや、ファラならそうなったとしても問題なく追えるかな?
寧ろそうなった場合、逃げた相手が組織と連絡を取ったりする可能性もあるから調べるのが楽になるか?

「わざと警戒させて尻尾を掴むという手もありますが、相手の組織力がこちらの想定を上回っていた場合取り逃がす可能性がありますね。」

俺が考えていたことと同じことをトールキン衛士長が口に出す。
まぁ、俺達の場合ファラとネズミ君達がいるから追跡に失敗するとは考えていないけど......もしネズミ君達の追跡を躱すことが出来るような相手であれば、それを追跡できる存在はこの世界にいないのではないだろうか?
......いや、可能性としては妖猫様の空間魔法の使い手とかだろうか?

「......レギ殿。アザル兵士長の調査を担当されているのは貴方達だ。方針を聞かせてもらっても?」

エルファン卿達との会話を切り上げ、セラン卿がレギさんに今後の動きについて確認してくる。

「我々としては今の所、まだ暫く直接的な手出しはしない方向で考えています。調査が行き詰っているというわけではありませんし......まだ調査を開始してからあまり時間も経っていないので。」

「なるほど......確かに持ってきていただいた情報量から勘違いしてしまうが......この情報はまだ調査開始から数日しか経っていないにもかかわらず集めたたものでしたな。」

セラン卿がすっかり失念していたというように目を丸くしている。
渡された情報の内容にすっかり気を取られて、調査期間の事をすっかり忘れていたようだ。
まぁ元々俺達がセンザの街に来る前から領都の調査をしていたとは言え、ファラの移動時間を含めて十日程度と言った所だろうか?
うちの子ながら本当に恐ろしいな......。

「はい。今回は情報が情報だったので取り急ぎ報告に戻りましたが、まだ情報は集められると思います。」

「ふむ、頼もしいな。」

「はい、出来ればその情報収集の手際について御教示頂きたいですね。」

セラン卿とトールキン衛士長が感想を口にしてくれるが......トールキン衛士長の希望に応えるのは少し難しいな。

「私達の情報収集方法はかなり特殊なのでトールキン衛士長達の参考にはならないと思いますね......それと、アザル兵士長の事でもう一つ、直接今回の件には関係ないので先ほどはお伝えしなかった情報があります。」

「聞かせて頂いても?」

レギさんがトールキン衛士長の言葉を躱してアザル兵士長の話を再開する。
直接関係ないってことは......俺の話かな。

「実は、今回アザル兵士長の顔を確認することが出来たのですが......以前、ケイが関わりがあった相手でした。」

「関わりと言うとどのような?」

「昔襲撃を受けて命を落とすところだったようです。どうやらケイの家族の持ち物が目当てだったようで襲われたと。」

「そのような因縁が......。」

「勿論、グラニダの問題と同列に考えるつもりはありませんが、その件に関しても恐らく組織が関わっていると考えています。ケイは西方の出身ですので......その点から考えても、アザル兵士長の背後にいる組織は大陸規模で活動をしているのだと考えられます。」

「予想以上に相手の規模は大きいようだな。そのような者達が何故グラニダを狙ってきたのか......。」

「相手の狙いは慎重に調べる必要があると思います。カザン様やノーラ様の安全の為にも。」

カザン君達の名前を出した途端、非常に苦しそうであり、心配で堪らないと言った様子を見せるセラン卿がカザン君に視線を向ける。
いや、セラン卿だけではない。
この場にいる全員の視線を受け少し目を丸くした様子のカザン君が印象的だった。

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