上 下
131 / 528
3章 龍王国

第130話 仲良くしようではないか

しおりを挟む


「一体どういう意味じゃ?そのお主が応龍ではないというのは。」

『そのままだ、私は応龍様ではない。応龍様の眷属のクレイドラゴンだ。』

自分を応龍様ではないと宣言したクレイドラゴンさんはそのまま説明を続ける。
何があって自分が応龍様の名前を騙ることになったのか。
龍王国の成り立ちや自分がここにいる理由、そして神獣という存在について。

『以上だ。今まで騙していてすまなかった。』

「いや、気にしないでくれ。それにお主自身が龍王国で信仰されている応龍であることに違いはない。妾が口を挟むことではないし、そこに敬意は持っておる。」

そこまで言ったナレアさんは考え込むように目を瞑る。
ナレアさんとしてはクレイドラゴンさんが何者であるかは大した問題ではないのだろう。
龍王国の人達にとっては大問題だろうが、俺とナレアさんだけしか知らないのであれば秘密が漏れる心配はほぼ皆無だし、そもそもそんなことに疑いを持つものがいるだろうか?
一般的には存在すると言われていても直接会うことが出来るのは巫女と龍王国の国王くらいなものだ。
会える、会ったことがあると言うだけで大問題だ。

「妾が加護を貰うことが出来ない理由は分かった。しかし何故妾にそれを話した?加護を与えることは出来ないと言うだけで良かったのではないか?」

『うむ......それについては......。』

クレイドラゴンさんがこちらに顔を向ける。

「僕から説明させてもらいます......いや、弁明ですかね?」

「ふむ?聞こう。」

ナレアさんがこちらに向きなおる。
俺がいなければナレアさんは魔法の事を知らなかっただろうが、今回クレイドラゴンさんが秘密を打ち明ける必要があったのは俺の為だ。
軽い秘密ではないし、何かしら恩返し出来ることはないか考えておこう。

「今回の依頼の件がとりあえず終わりを迎えたので、僕は近日中に応龍様の所に行くつもりです。その際に応龍様に加護を頂くようにお願いします。」

「......ふむ。」

「それで......その......。」

「うむ。」

改めて言おうとして気付いたけど......これってかなりかっこ悪いというか、酷い話じゃないだろうか?
嘘つくのが気まずいので国を揺るがしそうな秘密を暴露させましたって......今更ではあるが酷い話だ。
確かにナレアさんはこの事を言って回る様な人ではないが、巻き込んでしまっているのだ。
クレイドラゴンさんにもナレアさんにも思いっきり迷惑をかけている......本当に自分勝手で浅慮な行いだ。
......とはいえ、ここで言い淀むのもおかしいだろう、責めるのはナレアさんであり自責は意味のない行為だ。

「ナレアさんに不義理......いえ、嘘をつくのは気まずいので色々と無理を通してもらいました。ナレアさんが加護を貰えるかどうかは応龍様次第ですが、その場までナレアさんの話をもって行くことは僕の役目だと思います。魔法の事を教えたのも僕ですからね。」

「ほほ、自分が気まずいからと巻き込んだと?」

「えぇ、すみません。そうなります。」

「ほほ......少し調子が戻ったかの?うむ、そのくらいの方が小気味よいのじゃ。」

ナレアさんが嬉しそうに笑う。

「ケイは深く考えすぎじゃ。確かにこれは龍王国にとってはかなりの秘密ではある。じゃが妾にもケイにも関係なかろう。己の内に秘めておけばいいだけの話じゃ。そんなことよりも妾は魔法を使う可能性を残してもらえた方が嬉しいのじゃ。ありがとう、ケイ。」

「そう言ってもらえると助かります。」

「しかしこれで疑問に思っていたことが解けたのう。」

「疑問ですか?」

「うむ、実は応龍......いやクレイドラゴンか、その者の魔力についてな。」

「クレイドラゴンさんの魔力ですか?」

「妾がある程度魔力の量を計れるのは以前話したじゃろ?それでな......ケイやシャルに比べるとクレイドラゴンの魔力は少ないように感じてな。まぁ正確な量が分かるわけではないのじゃが多い少ないくらいはわかるのでな......それで、シャルは怒るかもしれないが、もしかしたらシャルが天狼なのではと思っていたくらいじゃ。」

あぁ、そういう事か。
眷属としてクレイドラゴンさんは下級で能力的にはファラと同じくらいってシャルが言っていたっけ。
下級の竜だったっけ......?
今神域の外にいる生物としてクレイドラゴンさんは破格なのだろうけど、それもシャルとは比べ物にならない感じみたいだ。
それを考えればナレアさんがシャルの事を母さんと間違えてもおかしくないのかな?
そういえば、シャルは影狼の族長の子供だったっけ?
それって眷属としてはどのくらいの序列なのだろう?
今まで気にしたこともなかったけど......母さんの所に戻る前に聞いてみるかな?

「なるほど。それはシャルとしては許しがたい誤解かもしれませんね......。」

肩に掴まっているシャルが物凄く不機嫌そうなので胸に抱きなおす。
シャルやクレイドラゴンさん達にとって、自分が仕える神獣様達は何よりも尊ぶものなのだと思う。
これを言ったのがナレアさんじゃなかったら、シャルが飛びかかっていただろうことは想像に難くない。

「うむ、だからシャルよ。思っただけとは言えすまぬ。お主の主を汚すつもりはなかったのじゃ。」

シャルに頭を下げるナレアさん。

『ケイ様、失礼いたします。』

そう言ったシャルが俺の腕から地面に飛び降りて少しだけ体を大きくする。
大型犬くらいかな......?
シャルはナレアさんを見上げ、ナレアさんはシャルに目を合わせる。
念話で会話をしているのだろう。
二人の邪魔をするわけにはいかないので少し後ろに下がり、クレイドラゴンさんに話しかける。

「ここから神域はそう遠くないと言っていましたけど、どのくらいかかるのですか?」

『神域までは私の背中に乗って頂ければすぐです。ここからでは見えませんがもう少し上の方にあります。』

「なるほど......今日すぐにと言うわけにはいきませんが、近いうちに連れて行ってもらいたいので宜しくお願いします。」

『はい!その時が来たら全身全霊を込めて送迎させて頂きます!』

そこまで気合込めなくてもいいのだけど......。

「あ、そうだ。クレイドラゴンさんに聞きたいことがあったのですが、ここから王都までヘネイさんに念話を届かせていますよね?ここまでの長距離の念話はどうやったら出来るのでしょうか?」

『これは魔道具の効果です。妖猫様の加護を込めた魔道具を使い彼我の距離を失くしているらしいです。妖猫様の加護ですので詳しい効果はわかりませんが、この魔道具を持っていると念話が届くので歴代の巫女に持たせています。』

そう言ってクレイドラゴンさんは口の中にある魔道具を見せてくれた。
胃収納......?

「なるほど......ありがとうございます。」

距離を失くすか......妖猫様の加護は優先して欲しいところだけど......応龍様なら妖猫様の神域の位置を知っているはずって母さんが言っていたし、次に向かうのは妖猫様の所にしよう。
俺が妖猫様の魔法に思いを馳せている間にナレアさん達の話は終わったようでこちらに近づいてくる。

「すまぬの。ついでにいい機会じゃったので、色々と話をさせてもらったのじゃ。」

『すみません、ケイ様。お時間を取らせました。』

「まぁ、これからはシャルとも話す機会が多くなるかもしれぬな。」

「そうなのですか?二人が仲良くなれたようで何よりです。」

俺がそう言うと二人は顔を見合わせる。
何となく二人とも不敵な雰囲気を醸し出している気がするけど......何か二人で企んでないよね?

『......神子様、アレはそういう感じなのでしょうか?』

二人の雰囲気に気圧されたのか、クレイドラゴンさんがどうやら俺だけに念話を飛ばしてきているようだ。
俺も何か不思議な感じは受けるけど......仲良きことは美しき哉、だよね?

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

処理中です...