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3章 龍王国

第127話 母は大変

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「完成したのじゃーー!」

ナレアさんが神殿に籠って数日。
やたらとハイテンションのナレアさんが神殿の入り口から飛び出してきたのだが、目の下の隈が凄いことになっている。
一睡もしてないのかな......?
食事を運び込んだりはヘネイさんがしていたけど、心配そうだったのはこのせいか......。
因みに俺は数日神殿の外で野宿していた。
そこまでする必要はなかったのかもしれないけれど......まぁ、何となくだ。
深い意味はない。

「お疲れ様です、ナレアさん。完成したのですね。」

「うむ!この魔道具を配備すれば今回使われた魔道具は無力化出来るのじゃ!具体的に説明するかの?」

「いえ、簡単にお願いします。」

細かい説明をしてもらっても絶対に分からない。

「うむ、では簡単に言うとじゃな!この魔道具を配備すれば今回使われた魔道具を無力化出来るのじゃ!これで安心じゃな!」

よし、簡単な説明をしてもらった結果新しい情報は安心出来るってことだけだね。

「そうですね。龍王国の人達も安心できると思います。流石ナレアさんですね。」

「うむ!他愛もないのじゃ!」

満面の笑みを浮かべたナレアさんが近づいてくる。

「量産は国に任せればよいのじゃ!」

「そうですね。ナレアさんは少し休んだ方がいいと思いますよ。」

「うむ!全く寝ておらぬ!寝るのじゃ!」

次の瞬間俺に抱き着くように倒れ掛かったナレアさんを受け止める。

「大丈夫ですか!?」

「......ぐぅ......。」

崩れ落ちそうになるナレアさんを支えてみると既に眠りについていた。
少し驚いたけれど......スポーツ選手の日よけの様な隈だったしな......仕方ない。
とりあえず不安定な体勢なので抱きなおしてしっかりと支える。
......いや、特に何も考えてないですよ?
お風呂に入ってない筈だけど綺麗な銀髪......プラチナブロンドだなぁとか、小柄だけどちゃんと女性の体形なんだなぁとか......静かにしていると可愛いなぁとか、まぁ他にも色々と......考えてないですよ?

「......こほん。」

特に理由はないけど咳ばらいをしてナレアさんを横抱きにする......所謂お姫様抱っこってやつだね。
身体強化のお蔭か分からないけど非常に軽いね......。
とりあえず神殿の寝床に運ぼう。
後はヘネイさんが来たら体を拭くものとか、お願いしておこうかな。
しかし、なんだろうね?
この前シャルとこの先の話をしたからか妙に気になる感じなのかな?
ナレアさんを運んだら少しシャル達と運動でもしよう。



「ケイ様。まだ神殿の外におられるのですね。何をされていたのですか?」

「少し体が鈍っていないかと思いまして、少々体を動かしていました。」

「そうでしたか。ずっと神殿に詰めてもらっていますから......ご不便をおかけします。」

「いえ、大丈夫ですよ。それより先ほどナレアさんが魔道具を完成させたみたいですよ。」

「本当ですか!?それでナレア様は......。」

「あぁ、すみません。完全に力尽きたみたいで。今は眠っています。」

「やはり寝ておられなかったのですね......食事をお持ちしても作業を止めずに反応もして下さらなかったので心配はしていたのですが......。」

やはりそんな感じだったのか。
もう少しちゃんと様子を見るべきだったかな......。

「どのような魔道具なのはお聞きになられていますか?」

「えぇ、簡単にですが。」

本当に簡単にしか聞いていないけど......。
俺はナレアさんに説明してもらった内容を伝える。
と言っても殆ど伝えられることはないけど......。

「そうですか......魔術式を提供して頂けるなら複製は何とかなりそうです。ナレア様が目を覚ましたら是非詳しくお聞きしたいですね。」

「暫くは目を覚まさないと思いますが......。」

「お話を聞けるのは早くて明日でしょうか......。」

「恐らくは......。」

ナレアさんの電池の切れ方を考えると明日も目が覚めないかもしれないな......。

「すみません、冷えても大丈夫な食事と飲み物を用意しておいてもらってもいいですか?目を覚ました時に軽く摘まんだり出来るようなものがいいです。空腹で目が覚めそうですしね。」

「畏まりました。用意させていただきます。ケイ様は何か必要なものはありませんか?」

「僕は特には......あ、ナレアさんの体を拭くものとか新しい物を頂けますか?」

「用意いたします。温かい水は少し難しいですね......すぐに水を温められるように魔道具を持ってきておきます。」

「宜しくお願いします。」

うん、目が覚めて落ち着いたら多分体を拭いてさっぱりしたいだろう......シャワーがあればいいのだけれど......上下水道があるとはいえ、まだ風呂もそこまで普及してないみたいだしね......。

「それでは後程お持ちいたしますね。」

ヘネイさんは柔らかく笑うとこちらに背を向ける。
とりあえず用意しておいてもらうものはこんなものでいいかな?
まぁまだしばらくはナレアさんも寝ているだろうし、思いついたらヘネイさんにお願いしよう。
ふとヘネイさんに視線を戻すと丁度ヘネイさんが振り返っていた。

「何か忘れものですか?」

俺が問いかけるとヘネイさんが少し悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「いえ。ただ......ふふ。ケイ様がナレア様のお母様のようで、少し可笑しかっただけです。」

「......そこはせめてお父さんじゃないですかね?」

「お父様というには......少し雰囲気が違いますね。威厳と言うか、貫禄と言うか......少し違う気がします。やはりお母様と言う方がしっくりきます。」

「ちょっと納得しがたいですけど......威厳や貫禄がないのは確かなので納得しておきます。」

「ケイ様はとても落ち着いた優しい雰囲気ですので......お母様という雰囲気にぴったりだと思います。」

「そうでしょうか......。」

「はい。ナレア様の事宜しくお願いします。」

そう言ったヘネイさんは今度は立ち止まることなく森の向こうへと消えて行った。



View of ???

この辺までくれば魔道具が使えるようになるのか。
とんでもない性能の魔道具だ、こいつは便利だ。
作った奴の頭がおかしいことを除けば手放しで褒めてもいいだろう。
さて、頭のおかしい上司にそろそろ連絡しますか。

「こちら監視者。聞こえますか?」

『......。』

「こちら監視者。聞こえますか?」

『......。』

「三度目は言いませんよ?もう報告しなくていいですか?」

『あー待ってください。聞こえています、聞こえていました。報告下さい。』

やっと反応しやがったか。
この魔道具とんでもない性能だが、相手が見えないのは困るな......。

「龍王国の件ですが。覚えていますか?」

『あー、えっとー勿論覚えていますよ。ハイハイ、龍王国ですね、龍王国。』

......こいつ絶対忘れてるな。
こっちは必至こいて潜入していたってのに......死んだ奴らも浮かばれないな......。

「覚えているみたいなので詳細は省きます。結論から言うと作戦は失敗。ですが渡されていた魔道具の効果は言われた通りの性能を発揮しました。」

『なるほど......ところで、その魔道具ってどんなものでしたっけ?』

作戦はどうでもいいってことか......?

「魔物の行動を制限して引き寄せるものと視覚を共有するものです。」

『あぁ!あれですか。魔物の方は只の在庫処分ですからどうでもいいですが、視覚共有はうまくいきましたか。そちらは報告書で詳細をお願いします。あ、今使っている遠距離会話用の魔道具も含めてお願いしますね。』

「承知しました。」

『ところで作戦って何をやったのですか?』

目の前に居たら蹴り飛ばしていたかもしれないな......その点この魔道具は優秀だと言えるな。
上司を殺さずに済む。

「......応龍のいる神域って所の調査ですよ。魔物を使って騎士団を王都から離してその隙に部隊を突入させました。」

『あーそんな作戦立てました、立てました。失敗ですか?』

「失敗です。王都から騎士団を引き離すところはうまくいきましたが、肝心の神殿に警備がいました。かなりの手練れで突入部隊は逃げる暇もなく制圧。退路を確保していた別動隊も何故か全てバレていたようで衛兵に捕縛されました。」

『へー神殿に警備がいたのは驚きですね。しかし作戦がバレていましたか。』

「嗅ぎつけられたことは不可解ですが。突入自体はお粗末なものでしたね。折角前半は上手くやったのに何故最後の詰めが投げやりな感じだったのですか?」

『えー何故でしたっけ?確か計画を立てている最中に新しい魔道具を思いついたとかそんな所じゃないですか?』

「......お前な......流石にそれはどうかと思うぞ?部隊は全滅だ。」

『あー確か東の方で失敗した部隊でしたね。そちらも在庫処分ってことで押し付けられていたのですよ。』

「......ちっ、東の方の失敗ってあいつらだったのか。かなりの大ポカだって聞いているが。」

『まぁこちらの事も少しバレてしまったみたいですし、処分されても仕方ないでしょうね。ところで口調がおかしいですよ。』

「......申し訳ありません。」

『いえいえ、普段通りのあなたの方が私は好きですよ?』

「......。」

『そうそう、次は大規模に動く予定ですよ。西に移動してください。』

「承知いたしました。」

『準備にかなりかかると思うので手伝いをお願いします。』

めんどくさそうだ......。
こっちはのんびりとしていられれば満足なんだがな......。

『そういえば、神殿を守っていたのは誰でしたか?顔は確認できたのでしょう?』

「冒険者ですよ。」

『冒険者が神殿の警備を?信じられませんね。』

「二人だけでダンジョンを攻略した頭のおかしい奴らですよ。まぁ警備していたのはその片割れだけでしたが。」

『そんな命知らずな冒険者がいるのですか。気が合うかもしれませんねぇ。』

頭がどうかしているって所は一緒だろうが......気が合うかは微妙だな。

『まぁ戻ってきてから詳しく聞きま......あ、面白い魔道具を思いつきました。それじゃぁ私は忙しくなるので失礼しますね。』

こうなったらコイツはもう駄目だ。
魔道具の事しか頭に残ってない。
在庫処分の魔道具とは言えそれなりに時間をかけて作戦を進めたというのに最後があれだ。
もう少しやりようがあっただろうに......恐らくあいつにとっては魔道具の実験以外はどうでもよかったんだろうがな。
多分ノリで調査しようとして、計画を立てている最中にどうでもよくなったって所か。
上司には絶対にしたくない類の人間だが......残念ながら上司なんだよな......。

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