上 下
178 / 528
5章 東の地

第177話 最初に飛び出したのは......

しおりを挟む


俺とナレアさん、そしてシャルが警戒する中、森から飛び出してきたのは......二人の人物。
一人は年の頃十五、六といった所だろうか?
長めの黒髪をポニーテールのように後ろに束ねているが......男だ。
中々のイケメンさんだが......それよりも目を引かれるのは肩に刺さっている矢だ。
服には血が滲む......と言うよりも血で染まっていて非常に痛そうだが、彼の表情は苦痛と言うよりも焦燥を感じさせるものだ。
そんな少年に手を引かれるようにしてして走るのは少女。
少年よりも一回り程幼い感じで......おそらく十歳くらいだろうか?
同じく黒髪でこれまた非常に整った顔立ちをしている。
腰に届くほどの髪も相まってお人形さんみたいだ。
どことなく雰囲気が似ているから兄妹といった所だろうか?
とりあえずそんな二人が息を切らせながら森から飛び出してくる。

「「......。」」

今にも飛び出しそうな自分を抑えつつ状況を見守る。
少年の肩に矢が刺さっている時点で間違いなくただ事ではないと思うのだが......彼らが極悪人という可能性は......零ではない。
少年は後ろを気にしながら女の子の手を引いているようだが......女の子の方がもう限界のようだな。
少年も女の子の限界を感じたのか一度立ち止まると二、三声をかけた後、女の子を抱き上げて再び走り出す。
俺もナレアさんもその様子を一声も発することなくその様子を盗み見ている。
......非常に人でなしになった気分がするな。
少年たちが再び移動を始めてすぐに森から武装した五人が飛び出してくる。
あまりいい雰囲気とは言えないな......。
兵士......だろうか?
統一された鎧に各々が剣を携えている。
その内の一人だけが弓を持っているが......流石に走りながら弓は撃てないだろう、剣を持つ四人の少し後方を走っている。
そこで強化した俺の耳に女の子の息も絶え絶えな言葉が聞こえてきた。

「......に、兄様......どうか......私を、捨て置いてください......兄様だけでも......。」

......。
ナレアさんにも聞こえたのだろう、表情が硬くなっている。
しかしすぐ傍でその言葉を聞いたであろう少年は唇を噛み締めながら走り続ける。
俺が飛び出そうと腰を浮かしたその時、後ろを走る男たちの言葉が聞こえてきた。

「絶対に逃がすな!首を持ち帰れば暫く遊んで暮らせ......!」

先に飛び出したのは俺だっただろうか?
それともナレアさんだっただろうか?
とりあえず俺が蹴り飛ばした奴以外にも吹き飛んでいる男がいるので、どちらが先に飛び出したかは......少し後方を走っていた、弓を持った男の背中の上でお座りをしているシャルに聞いてみよう。
もしくは男の関節を変な方向に極めながら、相手を窒息させているマナスでもいいかもしれない。

「な、なんだ貴様らは!俺たちをどこの......!」

「知りません。」

一瞬で仲間を制圧された最後の一人が何やら喚きだしたので、最後まで喋らせずに俺が顎を撃ち抜いたのだが......何故か男の鳩尾にナレアさんの拳がねじ込まれている。
まぁ特に同情はしないけど......少年たちの方を見ると肩で息をしながら立ち止まりこちらを呆けたように見ていた。
事情は......とりあえず彼らから聞いて......こいつらが起きたらこいつらからも聞いてみますか。
......おそらく先に飛び出したのはナレアさんだから怒られないよね?
とりあえず手枷と足枷を岩で作って拘束し、男たちはこの辺に転がしておく。
少年達のほうにはナレアさんが向かった。
まぁこういう場合は女性の方が相手も安心できるだろうしね。

「大丈夫かの?傷を見ようと思うのじゃが......近づいてもいいかの?」

少年は限界だったのか膝をついて顔を伏せている。
ナレアさんが声を掛けるも返事をする余裕はないようだ。

「す、すみません!お手......お手をおかけしますが!兄様の傷を見て頂けますか!?お願いします!」

「うむ、勿論じゃ。任せるがよい。」

女の子が叫ぶように言いナレアさんが二人に近づいていく。
少年の方も抵抗する意志はないようで、顔を上げたが敵意はないように感じる。
ただその顔色が非常に悪い、血の気が失せて真っ白と言った様子なのだ。
ナレアさんは少年の状態を調べた後俺の事を呼ぶ。

「容体はどうですか?」

「......血が足りておらぬな......そこは恐らく何とかなると思うが......。」

ナレアさんが少し言いにくそうに少女の方に視線をやる。
確かにこの子には聞かせない方がいいかもしれないな。

「少しこの者と話すので待っていてくれ。必ず助けると約束するのじゃ。」

「シャル、少し二人の傍にいてくれるかな?」

『承知いたしました。』

シャルでは女の子の不安は紛れないかもしれないけれど......少しはマシかもしれないしね。
少し離れた位置に移動した俺とナレアさんは声を落として話をする。

「おなごの方は疲労はあるが恐らく問題ないのじゃ。少年はさっきも言ったように血が足りぬ、早めに処置をする必要があるのじゃが、肩に刺さっておる矢の鏃が肉に埋もれておる。取り出すには切り開かねばならぬが......。」

う......聞いただけで下半身がキュッとなるというか......。

「流石に意識がある状態でやるのもな......ケイの魔法で意識を奪えぬかの?」

「恐らく大丈夫だと思います。後、痛覚も鈍らせることが出来るので、寝かせてその間に処置してあげるのがいいと思いますが......女の子の方も寝かせた方がいいかもしれませんね。お兄さんのそんな状態を見せるのもちょっと酷だと思いますし。」

「そうじゃな、その方がいいじゃろう。ではケイに任せるのじゃ。よろしく頼む。」

母さんの加護で使える魔法は俺の方がナレアさんよりも上手だからな......俺がやるしかないけど......鏃を取り出すのも俺がやるのかな......で、出来るだろうか?



「なるほどな......それで、なんで治療した側のケイがそんなに顔色を悪くしているんだ?」

森で食料を集めてきたレギさんが色々な感情と戦っている俺を見ながら聞いてくる。
俺の顔色が悪い原因は......まぁ言うまでもない。
兄妹を魔法で眠らせた俺は、少年の肩に火で炙って消毒したナイフで切り裂き鏃を取り出したのだ。
骨の隙間に刺さっていたので思いのほか深く矢が刺さっていたのだが......うぅ、骨とかなんか色々見えてしまった......。
鏃を取り出した後は一気に傷を治療しようとしたのだが......ナレアさんに止められてしまった。
とりあえず体の内側は魔法で癒し、比較的浅い位置はまだ血が出る程度に傷が残っている。
治癒力向上もかけているし、内部の方は完全に治療して増血もしてあるから大丈夫だとは思うのだけれど......。
縫合も......裁縫用の道具でしてあるが......個人的には魔法で全て癒してしまいたかったな。
まぁナレアさんが俺の事を心配してくれているのは分かるのだけど......。

「人の血をあれだけ見たのは......久しぶりです。」

いや、明るい場所で見たのは初めてだと思う。
倉庫警備の時は夜だったし、レギさんの時......ダンジョンはそもそも薄暗かった。
まぁ暗視はばっちりだったけど......。

「血なんか獲物を解体する時に結構見るだろう?」

「いや......ケイ君は解体してないよね?」

リィリさんの指摘にレギさんが考え込む。
......まずい、今までなるべく解体現場から離れていたのがリィリさんばれている。

「なるほど......じゃぁ、ウサギから始めるか。教えてやろう。」

レギさんが掴めてきたウサギを手渡してくる。

「あー、大丈夫ですよ?一応か、母さんからやり方は習っていますもん?」

「いますもん?」

動揺のあまり謎の語尾になってしまった。

「お?そうなのか。じゃぁ血抜きして捌いて寝かせておいてくれ。」

そう言ってレギさんが書いた用のナイフを渡してくる。
俺はきょろきょろと辺りを見渡し......シャルと目が合う。

「あーシャル。口出しはいいが、手を貸すのは無しだぞ。これもケイの為だ。」

レギさんがシャルに釘を刺す。

『......私はケイ様の傍に常におります。ケイ様がお手を煩わす必要はないと思います。』

そんなレギさんの言葉を完全にスルーするシャル。
......非常にシャルに甘えてしまいたいところだけど。

「ありがとう、シャル。でも少し慣れておいた方がいいと思うんだ。やり方だけ見ておいてもらっていいかな?」

『承知いたしました。ケイ様がそうおっしゃられるのであれば。』

俺はウサギを持ってキャンプから離れた位置に移動する。
シャルとマナスが付いて来てくれたが......マナスも教えてくれるつもりなのだろうか?

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

処理中です...