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5章 東の地
第180話 追われていた側の話を聞いてみよう
しおりを挟む「どこからお話ししましょうか?」
「そうだな、得ている情報と違いがないか確かめたいし、話せる部分を判断して話してもらえるか?」
「承知しました。」
そう言ってカザン君は一呼吸置くとテントで寝ている女の子の方を見てから話を始める。
「私と妹のノーラはグラニダという街と辺りを治める領主の子供です。この付近の街としてはグラニダは比較的大きく領土も比較的安定していると言われていました。実際父の統治は穏やかなもので、税も他所に比べれば軽い物でした。」
「この地方でよくそんな統治が出来たものだな。」
「そう、ですね。比較的歴史が長かったのである程度の下地があったことと、難民の受け入れが上手くいったという所でしょうか。」
「難民の受け入れ?」
「元々兵を使って耕していた土地がありまして、そこを難民に引き継がせたのです。大抵の難民は家族単位ということもあり、比較的労働力としては雇い入れやすかったこともあります。」
屯田していた土地を引き継がせたってことか。
「難民に農業をさせたと言うことか?」
「えぇ。力のある兵士には新しい土地の開墾をさせて、既に収穫が出来る土地を難民に管理してもらい、その土地で取れた収穫物は全て回収。そこで働いた難民には食事と住居を保証します。さらに自分たちで新しく開墾した場合、その土地からの収穫物は通常の税率での徴収ということで土地は難民......ここまでくればもうその地の農民と言うことになりますが、その耕した人のものになります。勿論開墾してもいい場所はこちらから指定していますし、元々の作業をさせていた土地をしっかり管理している事が条件になりますが。」
食事と住居を保証されているなら......頑張れば自活できるようになるってことか。
トラクターのような農業用の重機のない世界だ。
一人で管理できる畑の広さなんてたかが知れているだろうし、それは一家族で考えても自分達の収穫だけで生きていけるとは思えない。
村単位で協力し合ってようやく農業で生活していけるのだろうね。
「勿論、土地を管理を命じられた難民の暮らしは楽なものではありませんでしたが......一度難民となってしまうと余程の幸運に恵まれなければ、そのまま命を落とすか、奴隷となるか......野盗になると言った所ですので......それに比べればかなりマシと考えた難民がこの辺にはかなり来ましたね。流石に難民の全てを受け入れることは出来ませんでしたが......。」
小作人として生活を保障して農業に従事させたってことだね......自由にできる時間がどのくらいあるか分からないけど......奴隷よりはいい待遇なのだろう。
難民が集まってくる程度には。
「最初の頃は周りの反対も大きかったと聞いていますが......利益が出るようになってからは反対していた者たちも掌を返したようです。僕が物心ついた時には初めの頃の難民は独立するまでに至っていまし。」
「親父さんの政策はかなり上手くいったんだな。一番きつい開墾を自分の兵士に従事させたから上手くいったのだろうが......。」
土地だけ渡して、はい、がんばれとは行かないもんな......。
「そうですね。不満がなかったとは行きませんが......領民の生活も上向きだったと思います。兵力も付近の勢力の中ではかなり高かったこともあり、盤石と言っても差し支えないと思っていました。」
でもカザン君と妹さんは今ここでグラニダの兵士に追われている......。
「しかし、それは突然起きました......いえ、私にとっては突然でした。元難民が開墾し、起こした村が虐殺の目にあったのです。そして重症を負いながらも生き残った人の証言からグラニダの兵士が襲ったと......。」
それは確かに突然だな......。
「しかもその兵を指揮していたのは父であったと......。」
「「......。」」
ありえないと言い切れないけど......そんなことをするメリットが分からない......いや、カザン君の知らないところで非道なことを彼の父親がやっていたって可能性はなくはないけど......。
「領民の間では、土地を開墾させるだけ開墾させて全てを領主が奪うつもりだと言う噂が流れ始めました。」
......難民に土地を管理させて、自分たちで開墾させた土地には税をかけて土地を与える......それだけ長期的に見てに利益を回収するような考え方をする人が、そんな短絡的な理由で領民を襲うことはないだろう......。
疫病でも蔓延したとかならともかく......でも生存者がいる時点でそれは考えにくい。
「その襲撃があったとされる日、確かに父は兵を率いて演習へと向かいました。そして間違いなく演習は行われて、その場には父もいたのです。演習に参加した複数の兵士からの証言です。」
......カザン君のお父さんは嵌められたってことだろうか。
「しかし、領都に暮らす民は兵を引き連れて街を出る父を見ているのです。父に近しい物たちは当然父を信じましたが......その後も襲撃が二度程あり......人心は離れていきました。警戒のため開拓村に警備の兵を送り込みましたが、逆効果だったと言わざるを得ません......。」
確かに......兵士に襲われていると噂が広がっている所に兵士を送り込めば碌なことにならないだろう。
「対応をしようにも、動けばますます評判が落ちていき......最初の襲撃から半年と立たずに各地で反乱が起こりました。」
......早すぎない?
この世界の情報の伝達速度を考えてもそこまで情報が広まるかってのもあるけど......元々圧政をしていたってわけでもないのにそうぽこぽこ反乱って起こるものだろうか?
東方だから、で終わらせるには展開が早すぎるよね?
皆の顔を伺うと何かを考えるような表情になっている。
「武器を持って反乱となってしまうと鎮圧しないわけにはいかず......そうなると火に油を注ぐように勢いは増していき領軍からも地方に配置されているものを中心に離反する者たちも現れ......。」
「「......。」」
......全て仕組まれていたようにしか思えない。
展開の早さもそうだし、手の打ちようが無いように先回りされているような感じもある。
「反乱が起きてからそう時を置かずに領都内の商人や役人まで不穏な動きをするようになり......父は何かを悟ったのか、母と私達を領都から逃がしました。」
......妹さんは一緒にいるみたいだけど......お母さんは......。
「私たちは領都を離れ、母の実家に身を潜めていたのですが......暫くして父が討たれたとの知らせが入りました。それと同時に私達に懸賞金が掛けられたとも......。」
懸賞金の話はさっき捕まえた奴らも言っていたな......結構な高額のようだったけど......そこまでしてカザン君たちを殺さないといけない理由があるのだろうか?
言い方は悪いけど、領主が討たれているというのにその家族に価値があるとは思えないのだけど......。
首を持ち帰ればって言っていた気もするし、死んでいてもいいってことでしょ?
復讐を恐れた......とか?
でもこの場合、誰に復讐するべきかカザン君達は把握できていないと思うけど......藪蛇じゃないかな?
「母と祖父母は私達を逃がすために、あえて自分達の居場所を隠さずに家に留まり注意を引き付けてくれました。その間に妹と二人で何とか逃げてきたのですが......先日見つかってしまい......今日に至ります。」
話を終えたカザン君は手に持っていたお茶をゆっくりと飲む。
俺たちがグラニダの兵士から聞いた話は、乱心して悪政を敷いた領主がそれを憂いた家臣に打ち取られたと。
さらにその家族に懸賞金が掛けられているのは悪政の終わりを知らしめるためと聞いていた。
どちらの話が事実なのかは......もう確かめる術はないだろう。
既に趨勢は決し、負けた側であるカザン君側の語る言葉は塗りつぶされてしまっている。
葬られた真実はこの件を画策した黒幕を問いただすことでしか分からないだろう。
勿論、カザン君の話が正しければではあるが。
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