上 下
121 / 528
3章 龍王国

第120話 言ってはいない

しおりを挟む


「本当にありがとうございます。国からも報酬といった形でお礼をさせて頂きたいと思います。」

「ふむ......どうするケイ?国から報酬がでるそうじゃが。」

「どうするって......どういうことですか?」

報酬が貰えるなら貰っておけばいいと思うけれど......。

「国難と言える程の事件じゃからな。報酬だけ渡されておしまいとはいかんぞ?登城して謁見の間で仰々しくやるじゃろうな。ギルドを通していない直接の依頼、しかもこの国でも最高位の権力者の一人である龍の巫女からの依頼じゃ。それ即ち応龍からの依頼ということは全ての者が理解する所じゃな。」

意識していなかったけど......ヘネイさんはこの国では並ぶ者がいない存在で、本来であればこうして一つの部屋に一緒にいられるような相手じゃないんだよな......。
そしてそんな相手に依頼されて、国の信仰を汚すような相手を敵に立ちまわっているんだ......。

「まぁ、ケイはダンジョン攻略者として一部では有名じゃしな。龍王国で一旗揚げても問題は無かろう。下級冒険者とは思えぬ功績じゃ、というか上級冒険者であってもそうそう成し遂げられるものではないのう。」

......正直、お金はあるに越したことはないけど......そういうのは遠慮したい。
ダンジョンの時はやむを得なかったけど......今回は......。

「えっと......それ辞退出来ませんかね......?」

「辞退ですか?」

ヘネイさんの表情が少し曇る。

「僕はこれから他の神獣様の所にも行かなければならないのです。その際にあまり有名になっていると動きが制限される可能性がありますし......神獣様達にも迷惑がかかる可能性があります。」

「応龍様や天狼様以外の神獣様の元に!?」

ヘネイさんが驚いた後に一気に青ざめる。

「はい。ですので、我儘を言って申し訳ありませんが......。」

「いえ!こちらこそ大変失礼いたしました!ケイ様の御事情も考えずに勝手なことを!」

「頭を上げてください、ヘネイさん。こちらの事情は話していませんでしたから、申し訳ないのはこちらの方ですよ。」

このままだと以前のようにヘネイさんが平伏しそうだったので慌てて顔を上げてもらう。
まだヘネイさんは顔色が悪かったがとりあえず落ち着てくれた。

「そういう訳ですみません、ナレアさん。」

「ふむ、まぁケイの事情を考えれば仕方ないであろうな。」

「もしナレアさん達が国からの報酬を受けられるようでしたら、是非行ってきて下さい。僕の事はお気になさらず。」

「いや、妾はそういう堅苦しいのは嫌いじゃ。レギ殿達も......断りそうじゃな。」

「出来ればナレア様達だけでも受けて頂けると有難いのですが......。」

「そうは言ってもな、ケイと一緒に動く以上妾達もあまり目立つわけにはいくまい。ケイが辞退した意味が無くなってしまうじゃろ?」

「それは......はい、その通りです。申し訳ありません、軽率でした。」

ヘネイさんがまた落ち込んでしまった......。

「まぁ追加報酬だけでも貰えれば嬉しいがのう。」

......ナレアさん、それは図々しくないですかね?

「そうですね......そのくらいなら秘密裏になんとか出来るかと。」

「いいのですか?」

「えぇ、せめてそのくらいはさせて頂きたいと思います。」

「ありがとうございます。とても助かります。」

ヘネイさんの要望に応えられないのは心苦しいけど......報酬は貰っておこう。
何となく意地汚い気もするけれど、お金に罪はない。
まぁ今の所お金に困ってはいないけど......この先何があるか分からないからな。

「まぁその件についてはヘネイにうまくやってもらおう。それで今後の事じゃが......。」

「今は神殿の有る森を近衛の方々に守ってもらっているのですよね?」

「えぇ、森への立ち入りは出来ないので周りで守ってもらっています。」

「あまり大きい森ではないとは言え、完璧に守るのは難しいですよね。」

「そうじゃな。神殿への出入りを許可されている妾達が詰めるほうがよかろう。」

「そうですね。それに神殿への襲撃は囮で、王城を狙ってくると言う可能性もないとは言い切れないですし、僕たちは早めに神殿に戻って近衛の方々には王城警護に専念してもらった方がいいかもしれません。」

「昨日の今日でとは思いますが......そういう気の緩みこそ狙われるのかもしれませんね。分かりました、お二人には御負担をおかけしますが......宜しくお願い致します。」

「うむ、それでは早速神殿に向かうとするかの。」

「レギ様達へ先に連絡しなくて大丈夫でしょうか?」

椅子から立ち上がろうとした俺達にヘネイさんから待ったがかかる。

「ヘネイの方から伝えておいて欲しいのじゃ。以降の連絡はまた手を貸してもらう事になるが、すまんのう。」

「いえ、そのくらいしか私には出来ませんので。」

「お主も狙われる可能性は十分あるのじゃから警備はいつもより厚めにしておくのじゃ。レギ殿達へは使いを走らせてくれればよい。」

「承知いたしました......今だけはこの身が不便で仕方ありません。」

「仕方なかろう。巫女は誰でもなれるわけではない......と言うよりもなれるものは圧倒的に少ないじゃろ。」

「何か条件があるのですか?」

「......応龍様にお仕えするには、神殿の魔道具を起動出来ないといけませんから......。」

条件って魔力量か......。
でも魔術式がないタイプの......魔法を込められた魔道具を起動するにはかなりの魔力量が必要ってナレアさんが言っていたな。
生来魔力の多い魔族にも殆どいないらしいし......だがヘネイさんは人族なのに魔道具を動かせるだけの魔力を持っているってことだ。
相当貴重な人材に違いない。

「なるほど......もしかして巫女様は常にいるわけではないのですか?」

そう簡単にそれだけの魔力量を持った人が見つかるとは思えない......。

「そうですね......巫女がいない時代も少なくは無いようです。私は先代からお役目を引き継ぐことが出来ましたが、先々代の巫女は引き継げなかったと聞いています。先代の巫女は相当な高齢だったこともあり、私に引き継げたことを心から喜んでくださいました。次代の巫女は常に探している状態ですが、簡単に見つかることはないでしょうね。」

後継者問題か......条件が厳しすぎて大変そうだな......。

「跡継ぎと言うのは中々難しい問題じゃからのう。」

「......。」

何かを言いたそうにヘネイさんがナレアさんを見ている。
これは......ナレアさんに巫女になって欲しいってことかな?
でもナレアさんの方が年上だよね?
まぁナレアさんは魔族で長命だし、魔力も十分過ぎるほどあるのだろうけど......。
ナレアさんが誰かに仕えるっていうのはちょっと想像できないな......。

「ケイ......お主いい度胸をしておるな。」

ナレアさんから底知れぬ冷気を感じる......。
しまった......これは完全に何考えていたかバレているやつだ。

「ケイ様......流石に女性の年齢の事を言うのは無作法が過ぎるかと。」

鎮痛な面持ちで告げてくるヘネイさん。
これ以上ないくらい正確に二人にバレているらしい。
俺は死を覚悟した。
......でも一言だけ......言ってないよね?

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

処理中です...