136 / 528
4章 遺跡
第135話 何があったか魔術師ギルド
しおりを挟む悪夢のような理不尽な一日が終わった。
俺の何が悪かったのだろうか......?
未だにその答えは出ていない。
いや、半分は分かっている。
レギさんを生贄に差し出そうとしたのは確かに俺が悪かったと思う。
しかしそれ以外に関しては何を言われても俺の落ち度とは思えなかった......。
とはいえ過ぎたことを言っても仕方がない。
昨日の事はさて置き、現在俺たちは魔術師ギルドの件を詳しく聞くために俺たちはヘネイさんの家を訪ねていた。
「皆さま、重ね重ね厄介事ばかり押し付けてしまって申し訳ありません。」
開口一番ヘネイさんが頭を下げる。
ヘネイさんと会うたびに謝られている気がするのは......気のせいじゃないな。
そしてそんなことを考えたのは俺だけではなかったようで......。
「ほほ、最近ヘネイは謝ってばかりじゃな。気にする必要はないのじゃ。今回謝るべきはそこではなく、妾の事を信じずに遺跡の件を黙っていたことじゃ......。」
「......。」
早速脅しつけているナレアさんに沈痛な表情を見せるヘネイさん。
まぁナレアさんの普段の行いのせいだとは思うけど、話題を逸らしたことをチクチク言われるヘネイさんも自業自得なところはあるからなぁ。
しかし、今回俺は貝になると決めている。
余計なことを言うと......余計じゃないことを言ったとしても藪蛇なのだ。
何だったら表情を隠すために仮面とか着けてたかったくらいだが......怪しすぎるのでそれはやめた。
「......その件については大変失礼をいたしました。」
「全くじゃ。妾のように広い心をもって受け止められる者はそうおらぬ。注意するのじゃぞ?」
「......寛大なお心に感謝いたします。」
ヘネイさんの返答に微妙な間があるのは......心の中で歯を食いしばっているのだろうな......気の毒だとは思います......。
「まぁ、狭量な友人が困っているの見放すことは寛大な妾にはとても出来ぬのでな、勿論手を貸してやるのじゃ。それでなんじゃったかのう?魔術師ギルドの人手不足の原因が遺跡にあるとかないとか?」
「......。」
ヘネイさんがぷるぷる震えている。
今にも爆発してしまいそうだ......。
「ふぅ、冗談はこれまでにしておこう。ヘネイよ、詳しく聞かせてもらえるか?」
ヘネイさんが爆発する直前だろうか?
今までの様子とは打って変わって真面目な表情になったナレアさんがヘネイさんに先を促す。
一瞬肩透かしを食らったようにたじろいだヘネイさんだったが、一度深呼吸をして話を始める。
その様子を見たナレアさんがニヤっとしたような気はするが......今は非常にまじめな顔をしているのできっと見間違いだろう。
「......はい。半年ほど前になりますが王都より北東の位置に遺跡が発見されました。長雨の影響か地滑りが発生したらしく、被害調査に出ていた騎士団がその現場にて発見しました。」
「ふむ、山の中から見つかった遺跡か......となると何かの研究施設か保養施設といったところかのう?」
「詳細についてはまだわかっておりませんが、国の研究者たちもそのように予想しておりました。それで早速調査団を派遣するという話になったのですが、魔術師ギルドが調査団として名乗りを上げまして......。」
「......何故じゃ?何故そこで魔術師ギルドが名乗りを上げるのじゃ?」
「本人たちは魔道具の研究の為と言っていましたが......。」
「それは分からぬでもないが......魔術師ギルドはそう言った組織ではあるまい。庶民向けに細々とした生活用魔道具を生産したり修理するのが主な仕事じゃろう?遺跡から出土する魔道具は確かに便利なものもあるが、それを解析したりする技術はギルドにはなかろう。」
なるほど......魔術師ギルドって響きからナレアさんやデリータさんみたいに凄い魔道具を色々開発したりする人たちが集まっている場所なのかと思ったらイメージ的には家電量販店とカスタマーサポートって感じなのかな?
「えぇ......それは国の方も理解していたのですが......本人たちの強い希望があったようで......国の研究者達もそこまで言うなら第一陣として探索してみればいいと......。」
「......まぁ国の研究者からすれば、自分達より数段劣る技術の者達が何かを発見したりできるわけがないと。そしてギルドからすれば同じ魔術師の癖に研究者たちばかり遺跡の恩恵を受けて成果を上げているのが鼻持ちならない。そんな感じじゃな?」
「......はい。おそらくはそういった確執があったのだと......。」
「それで、その第一陣は戻ってこなかったのじゃな?」
「はい。第一陣として向かった魔術師ギルドの幹部や構成員数名と国の研究者五名。それに護衛の騎士が十六名。誰一人として戻りませんでした。」
「......ふむ。」
「更に救出部隊として送り込まれた第二陣も全滅したと考えられています。」
......遺跡ってそんなに危険な場所なの?
誰も戻れないって......二陣の人達は相当慎重に向かっているはずだ。
それが伝令の一人として戻ることが出来ないなんて事があるのだろうか?
レギさんの表情を見るが相当難しそうな顔をしている。
ヘネイさんも自国民に少なくない犠牲が出ているのだ、その心境は推して知るべしだろう......。
「ふむ......まぁ何かしらの研究施設と考えればさもありなん、と言った所じゃな。」
しかしそんな重苦しい雰囲気の中あっけらかんとした様子でナレアさんは言う。
「その遺跡遠征によってギルドの構成員の半数以上、特に幹部の大半を失った魔術師ギルドは通常の運営に支障をきたすようになり......残っていた方々も運営もままならない組織に残るはずもなく......現在は副ギルドマスターを含め三人が残っているだけとなっております。」
「......それはもう人手不足とかいう話ではないのじゃ。」
元々のメンバーが何人いたのか知らないけれど......三人で王都の生活用魔道具の製造、販売、修理なんて出来るわけがないよね......。
「はい、実質は解散と言ってもいい状態ですね。ギルド本部も既に売りに出され、今は路地奥の小さな建物をギルドとして使っているようです。」
「なるほどのう。」
俺が行ったあそこか。
こじんまりした所だとは思ったけど......そうか元々は違う場所だったのか。
「まぁギルドの事情は分かったのじゃ。とはいえそこに関してはしてやれることは何もないがのう。ヘネイの望みは遺跡の調査じゃな?」
「......はい。出来れば遺体を連れて帰ってきて頂けると嬉しいのですが。」
「いや......流石に数カ月も経った遺体を持って帰ってきてやるのは無理じゃ。見つかったら遺品くらいは持って帰ってきてやる。後は安全確保が出来たらそちらで何とかしてやってくれ。」
「かなりの危険があると思いますが......。」
「危険のない遺跡の方が珍しいのじゃ。まぁそれは問題ではない......。」
そう言ってナレアさんは俺達の方を見る。
「聞いての通り相当な危険が予想される遺跡なのじゃが妾は行こうと思う。手を貸してもらえるじゃろうか......?」
少し自信がなさそうに俺達に確認してくるナレアさん。
まぁ何十人も亡くなった人達が出たような場所に付いて来て欲しいと言うのならそんな感じになるのもわかるけれど......俺は戦争が行われている場所に皆を誘ったからな......危険度はどっちが上なんだろう......?
「僕は構いませんよ。遺跡は初めてなのでどのくらい力になれるか分かりませんが。」
「そうだな......俺も遺跡は初めてだ。かなり慎重に挑む必要があると思うが、力にはなるぜ。」
「何事も経験だよ。楽しみだねー。」
「感謝するのじゃ。妾にとっても仲間と一緒に遺跡に潜るのは初めての経験じゃ、楽しみじゃな。」
リィリさんとナレアさんがきゃっきゃしだした。
実に楽しそうだけど......物凄い危険な場所に行く話ですよね?
その姿を見ているヘネイさんは少し青ざめているようだ。
3
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる