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5章 東の地

第165話 魔神

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「その......世界を滅ぼしかねない物というのは?」

俺の問いに母さんが一度足を止める。

『一つは魔神と呼ばれる異世界の神です。この魔神は召喚を行った国の首都を一夜にして壊滅、上層部を突如として失ったその国は大陸での最高峰の兵力を生かすこともなく魔神に無策に突撃し早々に滅びました。』

魔神......随分と不穏な雰囲気の名前が出てきたな。
いや、実際世界を滅ぼしかねないって言われていたやつなんだから不穏どころじゃないか。

『大陸で最大の版図を誇った国が瞬く間に滅んだことにより世界は混乱の渦に巻き込まれました。各地で起こった人々による争い、そして戦乱の兆し......しかし、その混乱もまったく別種の混乱に飲み込まれることになります。魔神による脅威は人同士の諍いごと全てを破壊しつくすものでした。』

その状態に至っても権力争いってのは無くならないんだね......。
まぁ、その争いごと魔神に吹き飛ばされたみたいだけど......。

『我々の加護とは異なる魔法の力を振るい。その威力は私たちの想像をはるかに超えるものでした。いくつもの国が滅び、魔神を倒そうと多くの人が戦いそして死にゆき......その戦いの激しさに危機感を覚えた神獣も戦いに参加しました。』

母さんが再び歩き出し、俺たちは後に続く。

『昼も夜もなく、魔神は暴威を振るい......いつしか魔神の眷属まで生まれる始末。魔神が召喚されてから一年足らずで主だった国は殆どがその国に住む人達ごと消えました。』

大きな戦いで文明が崩壊するほどだったとは聞いていたけど......。

『生み出された眷属の力も凄まじく、神獣でなければ相手が出来ないほどでした。結局、私達神獣と人間が力を合わせても魔神を倒すことは出来ずに......異世界の力によって滅ぼすに至りました。その召喚を行ったのは鳳凰自身で......何が起きたのか分かりませんでしたが、魔神と鳳凰が戦っていた場所が白い光に包まれたかと思うと、途轍もない規模の爆発が起こりました。』

大規模な爆発か......か、核爆発とかかな......?

『世界を滅ぼしかねないと感じた召喚物の二つ目がその爆発です。私はかなり離れた位置でその爆発を見たのですが......後からたどり着いた現場の酷さは筆舌に尽くしがたく......応龍の魔法でも修復するのにかなりの時間を要したほどです。大地は抉れ、木々は燃え尽き空までもが淀んでいるようでした。』

......召喚魔法怖すぎるな。
いや、それだけの被害を出す異世界の技術が怖いのか......?

『魔神が死ぬと同時にその体にため込まれていた魔力が世界中に散らばりました。魔神は周囲の魔力を吸い取るような性質を持っていたのですがその身に宿っていた魔力にもその力が残っていたようです。魔人の魔力は淀み溜り......その場所はダンジョンと呼ばれるようになりました。』

ダンジョン......大戦の原因になった者の魔力が原因って前にシャルから聞いたんだっけな?
それが魔神ってことか......。

『ダンジョンから魔物が生まれるのも、放置すると周りの魔力を吸収していくのも全て魔神の特性と言う訳です。結局この世界から魔神の全てを消すことは出来ずに......ダンジョンは今でも存在するとのことでしたね?』

「はい。攻略はされているみたいですが、今でも新しいダンジョンは発生しています。」

『そうですか......魔神の爪痕はこの世界を未だ苛んでいるのですね。』

母さんは沈痛そうな雰囲気で呟くように言う。
しかしすぐに気を取り直したように話を続ける。

『鳳凰が魔神を倒したまでは良かったのですが......その時に少し問題がありました。』

「大爆発以上の問題がですか?」

『そうですね......少なくとも私達神獣はそう考えました。』

......母さん達が魔神やそれを消し飛ばした爆発以上に問題にしたこと......世界を滅ぼしかねない物以上......?
......すごい聞きたくなくなってきたな......。
皆の顔を見ると......リィリさんやナレアさんは緊張を含んだ真剣な面持ちといった所だが、レギさんは非常に苦々し気な表情になっている。

