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3章 龍王国

第121話 待機待機待機

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神殿警備を再開してから十日程が経過した。
この間目立った動きはこちら側も相手側にもない。
一応ヘネイさんからワイアードさんの所に連絡が行き、ナレアさんの提案した作戦を実行中との報告は貰った。
その連絡が来たのもつい先日の事だ。
まぁ情報の伝達速度が遅いということを考えれば、もしかするとワイアードさんは既に魔物を引き付ける何かを発見しているかもしれないけど......ワイアードさん達は部隊を集合させ、それから魔物を放つ手筈だ。
そう考えるとまだ人を集めている段階かもしれないな。

「よし、ケイ。また実験に付き合ってくれぬか?」

「えぇ、構いませんよ。」

魔道具を作っていたナレアさんが声をかけてきた。
襲撃前から何かの魔道具をずっと作っていたナレアさんだが、最近は最終調整の段階まできたのかよく実験に付き合って欲しいと言われることが多々あった。
まぁ正直かなり暇だから手伝う分には別に構わないのだけど......何を作っているのか教えてくれないんだよね......。

「うむ、では入り口の方からこっちに向かって歩いて来てくれ。」

これもいつも通りだ。
俺は言われた通り一度入り口の方に行ってからナレアさんに向かって歩き始める。
ちなみに微妙に緊張している......。
この状況でナレアさんに向かって近づくという実験だ。
自動迎撃みたいな攻撃が飛んできてもおかしくはない......一番被害がなさそうなのは警報装置ってところだろうけど......ナレアさんが何も言わずにニヤニヤしているのが俺の不安を加速させる。
何が起きてもいいように警戒だけは怠らない......。
そこまで広いわけじゃない......警戒をしながら進んでも二十秒程度でナレアさんの元までたどり着く。
......何も起きませんでした。

「ふむ、なるほど......警戒していればそうなるか......となると......。」

ナレアさんが独り言をぶつぶつ言っている。
実験の後は基本的にいつもこれだ。
俺にとっては何も起きなかっただけなのだがナレアさんにとっては違うのだろう。
今の所一度も何かが起きたことはないが......何となく完成は近そうだ。
最初の頃に比べるとナレアさんの表情が柔らかいのも恐らく完成が見えているからのように思う。

「あぁ、すまんなケイ。もう大丈夫じゃ。」

「了解です。何が出来るのかはわかりませんが、頑張ってください。」

「うむ、もうそろそろ完成するので楽しみにしておいて欲しいのじゃ。」

そう言ってナレアさんは再び作業に戻る。
実験する前にどんな効果なのかを教えてくれれば素直に楽しみにしておけるのですけど......。
心を読んでくる割にこういう時は汲み取ってもらえない......いや、分かっている上でこの対応なのだろうけど......そもそも口に出して教えて欲しいって何回も言っているしな。

『ケイ様。巫女が来たようです。』

「あぁ、もうそんな時間なんだ?何か進展があるといいけど......。」

ここ数日はヘネイさんもご飯を持ってきてくれている以外は新しい情報がないので軽く雑談をしていく程度だ。
レギさん達やファラからの情報も同様で街でも何も起きていない。
ここまで何もないともう仕掛けてくる気がないのではないかと思うけど......油断をつかれたくはないので気は抜けない。

「失礼します。ナレア様、ケイ様。お疲れ様です、お食事をお持ちしました。」

「こんにちは、ヘネイさん......今って昼ですよね?」

森の中は薄暗く、さらに神殿は採光が少ないので長時間中にいると時間が分からなくなるのだ。

「昼と言うには少し遅い時間ですね。こちらは晩御飯になります。時間的には夕暮れ時といったところでしょうか?」

「うーん、体内時計がちゃんと機能していないな。」

やっぱり人間、お日様に当たらないといけないってことかな......。

「体内時計ですか?それは一体どのような......?」

「あーすみません、何となく時間が分かる......感覚的なものです。」

正確には違うらしいけど......そんな意味で言ったわけじゃないから問題はないよね。

「あぁ、なるほど。そう言う物の事ですか。分かる気がします。」

ヘネイさんが納得したように微笑む。

「それで、ナレア様は......今日も魔道具作成に熱中していらっしゃるのですね。」

「えぇ、先ほど僕も実験に付き合ったところです。もうそろそろ完成するみたいですが。」

「一体どのような魔道具を作られているのでしょうか?」

「僕には教えてくれないんですよね......。」

「ナレア様はケイ様に特に意地悪をされますね。」

そう言って笑みを浮かべるヘネイさん。
何も面白い所なかったですよ?

「......酷い話です。」

「......きっとケイ様だけしか見たことのないナレア様の表情があると思います。それが笑顔であれば、とても喜ばしい事です。」

意地が悪そうな笑顔ならよく見ますけど......。

「どうでしょう?僕にはわかりませんが......。」

「ケイ様はそうだと思います。」

ヘネイさんはとても優しい笑顔でこちらに向けてくる。
どういった意味だろうか......?

「あ、すみません。忘れるところでした。実はレギ様達から伝言を......っ!」

途中まで話していたヘネイさんが驚いた表情に変わる。
レギさん達から伝言?
後回しになっていたってことは事件には関係ない事だろうけどなんだろう?

「すみません、ケイ様。少し失礼します。」

そういったヘネイさんは慌てた様子で俺から少し離れた位置に移動する。
なんか携帯がかかってきた人みたいだな。
......あぁ、もしかしてクレイドラゴンさんから連絡が来たのかな?
思ったよりも戻ってくるまでに時間がかかったみたいだけど......意外と距離があるのかな?

「ケイ様、お話の途中で申し訳ありませんでした。応龍様から連絡がありまして、出来るだけ早く聖域にケイ様を連れて来て欲しいと。」

「出来るだけ早くですか?今は神殿の警備中なので難しいですね......。」

「申し訳ありません。神殿の警備より優先して頂きたいのですが......。」

「いいのでしょうか?」

「はい、突然で申し訳ありませんが......一応森の外には私の護衛をしている近衛の方もいますし。少しの間だけナレア様にお願いしたいのですが。」

「......分かりました。マナス、半分ここに残ってナレアさんとの連絡をお願い。」

すぐにマナスが分裂してナレアさんの傍に行く。
これでもし神殿に襲撃者が来たとしてもマナスが教えてくれるからすぐにここに戻って来られる。

「ナレアさん、すみません。応龍様に呼ばれたのでここの警備を少し開けたいのですが、いいですか?」

「......。」

ナレアさんに呼びかけるものの反応は全くない。

「ナレア様、すみません。少しよろしいでしょうか?」

「......。」

ヘネイさんも声をかけるが全くの無反応......。
凄い集中力だけど......今一応警備の仕事中ですよ?

「困りましたね......ナレア様がここまで集中して作業されているとは......。」

「すみません......。」

「いえ、こちらもずっと神殿に籠らせているのは心苦しかったので。気分転換をしっかりされているようで良かったです。ですが......今は少し困ってしまいますね。」

物凄い集中力を発揮して魔術式を描いているナレアさん。
こんなすぐ傍で会話しているのに全く意に介していない......。

「流石に警備中にどうかと思いますけど......。」

「ふふ、それはケイ様がそれだけ信頼されている証だと思いますよ。」

「それは何か......いい感じに言っているだけじゃないですかね?」

仕事を完全に任せてさぼっているとも取れると思うのです。

「まぁ、ケイ様は女性の為に頑張るつもりはないとおっしゃるのですか?」

「酷い奴じゃ。ケイはもっと妾に優しくするべきだと思うのじゃ。」

突然ナレアさんが会話に参加してくる。
なんでそういう事だけしっかり耳に入っているのですかね?

「ちゃんとずっと聞こえていたのじゃ。応龍の所に行くのじゃろ?流石にケイがいない間は手を止めておくから気にせず行ってくるのじゃ。」

そう言ってナレアさんは椅子から立ち上がり背伸びをする。

「よし!気分転換に神殿の警備でもしておくのじゃ。マナスと一緒にのう。」

マナスがナレアさんの肩に登り、そのマナスをナレアさんが右手でムニムニしている。
まぁナレアさんが警備に専念してくれるならとりあえず問題はないだろう。
でもとりあえず、警備がメインで息抜きが魔道具作成ですからね?

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