上 下
181 / 528
5章 東の地

第180話 追われていた側の話を聞いてみよう

しおりを挟む


「どこからお話ししましょうか?」

「そうだな、得ている情報と違いがないか確かめたいし、話せる部分を判断して話してもらえるか?」

「承知しました。」

そう言ってカザン君は一呼吸置くとテントで寝ている女の子の方を見てから話を始める。

「私と妹のノーラはグラニダという街と辺りを治める領主の子供です。この付近の街としてはグラニダは比較的大きく領土も比較的安定していると言われていました。実際父の統治は穏やかなもので、税も他所に比べれば軽い物でした。」

「この地方でよくそんな統治が出来たものだな。」

「そう、ですね。比較的歴史が長かったのである程度の下地があったことと、難民の受け入れが上手くいったという所でしょうか。」

「難民の受け入れ?」

「元々兵を使って耕していた土地がありまして、そこを難民に引き継がせたのです。大抵の難民は家族単位ということもあり、比較的労働力としては雇い入れやすかったこともあります。」

屯田していた土地を引き継がせたってことか。

「難民に農業をさせたと言うことか?」

「えぇ。力のある兵士には新しい土地の開墾をさせて、既に収穫が出来る土地を難民に管理してもらい、その土地で取れた収穫物は全て回収。そこで働いた難民には食事と住居を保証します。さらに自分たちで新しく開墾した場合、その土地からの収穫物は通常の税率での徴収ということで土地は難民......ここまでくればもうその地の農民と言うことになりますが、その耕した人のものになります。勿論開墾してもいい場所はこちらから指定していますし、元々の作業をさせていた土地をしっかり管理している事が条件になりますが。」

食事と住居を保証されているなら......頑張れば自活できるようになるってことか。
トラクターのような農業用の重機のない世界だ。
一人で管理できる畑の広さなんてたかが知れているだろうし、それは一家族で考えても自分達の収穫だけで生きていけるとは思えない。
村単位で協力し合ってようやく農業で生活していけるのだろうね。

「勿論、土地を管理を命じられた難民の暮らしは楽なものではありませんでしたが......一度難民となってしまうと余程の幸運に恵まれなければ、そのまま命を落とすか、奴隷となるか......野盗になると言った所ですので......それに比べればかなりマシと考えた難民がこの辺にはかなり来ましたね。流石に難民の全てを受け入れることは出来ませんでしたが......。」

小作人として生活を保障して農業に従事させたってことだね......自由にできる時間がどのくらいあるか分からないけど......奴隷よりはいい待遇なのだろう。
難民が集まってくる程度には。

「最初の頃は周りの反対も大きかったと聞いていますが......利益が出るようになってからは反対していた者たちも掌を返したようです。僕が物心ついた時には初めの頃の難民は独立するまでに至っていまし。」

「親父さんの政策はかなり上手くいったんだな。一番きつい開墾を自分の兵士に従事させたから上手くいったのだろうが......。」

土地だけ渡して、はい、がんばれとは行かないもんな......。

「そうですね。不満がなかったとは行きませんが......領民の生活も上向きだったと思います。兵力も付近の勢力の中ではかなり高かったこともあり、盤石と言っても差し支えないと思っていました。」

でもカザン君と妹さんは今ここでグラニダの兵士に追われている......。

「しかし、それは突然起きました......いえ、私にとっては突然でした。元難民が開墾し、起こした村が虐殺の目にあったのです。そして重症を負いながらも生き残った人の証言からグラニダの兵士が襲ったと......。」

それは確かに突然だな......。

「しかもその兵を指揮していたのは父であったと......。」

「「......。」」

ありえないと言い切れないけど......そんなことをするメリットが分からない......いや、カザン君の知らないところで非道なことを彼の父親がやっていたって可能性はなくはないけど......。

「領民の間では、土地を開墾させるだけ開墾させて全てを領主が奪うつもりだと言う噂が流れ始めました。」

......難民に土地を管理させて、自分たちで開墾させた土地には税をかけて土地を与える......それだけ長期的に見てに利益を回収するような考え方をする人が、そんな短絡的な理由で領民を襲うことはないだろう......。
疫病でも蔓延したとかならともかく......でも生存者がいる時点でそれは考えにくい。

「その襲撃があったとされる日、確かに父は兵を率いて演習へと向かいました。そして間違いなく演習は行われて、その場には父もいたのです。演習に参加した複数の兵士からの証言です。」

......カザン君のお父さんは嵌められたってことだろうか。

「しかし、領都に暮らす民は兵を引き連れて街を出る父を見ているのです。父に近しい物たちは当然父を信じましたが......その後も襲撃が二度程あり......人心は離れていきました。警戒のため開拓村に警備の兵を送り込みましたが、逆効果だったと言わざるを得ません......。」

確かに......兵士に襲われていると噂が広がっている所に兵士を送り込めば碌なことにならないだろう。

「対応をしようにも、動けばますます評判が落ちていき......最初の襲撃から半年と立たずに各地で反乱が起こりました。」

......早すぎない?
この世界の情報の伝達速度を考えてもそこまで情報が広まるかってのもあるけど......元々圧政をしていたってわけでもないのにそうぽこぽこ反乱って起こるものだろうか?
東方だから、で終わらせるには展開が早すぎるよね?
皆の顔を伺うと何かを考えるような表情になっている。

「武器を持って反乱となってしまうと鎮圧しないわけにはいかず......そうなると火に油を注ぐように勢いは増していき領軍からも地方に配置されているものを中心に離反する者たちも現れ......。」

「「......。」」

......全て仕組まれていたようにしか思えない。
展開の早さもそうだし、手の打ちようが無いように先回りされているような感じもある。

「反乱が起きてからそう時を置かずに領都内の商人や役人まで不穏な動きをするようになり......父は何かを悟ったのか、母と私達を領都から逃がしました。」

......妹さんは一緒にいるみたいだけど......お母さんは......。

「私たちは領都を離れ、母の実家に身を潜めていたのですが......暫くして父が討たれたとの知らせが入りました。それと同時に私達に懸賞金が掛けられたとも......。」

懸賞金の話はさっき捕まえた奴らも言っていたな......結構な高額のようだったけど......そこまでしてカザン君たちを殺さないといけない理由があるのだろうか?
言い方は悪いけど、領主が討たれているというのにその家族に価値があるとは思えないのだけど......。
首を持ち帰ればって言っていた気もするし、死んでいてもいいってことでしょ?
復讐を恐れた......とか?
でもこの場合、誰に復讐するべきかカザン君達は把握できていないと思うけど......藪蛇じゃないかな?

「母と祖父母は私達を逃がすために、あえて自分達の居場所を隠さずに家に留まり注意を引き付けてくれました。その間に妹と二人で何とか逃げてきたのですが......先日見つかってしまい......今日に至ります。」

話を終えたカザン君は手に持っていたお茶をゆっくりと飲む。
俺たちがグラニダの兵士から聞いた話は、乱心して悪政を敷いた領主がそれを憂いた家臣に打ち取られたと。
さらにその家族に懸賞金が掛けられているのは悪政の終わりを知らしめるためと聞いていた。
どちらの話が事実なのかは......もう確かめる術はないだろう。
既に趨勢は決し、負けた側であるカザン君側の語る言葉は塗りつぶされてしまっている。
葬られた真実はこの件を画策した黒幕を問いただすことでしか分からないだろう。
勿論、カザン君の話が正しければではあるが。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

処理中です...