『......少し脅し過ぎましたね。鳳凰と魔神が戦った時に、鳳凰が行った召喚は一度ではありませんでした。大爆発を起こした召喚を含めて、五回。鳳凰は魔神を倒すために異世界から召喚を行っています。』

......それってかなり危険な賭けだよね。
下手したら魔神以上の混乱が起こったかもしれない......現に魔神ごと鳳凰様も爆発によって亡くなられたみたいだし。
俺たちの考えが母さんに伝わったのか、母さんは苦笑しながら言葉を続けた。

『あなた達の懸念は分かります。ですが私達にはそれ以外にとれる手段がもう残されていないように思えました。それほどまでに魔神の暴威に世界もそして私たちも衰弱しきっていたのです。』

その当時の状況を知らない俺達だからこそリスクの方が気になるんだろうか?
......いや、リスクの事を母さんたちが考えなかったとは思えない。
それでも、異世界からの召喚魔法に賭けるしかない程追い詰められていたってことか......。
母さんたちが自分たち以外の何かに縋るしかない程の相手......本当に魔神というのはどのような強さだったのだろうか......。

『使われた召喚魔法は五回、私達神獣の魔力をそれぞれ一度ずつ使って行使されました。ですがあの大爆発のせいか、それとも鳳凰が使った召喚魔法のせいか理由は定かではないのですが、召喚されたものがすぐにこの世界に現れることはなかったのです。』

「つまり、問題と言うのはその時呼び出された異世界からの召喚物ということですね?」

俺の問いに母さんが頷く。

『その通りです。自分たちの魔力を使って呼び出されたからか、呼び出されたものが出現する場所を私達はなんとなく把握することが出来ました。そこで出現地点に先回りして妖猫の空間魔法でその空間ごと封じ、さらにその辺り一帯に私達自身の力で結界を張りました。』

それが神域......と言うことは今向かっているのは......。

『異世界から呼び出される場所も、時間もそれぞれかなり違ったようです。私と応龍の魔力を使った召喚は比較的距離が近く、時期も同じくらいに呼び出されたので応龍の神域は知っていました。しかし応龍の話を聞くに、上手いこと妖猫が最後になったようで良かったです......っとここです。』

そう言った母さんが足を止めて視線を向ける。
俺たちは母さんに並び視線を向けたのだが......。

『私の魔力で呼び出された異世界の召喚物がこれです。召喚された瞬間にその空間ごと封じました。』

「こんな小さなものが世界を滅ぼしかねないほどの爆発を起こしたのですか?」

『分かりません。あの大爆発が起きた時、鳳凰が召喚した物を直接目にした者はいないのです。だからこれが爆発を引き起こしたものなのかは分かりません......ですが何を引き起こすか分からないのでこのように封じることにしたのです。』

......なるほど。

「ふむ......板のようにも見えるが......不思議な光沢があるのじゃ。」

「......ギルドカードみたいな大きさだけど......厚みがかなりあるね。」

「金属が使われているようだが......随分と鮮やかな色だな。爆発させるにはもったいなくないくらいに綺麗じゃないか?」

ナレアさん達が遠巻きに、召喚された直後の状態で空中に縫い留められているものを見ながら話しをしている。

「......ケイ。どうかしたのかの?先ほどから何やら難しい顔をしておるようじゃが。もしかしてアレの事を知っておるのかの?」

俺の様子に気づいたナレアさんが声をかけてくる。
......まぁ、知っているというか。

『......ケイ。皆さんに説明してあげてください。』

そうか、母さんは俺の記憶を見たから知っているのか......。

「......これは、僕のスマホですね。」

うん、数年ぶりに見るけど俺のスマホで間違いないだろう。

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