狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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5章 東の地

第210話 連れて行くよ

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トールキン衛士長との打ち合わせが終わり、俺とレギさんはナレアさん達を探して打ち合わせをしようと思ったのだが......よく考えたら人の家をうろうろとするのは良くないよね。
と言う訳で、とりあえずレギさんの部屋に二人で戻ってきたのだけど......カザン君が俺達の部屋の前でうろうろしている所に遭遇した。

「カザン君?どうしたの?」

「あ、ケイさん、レギさん。おかえりなさい。トールキン衛士長との打ち合わせはどうでしたか?」

どうやら俺達の打ち合わせが終わるのを待ってくれていたみたいだね。

「うん、お互いの役割を決めてきたところだよ。今後の動きについてはこれからナレアさん達と決めて、もう一度打ち合わせって感じだね。まだナレアさん達にセラン卿から改めて依頼されたこと伝えてないからさ。」

「あぁ、そうでしたね。では、ナレアさん達の所に案内しましょうか?恐らくまだ母の所にいると思うので。」

「じゃぁお願いしようかな?」

「わかりました、こちらです。」

カザン君が先導して歩き始めたので俺達は後に着いて行く。

「ところでカザン君。何か俺達に用事があったんじゃないの?」

わざわざ部屋の前まで来ていたのだからと思い、カザン君に聞いてみると前を歩いていたカザン君が振り返り少しだけ笑みを浮かべる。

「......えぇ、少し相談......のようなものがあったと言いますか......。」

「じゃぁ一度部屋に戻って話を聞こうか?」

少し話しにくそうにしていたし、歩きながら話すような内容ではないだろうと思い提案してみたのだが......。

「いえ、そこまでしていただくほどの事では......。」

カザン君はそう言って......立ち止まり、なんとなく言いにくそうにしているな。
そう言えば、セラン卿との話し合いの後にも何かカザン君が言いたそうにしていたような気がするな。

「......ケイさん達はこれからグラニダに仕掛けられた陰謀について調査していくことになりますよね?」

「うん、カザン君が提案してくれた通りに調査をして......出来れば黒幕を捕まえたいところだね。」

「......私はケイさん達と行動を共にすることが出来ません。」

「そうだね。」

俺達が担うのは裏方の仕事。
そしてカザン君は旗印として表に出て、セラン卿やエルファン卿と共に動いて行かなければならないはずだ。
しかも民衆には非道を行ったと思われているお父さんの後を継いでだ。
カザン君のお父さん......カラリトさんに掛けられた不名誉な疑いを払拭することが出来るかどうかは俺達次第だが......もし間に合わなければあまりいい話にはならないはずだ。
そのことはカザン君は当然、こちらの陣営の人間は全員が理解しているのだろう。
カラリトさんを含めて......。

「私が皆さんに依頼して、お力をお借りしていると言うのに共に動くことが出来ないと言うのは......。」

「それは仕方ないよ。俺達は貴族でもなければグラニダの人間ですらないんだ。表立って動くには立場的に不足し過ぎているよ。」

カザン君が領主としてこれから立つにあたって俺達が傍にいるのはあまり良くないだろう。
俺達は外の人間だからね......傍に置いて重用している感じに見えるのは外聞によくないはずだ。
セラン卿の懸念が無かったとしても、この状況では俺達は表立って動かない方がカザン君の今後の為にはいいはずだ。
というか......セラン卿は言わなかったけどその辺も考えていたのだろうね。

「それは......そうなのですが......。」

カザン君も十分理解しているのだろうけど......納得しかねるって感じみたいだね。
優先順位は低いと口にしていたけど、お父さんの名誉に関わることだ......軽んじることが出来るはずがない。

「俺達は表立って動くカザン君達の後顧の憂いを断つ為に全力を尽くすよ。元々カザン君の依頼はカザン君が生きて想いを遂げる為、ノーラちゃんを守る為に協力するってことだからね。戦場が違うだけで一緒に戦っていることは違いないと思うよ。」

「......。」

「まぁカザン君を直接的に守ることが出来なくなるけど......連絡と護衛の為にマナスについて貰おうかな。」

「それは心強いです。」

「......カザン君の想いは必ず俺が一緒に連れて行くよ。だからカザン君はやらなければいけないことをやって欲しい。必ず、その時に間に合わせて見せるから。」

カザン君が旗頭として表舞台に立つ時に、お父さんの名誉が回復できるように。

「......ありがとうございます、ケイさん。当初考えていた形とは違いますが......確かにケイさんの言う様に一緒に戦うことには違いありませんね......。」

