220 / 528
5章 東の地
第219話 日々勉強
しおりを挟むアザル兵士長の顔をそれぞれが確認した後、同じ組織の者達の顔も一通りファラの目を通して確認させてもらった。
もしかしたらそいつらもあの時神域にいたのかもしれないけど、顔を見たのは金髪にーちゃん......アザル兵士長だけだったからな。
あの時は生まれて初めて矢を射かけられたり、崖を転がり落ちたり、ゴム無しバンジーさせられたりと散々な目に合わせられている。
シャル、マナス、ファラも物凄く殺る気満々だ。
あの様子だとファラは寸暇を惜しんで相手の事を調べ上げてくれる気がする。
何かしら繋がりを見つけることが出来れば、おそらくファラなら相手の組織までたどり着いてくれるに違いない。
俺達は領都での情報収集をファラに任せ、一度センザの街に戻ってきている。
今回判明した情報をカザン君達に伝えなければならないし、今後の事を話し合わなければならないからだ。
残念ながらカザン君達は丁度会議中だったようで、応接室にて会議が終わるのを待たせてもらっている。
早めに情報を伝えた方がいいとは思うけど、誰も会議に近づかないように厳命されているらしく俺達が戻ったことを伝えられていないらしい。
まぁ、事前に連絡もなく戻ってきた俺達が悪いのだけどね。
アザル兵士長が今回の件の黒幕と分かったことでカザン君のお父さんの汚名を雪ぐことのできる可能性も見えてきた。
カザン君達にとっても、俺達にとってもかなりの進展だと思う。
俺達が領都に向かってすぐに色々な情報を手に入れてしまっているから、ずっと密偵として黒幕の事を調べていたトールキン衛士長には申し訳ないとは思うけど......元々こちらの密偵を送り込んでいたってことで納得してもらおう。
カザン君の依頼を受けた時点でファラを領都に送り込んでいたけど......普通
そんな簡単に情報を得ることは出来ないよね。
まぁ、ファラ達は全力で調べてくれたわけで、全く簡単ではないと思うけれど......。
少なくとも常識の範疇に無いのは間違いないだろう。
カザン君はともかく......他の人達は信じてくれるかなぁ......?
「どうしたのじゃ?」
不安が顔に出ていたのか、隣に座っていたナレアさんが気遣わし気に顔を覗き込んでくる。
アザル兵士長の顔を確認して以降、皆に少し心配をかけている気がするな。
「いえ、大したことじゃありません。ファラ達の情報収集速度が速すぎてセラン卿達に信じてもらえるか心配になりまして。」
「ほほ、なるほどのう。確かに俄かには信じられぬ速度と情報量じゃな。本来であればまだ領都に向かっている最中と言ったほどしか時間が経っておらぬからのう。」
「あらかじめ領都で調べて貰っているとは伝えていますけど......まず領都まで往復してきたと言っても信じてもらえないですよねぇ。」
「一応領都に行った証拠として領都で売っている土産物を買ってあるがのう。領都まで行った証拠としては弱いのう。」
「フロートボードで誤魔化せませんか?」
「ふむ、悪くないかもしれぬな。信じてもらえぬようであれば......まぁほぼ信じてもらえぬとは思うが......その場合はフロートボードを出すとしよう。」
「ありがとうございます。」
実際は一個しかもっていないフロートボードだけど......そういう物を持っていると見せれば少しは説得力が出てくるだろう。
それにナレアさんが魔術師としていくつか魔道具を作ってセラン卿達に売っているからね。
とっておきの魔道具があるってことで納得してもらえそうな気がする。
「しかし......フロートボードは妾のとっておきだったのじゃがのう。今となってはただの隠れ蓑じゃな。」
「す、すみません。」
「ほほ、問題ないのじゃ。妾も秘密が多くなったものじゃな。」
「秘密は女を美しくするって言うよねぇ。」
ナレアさんを挟んで反対側に座っているリィリさんが会話に参加してくる。
......そういうミステリアスな感じの話だったっけ?
まぁナレアさんとリィリさんが結託している間は余計な突っ込みは無しだ。
絶対に碌なことにならない。
レギさんも中空を見つめているしね。
俺もレギさんくらい危機回避能力が欲しいなぁ......いや、たまにレギさんも逃げ切れない時があるけど。
とりあえず今はレギさんを倣って中空を見つめることにしよう。
ナレアさんとリィリさんの話声を聞き流しながら俺は出されているお茶を啜った。
暫く放心したようにぼーっとしていたら扉がノックされていることに気付いた。
「リィリ姉様、ナレア姉様、レギ兄様、ケイ兄様。ノーラです。今よろしいでしょうか?」
「む?ノーラか。入ってもいいのじゃ。」
「失礼します。おかえりなさいませ!姉様方!兄様方!」
ゆっくりと扉を開けて部屋に入って来たノーラちゃんだったが、ナレアさん達の顔を見たとたん破顔して駆け寄ってくる。
「ただいま、ノーラちゃん。いい子にしてたかな?」
「はい!兄様達のお手伝いは出来ないですが、ご飯を作る手伝いを母様と一緒にしたりしていたのです。」
「そっかー、上手に出来た?」
「はい!今度リィリ姉様にも作ってあげるのです!」
「わー、楽しみだなー!じゃぁお礼に今度簡単に作れる美味しいご飯の作り方を教えてあげるよ!」
「ありがとうございます!リィリ姉様!」
ノーラちゃんが嬉しそうにリィリさんに抱き着く。
ナレアさんはその横で優しい顔で二人を見つめている。
皆楽しそうだね。
ノーラちゃんは作ったご飯の話をしながらリィリさんが買ってきた領都のお土産を頬張っている。
おまんじゅう......みたいなものだろうか。
口の中の水分を奪いそうだな......そう思っていたらナレアさんが立ち上がり、部屋の隅に置いてあったお茶を入れてノーラちゃんの前にお茶を置き、俺達の分のお替りも用意してくれた。
お茶請けはノーラちゃんが食べていたおまんじゅうのおすそ分けだけど......これ皆へのおみやげだったのではないのかな?
俺達だけでおまんじゅうを全部開けてしまったけど......まぁ他にもお土産は買ってあるからいいのかな?
「カザン君達はいつも会議をしているのかな?」
「はい!兄様達は毎日会議をして......お昼くらいにいつも終わるのですがその後も忙しそうにしていらっしゃいます。」
俺がノーラちゃんにカザン君達の事を聞いてみると、少しだけ心配そうな様子でノーラちゃんが教えてくれる。
それにしてもカザン君は頑張っているようだけど......ノーラちゃんの様子を見るにかなり大変みたいだな......。
後で少し......強化魔法をかけてあげようかな?
恒常的な治癒力向上と体力向上、後は軽く思考速度の向上辺りをかけてみるか。
体力向上をかけたことによって余計無理するとかじゃないといいけど......。
って考えるととりあえず体力を回復させるだけに留めておいた方が......いやそれはそれで回復したからと無理をするような......。
寧ろ弱体魔法で強制的に寝かせるか......?
「よいか?あれが余計な事に気を回しすぎて本末転倒なことを考えている顔じゃ。」
「勉強になるのです!」
「良く観察するのじゃ。ノーラもいい女になりたくば男の考えていることをその者以上に把握するのじゃ。把握したのならば後は......。」
ノーラちゃんの耳元に口を寄せてなにやらごにょごにょと話すナレアさん。
なんだか碌でもないことを教え込んでいるきがするな。
というか......なんか教材にされている気がする。
「なるほどなのです。勉強になるのです!」
「ケイは分かりやすいのでいい練習台......初心者向けじゃ。良く観察するのじゃ。」
「はい!ナレア姉様!」
されているようなじゃない、これは徹頭徹尾教材扱いだ!
ノーラちゃんが物凄く真剣な表情で俺の事を凝視し始めた。
......そうかこうやってこの世界の人達は読心術を鍛えていくのか。
ノーラちゃんの熱い視線を受けつつ、俺はカザン君達が早く来ないかなぁと黄昏るのだった。
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる