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5章 東の地

第174話 見慣れた光景、見慣れぬ光景

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「思っていたよりも活気が......というか普通の街ですね。」

「まぁこの辺で戦闘が起きているってわけじゃないみたいだしな。龍王国に比べると衛兵が重装備って感じだが、違いはそんなもんじゃないか?」

俺とレギさんが不自然にならない程度に周りを見ながら感想を言う。
ファラの配下から情報をもらった俺たちは全員で正面から入街を果たしていた。
入街料としてはかなり高かったが入ること自体には問題なかった。
まぁ殆どが賄賂だけど......。
寧ろ都市国家の方が身分証明が必要だったりと厳重だったかもしれないな。

「では手分けして必要な物を買ってくるとするかの。集合は門の所でいいかの?」

「せめてお昼くらいはこの街で食べたいなー。」

「ふむ、では昼頃にどこかに集合するかの?」

「でしたらマナスに分裂してもらいましょうか。それで集まるのは問題ないと思います。」

そう言うとマナスが分裂してリィリさんの肩に飛び乗る。

「よろしくね。マナスちゃん!」

そう言ってリィリさんは肩に乗ったマナスを撫でる。
マナスも喜んでいるようだね。

「じゃぁ、レギにぃ行こうか!」

「おう。ケイも一人でフラフラするなよ?」

俺に釘をさすと二人は人ごみの向こうへ消えていく。
そういえばマナスが俺とリィリさんにだけ着いて行くように分裂したのはこれを予想したからなのか......。
マナス......俺より色々考えているなぁ。
肩に残っているマナスを撫でていると、ナレアさんがこちらを見ながら声をかけてくる。

「それじゃぁ妾達もいくとするかの?食材はリィリ達が担当してくれるから妾達は雑貨関係じゃな。」

俺の知らない間に既に役割分担まで決まっていたのか......。

「燃料と洗剤と......保存食は僕らの方でも買った方がいいですよね?」

「そうじゃな。後は......布が少し欲しいのう。」

「布ですか?」

「うむ......最近風呂に入るじゃろ?少し体を拭いたりする布を増やしたいのじゃ。」

「それは素晴らしい判断です。流石に洗濯ものを干しながらシャル達に走ってもらうのは悪いですしね。」

旗じゃなくてタオルを掲げて走る感じになるかな......。
一応洗って干しているけど、生乾きだと気持ち悪いしね。

「まぁ毎日移動せずともいいじゃろう。」

「洗濯の日って感じですかね。」

「シャル達がいくら凄かろうと休みは必要じゃろ。今までは村や街に入れば数日休憩していたが、今は移動を優先しておるからのう。」

「確かに休みは入れないといけませんね......。」

『走っている時間はそこまで長くないので私達は問題ありません。』

シャルはそう言ってくれるけど......やはり休みは入れながら移動するようにしよう。
シャルは言うまでもなく、グルフも疲れていても絶対に言いそうにないしな......グルフは倒れるまで走るし。
俺はシャルの事を軽く撫でてお礼を言っておく。

「しかし、やはり水を用意する必要がなくなったのは楽じゃな。」

「そうですね。料理にも何の気兼ねもなく使えますし、個人用の水筒に僕たちが用意しておけばある程度は大丈夫ですしね。」

「薬関係もあまり使わぬからのう。便利な物じゃな。」

何が便利とは言わずにナレアさんはからからと笑う。

「まぁこれが無かったら僕は街から出られなかったかもしれませんね......。」

魔力を使えなかった時を思い返すと......全ての事をシャルがやってくれていたからな。
毛布を広げるくらいしかやってない気がするよ。

「ほほ、生存と言う意味ではご母堂よりもらったものは最高じゃろうな。」

回復や強化は単独行動には非常に便利だからな......もし回復魔法が無かったら初めてのダンジョンでレギさんが......。
嫌な想像が頭に浮かんだので頭を掻いてかき消す。

「便利さと言う点では魔道具も負けてはおらぬが、一つ一つの効果や応用力が桁違いじゃからのう。」

ナレアさんが顎に手を当てながら呟く。

「まぁ、ケイの実家から貰ってきた魔晶石のお陰で色々と新しい魔道具を強引に作れるようになったしのう。通信用の魔道具の改良版ももうすぐ出来るじゃろう。」

「通信用の魔道具と言えば、アースさんは今どうしているのでしょう?」

ふと洞窟を求めて旅立ったアースさんの事を思い出す。
別れてからそこそこ時間は経過しているけど......まだ在野のスケルトンなのだろうか?

「あぁ、あやつならようやく快適な洞窟を発見したとかで住居環境を整え始めたとか言っておったのう。」

「なるほど......あれ?アースさんからもらった通信用の魔道具があるのに、それとは別に通信用の魔道具を作っているのですか?」

「ん?そうじゃが......あぁ、そういえばそういう話はしておらなかったのう。」

そう言ってナレアさんは手を合わせると楽しそうに笑みを浮かべる。
......難しい話じゃないといいけど。

「アースの魔道具は管理機能を統括している制御用の魔道具と声を飛ばす魔道具、声を聴く魔道具と別れておるのじゃが、制御用の魔道具はかなり大がかりなものでのう。携帯するには向かないのじゃ。」

映画とかでみたデカい通信機を背中に背負った兵隊みたいな感じなのかな?

「妾が目指しているのは一つの魔道具で手軽にやり取りを出来るようにすることじゃ。勿論アースの持っておった魔道具を参考にしている部分もあるのじゃがな。複数の機能を持たせた魔術式は消費する魔力量が桁違いじゃからのう。譲ってもらった魔晶石でなければ実現は無理なのじゃ。」

「なるほど......神域産の魔晶石があってこそというわけですか。」

「うむ。今試しているのは常時起動型の魔術式と待機型の魔術式を一つの魔晶石に組み込むことじゃな。これが出来るようになればこの前ケイに指摘された欠点を解決できそうなのじゃが......。」

俺が指摘した欠点というと......常に丸聞こえになるってやつか。

「なるほど......。」

「ケイから教えてもらった電話という物の話を聞いて、それを再現出来ればと思ったのじゃ。」

俺から聞いた話を基に別の技術で再現するって言うのは凄いよな......。

「なるほど......完成するのを楽しみにしておきます。」

「うむ。ケイも頑張って魔術式を描けるようにするのじゃな。」

「う......頑張ります。」

今でもデリータさんに作ってもらった魔術式を複写しているのだけど......一応三回中一回は成功するようにはなってきたが......まだ実用レベルには程遠いな。
でもまぁ、成功した魔道具のストックも増えてきたし、そろそろレギさん様に魔道具を準備するのもいいかもしれないな。
そんなことを考えながら歩いていると俺のすぐ傍を荷車が通ろうとしていたので立ち止まる。
何気なく目を向けた荷車の上には檻のようなものが乗っていて、その中には何人かの人が入れられていた。

「......え?」

思わず出た呟きが聞こえたのかその中にいた人と一瞬目が合う。
......いや、目が合ったと思うのは気のせいかもしれない。
実際その人は何も見えてはいない様な、ひどく暗い淀んだ眼をしていたからだ。

「......ナレアさん。あれはもしかして......。」

「うむ。ケイの想像通り......奴隷じゃな。」

「......レギさんが以前口にしていたからなんとなく予想はしていたのですが......奴隷がいるのですね。」

「龍王国より西の地では殆どの国で表向きは禁止されておるからのう。」

「表向きは......ですか?」

「流石に大きな街では大ぴらには出来ないとは思うが......農奴や鉱山奴隷として働かせているというのは少なくないはずじゃ。」

......そうなのか。

「まぁこちらのほうでは戦争奴隷や犯罪奴隷が普通に取引されておるようじゃな。」

「それは、捕虜とか犯罪を犯した人が奴隷にさせられるということですか?」

「うむ。その認識で合っておる。人が人を殺すのが戦争じゃからな。減った分を奴隷と言う形で補わねば労働力も兵力も足りないのじゃよ。」

人は簡単には増えないからな......戦争って本当に得する部分が分からないな。
まぁ......得する人がいるから起こるのだろうけど......。

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