カザン君が少し目元を潤ませながら、笑みを浮かべ言う。

「カザン君とノーラちゃんの事はマナスが絶対に守ってくれるよ。俺達は......陰謀を仕掛けてきた相手を必ず引きずり出して見せるから、心待ちにしておいてよ。」

「ありがとうございます、ケイさん。よろしくお願いします。」

どうやらカザン君のもやもやした感じは払拭されたようだ。
先程よりも明るい顔になったカザン君が再び歩き出し、俺達の案内を再開してくれる。
やがてたどり着いた扉をカザン君がノックした。

「母様、いらっしゃいますか?カザンです。」

「あら、カザン?入っていいですよ。」

カザン君の声に応えてレーアさんが返事をしてくる。

「失礼します。こちらにナレアさんとリィリさんはいらっしゃいますか?」

カザン君が扉を開けるとティーセットをお盆に乗せたレーアさんが扉の近くに立っていた。

「えぇ、今お二人とノーラにこれまでの事を色々と聞いていた所ですよ。」

「お爺様との話が終わりまして、その件でケイさん達がお二人と打ち合わせがしたいそうなのでお連れしました。」

「そうでしたか、お二人は奥の部屋でお茶を飲んでいるのでこちらに来てください。」

レーアさんが奥の部屋に向かったので俺達はその後に続く。
部屋の中に部屋があるのか......凄いな。
奥の部屋ではノーラちゃんと楽しそうに話をするナレアさん達の姿があった。

「皆さん、ケイ様とレギ様がいらっしゃいましたよ。」

レーアさんの呼びかけに皆がこちらを振り向く。
奥の部屋にはこちらの部屋の話声が全く聞こえていなかったみたいだ。
普段は使用人さんとかがいるからいいのかもしれないけど、今は奥の部屋にいたらノックも聞こえないんじゃないかな?

「兄様!お爺様とのお話は終わったのですか?」

俺達が部屋に入ると同時にノーラちゃんが嬉しそうに声を掛けてくる。

「あぁ、ノーラ。これからナレアさんとリィリさんは少しケイさん達とお仕事の話があるんだ。」

「そうだったんですか。お仕事でしたら仕方ないですね。今日はいっぱいお話しできて楽しかったのです。」

「うむ、妾達も楽しかったのじゃ。」

「うん、ノーラちゃんまたお話ししようね!」

「折角新しいお茶を入れたのに残念ですが......続きは次の機会に、ですね。」

「すまぬのう、レーア殿。また次の機会に楽しませてもらいたいのじゃ。」

「えぇ、楽しみにしていますね。」

どうやらナレアさん達はレーアさんとも仲良くなれたみたいだね。
そこに一抹の不安が募る......大丈夫かな......変な事言ってないよね......?
少し嫌な予感がしてナレアさんの顔を見ると屈託ない笑顔を向けてくる。
......これは大丈夫......なわけがない!
絶対に余計な事言ってるよこれ!?
俺の嫌な予感が伝わったのか、カザン君も少し冷や汗を浮かべているような気がする。

「......では、ナレアさん、リィリさん。申し訳ありませんが、打ち合わせをしたいので僕の部屋に来てもらえますか?」

とりあえず今回は俺が先に逃げよう。
カザン君もレーアさんと家族水入らずで話したいだろうしね!

「じゃぁ、カザン君。後は家族水入らずでゆっくりしておいてよ。俺達はちょっと打ち合わせしてくるからさ。」

「ちょ!ケイさん!?もう少しゆっくりしていってはどうですか!?」

「いやいや、カザン君もレーア様とゆっくり過ごすべきだよ。今まで大変だったんだからさ。」

いいことを言っているようで中々の外道っぷりな気がするな......。
いや、この場にいる誰も......俺がいいことを言っているとは思ってないだろうな。

「ケイ兄様はお優しいのです!私も母様と兄様とお話がしたいのです!」

......心が痛い!
ノーラちゃんの純真さに汚れ切った心が痛い!
なんかナレアさんがにやにやしながらこちらを見ているし、リィリさんは肩をすくめている。

「......そうですね。ちょうどいい機会ですし、カザンこちらにお座りなさい。お話をしましょう。」

「う......は、はい。母様。」

レーアさんがカザン君とノーラちゃんにお茶を入れるのを見て俺達はお暇させてもらうことになったのだが......最後にレーアさんにケイさんも後で是非お話を聞かせて頂きたいと思います、と言う台詞にちゃんと返事できたかどうかは......あまり記憶に残っていない。

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