狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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5章 東の地

第200話 情報不足

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二人から話を聞いた後、俺とカザン君は隣の部屋で待機していたレギさんと合流した。
俺達が話を聞いている間に部屋に来ていたようだ。
ここまで来てくれた二人は既に引き上げてもらっている。
勿論、ネズミ君にしっかりと監視はしてもらっているけどね。
あの人たちがカザン君を裏切るとは思えないけど......それとこれは話が別だ。
裏切る気が無くても尋問されて......自白させるような魔道具があるかも知れないしね。
もし何かあった時にこちらもすぐに動けるってのも含まれる......って言うのは誤魔化しなのかなぁ。

「......まだ無事を確認出来たわけでは無いのに安心してはいけませんね。」

椅子に座っているカザン君がぽつりと呟くように言う。

「......そうだな。まだ予断を許さない状況であることは変わりがない。だがその気持ちは分からなくはない。」

「うん、仕方ないと思うよ。今のセラン家の情報はネズミ君達に調べて貰っているからもう少しすれば分かるはずだよ。」

ファラが直接指揮を執ってこの街のネズミ君達を指揮下に入れたわけじゃないから、ネズミ君達を有効活用出来ているとは言い難いんだよね......。

「ありがとうございます。」

「その事なんだが、少し俺の方で調べてきた。直接家の様子を見られたわけじゃないがな。」

どうやらレギさんは俺達と別れて情報収集をしてくれていたみたいだね。

「セラン家から誰かが護送されたり、誰かが殺されたりしたと言うことは無いらしい。セラン家の当主が領都から派遣されて来た兵を大人しく受け入れて、混乱のようなものも無かったそうだ。」

「そうなのですか......。」

カザン君がほっとしたように息を吐いている。

「使用人は全て外に出されているみたいだが、兵士が家の事は手伝っているらしい。衛兵と言ってもしっかり統率された奴らのようだな。」

「はい。グラニダの軍規はかなり厳しいもので、領都に詰める者であれば末端の兵であっても領民に対して横柄な振る舞いをすることはないと思います。だからと言って使用人の代わりに家事に従事するのは......少し違うと思いますが。」

「まぁ、それはそうだな。」

末端の兵士に至るまで規律というかモラルと言うかがしっかりしているって凄いよね。

「父が言うには外征をすることなく、守りの為の戦いだけをしてきたからグラニダの兵士は軍規を守るのだと。」

「なるほど......そうであったとしても凄いことだと思うけどな。」

占領地に対して横暴な振る舞いをするっていうのは......仕方のないことなのかもしれない。
命のやり取りをした後その昂った気持ちのまま街や村を襲う。
無理からぬことなのだろう。
でもグラニダの兵士は自分達の街や村を守る為に戦うのだからそこで無体なことはすることはないと......必ずしもそうとは言えないと思うけどな。
自国内でも規律正しくってのを末端にまで従事させるのは難しいだろう。
カザン君達を追いかけていた兵士は......あまりいや、結構ガラが悪かった気もするしね。
任務を離れて勝手に動いていたのだから軍規も全く守れていない......。

「そういえば、カザン君達の手配書も必ず生け捕りってなっていたけど......生かして捕えないといけない理由があるのはカザン君達だけじゃないみたいだね。」

「......。」

俺の言葉にカザン君が考え込む。

「もしくは、カザン達を生かして捕えるための餌とかな。」

レギさんが顎にに手を当てながら言う。
......それはあるかも知れない。

「でも餌にしては厳重に守りすぎじゃないですか?近づけない餌って微妙じゃないですかね?食いつかせてから捕まえた方が簡単だと思いますけど。」

「それはそうかもしれないが......今二人はこの街に来てしまっているからな。しっかりと釣られているとも言えるぞ。」

「狙いが掴めませんね......。」

俺とレギさんが相手の狙いを推測し合っているとカザン君が顔を上げる。
全然関係ないけど......なんかまつ毛が長くなっているような......この世界にもつけまつげってあるのかな?
そんなどうでもいいことを考えているとカザン君が口を開く。

「この街には今ネランが向かっています。今権力を握っている者達にとって邪魔となるものがこの街に集められているとも考えられないでしょうか?」

「貴族区に軟禁ということか?だが領主代行は更迭されたわけじゃなく自分で逃げてきたんだろ?集められているわけではないと思うが。」

「そうですね......。」

レギさんもカザン君も難しい顔をして考え込んでしまっている。
なんとなく思ったことを口に出してしまったが......相手の狙いを考えるには相手の事を知らなすぎるな......。

「すみません、僕が余計な事言ったから悩ませてしまいましたね。現状では相手の情報が足りないので相手の考えを予測するのは無理だと思います。ファラが集めてくれている領都の情報を聞いてから考えましょう。」

「それもそうだな。」

「相手の狙いが分からないと胸のあたりがもやもやしますね。」

そう言ってカザン君が胸を抑える。
......いや、別に胸を凝視しているわけじゃないけどね?

「そう言えば龍王国の時もこんな感じでしたね。」

「あぁ、あの時も相手の狙いが全然分からなかったからな。」

あの時は相手の狙いが読めなくってかなりもやもやした記憶がある。
結局最後まであの襲撃が本当の目的だったのか分からなかったしな......しかし、似たようなもやもや感がある。
派手なことをやっているようで相手の目的が不明瞭というか......。
......恐らく龍王国の襲撃者の狙いは神域......というか聖域か。
応龍様のいる場所を目指していたはずだ。
もしかして今回も同じ相手が黒幕で、仙狐様が狙いとか?
カザン君のお父さんの書斎にある地図が目当て......いや、突拍子もなさすぎるな。
地図が欲しいならもっと簡単な方法があるはずだ。
何も反乱を引き起こして権力を握る必要はないだろう。
そもそも黒土の森の事は応龍様に直接聞いたから知っているけど、他に何か記録のようなものが......残っていないとは言い切れないか。
母さんの神域にも侵入してきた奴らはいたのだから。

「以前依頼を受けたと言っていた件ですか。確か黒幕の一味と思われる者たちを捕まえることが出来たものの、事件の背景のようなものは最後まで分からなかったとか。」

「うん。一応事態だけは解決できたから依頼は完了ってことになったんだ。」

何故かあの時と似たような、一貫性の無さのようなものを感じるのだ。
まぁあの時以上に情報が足りていないだけかもしれないけどね。

「同じ人間が裏にいると?」

「いや、流石にそれはないと思うよ。」

俺もふと思ったけど......。

「あはは、そうですよね。」

神獣様の繋がりと言うにはグラニダは少し関係が薄いだろう。
黒土の森の正確な位置は分からないけれど......意外と領都がある場所が黒土の森と呼ばれていた場所と言う可能性は......零ではないか?
でもその場合、領都付近に仙狐様の神域があることになる。
流石に人里の近くに神域があれば、何かしら噂になってもおかしくないだろう。
結界があって人が近寄ることが出来なかったりするはずだしな。
その場合はカザン君が何かしら領都付近にある不思議スポットとして知っている可能性があるけど......そういう話は聞いたことがないな。
いや、意外と聞いてみたら教えてくれるかもしれないな。
今度聞いてみるか。

『ケイ様、マナスが手紙を件の貴族に渡すことが出来たようです。この街からだと馬車で二日程の距離にいたそうです。』

子犬姿に戻って俺の肩に掴まっていたシャルがマナス達のお使いが完了したことを教えてくれる。
馬車で二日くらいの距離か、結構近くまで来ていたみたいだね。
明日辺り会えそうだな。
マナスの分体はそのまま馬車についてもらって、グルフには帰ってきてもらう予定になっている。
これで馬車の位置は把握できるし、いざという時はマナスが彼らの安全を確保してくれるだろう。
さらに馬車には今日使用人のおじさん達に渡したものと同じ魔道具をこそっと仕掛けてあるので、魔道具による監視があれば分かるようになっている。

「レギさん、カルナさん。マナス達がネランさんに手紙を渡すことが出来たそうです。明日には街から馬車で一日と言った距離まで来るそうなので今度はネランさんに会いに行きましょう。」

ネランさんに話を聞けば相手の狙いが分かるかもしれない。
相手の狙いが分かれば、今後こちらがどういう風に動けばいいかも方針が定まってくるだろう。

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