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4章 遺跡
第139話 遺跡を目指して
しおりを挟む準備を整えた俺たちは件の遺跡に向かって出発した。
王都から左程離れた位置ではない為、明日の日暮れ前には到着出来るだろう。
「皆が乗れるような大きめの乗り物を買って、それを魔法で飛ばすってのもありじゃないですか?」
シャルに併走するように飛んでいるナレアさんに話しかける。
「移動手段としてかの?」
「えぇ。その方がシャル達も楽でしょうし、移動速度も上げられるかと。」
『お望みでしたらまだまだ速度を上げることは可能ですが。』
しまった......シャルの矜持を傷つけるようなことを言ってしまったみたいだ。
「ごめんね、シャル。そういうつもりじゃなかったんだ。シャルは平気だろうけどグルフは流石にシャルの全速力にはついて行けないからね。」
『......申し訳ありません。』
「いや、謝らなくて大丈夫だよ。こっちこそごめんね。」
「まぁ移動は今のままでいいのではないか?流石に空飛ぶ馬車とかは目立つじゃろ?人目につかないように移動するにしても馬車ではその地点に行くまでに時間がかかるからのう。どうしても飛びたいならシャル達を飛ばせばいいのではないじゃろうか?」
「なるほど......それもそうですね。まぁ移動速度も現時点でかなりのものですしね......。」
空飛ぶ馬車はある意味憧れではあったけど......普段は馬に引いてもらう必要があるとか、色々と俺たち向きではないね。
「フロートボードで移動するよりは確実に早くなったしのう。このくらいの高さで飛ぶなら魔力もあまり使わずに済むしな。もっと早く飛んでも問題なさそうじゃ。」
そう言ってナレアさんは少し速度を上げる。
『......。』
それに合わせるように......いやナレアさんよりも少しだけ前に出るようにシャルが加速する。
「......。」
それを見たナレアさんがさらに加速する。
それを見たシャルが......。
「あの......二人とも?」
「なんじゃ?」
『なんでしょうか?』
「えっと......あまり速度を上げるとグルフがついて来られなくなるからね?」
「ふむ......確かにその通りじゃな。」
『......申し訳ありません。』
そう言った二人はお互いの顔を見ながら速度を......緩めずにどちらかと言うと上げていっている。
心配になってグルフ達の方を振り返る。
後ろから付いて来ているのはグルフに乗ったレギさんとリィリさん。
そしてグルフの前を走るファラだ。
ファラは体が小さいし表情は良く見えないが......グルフはちょっと真剣な感じが伺えるが、まだこの速度なら大丈夫って感じみたいだ。
それにしてもファラは凄いな......あんな小さな体で普通にシャルについてきている......。
まぁファラが凄いのは前から分かっていたことだけど......それよりも今はどんどん上がっていく速度について尋ねるべきだろう......。
「あの......二人とも?寧ろどんどん速度が速くなっていっていませんかね?」
「そうかの?気のせいではないか?シャルよ、お主、速度を上げたりはしておらぬよな?」
『......速度を上げているつもりはありません。』
......つもりはなくても上がっていますね?
再度振り返ってみたらグルフのがかなり真剣な感じになってきてるもん......。
「二人とも、そろそろ落ち着きましょうか。グルフがそろそろ全力に近い速度になっていますよ。余裕を見て明日遺跡に到着予定ですが、このままだと今日中に着くかもしれません。」
「早く着く分にはいいと思うのじゃ。」
「その場合グルフがまた死にそうなほどぐったりするじゃないですか。かわいそうなので速度を緩めてあげてください。」
『......。』
「シャル、お願い。」
『畏まりました。』
シャルが了承して速度が緩やかになる。
後ろを見ると、少しだけグルフの息が上がっていたようだが大丈夫そうだ。
もう少し進んだら予定していた休憩地だしそこまでは頑張ってもらおう。
「ところでナレアさん......頼んだ魔道具って......どうなっていますか?」
「魔道具と言うと......昨夜、妾を押し倒さんばかりに迫って来た時に言っておった奴の事かの?」
「えー、そんなこともありましたね......。」
「全力でリィリに止められておったのう。てっきり妾の愛らしさに我慢が出来なくなったのかと思ったのじゃが......。」
「......御迷惑をおかけしました。」
「まぁ、今はとりあえずいいのじゃ。それで魔道具じゃが......流石に昨日の今日では妾でも無理なのじゃ。」
「す、すみません。それはそうですよね......。」
前回ナレアさんは数日徹夜したり、一月近くかけて新しい魔術式を作っていた。
それが昨日頼んで今日の時点でどうにかなっているはずがない。
「まぁ、ケイにそれだけ熱烈に求められるというのも悪くないのじゃ。なるべく急いで作ってみるが、遺跡にいる間は流石に厳しいのじゃ。すまんのう。」
「いえ、それは当然だと思います。以前神殿で開発していた時みたいに無理はしないでください。気長に待っていますので。」
「ほほ、了解したのじゃ。試作が出来たらまた教えるのじゃ。」
「ありがとうございます。宜しくお願いします。」
少し......いや、かなり焦りすぎていたようだ。
そう遠くないうちにお風呂にゆっくり入れるはずだ。
焦れず、焦らず、ナレアさんを待とう。
「ここが遺跡の入り口ですか......。」
俺達の目の前には山肌に埋もれた建築物の入り口がぽっかりと穴を開けていた。
その手前には数人の騎士が遺跡の中と外の両方を警戒するように見張っている。
「そうじゃな......過去に起きた地滑りで埋もれていたのが今回の地滑りでまた顔を出したのじゃろう......正直こんな緩い地盤には家は立てたくない物じゃがのう。何を考えてここに居を構えたのやら。」
「当時はそんな心配がなかったのでは?」
「......だとしても山の中腹であることには違いないのじゃ。」
「ナレアさんが王都で言っていたように研究所じゃないですか?秘匿する必要がある研究ってところでしょうか。」
「もう少し山の麓のほうであれば避難所と言う可能性もあったのじゃがな......流石にここまで山登りの必要な避難所は考えにくいのう。」
山登りを楽しむ文化とかあれば、休憩所とかって可能性もあるけど......この世界の山はそんなお気楽な場所じゃないしな......。
いや、向こうの山だって油断すれば簡単に死ぬか......。
「こうして入り口を見るだけでも色々と想像が出来て面白いですね。」
「うむ!そうじゃろう?先人達が何を考えていたかは正確には分からぬじゃろう、だが歴史の流れから推察することは出来るのじゃ。ここで起こった出来事は必ず妾達にどこかで繋がっている。その歴史を、想いを一つ一つ解き明かしていく。本人たちからすれば迷惑な事この上ないかもしれぬがのう。じゃが妾はそれを知りたい。何を残され、何を残されなかったのかを。ついでに妾達には受け継がれていない発想の魔道具を見つけて参考に出来れば御の字じゃな。」
ナレアさんが遺跡、先人達への想いについてとても楽しいそうに語っている。
俺も歴史は好きだが、ナレアさんのように情熱をもって自分で解き明かして行きたいって程ではない。
日本にいた頃にお城とか遺跡公園とか行ったことはあるけど......見ているだけで結構テンションは上がったものだけどね。
「盛り上がるのは構わねぇが、突入は明日だからな。向こうにある騎士団の野営地を拠点に使わせてもらえるんだろ?挨拶とか済ませちまおうぜ。」
遺跡の入り口を眺める俺達にレギさんが声をかけてくる。
「うむ、今日は準備をしっかりするのじゃ。明日は遺跡探索じゃからな!しっかり体を休めるのじゃ。」
野営地に向かうナレアさんは今にもスキップをしそうなほど上機嫌で本当に楽しみにしていたんだなぁと一目で感じられる。
とは言え、この遺跡はかなりの犠牲者を出した遺跡だ......気を引き締めていかないとな。
遺跡の入り口からは中の様子は伺えない、どうやら入ってすぐ階段になっているようだね。
これ以上ここにいても分かることは特に何もなさそうだ......ナレアさん達を追いかけよう。
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