193 / 528
5章 東の地
第192話 失言
しおりを挟む俺達の模擬戦をカザン君達にお披露目してから数日、俺達は未だカザン君達を助けた拠点に留まっていた。
ファラが情報を集めて戻ってくるまでの間それぞれが準備を出来る限り整えているのだ。
ナレアさんは魔道具作り、レギさんは保存食やこの場で整えられる装備の作成。
俺とリィリさんはカザン君と稽古をしている。
ノーラちゃんは......グルフやマナスと遊んで......親睦を深めている。
ノーラちゃんの事は二人に任せておけば大丈夫じゃないかな?
ファラもマナスがいれば大抵のことは大丈夫だと太鼓判を押していたしね。
因みにナレアさんに調べてもらった所、カザン君もノーラちゃんも結構魔力を持っているそうなので魔道具をいくつか使ってもらって万が一に備えておくつもりだ。
まぁ......強化魔法もかけるけどね。
カザン君には身体強化をそこそこ、ノーラちゃんには抵抗力や防御力方面をかなり強めにかける感じだ。
カザン君は強化魔法を掛けてあげた時、多少のぎこちなさを見せたもののすぐに強化された身体能力を使いこなして見せた。
俺は歩くことも覚束なかったと言うのに......若干嫉妬の感情を覚えないでも無かったけど、早く慣れてくれることに越したことはないからね。
今そのカザン君はリィリさんと剣を打ち合っている。
カザン君の武器は腰に下げていた剣だが、領主である父親に手ほどきを受けていたらしく......俺が言うのもなんだけど、凄く様になっていると思う。
本当は左手に小型の盾を装備するらしいのだが、流石に盾は持ってきておらず、俺達の中にも盾を使う人がいなかったために今は盾無しで戦っている。
使っている剣もあまり長いものではなく、リィリさんの使っている双剣と同じくらいの物だろうか?
あまり体の大きくないカザン君でも取り回しがしやすそうな剣だ。
「今は盾がないからねー、戦場で常に装備が完璧なんてありえないからこの状況でもしっかり戦えるようにしておかないと危ないよー。」
リィリさんがひょいっといった感じで軽く剣を振るっているのだが、それを自分の剣で受け止めたカザン君は全身が硬直して動きが止まってしまっている。
「戦闘中に動きを止めちゃダメだよー。いい的になるだけだからねー。」
「くっ!は、はい!」
カザン君がすぐに体を動かし始めるのだがそれを押しとどめるようにリィリさんが追撃を放つ。
「剣で相手の攻撃を受け止めちゃダメだよー。盾と一緒、受け止めるより受け流すようにしないと動きがこうして止まっちゃうからねー。」
「はい!」
「うん、いい返事だね。じゃぁ少し早く行くよー。」
「わ、わ、わ、わ!?」
リィリさんが恐らくカザン君の動けるぎりぎりの速度で攻撃を仕掛け、カザン君が必死に防いでいる。
口調は優しいけど非常にスパルタだな......いや、これから先の事を考えるのならとても優しいのか......。
カザン君が矢面に立たなければならないような事態にはしたくはないけど......避けることが出来ない戦いもあるかも知れないからね。
カザン君の悲鳴のような掛け声を聞きながら、これから先、領都でカザン君達を待っているであろう事態について思いを馳せた。
「ナレアさんがケイさんと戦うのはめんどくさいって言う気持ちが本当によく分かりました。」
訓練を終えてキャンプ地に戻るとカザン君がしみじみと呟く。
「......俺ってそんなに面倒......?」
「あ、いえ。いい意味でですよ?」
いい意味で面倒って言われてもなぁ......いや、戦闘においてって意味だから分かるけど......。
「ケイ君と戦うととにかく疲れるからねぇ。息をつく暇もないというか......。」
「それはリィリさんと戦う時でも同じじゃないですか?」
「うーん、確かにリィリさんの攻撃も激しいとは思いますが......種類が違うと言いますか......。」
「私の動きは人間の動きだからねー。」
「いや、僕も人間ですよ。」
「以前ナレアさんが狩りをする獣のようだとおっしゃっていましたが......実際に体験してみたらその言葉の意味がわかりました。迂闊に手を伸ばすと食いちぎられそうというか......あ、勿論ケイさんが噛みついてくるとは思っていませんが。」
流石に噛みつくのはちょっとなぁ......隙があってもやらないと思う。
......多分。
「ケイ君だったら行けそうって思ったら噛みついてくるかもねー。」
......やらないですよ?
