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5章 東の地
第195話 センザ潜入開始
しおりを挟むシャル達の背中に揺られること半日程、俺達はセンザの街が一望できる丘の上にたどり着いた。
一望出来るとは言え、距離はまだかなりあるから視覚強化をしている俺達でなければ街の様子を伺うことは出来ないだろうけど......。
しかしここから先はグルフが近づくと大騒ぎになりそうなので歩きで向かう予定なのだが......。
「街に全員で行くのは危険ですね。」
「そうだな。」
カザン君の呟きにレギさんが応える。
ここから見えるセンザの様子は非常に落ち着いた様子、というか活気のある少し大きめな普通の街と言った感じだ。
と言うことは街としての機能が通常通り働いているということで、領都から手配書が回ってきている以上カザン君達が近づけば一瞬で取り囲まれてしまうだろう。
「私とレギさん、ケイさんの三人で行きませんか?」
「......ふむ。活動拠点の確保は必要だしな。少人数で行くのは賛成だ。カザンが行きたいのも分かるが......俺としてはカザンとノーラを除いた方がいいと思う。」
カザン君の提案にレギさんが渋い顔をする。
この状況でいきなりカザン君を連れて街に入るのはな......。
「そうですね。まずは僕達で街の様子を見て来てからの方がいいと思います。拠点の確保と、街を軽く一周して雰囲気を見てきます。カザン君どこか見て来て欲しいところはあるかな?」
「すみません、わかりました。ここで待っていることにします。見て来て欲しい場所は......町の東に貴族区があるのですが、そこでセラン家の様子を確認出来たらお願いします。」
俺がレギさんに同意してカザン君に希望を聞くと、すぐにカザン君も意見を改め見て来て欲しいところを上げる。
状況を理解しているけど動かずにはいられなかったって所だろうな。
「貴族区のセラン家だね。了解。貴族区には一般人でも入って大丈夫なのかな?」
「歩いて入ると目立つと思うので馬車か何かで回ってもらえますか?乗合馬車は通らないので送迎用の物を用意する必要がありますが。」
バスは通らないけどタクシーならいけるって感じかな?
「分かった。目立つことは出来ないけど、行けそうだったら確認してみるよ。」
「よろしくお願いします。」
「ノーラは何処か気になる場所はあるか?」
カザン君の話を聞き終えたところでレギさんがノーラちゃんにも意見を聞く。
「うーん......兄様、ネネアの家はどうでしょうか?」
ノーラちゃんは少し考えるとカザン君に問いかけるように提案する。
「ネネアの......なるほど......ノーラ、それはいい考えだね。」
カザン君は感心したように頷くとノーラちゃんの頭を撫でる。
「カザン君、ネネアさんと言うのは?」
「ネネアは母付きの侍女ですが、この街の出身で今も家族が住んでいます。その家族も祖父の家の使用人をしておりまして長い付き合いがあります。彼らならば私達を無下には扱わないと思うのですが......。」
「カザン君に一筆認めてもらうかな?ただ、話がしたいくらいに留めておいて。こちらの情報はあまり知らせない様に。カザン君やその家の人達には悪いと思うけど用心に越したことはないからね。」
手紙を届けた後はネズミ君達に見張ってもらっておけば動向は調べ放題だ。
問題があるようなら......まぁその時はその時でその人達の使い方を考えればいいか。
「いえ、ケイさんのおっしゃることはもっともです。今の状況では仕方のないことですし、向こうも納得してくれると思います。では簡単な手紙を書くので少しお待ちください。ナレアさん道具をお借り出来ますか?」
「うむ。問題ないのじゃ。」
そういってナレアさんとカザン君は荷物の方に歩いていく。
後、準備しないといけない事は......マナスがノーラちゃんの所に分裂しているから連絡に関しては問題なし。
お金はある程度用意してあるから街中に入る分には問題ないだろう。
まぁ、街に入るのにそこまで色々と持って行く必要は無いか。
後はカザン君が書いてくれる手紙を受け取れば準備は大丈夫かな?
「以前に寄った大きめの街よりも落ち着いた雰囲気というか......都市国家の方に似た雰囲気ですね。」
「治安がいいんだろうな。それに勢力的にも安定しているってことだったし、東方の中でありながら穏やかなんじゃないか?」
俺とレギさんはセンザの街の大通りを歩きながら街の様子について話す。
予想していたような殺伐とした感じは全くなく、寧ろ東方にきて一番健全な街並みと言った感じだ。
東方で最初に立ち寄った大きな街も俺の想像していた東方の街とは様子が違ったけれど、このセンザの街の様子は内乱が起こっている街とは思えない程穏やかなものだ。
「内乱の件はどうなっているのでしょう?」
「街の様子からは内乱とは無縁って感じだが......その辺は少し探ってみるか。ファラの情報を待つだけではな。」
「そうですね。ギルドは......ないから酒場ですかね?」
「......もう少しすれば食事時だからいいかもしれないが......そういう所に俺達だけで行くと煩そうなのがいるなぁ。」
「あー。」
物凄い笑顔でレギさんに詰め寄るリィリさんの事が頭に浮かぶ。
「とは言え、情報は集める必要があるからな。あいつもそれが分かった上でノーラの傍に残ったんだ。恐らく......少し文句を言われるくらいだろうよ。」
......文句を言われるのは確定なんですね。
「せめて何か暖かいものを買って戻りましょう。」
「......そうだな。先に酒場に行ってその後街を回るか。戻る直前に屋台で買い込んで戻ればいいだろう。」
「了解です。じゃぁ......賑やかそうな、あのお店に入りますか?」
「そうだな、少し早い時間ではあるがあそこなら少し話が聞けそうだ。街を回ることも考えるとそんなに時間は掛けられないがな。」
「手分けしますか?」
「......いや、表面上は問題なさそうに見えるがまだ何があるか分からないからな。不測の事態が起こらないとも限らない。別れて行動するのはまだ早計だろうな。」
「......そうですね、わかりました。じゃぁ店に入りましょう。」
そんな感じで俺達は、まだ夕食時には早い時間ながらも繁盛している酒場のドアをくぐった。
「随分と羽振りがいいじゃねぇかよぉ。俺にもわけてくれよぉ、いいだろぉ?」
「「......。」」
俺とレギさんが酒場に入って情報収集を始めて......十分ほど。
カウンターで店の人に話を聞いていたのだが......レギさんがそこそこお値段のするお酒を頼んで情報を聞いていたのが目に入ったのか、少し離れた位置で呑んでいた酔っ払いに絡まれた。
いや、こんな昼間からそんなべろべろになるほど呑むのはどうかと思いますが......。
っていうか俺はともかく、レギさんに絡むってどんな豪傑?
レギさんの風体はどう見ても......兄貴とかボスとか首領とか呼ばれる類のものだと思うのだけど......。
「......俺はこの街に来たばかりでな。色々と話を聞かせてくれるなら一杯奢ってやるが?」
「はなしぃ?はなしなんかねぇよぉ!おれぁ最近酒しか呑んでないっての!話なんかないない!ないよぉ!」
見事なまでに出来上がっているおっちゃんですね。
最初は冒険者ギルド的な因縁つけての絡みだと思ったけど......これ完全に酔っぱらっているだけですね。
「......そうか、まぁ向こうで大人しく呑んでいてくれ。」
「なんだよにぃさんよぉ。すこーしくらいいいだろぉ?」
レギさんがすげなくあしらうも、酔っ払いおじさんはレギさんに縋りつくようにおねだりを続ける。
酔っ払いってめんどくさいなぁ......そう言えば今までこういうお手本のような酔っ払いには会ったことがなかったな。
レギさん達と呑むことはよくあるけど少しテンションが上がるって感じで、別に酔っ払いって感じにはならないんだよね。
「......この人に一杯あげてくれ。」
そんなことを考えていたらレギさんが酔っ払いのおじさんに奢ってあげることにしたようで、カウンター内の店員さんにお酒を頼んでいた。
「よろしいのですか?」
「あぁ、早く続きを聞きたいからな。」
レギさんと話をしていた店主さんが軽く嘆息しながらコップにお酒を注ぎ、おじさんの前に出す。
「おぉ、にぃさん。髪はないのに太っ腹だなぁ。ありがとよぅ。」
「......それ呑んで大人しくしといてくれ。」
余計な一言を放ったおじさんにレギさんが若干青筋を立てながら追い払うように手を振る。
「ひゃーうまいうまい。」
うまいを連呼しながら去っていくおじさん。
まぁ昼間から泥酔出来る程、治安がいいってことかな?
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