上 下
214 / 528
5章 東の地

第213話 怪しいから本命なんです

しおりを挟む


『お待たせ致しました。ケイ様、皆様。』

グラニダの領都に到着して宿で一休みしていた俺達の元にファラがやってきた。
ファラの部下であるネズミ君達が伝えてくれる情報も本当に助かっているけれど、直接ファラから聞けるとなると......安心感が違うんだよな。

「お疲れ様、ファラ。長いこと情報収集してくれてありがとう。」

でも情報はファラから直接聞いたほうが安心感があるって伝えるのは......喜んでくれるかもしれないけれど、俺がそう言ったらファラは無茶をしてでも極力俺に直接情報を伝えようとしそうだし......これは胸に秘めておこう。

『いえ、合流まで時間が掛かってしまい申し訳ありません。』

「頑張ってくれていたんだから感謝こそあれ、咎める部分は見当たらないよ。ファラと直接話せなくてもファラが送ってくれた情報のお陰でかなり助かったからね。」

ファラが優先して送ってくれたエルファン卿の情報のお陰で、カザン君とノーラちゃんは家族と再会を果たすことが出来たのだからね。

『お力になれたようで何よりです。』

俺がファラの頭を指で軽く撫でると、ファラが嬉しそうに俺の指に頭を擦り付けてきた。
ずっと外で活動していたはずだけど、毛並みは綺麗だな。
シャルみたいに毛が長いわけじゃないけど、少しふかふかしていて気持ちがいい。

「それじゃぁ、ファラ。そろそろ話を聞かせてもらえるかな?」

『承知致しました。』

俺に撫でられていたファラがテーブルの上に移動する。
今この部屋にはグルフを除く全員が揃っている。
皆も真剣な表情でファラを見つめている......どんな話が聞けるだろうか......。

『まず何からお話すればいいでしょうか?』

「最初はやっぱり......核心からですかね?」

「そうじゃな。」

俺の言葉にナレアさんが頷く。
レギさん達も異論はないようだ。

「じゃぁ、ファラ。グラニダに仕掛けられた陰謀についてどこまで分かっているかな?」

『私共が調べた所、今回の陰謀は外の勢力による物とも、内の勢力による物とも言えます。』

「外の勢力と内の勢力が手を結んだってこと?」

『いえ、外の勢力が送り込んで来た者達がグラニダ領内で権力を持つに至っており、その者達による計画です。』

「なるほど......その、外の勢力って言うのはグラニダの周辺勢力のことなのかな?」

『いえ、そうではないようです。まだ正確には調べられていないのですが、かなり広範囲で活動している組織のようです。』

「なるほど......その組織の事やなんでグラニダを狙ったのかは分かってるかな?」

『申し訳ありません。そちらはまだ調べられていません。』

ファラが頭を下げる。

「そっか......とりあえず権力を持つほどグラニダの中枢にいるってことは、結構長い時間をかけて入り込まれていたってことだよね?」

『はい。三年近く前に初めて領内に現れたようです。最初は傭兵団としてダンジョンの攻略に参加、その功を持って正規の兵として......それから二年程で兵士長になっています。』

......名前を聞くまでもない人物のようだね。
大本命がそのまま犯人だったパターンかぁ......。

「一応聞くけど......その人物の名前は?」

『アザル兵士長です。』

ですよねー。

「証拠はあるかな?」

『残念ながら......物理的な証拠となると......部下がアザル兵士長とその部下の話を聞いただけですので......流石に計画の資料等が保存されていることはありませんでした。』

まぁそりゃそうか......陰謀をわざわざメモに書き留めてはおかないよね。

「どんな話だった?」

『どうやら彼らは元々の計画を失敗していたようです。三年前傭兵としてグラニダに来た時に何かしらの計略に失敗して、その予備計画として今回の件が引き起こされたようなのです。』