「......怖いですね。」
「......やらないよ?」
俺達が喋っていると作業をしていたレギさんが顔を上げる。
少しうるさかっただろうか?
「いい具合に訓練が出来ているみたいだな。因みに俺もケイは場合によっては噛みついてくると思っているぞ。」
「......レギさんまで。」
「そのくらい集中した時のお前は怖いんだよ。」
そう言いながらレギさんはカザン君に作っていたものを手渡す。
「レギさんこれは......盾ですか?」
「あぁ、木になめし皮を張った簡単な物だが、ナレアに頼んで作ってもらった魔道具を内側に着けてある。使う時は魔道具を起動してくれ。それでかなりの硬さになるはずだ。」
「魔道具ですか!?」
カザン君が驚きながら盾をひっくり返す。
そこには確かに魔晶石が嵌め込まれていて、魔術式の光が中に見える。
「こんな高価なものをいただくわけには......。」
「これから荒事になる可能性は高いんだ。装備はなるべくしっかりしたものを使ってくれ。それに材料費はほとんどかかってないから気兼ねする必要は無い。訓練でも魔道具をがんがんつかっていけ、普段から慣れておかないと実践では使い物にならないからな。」
「訓練中に魔道具を起動していいのですか?」
「うん、どんどん使っちゃっていいよ。魔道具を作ってくれるのはナレアさんだけど......魔晶石はいくらでもあるから気にしなくていいからね。」
「本当に良いのでしょうか......?」
俺がレギさんの言葉に追従するとカザン君が恐縮した感じではあるが盾を左腕に装着する。
「うんうん、どんどん使って行こう!少し休憩したら盾の具合を確かめてみようか。相手はー、私がした方がいいかな?」
「......ではお言葉に甘えて。相手は......。」
そう言って一瞬こちらをみたカザン君。
お、ご指名だろうか?
「リィリさんお願いします。」
......いや、いいけどね?
ちょっとだけ視界が滲んだりしてはいない。
「そ、それにしてもナレアさんは凄いですね。こんな短時間で魔道具を作成出来るのですから。」
なんか......カザン君が話題をそらしたんだけど......。
恨みがましい視線をカザン君に送るが......頑なにこちらを見ようとしないな。
「そうだな......俺の知人にも腕のいい魔術師がいたが、ナレアはあいつ以上だと思う。技術的なことは分からないから本当の所は分からないが......まぁ、年季が違うんじゃないか?」
「ほほぅ、レギ殿。随分面白そうな話をしておるのう。」
「......。」
テントで作業をしていたはずのナレアさんだったが、俺達が戻ってきたことで作業を中断して火の傍に来ていたらしい。
「......。」
そして失言に気づいたらしいレギさんの動きが凍り付いたように固まる。
うん、今のは間違いなくレギさんが悪いですね。
俺は気配を殺しながらカザン君に近づき二人で話している風を装う。
「へぇ、そうなんだー。」
「えぇ、そうなんですよー。」
俺の唐突な言葉にカザン君も適当に合わせてくれる。
最後にちらりと見えたレギさんの姿は......真顔のリィリさんと笑顔ながら光を失った目をしたナレアさんに囲まれている姿だった。
......今日の晩御飯は何にしようかな?
俺は背後で湧き上がる異様な雰囲気を気にしない様に晩御飯のメニューを考えることにした。
2
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる