138 / 528
4章 遺跡
第137話 天地魔法
しおりを挟む「遺跡にはそんなすぐに行かないですよね?」
魔術師ギルドからの帰り道、俺はナレアさんに問いかける。
「妾としてはすぐにでも行きたい......と普段なら言うところじゃが、今はそれ以上に興味のあることがあるのでな......そちらが優先じゃ。練習する時間も欲しいし......暫くは街に滞在したいと思っておるがどうじゃろうか?」
街中なので何がとは言わないが、まぁ明白だろう。
「僕としてもその方が助かります。練習もしたいですし、遺跡に行くなら準備はしっかりしておきたいです。」
「俺もそうだな。流石に未発見の遺跡だから情報はないだろうが、出来る限り準備はしておきたい。」
「そうだねー遺跡は楽しみだけど、ご飯は期待できないし、しっかり食べていかないとね。」
リィリさんだけちょっとおかしなことを言っている気がしたけど......概ね時間をかけて準備をすることに賛成のようで良かった。
流石に応龍様の魔法を全く練習せずに遺跡に突っ込むのは勿体ないしね。
それから俺たちは応龍様との約束の日までの数日をのんびり過ごした。
レギさんは仕事をしていたみたいだけど......。
『よく来てくれた、ケイよ。そしてその輩よ、私が応龍だ。』
「こんにちは、応龍様。今日は宜しくお願いします。」
『あぁ。楽しみにしていた。』
......何を楽しみにしているかは何となくわかっているけど......流石にナレアさんに怪我をさせるわけにはいかないので、事前に初めて魔法を使う時は魔力を極力抑えて使うように言ってある。
「こちらが以前加護ををお願いした、友人のナレアさんです。」
「御初御目にかかる。ケイの友人でナレアと申す。今回は不躾な願いを聞いてくれて感謝するのじゃ。」
敬ってはいてもナレアさんはナレアさんだな......その物怖じしない感じは凄いね。
『はっはっは!見事な心胆だな!ケイとはまた違った感じで面白いぞ!お前の話はケイや眷属より聞いていたが、想像以上であったな!』
......やっぱり娯楽に飢えているみたいだね......応龍様は。
いや、応龍様に限った事じゃなさそうだけど......。
気が遠くなるような年月、神域に閉じこもっているんだ。
「ほう?どんな紹介をしていたか気になる所だが......まぁ今それはよい。しかし、なるほど......妾の方も想像以上であったわ。」
『はっはっは、驚いてもらえたようで何よりだ。人間と会うのは数千年ぶりでな、年甲斐もなくはしゃいでしまったようだ。』
今回応龍様は雷と共に空から降りて来たからな......かなり演出過多だった気がする。
後、空から降りてくるのは応龍様の鉄板なんだろうか......俺の時もそうだったけど......人が来るって分かっているのに態々空飛んでいないだろうし......。
「お主とは面白い会話が出来そうじゃ。」
『そうだな。後で色々と話をしよう。とりあえずお前に加護を与えるとするか。近くに来てくれ。』
「うむ、楽しみじゃ。」
そう言ってナレアさんが応龍様の前に進み出る。
応龍様が側に来たナレアさんに手をかざす。
やはり俺の時と同じように特に外見的な変化は何もなく、ナレアさんも意外だったようで少しキョトンとした表情をしている。
『これで加護は与え終わった。しかし、加護を与える時は皆同じような表情になるな。今も昔も変わらん。』
ナレアさんの反応に満足がいったのか応龍様が機嫌良さそうに語る。
「ほほ、無理からぬことだと思ってもらいたいな。昔は分からぬが、少なくとも今の世では魔法とはおとぎ話の世界の物だ。どんな凄いことが起こるかと期待してもおかしくはなかろう?」
ナレアさんもニヤニヤしながら応龍様に答える。
何故かこの二人は相性がいいようだ......面白い事好き同士だろうか......?
『では、試す前に少し説明をしよう。私の加護によって使える魔法は天地魔法。天と地を操る魔法だ。農耕には非常に便利だ、土は簡単に耕せるし天気もそれなりに自在だ。まぁ広範囲に効果を及ぼすとなると相当な魔力量が必要になるがな。他の神獣の加護に比べると消費する魔力量は桁違いと言える。勿論少ない魔力量での運用も可能だ。』
「......なるほど。」
ナレアさんが神妙な顔をしている。
『雷や風、水を操ることも出来る。だが雷は扱いが難しいので慣れないうちは使わないほうが良いな。よく自分で生み出した雷に撃たれるものがいたぞ。』
はっはっはと気軽に笑っているが、それは結構シャレにならないよね......?
