上 下
197 / 528
5章 東の地

第196話 使用人の家は

しおりを挟む


「平和そのもののようだな。」

「そうですね。」

酒場で情報収集をした後街を回ってみたのだが一部を除き不穏なものは見られなかった。
店員さんに聞いた話によるとセンザの街は内乱には関わっておらず、領主が討たれた後もそこまで大きな動きはなかったそうだ。
唯一変わったことは貴族区への立ち入りだそうと言う。
残念ながら貴族と一緒でなければ一般の人は貴族区への出入りが出来ないそうだ。
現状ではカザン君のお母さんの実家であるセラン家の様子を窺うことは出来なさそうだ。
恐らくセラン家が問題なんだろうし、今近づくのはいい考えとは言いづらい。
だが逆に考えるとセラン家を警戒しないといけないということは......カザン君達の家族がまだ無事だと言うことじゃないだろうか?
楽観的過ぎるだろうか?
まぁセラン家の警戒のために封鎖しているというのもこちらの勝手な予想だしな。
カザン君には封鎖されていて貴族区事態に入ることが出来なかったと伝えておけばいいだろう。
勿論ネズミ君達に頼めば問題なく調べることは出来るから様子はうかがってもらうつもりではあるけど......。

「カザン君のお母さんの侍女の方......えっとネネアさんでしたっけ。家はこの辺と聞きましたが......。」

「きっとこの家だと思うが......想像していたよりデカい家だな。」

「......そうですね。」

俺とレギさんの目の前には広い庭に大きな屋敷と呼べる代物が鎮座している。
侍女って儲かるのかな......いや、家族全部が使用人って言ってたっけ。
もしかしたら結構地位のある使用人なのかもしれないね。

「どうやって手紙を渡しますか?正直僕はもっと小さな家を想像していたのでこそっとドアの隙間に入れればいいか、とか考えていたのですが。」

「あぁ、俺もそんな風に考えていた。カザン達との育ちの差ってことか?」

家の大きさとか特に言ってなかったもんな......。
まぁこっちもどんな家なのか確認しなかったからな......先入観で動くのは良くないってことだね。

「どうします?」

「どうしたもんかな。」

家の前で若干途方に暮れる俺達。
普通に正面から渡すしかないかな?
でもなるべく接触はしたくなかったのだけど......。
敷地内にこっそり入るのは......まぁ不可能ではないけど。

「シャルかマナスに頼んでドアに差し込んで来てもらいます?」

「そうするか。」

どちらに頼もうかなと考える暇もなくマナスが肩から飛び降りてアピールしてくる。
俺がマナスに手紙を渡すとすぐに庭を横断してドアまでたどり着く。
俺達は少し離れた位置に移動して様子を見ていたのだが......マナスは扉の隙間に手紙を差し込もうとして......差し込む隙間が無いようだ......。
うん、気密性ばっちりなようだね。
流石のマナスも考え込むように動きが止まってしまっている。
しかしすぐに動き出したマナスが扉に張り付きドアノッカーを叩き、ドアの邪魔にならない位置に手紙を置く。
暫くしてドアから出てきた女性が手紙に気づき手に取り家の中に戻る。
その様子を離れた位置から見守っていた俺達は一先ず胸をなでおろす。

「シャル、家の中の様子はネズミ君が監視しているかな?」

『はい、問題ありません。』

「家の中の監視はばっちりだそうです。手紙を受け取ってどうするかはすぐに分かると思います。

「よし、なら引き上げるとするか。そろそろ日が暮れる、街門が閉じられる前に出ないと面倒だ。」

「お土産も買わないといけないですしね。」

そんなことを話しながら踵を返した俺達の進行方向に千鳥足のご機嫌な雰囲気のおじさんが姿を現す。
まだ日暮れ前だというのに相当出来上がっている様子である

「ん?ありゃぁ酒場で絡んできたおっさんだな。」

「あぁ、道理で......こんな時間から歩くのも覚束ない様子の人が沢山いるのかと思いましたよ。」

あっちにフラフラこっちにフラフラしているおじさんは、不思議とどこにもぶつからずにこっちに向かってくる。
俺達は関わらない様に道の反対側に移動するのだが、おじさんの無軌道な歩行術の前に成す術なく捕まってしまう。

「お?おお?その綺麗な真ん丸頭は知っているぞ?知っていますよ?」

くねくねと変な踊りをしながら......本人的にはそんなつもりはないのかもしれないけれど、奇妙な動きで俺達に近づいて......偶に離れていくおじさん。

「お酒、お酒ね!おいしかったよ!おじさん、優しくしてもらったの久しぶりだからね!嬉しくておいしかったのよ!」

足早に立ち去りたかったのだが、大声で話しかけられて......捕まってしまった。
レギさんと軽く顔を見合わせるが......レギさんも困ったと言った表情だ。

「......すまねぇな。俺達これから行かないといけない所があるから失礼するぜ。」

レギさんがおじさんにそう言って強引に立ち去ろうとする。

「あれー?そうなのー?じゃぁ、今度!今度一緒にお酒呑もう!」

「おう、今度な。」

適当に相槌を打っておじさんから離れる俺達。

「じゃぁおじさんおうちここだから!また今度なー!」

そう言ったおじさんはカザン君のお母さんの実家で働く使用人さんの家に入っていく。

「......レギさん。」

「あぁ、あのおっさんが使用人だったのか......?しかし昼間から呑んだくれているってのもな。偶々休みとかならいいんだが。」

「一応カザン君には伝えておきましょう。でもあのおじさんが使用人さんだとしたら、手紙と僕達の関係は怪しむかもしれませんね。」

「......あれだけ泥酔しているから覚えているかどうか分らんが......いや、結構時間が立っているのに俺達の事を覚えていたからな、意外と意識ははっきりしていると考えた方がいいか。」

「あぁいう風に酔ったことがないから分からないのですが......そういうことってあるのですか?」

「酔うってのは人それぞれだからな。普段と変わらない状態に見えるのに翌日記憶が残っていないやつもいるし、べろんべろんに酔っぱらっているようで意識はしっかりしている奴とかな。ケイも一度限界まで呑んでみておくといいぜ、自分の限界を知っておくのは酒に限らず悪いことじゃない。」

「......なるほど。今度付き合ってもらえますか?」

「おう、介抱はしてやるから任せておけ。」

レギさんが男臭い笑みでにやっと笑う。
本当にこういう笑い方が似合う人だ。

「ちなみにレギさんはどんな感じになるのですか?」

「あー俺は一定量を超えると寝ちまうな。聞いた話によると倒れたみたいにばったりと寝るらしいな。偶に起きた時に血が固まったりしていることがあるぜ?」

「......それ本当に寝ているんですか?気絶してるんじゃ?」

「否定は出来ねぇが......暫くするといびきをかきだすらしいからな。揺すっても水をかけても絶対起きないらしい。」

......それ遭遇したらかなり怖い奴ですね。
日本だったら救急車呼ぶレベルだと思います。

「あらかじめその話を聞いていたとしても現場に遭遇したら怖いですね。」

「まぁその場合、周りもかなり酔っぱらっているからな。あまり気にしねぇんじゃねぇか?」

「いや、突然倒れられたらこっちの酔いが醒めるんじゃないですか?」

「......そうだな。流石に水を差すのもどうかと思うから、そこまで呑まないようにはしているけどな。」

「......なるほど。」

限界を知っているからこそ制御出来るってことか。
お酒に限らず自分の限界を知ること......魔法でやれることもじわじわと限界を伸ばしているとは言え、その限界を知らなかったらいざって時に大変なことになるからな......。
今まで何度も......特に魔法に慣れていなかった頃は大変な目にあったからなぁ。

「限界を知るのは大事だろ?」

俺が何を考えているのか分かったのかレギさんが笑いながら言ってくる。

「本当にそうですね。」

「どんなことでも大事なことは同じってことだ。失敗を失敗で終わらせない、とかな。」

「無駄な経験はないってことですね。」

そんな話をしながら俺達は街の外で待つリィリさん達へのお土産を購入して街から一度外に出ることにした。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...