上 下
113 / 528
3章 龍王国

第112話 背中に

しおりを挟む


翌朝俺たちはワイアードさんの所へ行きスラッジリザードの体内に魔道具は存在したのか尋ねた。
予想していた通りスラッジリザードの体中に魔道具は存在していなかったらしい。
これでもしスラッジリザードの体内に魔道具が存在していたら、昨日の推察が全てひっくり返る所だったけどその心配はなさそうだ。
俺達はワイアードさんに昨日の推察を伝え、襲われていた村に魔物を引き寄せる何かがあるのではないかという話を伝えておく。
ワイアードさんは部隊から数名を一番近い魔物に襲撃された村へと送り、本隊は魔物を護送しつつ一月程かけて王都へと向かうそうだ。

「予想が当たっていればいいのだがのう。」

「魔物を誘引している何かですか?」

「うむ、それがもし見つかれば後の対処はそう難しくはなかろう。」

「王都に戻って報告したら僕たちもどこか襲撃された村に行ってみますか?」

「そうじゃな、それがいいじゃろう。」

俺はシャルに併走して走る......走ってないな、飛ぶ?
まぁとりあえず、すぐ隣を移動しているナレアさんと王都に向かう道すがらこれからの事を話し合っていた。

「もし誘引する何かが見つかったとして、それがその土地に根付くものじゃなく誰かが持ち込んだ物の場合。相手の狙いが分かるかもしれませんね。」

「......ふむ。じゃが、それなら魔道具を埋め込まれている魔物の分布からある程度狙いは分かりそうじゃがな。」

「......それもそうですね。」

恐らくあのおかしくなっている魔物は一直線に目標に向かって進んでいるはずだ。
であれば騎士団が遭遇した場所の近くにある集落を目指している可能性は高い。
積極的に人を狙うわけじゃない魔物に集落を狙わせるのは注目を集める為ってところだろうか?
集落に辿り着かず途中で退治されても、そういう魔物の集団がいると噂が広がれば問題なし......。

「やっぱり、王都から騎士団を引き離したいんじゃないですかね?」

「......ふむ、本当の狙いは王都にあるということじゃな。じゃが確かに騎士の数は減るが街を守る衛兵や王城守護の近衛なんかはしっかり残っておるぞ?」

「なるほど......王都が手薄になるってことはないんですね。」

「そうじゃな。まぁ注意はしておいた方がいいじゃろうがな。」

そう言ってナレアさんはフロートボードの上で背伸びをする。

「お疲れですか?」

「ん?あぁすまぬな。少しだけな。」

ナレアさんは魔道具を調べたり情報を纏めたりとしてくれている上、一人だけ魔力を消費して移動するフロートボードを使っているからな......疲労が溜まっていてもおかしくない。

「シャル。ナレアさんの事も背中に乗せてもらえないかな?シャル達も疲れていると思うんだけど......大丈夫かな?」

『......畏まりました。私は大丈夫です。』

「ありがとう、シャル。ナレアさん、お疲れの様なので僕の後ろに。シャルに乗ってください。」

「......良いのか?」

ナレアさんは俺にではなくシャルに向かって問いかけている。
シャルもナレアさんの方を見て、恐らく何かを伝えているのだろう。

「......そうか。すまぬな。世話になる。」

そう言ってシャルとナレアさんはスピードを緩めていく。
後ろを走っていたグルフも同じように止まる。

「どうした?何か問題か?」

グルフから降りたレギさん達がこちらに近づきながら声をかけてくる。

「いえ、ナレアさんが少しお疲れの様なのでシャルに乗ってもらおうと思いまして。」

「いいの?」

何故かリィリさんが先ほどのナレアさんと同じようにシャルに問いかけている。
レギさんも心なしか目を丸くしている気がする。
そんなに驚くようなことかな......?
俺がそんなことを考えていることを瞬時に察したのかリィリさんが声をかけてくる。

「ケイ君はダメだね!物凄くダメだね!レギにぃのダメな部分ばっかり見習って!」

レギさんのダメな部分......?
そう言われたところでうっかり視線が上の方に上がってしまった。

「おい、ダメな部分って言われて今どこ見やがった。」

壮絶な笑みを浮かべたレギさんが迫ってくる。
まぁ、休憩するにはいいタイミングだったかな?
薄れていく意識の中、がっちりと頭を掴まれて宙づりにされた俺はそんなことを考えていた。



「素晴らしい速さじゃな。この速度をフロートボードで出していたら長時間は移動出来ずに魔力が無くなるであろうな。」

シャルの背中に乗ったナレアさんが楽しそうに話しかけてくる。
今ナレアさんは俺の後ろでシャルに跨っている。
俺の腰に手を回しているがあまり安定感が良くないのでしがみ付くような感じになっている。
ナレアさんは小柄だが......背中に何かが当たって......ないな。
しがみ付くような体制なので、背中に当たっているのはナレアさんの頬だな。
顎的な硬さが感じられる。
別に残念とは思っていない。

「ほほ、もう少し密着したほうが良かったかの?」

「......楽な体勢が一番ですよ。」

何故だろう?
顔すら見えていないのになんか考えていることを読まれたような......。

「ふむ......ではもう少し体を寄せさせてもらうか。」

ナレアさんが俺の背中に張り付くように体を動かした。

「......えーっと、ナレアさん?」

「いや、すまぬ。思っていたより疲労しておって、このままだと眠ってしまいそうでな。少し背中を貸してもらいたいのじゃ。」

そう言ったナレアさんは確かにいつもよりも声に力がなく、俺が思っていたよりも疲れていたことが分かる。

「分かりました。腕を支えておきますので眠ってもらっても大丈夫ですよ。」

「ほほ、眠っている間に悪戯する気じゃな......?」

非常に眠そうな声だがやはりナレアさんはナレアさんのようだ。

「その予定はないので不安定な体勢ですけど休んで下さい。」

「なんじゃ......つまらんのう。」

いつも通りのナレアさんのようだが今にも寝てしまいそうだな。
思えばナレアさんと合流してから王都につくまであまり休んでいないし、王都についてからも連日動き回ってそのまま今に至る。
特にナレアさんは移動にフロートボードを使って魔力を常に消費している。
前にレギさんから聞いたことがあったが、魔力が切れると物凄い倦怠感を覚えるらしい。
幸いナレアさんは魔力が多いらしく魔力が切れたことはないようだが、消費量は俺達の誰よりも多いはずだ。
もう少し休みを取るべきだったのだろうか?

「......気にする必要はない。あまり悠長にしてはいられぬ状況だしのう......こうやって休ませてもらえるだけで十分なのじゃ。」

ナレアさんが力を抜いてもたれかかってくる。
俺は左手でナレアさんが回してきた手を掴みつつ右手でシャルに掴まる。

「早い所片づけてゆっくりしたいですね。全力でお手伝いします。」

「......そこで自分がすぐに解決してみせると言わない辺りがケイらしいのじゃ。」

「あはは、格好つきませんね。」

「......もう少し主張をしても......いや......悪くない感じじゃな......安心できる......背中を任せるのじゃ。」

「分かりました......まぁ、今は前にいるので背中を守れませんけどね。」

「......一言多いのじゃ。」

ナレアさんが回した手に力を入れて締め付けてくる。
とは言え眠いからかあまり力は強くない。
なんとなく後ろから抱きしめられている様な......そんな気がしてくるな。
いや、余計な事を考えるのはやめておこう。
何故か心を読まれるし。
少しするとナレアさんの寝息が聞こえてくる。



View of リィリ

「いやー、ナレアちゃん役得だね。」

「ん?どういうことだ?」

「レギにぃには分からない話だったね......。」

この禿にそういう機微は絶対に分からない。
何せ小さい頃からずっと一緒にいたヘイルにぃ達の事すら気付けなかったのだ。
鈍感とか朴念仁とかそういうレベルではない。
多分何かそういう呪いにかかっているに違いない、髪がないのもそのせいだと思う。

「なんか速度が上がっていっていないか?」

「ん?」

レギにぃが前を見ながらそんなことを言う。
私がレギにぃの後頭部から前を走る三人......マナスちゃんもいるから四人か......に目を向ける。
確かにじわじわ距離が開いて行っているようだ。
あー、シャルちゃんこれは随分ご機嫌斜めだね......仕方ないかもしれないけど......。

「グルフちゃん。ごめんね、多分シャルちゃんこれから速さをどんどん上げていくと思うんだ。きついかも知れないけど頑張ってついて行ってくれるかな?」

グルフちゃんの柔らかい毛並みを撫でながらある意味死刑宣告のようなセリフを告げる。
撫でる掌から力が伝わってきて速度があがる。
本当は明日王都に着く予定だったけど......これは今日中に着いちゃう可能性があるなぁ。
ごめんね、グルフちゃん。
シャルちゃんに付き合ってあげて。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...