『後は地の中や空を自由に動くことも可能だ。』
「ほう......それは面白そうじゃ。」
『だが地の中は呼吸が出来ないからな。あまり行かないほうが良いと思うぞ。』
顔の周りに酸素......というか空気を生み出したりすればいけないかな?
いや土があるから無理か......口の中に生み出しても吐き出せないしな......。
よし、地の中に行ったとしても一瞬だな......。
『逆に空を飛ぶ場合は色々と自由に出来るぞ。まぁ風や気温、空気の対策はする必要があるがこれも全て魔法によって解決できるからな。日差しが強いから日焼けには気をつけよ。』
気を付けるのはそこですか......?
ってか応龍様も日焼けとかするのかな......?
「何事も試してみないと分からない危険があると言った所じゃな。」
『実践に勝る経験はないからな。存分に楽しんでみてくれ。そうそう、空を飛んでいるときに魔力が尽きると確実に死ぬからな。魔力の残量には注意するのだぞ?』
それは確かにそうだろうけど......日焼けより先に言うべきじゃないですかね?
『基本的なところはこんなものだな。後は色々と試してみると良い。では、加護に問題がないか一度魔法を使って確かめてみると良い。初めてだし......大地をへこませてみるとよかろう。』
やっぱり自爆落とし穴をやらせるつもりか......。
『頭の中で地面をへこませる、穴を開けるイメージをするのだ。明確にイメージすればするほど思い通りの効果を得ることが出来る。後はそのイメージに必要な魔力量を流すだけだ。必要な魔力量は感覚で分かるはずだ。』
「......なるほど、確かに今までにはなかった感覚があるな......これが加護によって得た力と言う訳か......。」
ナレアさんは目を瞑りながら発動させたい魔法のイメージを構築しているのだろう。
『慣れるまではイメージしやすいように体を動かすことも有効だ。地面に穴を開けるのなら手を地面につける、とかな。』
「うむ、了解したのじゃ。では今からやってみる。」
ナレアさんがしゃがんで地面に手を置く。
俺はナレアさんの横で万が一ナレアさんの身に何かが起こった場合に備えておく。
一応注意はしておいたが、何しろ初めての事だ。
いくらナレアさんでも完璧に使いこなせるとは行かないだろう。
「よし......それでは、行くのじゃ!」
次の瞬間、俺は突然宙に放り出されたような感覚に陥り目の前が真っ暗になる!
「おわぁぁぁ!?」
落下は一瞬で終わり俺は突然出現した穴の底に尻もちをつくような形で着地する。
「おぉ!出来たぞ!これが魔法か!」
『見事だ!ナレアよ!』
頭上から二人のいぇーい!と言った感じの声が聞こえてくる。
意気投合しているようで何よりですね......。
とりあえず立ち上がり穴の淵から二人の様子を伺う。
「これが大地を操る感覚か、今まで魔道具によって同じような効果を発動させていたが。規模も速度もけた違いだな......。」
『魔晶石に魔法を込めた物の事か?アレは複雑な制御には向いていないからな。加護も持たないものが擬似的に使う以上のものではない。』
「なるほど......しかし本当にこれは凄いな......。」
「ところでナレアさん......他に何か言うこととかありませんか?」
楽しそうにしているナレアさんに穴の中から声をかける......。
「ん?おぉ、ケイよ何処に行ったのかと思っておった所じゃ。」
『ふむ、ケイよ。突然地面に消えていったと思ったがどうしたのだ?』
何で俺の周りはこう......。
とりあえず穴の淵に手をかけて上に登るついでに......。
『おや?ナレアよ。お前の足元の土が消えたようだが?』
「ふむ......不思議な事もある物じゃな。神域ではこういうことがよくあるのじゃろうか?」
俺が穴から這い上がると、ナレアさんの足元にぽっかり開いた穴とその穴の上で浮いているナレアさんの姿があった。
既に俺よりも魔法を使いこなしていますねぇ!?
『ふむ......私の把握している範囲では起こった事はないな......今の世ではどうだ?穴はよく開くのか?』
「ついぞ聞いたことがないのう......。」
「......僕も聞いたことがないですねー、不思議ですねー。」
俺が発言すると応龍様とナレアさんが揃ってこちらを見る。
応龍様はワクワクした雰囲気で......ナレアさんは満面の笑みだ。
いや、先に俺を穴に落としたのはナレアさんじゃないですか......。
神域に冷たい風が吹いた。
4
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる