狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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4章 遺跡

第150話 パンチ

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地下五階の探索は順調に進んでいる。
というか、部屋が全然なく通路もずっと一本道だった。
別行動をしたファラ達とも合流して話を聞くと反対側の通路も似たような感じだったらしい。
一応こちら側とは違い途中に魔道具で開閉をする扉があったらしいが違いはそこだけだ。
そして今俺たちの目の前にあるのは同じように魔道具で開閉する扉がある。
この階には扉が四つ、内三つが魔道具で開閉出来る扉か。
通路は四角く外周を回るように伸びており、最初の分かれ道をどちらに進んでも同じ場所に合流するようになっている。
扉は先程俺達が見つけた扉を含めて外向きに三つ、内向きについている一つが今俺たちの目の前にある扉だ。
通路の長さは大して長くはなかったが、態々囲むように通路があって内向きの扉は一つと言う事からこの扉の向こうがこの階のメインだろう。
警備のゴーレムがいないのは不思議だったが......恐らく扉の向こうにいるのだろうね。

「ふむ......ここの扉は先程の扉とは少し違うようじゃ。ただ魔力を流すだけでは開かぬようじゃ。」

扉の脇にある魔道具を調べていたナレアさんが顔を上げる。

「何か扉を開く条件があるのですか?」

「うむ......今調べておるが......なるほど......面白い仕組みじゃな。」

「もう分かったのですか?」

「うむ、魔力によって個人を照合しておる様じゃ。登録されている人間しか扉を開くことが出来ぬようじゃな。」

「なるほど......。」

確か冒険者ギルドの登録証についてた魔晶石に魔力を流して個人を識別する仕組みがあったっけ......あんな感じなのかな?

「......それって私達じゃ開けられないってことだよね?」

「そうなるのう。」

リィリさんの問いにあっさりと肯定するナレアさん。

「......どうするんだ?」

「この魔道具は無効化するとして......レギ殿、こじ開けられぬかのう?」

ナレアさんに問われたレギさんは扉を凝視したり拳を握って軽くたたいてみたりしているが......。

「指をひっかけられるような場所もないし厳しいな......厚みもかなりありそうだ。ぶち破るならつるはしなんかの道具がないと無理そうだ。」

「その辺の道具は持ってきていないのう......上にいる騎士団もそういう仕事の為に来ているわけではないから望み薄じゃしのう。」

レギさんの返事を受けてナレアさんが困ったように言う。
俺もレギさんを真似て扉をノックするように叩いてみるが返ってくる感触も音も重厚な感じで、とてもではないが簡単には破壊出来そうに無い。
......強化魔法全力で掛けて蹴ってみるか?
しかし俺がそう提案しようするよりも早くシャルが声をかけてきた。

『ケイ様。良ければ私が扉を破壊しますが。』

「出来る?」

『はい。問題ありません。』

「ナレアさん、レギさん。シャルが扉を破壊してくれるそうです。」

「ふむ。それは助かるのじゃ。シャルよ、よろしく頼む。」

「シャル。お願いしていいかな?」

『承知いたしました。』

シャルが俺の肩から飛び降りて扉に向き合う。

『ケイ様。少し離れていてください。』

「うん。分かった。皆さん少し離れましょう。」

俺達が少し離れた位置に移動したのを確認したシャルが扉を睨んだと思った次の瞬間、シャルの姿が消え何かが激突したような音が俺たちの耳に届く。

「「......。」」

シャルの姿は見えないが、扉は......壊れていない。

「シャル!?」

慌てて扉に駆け寄りシャルを探す。
シャルが壊せなかった?
でもシャルが一体どこに?
ってかさっきの激突音は?

『申し訳ありません、ケイ様。予想していたよりも柔らかかったようで。』

シャルから念話が届く。

「シャル!?どこにいるの?っていうか無事!?」

『はい、大丈夫です。今は扉を抜けた先にいます。すぐに戻ります。』

どうやら無事なようだ。
っていうか扉の先にいる?
どういうことだ?

『すみません、戻りました。』

混乱している俺をよそにいつも通りのシャルが姿を現す。
よく見たら扉に穴が開いていて、そこからシャルがこちら側に戻ってきたようだ。
これは......あれですか?
余りの速度で扉に突っ込んだ為、余計な破壊がされずにシャルの体の形そのままにくり抜いて貫通したと?

「ふむ......この穴では子犬くらいしか通れぬのう。あぁ、ファラやマナスなら通れるかのう。」

何故かにやにやしながらナレアさんが声をかけてくる。
いや、これはシャルに向かって言っているのかな?
シャルがナレアさんの方を見ているので恐らくその考えは間違っていないだろう。
まぁでも、確かにこのサイズじゃ俺たちは通れないね。
ここから穴を広げればいいかな?
それかここに手をかけて強引に開けられるかな?
そんなことを考えているとナレアさんとシャルの会話が終わったのか、シャルが扉に近づいて行き徐に猫パンチ......いや犬......いや狼パンチを扉に繰り出した。
次の瞬間そこにあった扉は粉々に砕け散った。
なんというか......すごいシュールな光景だった。
体長三十センチにも満たないであろう子犬がひょいっといった感じで扉をぺちんと叩いた次の瞬間、轟音と共に扉が砕け散ったのだ。
動画を投稿したら凄いアクセス数を稼ぎそうだ。

『失礼しました。これで通れるかと思います。』

「......う、うん。ありがとうね。シャル。」

労いの意味も込めてシャルの事を撫でる。
嬉しそうにシャルが尻尾を振って気持ちよさそうに俺の手に身体を擦り付ける。
遠慮しているのかいつもならすぐに自分から体を離すのだが今日のシャルは随分と積極的だ。
俺はシャルを抱き上げると抱きしめるように抱えながら片手で撫でる。

『......ふぁ......。』

シャルが気持ちよさそうに尻尾をゆらゆらと振っている。
ふむ、今日のシャルは随分と甘えん坊だな。
珍しい事なので存分に甘やかすことしよう。
俺はシャルを優しく撫で続ける。
うーん、もふもふが気持ちいい。

「......まぁ、シャルのお蔭で通れるようになったのじゃから労ってやるのは構わんが......今は危険地帯におるのじゃからな?ほどほどにするのじゃ。」

ナレアさんから冷たい目線とお小言を貰ってしまった。
確かに遺跡でほのぼのとやっている場合じゃないな。
しかも新しい道が開けた直後だ、どんな危険があるかもわからないのに......ナレアさんが怒るのも当然だ。

「申し訳ありません。」

シャルも思うところがあったのだろう、ナレアさんの方を向いて念話をしているようだ。

「......では、この先に進もうと思うのじゃが......ファラよ、この先は妾達で探索を進める。お主はもう一つの扉の方を調べて欲しいのじゃがいけるかの?」

少しの間シャルと二人で話をしていたナレアさんが皆の方に向きなおり提案してくる。

『扉を破壊してしまってもいいのですか?』

先程のシャルの破壊を見ていたファラがナレアさんに問いかけている。
ファラもこの遺跡の扉壊せるのか......。

「......試しに魔道具に魔力を流してみて欲しい。それでもし開かないようであればこちらに戻ってきてもらえるかの?開いた場合はその先を調べて欲しいのじゃ。」

『承知いたしました。』

そう言ってファラとマナスの分体がこの場から離れていく。
二人を見送った俺たちはシャルの破壊した扉の先へと歩を進める。
通路は短く、左右に扉が一つずつ。
そして通路の奥に扉が一つ。

「まずは左右の扉から調べるのじゃ。」

ナレアさんが周囲を警戒しながらまずは左手の扉へと向かう。
どうやら魔道具による仕掛けは無いようでナレアさんは部屋の中に入って行く。

「皆も来て大丈夫じゃ。特にこの部屋には仕掛けはないようじゃ。」

ナレアさんに続いて部屋に入るがこの部屋には何もないな。
空っぽの部屋は大した広さもなく用途が分からないけど......休憩室とかかな?
一通り部屋を調べ終わったのかナレアさんが部屋の外に出て反対側の扉を開ける。

「ふむ、こちらも何もないのう。」

どうやら向こう側の部屋も何もないらしい。
俺が部屋から出ると同時にナレアさんが反対側の部屋から出てくる。

「本命は奥の扉ですかね......?」

「そうだと良いのう。これで同じような部屋があったらがっかり感が半端ないのじゃ。今までにない感じの扉まで用意しておってこれではのう......。」

ナレアさんはあまり表情に出していなかったが、厳重さの増した遺跡に内心ワクワクしていたんだろうな。
ナレアさんの為にも何かあるといいのだけれど......いや、安全で楽しい感じな奴でお願いしたいね。
まぁ、俺の願いはあまり届かないのは良く知っているのだけどね......。

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