「元々の計画の予備か......彼らの狙いは?」

『狙いはカザン様、ノーラ様の身柄の確保です。』

カザン君達に手配書を生存のみでかけていたのはやはり身柄確保が狙いだったからか。
でも......その手配書を流し見した程度でカザン君達を殺して確保しようとしていた人達がいたのだから......逆効果なんじゃないかな?
金額に目が行って条件をしっかりと見ていなかったとかなんだろうけど......生存した状態で確保したかったのなら完全にアウトだ。

「......なんで二人を狙っているかは分かる?」

『申し訳ありません。正確なことは分かっていないのですが、アザル兵士長がお二人の事を成功例と言っているのを聞きました。』

「成功例?どういう意味だろう?」

「あの二人が何らかの実験の被験者......と言うことじゃろうな。」

実験の被験者......なんか嫌な響きだな......。

「ケイがどういう風に考えておるかはなんとなく分かるが......人体実験というと少し聞こえが悪いかもしれないが......臨床試験と言えばどうじゃ?」

「......なるほど。」

治療実験の成功例......ってことであれば心当たりはあるな。
記憶を失った件、もしくは意識不明からの回復。
あるいはその両方か。

『申し訳ありません。成功例と言う言葉以外では彼らを確保しようとする理由について調べられていません。』

「いや、相手の狙いが分かっただけでも十分だよ。」

それにしてもカザン君達を確保するためだけにこんなことをしでかすだろうか?

「相手の狙いがカザン君達の確保と言うには随分規模がデカくないですか?適当に誘拐でもした方が確実だと思うのですけど。」

『その点についても調べがついています。カザン様達の確保が彼らの主目的、ですが今回の事態を引き起こしたアザル兵士長の目的は三年前の計画失敗に対する自身の信用の回復、そして失敗の原因となった領主への復讐のようです。』

......いや、陰謀なんて基本的に自分勝手な理由で計画されるものかもしれないけど......それはあまりにも無茶苦茶な理由じゃないか?
なんかグラニダとは関係の薄い俺でも......かなりイラっとするのだけど。
皆の表情を見ると俺と同じような心境なのが伝わってくる。
レギさんは不快そうな表情を浮かべているし、ナレアさんとリィリさんは能面のような無表情って感じだ。
俺達はグラニダと関係は無いに等しいが......カザン君達の事は依頼人というよりも友人として考えている。
どんな理由で彼らを狙っているのか分からないが......それだけでも非常に腹立たしいのだけれど......今回の件を引き起こした理由が、失った信用の回復だの復讐だのこれ以上ないくらい身勝手な理由だ。
そんな理由でカザン君達のお父さんは命を失い......いや、内乱が起こっているのだから失われた命は一つや二つじゃないはずだ。
それは......ふざけ過ぎじゃないか?
まだ直接会ったわけでもない相手に、こんな気持ちになったのは初めてだ。

「......アザル兵士長ってどんな人物なのかな?」

『周囲の評価は武力以外の点についてはかなり悪いです。影響力のある軍部についても上層部からは軒並み嫌われているといっても差し支えありません。逆にその人となりを知らない一般の兵やダンジョン攻略に参加した兵士からは英雄のように敬われているようです。』

力はあるけど性格は最悪ってことか......これもカザン君から聞いていた通りみたいだね。

『常にイライラしていて周囲の人間に当たり散らすのは日常茶飯事。刃傷沙汰も珍しくありません。死者は出ていませんが......偶々出ていないだけと言った感じです。本人は思慮深く行動していると嘯いていますが、非常に直情的で短絡的な思考をしています。』

ファラは情報に私見を交えず、客観的に見てくれていると思うのだけど......そうであっても酷い評価のようだね。

『失敗は他人のせい、成功は自分だけの物。傭兵団を率いていた時からそういう思考だったようでダンジョン攻略後に正規兵として取り立てられた後、傭兵団の時代の殆どの部下がグラニダを離れているようです。』

本人を直接知らない人間からは敬われて、近くにいる人からは人望がない。
傭兵団を率いていたわりに人心掌握が下手ってトップとしては致命的じゃないか?
それともコルキス卿のように傭兵団時代もそっち方面をサポートしてくれる人間でもいたのだろうか?

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

処理中です...