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3章 龍王国
第126話 これからの事をぼんやり考えてみる
しおりを挟むナレアさんが出て行ってから数時間は経っただろうか?
今俺は体のサイズを元に戻したシャルにもたれかかりながらマナスとじゃんけんをして遊んでいた。
「じゃんけん、ぽん!」
俺はグーでマナスはパー。
今の所四十連敗と言ったところだろうか?
教えた最初の頃は普通に勝ったり負けたりだったのだが、途中から急にマナスが強くなったのだ。
「......マナス、何かずるしていない?」
俺が聞いてもマナスは横に震えるだけ......否定しているのは分かるけど......本当かな......?
「シャル、どう思う?」
『そうですね......相手の手を読んで相手より強い手を出すゲームという事であれば......マナスのやっていることは反則ではないかと思います。』
それって何かしているってことだよね......?
ぎりぎりずるじゃない感じ......?
「俺の心を読んでいるわけじゃないよね?」
『いえ、マナスは恐らく......。』
そこまでシャルが言った瞬間、マナスが抗議するように跳ね始めた。
マナスはシャルの念話が聞こえているのかな......?
いや、それよりもバラされるとまずいとマナスは思っているわけだ......。
「マナス......それは何かずるをしているってことかな......?」
マナスは先程よりも激しく震える。
物凄い勢いで否定しているけど......絶対何かしているはず......。
今後もし何かを決める時があってもマナス相手にじゃんけんはダメだな。
「マナスがそこまで否定するならいいけどさ......。」
激しく震え続けているマナスに手を伸ばし捕まえると両手でムニムニする。
少しひんやりしていてぷにぷに感が堪らない......。
「グルフやファラもいたらなー。」
ふと、ここにはいない二人に思いを馳せる。
ファラは相変わらず街での情報収集や解析に勤しんでいることだろう、グルフは......寝てそうだな。
この依頼が終わって応龍様と話が出来たら、少しみんなでのんびりするのもいいかもしれない。
今現在、警備中とは思えないのんびりっぷりだけど......。
『呼びますか?』
「呼べるの?」
『私の遠吠えであれば外にいるグルフまで届きます。』
「それ町中が大騒ぎになったりしない?」
『......。』
うん、とんでもないことになりそうだ。
恐らく今回の魔物の騒ぎなんて目じゃないくらい。
それにグルフが街の中に入ってくれば......止めになるね。
「グルフ達を呼ぶのは諦めるよ。」
『申し訳ありません。』
「いや、仕方ないよ。それにこれは只の我儘だから気にしないで。しばらくここに籠っていたし、さっきはちょっと悩んじゃったからね。皆でのんびりしたかったんだ。でも仕事が終わってからでいいよね。今度街の外に出てみんなでのんびりしたいな。」
『そうですね。ここまで長期に渡って閉じこもっていたことはありません。私としてはすぐにでも外に出てゆっくりと休んでもらいたいのですが......。』
シャルの尻尾が俺を包み込むように巻き付いてくる。
「あはは、これは仕事だからね。そういう訳にもいかないよ。何もなければもうしばらくの辛抱だと思うし、終わってからゆっくり休もう。この依頼の後は応龍様の所に行くし、疲れた顔で会いに行くのもどうかと思うしね。」
『応龍様の神域に行かれた後はどうされるのですか?』
「そうだね......妖猫様か仙狐様の所に行く前に一度母さんの所に帰ろうかなと思っているんだ。」
『天狼様の元へですか?』
「うん。あの森を出た時はシャルと二人だけだったけど、今は仲間もこんなに増えたし色々と経験もしたからね。今の外の世界の話を母さんにしてあげたいんだ。マナスやレギさん達の事も紹介したいし......どうかな?」
『ケイ様がお連れになるのでしたら天狼様も拒むことはないと思いますが......マナスやファラは神域でも問題なく活動できると思いますが、グルフやあの人間たちは厳しいと思われます。』
「厳しい?なんで?」
「天狼様が長年結界の中にいたことにより神域は非常に高密度の魔力に満たされています。その為魔力への耐性が低い者達では半日も己を保てずに自壊するかと。」
「神域ってそんなに危険な場所だったの?」
『ダンジョンのように他者を排するような魔力ではありませんが、それでも耐えられるものではないと思われます。』
神域を襲ったあの金髪にーちゃんたちは平気そうだったけど......あれは短い時間だったからってことかな?
「......俺は何で平気だったのかな?」
『ケイ様は膨大な魔力を持っておられますし、耐性が強かったのでは?』
「でも俺は元々魔力操作が出来なかったし、魔力も持っているだけで外には一切漏れてなかったって言われたよ?そんな状態で魔力から身を守れるかな?」
『確かに今のお姿からは信じられない事ですが、ケイ様は神域にいた頃は魔力を使うことが出来ませんでしたね......であれば天狼様が強化魔法等で守られていたのではないでしょうか?』
「そう考えるほうが自然だよね......でもそれならレギさん達も同じように俺が強化魔法を掛ければ何とかなるんじゃないかな?」
『可能性としては十分あるかと。』
「流石に試してみるわけにはいかないから、神域に戻ったら母さんに聞いてみよう。みんなには神域の外で少し待ってもらえばいいだろうしね。」
母さんから俺も守った方法を教えてもらって、それをレギさん達に実践出来れば神域から出られない母さんにみんなを紹介できるはずだ。
みんなと言えば......。
『......?ケイ様?どうかされましたか?』
「ん?何が?」
『いえ、少し気が沈んだというか、何か気になる事でも出来たのかと。』
......そんなつもりはなかったけどな。
「まぁ......なんというか、ナレアさんはこの依頼が終わったらお別れだなと思ってね。」
『......そうなのですか?』
シャルが驚いたのか、少し声が高くなったような弾んだような......念話でもそういうことあるんだ?
「ナレアさんはこの依頼のお手伝いってことで一緒にいるからね。その後の事は分からないな。」
ナレアさんとはここ最近四六時中一緒にいるし、なんだかもっと長い事一緒にいる気がするけど、まだ知り合ってから三カ月もたっていないのかな?
何となく不思議な感じがする......なんだろうね?
『そうでしたか......ケイ様、どうやら戻って来たようです。』
シャルが入り口に目を向ける。
恐らく数分もすればナレアさん達が戻ってくるだろう。
ワイアードさん達が見つけた魔道具の解析は順調にいっただろうか?
いや、ナレアさんなら解析は問題なかったはずだ、それが今回の件の解決へのきっかけになるといいけど......。
「待たせたのう。変わりは無さそうじゃな。」
「えぇ、静かなものでしたよ。そちらはどうでしたか?」
「うむ、魔道具の解析は問題なしじゃ。魔物が飲み込んでいた方の魔道具を引き寄せる仕組みも分かったのでな、それを阻害するような魔道具をこれから開発予定じゃ。まぁそんなに難しい物ではないのでな、三日もあれば出来るじゃろう。」
「それを集落に行き渡らせればもう大丈夫って感じですか?」
「うむ、少なくとも集落が襲われることは無くなるな。」
「魔物自身もこちらから襲い掛からなければ、寧ろ普通の魔物より安全ですしね。」
「そうじゃな。これで事態の終息がみえたな。」
ナレアさんが晴れやかな笑みを浮かべる。
「量産は出来るのですか?」
「まぁそのくらいは国で出来るじゃろう。魔術式は提供してやるしな。」
「でも魔術師ギルドは人手不足だったのでは?」
「魔術師ギルドは国とは関係......ないとは言わぬが、国は国で魔術師を雇っておるからな。問題ないのじゃ。」
なるほど......確かにこの世界の生活には必須の存在である魔道具を維持するのに、外部の組織である魔術師ギルドに依存するはずがないか......上下水道の整備や街灯などは国家事業として運営されている方が自然だ。
下水掃除は冒険者ギルドに依頼していたりもしたけど......メンテナンスは国主導だろうね。
「とりあえず、すまぬがちょっと集中してことに当たりたい。ハヌエラが見つけた魔道具は念のため街中には持ち込まぬようにしておる。記憶がある今のうちに纏めてしまいたいのじゃ。」
「分かりました。邪魔しないように暫く神殿の外にいます。何かあったら呼んで下さい。」
「うむ、すまぬのう。」
ナレアさんが作業に取り掛かったのを確認して俺は神殿を後にした。
それにしても思っていた以上に朗報だ。
順調にいけば数日で仕事を終わらせられそうだね。
その後は......どうするのかな?
何となく神殿の入り口に目を向けた。
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