109 / 528
3章 龍王国
第108話 愛ゆえに
しおりを挟む「ところで何の魔物を捕獲したのじゃ?」
ナレアさんの言葉に全員が隊列の後方で運ばれている布に覆われたものを見る。
まぁ間違いなくあれが魔物の入っている檻だろう。
「捕獲した魔物は、蛇とクモです。」
う......クモ......。
俺が嫌そうな顔をしたのを見逃さなかったナレアさんがにやにやしている。
「なるほど......蛇とクモ......クモのう......。」
「クモが何か?」
「いや、何でもないのじゃ。ところでケイ、捕獲した魔物を確認してこんかの?」
「......今はワイアード様の話を聞く方が大事かと思います。捕獲されている魔物については、後程全員で確認に行くのがいいかと。」
「ふむ?しかし手分けして情報収集した方が良くないかの?情報は後で打ち合わせをするときに纏めるから問題なかろう?」
くっ!?
正論で攻めてきた!
「それは確かにそうかもしれませんが......。」
「というわけでここは妾とレギ殿とリィリに任せてケイは魔物の方を頼むのじゃ。」
三対一!?
暴論で責めてきた!
「そこはせめて二人ずつに分かれるべきじゃないですかね?それに、魔道具の事を考えるとナレアさんが魔物を確認したほうがいいと思います。」
「それもそうじゃな。ケイがそこまで妾と離れたくないというのであれば、妾もそちらに行くのじゃ。」
「おや、ナレア様とケイ殿はそういう御関係でしたか。」
ワイアードさんが驚いた表情で言ってきた。
いや、そういう関係じゃないです。
「うむ、ただならぬ関係じゃな。」
「なんと!それは、おめでとうございます!私も負けていられませんね!」
何故だかワイアードさんが興奮している。
後、何一つ勝ってないです。
「いや、お主はそのまま負けておいた方がいいと思うのじゃ。」
「いえ、決めました。王都に戻り次第想いを告げようと思います。」
唐突にワイアードさんが告白を決意したようだ......。
何故この流れで......?
それより情報収集は......?
「想いを告げるも何も、お主ふられ続けておるじゃろ。」
「照れているだけですよ。それに幼き頃、ちゃんと結婚の約束をしていますので問題ありません。」
「年々当りがきつくなっているじゃろうが。」
「愛ゆえにかと。」
「......約束しておるなら想いを告げる必要はないのではないか?」
「思っているだけで相手に伝わると考えるのは傲慢です。きちんと相手に伝えることが重要だと考えます。」
「......。」
おぉ、ナレアさんが押されている。
いや、ナレアさんから引いているのか......?
ワイアードさんから少しだけ危険な感じがしてきましたね......。
「おっと、申し訳ありません。今は仕事中でした。続きをとは思いますが、私から伝えられることはもうありません。何かお聞きしたいことはありますか?」
「......あーレギ殿、ここは任せてもいいかの?妾は捕獲された魔物の方を見てくるのじゃ。」
そう言ってナレアさんはそそくさと隊列の後方に移動していく。
「お、おう。」
ナレアさんが逃げた......。
まぁ、レギさんも微妙な表情をしているけど。
とりあえずどうしたものか......。
「ケイ君もナレアちゃんについて行ったら?ここは私達だけでいいよ。」
断る理由が思いつかない......非常に行きたくないけど......二人ずつって言ったのは俺だしな......。
それにここに残るのもちょっとな......。
「分かりました。お願いします。ワイアード様、私も魔物の方に行こうと思うので失礼します。」
「承知しました。宜しくお願いします。」
そう言って頭を下げるワイアードさんは先程の雰囲気を微塵も感じさせない真面目な騎士だった。
「あぁ、来たかケイ。」
「元々僕が指名されていましたからね......。」
隊列の後方に下がったナレアさんに追いつくと、丁度魔物の檻が乗っている荷台の上に登った所だった。
「苦手じゃろうに、律儀なやつじゃ。」
ナレアさんが荷台の上から手を伸ばしてくる。
「ありがとうございます。」
ナレアさんの手を掴んで荷台の上へと上がる。
「さて、とりあえず見てみるとするかの。」
ナレアさんが檻を覆っている布を外すと、中にはデカい蛇の魔物が入っていた。
よし!蛇なら平気だ。
「......なんじゃ、外れか。」
そう言ってもう一つの荷台に移動しようとするナレアさん。
「いやいやいや。外れとかないですよ。この子でいいじゃないですか。」
とぐろを巻いているので何メートルくらいあるのかは分からないけれど、全長は五メートルくらいあるんじゃないだろうか?
格子が網目状になっているの出てくることは出来ないだろうけど、こっちからも調べるのは難しそうだ。
毒液とか飛ばしたりしないよね......?
「そうか?もう一匹のほうが良さそうな気がしたんじゃが......。」
「どちらも似たようなものじゃないですかね?」
「しかし、この格子では調べようにも調べられぬではないか。」
布を外されて暴れ出した蛇を見ながらナレアさんが言う。
この暴れようだと調べるのは難しそうだ......。
「この感じだともう一つの檻も暴れまくって調べられないんじゃないですかね?」
「......それもそうじゃな......移動中に調べるのは諦めるか。」
ナレアさんはため息をつくと手に持っていた布を元に戻す。
「それにしても先程のワイアードさんは様子がいつもと違いましたね。」
「ふむ、妾の知っているハヌエラは昔からあんな感じじゃ。基本人の話は聞かぬし、聞いても曲解するのじゃ。」
「前面白いって言っていませんでした?」
「傍から見る分には面白いのじゃ。直接かかわるのは......ちょっと面倒じゃな。」
「面倒ってまた......しかしワイアードさんは貴族ですよね?お相手がいらっしゃったんですね。」
「ワイアードはいい歳じゃからな。跡継ぎじゃし本来であれば既に子を儲けておかねばならん頃合いじゃが......。」
「結婚したい相手がいるからって所ですか?」
真面目な騎士かと思っていたけど、意外と情熱的な人のようだ。
さっき聞いた感じだと少し行き過ぎている気もするけど......。
「まぁそんな感じじゃのう......相手にされておらぬが。」
「そんな感じの事を言っていましたね。」
「まぁ一緒に王都に戻るからな。相手にも会う機会があるじゃろ。十中八九どころか十中十ふられるがな。」
「そんなに脈のない相手を追いかけているんですか?」
「......そうじゃな。妾としては間違いなく無理じゃと思っておるが......本人は諦める気はないのじゃろうな。添い遂げられぬようなら一生独身も辞さないと言っておるが......それは周りが許さぬじゃろうな。」
「貴族の跡取りなんですよね......?確かにそれは難しそうですね。」
俺のふわっとした知識でも、流石に貴族の跡取りが結婚せずに子供を作らないのは非常にまずいと思う......。
「まぁ、他人が口を挟むことじゃないがのう。まぁそれはそうと、奴のふられっぷりは見ていて非常に面白いのでお勧めじゃ。」
「それは趣味が悪いですよ......。」
「流石に他人がふられるのを見るのが楽しいと言っているわけではないのじゃ。とは言え、ハヌエラのあれはな......まぁ、見れば分かるのじゃ。」
「僕としてはうまくいって欲しいと思いますが。ワイアードさんはいい人そうですし。」
「いい奴には違いないのじゃ。じゃがそれとこれは別問題じゃからな、いい奴が必ず報われるとは限らんのじゃ。こと恋愛においては特にのう。」
「ワイアードさんもてそうですけど......。」
「それこそ全くの別問題じゃな。振り向いて欲しい相手は一人じゃろ?」
「まぁ、それはそうですね。」
「貴族の結婚に恋愛は不要じゃ。今はまだ大目に見てもらっておるが、時間の問題じゃろうのう。」
やっぱりそんな感じなのか......。
まぁ好きな相手がいるわけじゃないし、俺が貴族なわけでも無いけど......やっぱりそういうのは聞くだけでも切ない感じがするなぁ......ワイアードさん......うまくいくといいのだけど......。
切ない気持ちになりながら、ワイアードさんの想いが届くように祈った。
......この場合、まだ見ぬ応龍様に祈るべきなのかな......?
1
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる