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3章 龍王国
第95話 お礼を考えよう
しおりを挟むファラはまた夜に戻ってくると言い残して部屋から出て行った。
魔物の話をファラに確認してみたが、まだ一般人には魔物の群れによる襲撃が多くなっていることは広まっていないらしいが、商人や軍関係、そして冒険者には既に広まっているらしい。
一般人が把握するのも時間の問題だろう。
そしてその魔物の群れは複数種類の魔物が群れを作っているらしい。
一つ一つの群れにいる魔物の数はそう多くはないものの少人数で対応出来る数ではなく、軍は部隊を方々に派兵して対応しているそうだがどこに現れるか分からない魔物の群れに人手が全く足りていないとのことだ。
それはともかく予想はしていたけれど、ファラは軍相手にも普通に情報を集めているみたいだね......まぁネズミの斥候だからな......。
防諜するには......毒餌には手を出さないし、猫を飼うとか?
でも統率されたネズミ君達は猫の数匹くらいは簡単に排除しそうだよね。
窓の外を見るとまだ夕方と言うには早すぎる。
レギさん達は昼食後それぞれ情報収集に出ているだろう。
ナレアさんは知り合いに連絡を入れるって言っていたかな?
俺はどうしようかな......折角だから王都をぶらぶらしてみようかな?
「シャル、マナス。少し出かけてみない?」
『はい、お供します。』
頷くシャルと嬉しそうに弾みながら俺に近づいてくるマナス。
「ファラも一緒に出掛けられれば良かったのにな。」
『ファラはまだ情報を把握しきっていないと言っていましたから今頃必死に情報を集めているのだと思います。』
ファラはシャルと同じくらい真面目というか......完璧にこなせてやっと及第点って思っている様な節があるね......。
「ファラっていつ頃王都に来たんだろう?」
『確か四日程前と言っておりました。』
「四日であんなに情報集めてたの......?」
冒険者ギルドみたいに元から情報を集めているようなシステムがあったわけじゃなくて配下を教育して情報を集めさせて......それを整理して......。
いや、今まで他の街でもやっているからノウハウはあるかもしれないけど......それでもむちゃくちゃな日程じゃないかな......?
もしかしたら何匹か他の街から部下を連れて来ているかもしれないけれど......それでも早すぎるよね......。
うちの子達が出来る子過ぎて怖い......。
「ファラにはお礼をしないとなぁ......。」
『礼ですか?』
「ずっと俺達と離れて頑張ってくれていたし、ファラの情報があったおかげで色々とここまでの道中も助かったからね。」
『私たちがケイ様の為に動くのは当然の事です。』
「シャルはそう言ってくれるけど、俺はそれを当然の事とは考えたくないんだ。それに前にも言ったけど、俺の為に頑張ってくれてるみんなには感謝しているしお礼をしたいんだ。」
『そう、でしたね。前にも言われたことでしたのに申し訳ございません。』
少し項垂れてしまったシャルの頭を優しく撫でる。
「シャルが俺の為に色々してくれるのは凄く嬉しいんだ。今度またシャルのお腹撫でたりしないとね。」
シャルの頭を撫でながら俺が告げるとシャルが石のように固まる。
何故か柔らかいはずのシャルの毛並みまでがっちがちになってしまった気がするな。
「グルフはいいお肉とグルーミングしてあげればいいかな......?マナスは何かして欲しいことはあるかな?」
マナスは俺の肩まで登ってきてぴょんぴょん跳ねている。
......うーん、喜んでくれているのは分かるけど、流石に何をして欲しいかまでは分からないな......。
いつもだったらシャルが教えてくれるんだけど......何故かまだフリーズしたように固まってるんだよな......。
「シャル?大丈夫?」
『も、申し訳ありません!大丈夫です!』
シャルが再起動して慌てて謝ってくる。
「大丈夫?疲れているんじゃない?出かけるのはやめて休むかい?」
『いえ!大丈夫です!マナスでしたね!?大丈夫です!お任せください!』
大丈夫を連呼するシャル......本当に大丈夫だろうか......?
シャルが俺の肩に乗っているマナスの方を向いてやりとりをしている。
『すみません、お待たせいたしました。マナスの希望ですが今度食事......魔力を沢山いただきたいとのことです。』
「ん?マナスそれでいいの?もし足りてないんだったらいつももっと魔力あげてもいいんだよ?」
正直魔力は有り余っている。
マナスが欲しいのだったらいくらでもあげられると思う。
『......今までより少し増やして欲しいそうです。』
「なるほど......ごめんね、気付かなくて。マナスは成長期なのかな?」
スライムに成長期があるかどうかわかんないけど......。
『成長期......とはちがいますが、魔力の保有許容が増えているようです。』
「へぇ、マナスも成長していたんだね。うん、分かったよ。少しご飯の量を増やそう。」
マナスが肩の上で嬉しそうに跳ねた。
「シャル達はいいとして......ファラには何をしてあげたらいいかなぁ。」
ファラには夜に会った時に希望を聞いたほうがいいかな?
でもシャル以上に遠慮しそうなんだよね......初めて会った時に手入れをして清潔にしてあげたけど......グルーミングと呼べるものじゃないしな......多少サイズは大きいとはいえ手に乗るサイズだ......ブラシをかけるってのも違うよね......。
......チーズでも買ってあげようかな?
「よし、ファラの希望は夜に聞くとして、それとは別にはなんかご飯を買っておいてあげよう。」
『承知いたしました。』
「とりあえずチーズかな......でもチーズって見たことあったかな?」
『......チーズですか?』
「うん、牛乳とかヤギの乳を......なんやかんや加工したもの......。」
ダメだ......チーズってどう作るんだろう......なんやかんやがさっぱり想像できない。
なんか布とかでぎゅっと絞って水分を抜くのは知ってる......。
多分何かを牛乳に混ぜて固めるんだろうな......。
『牛乳や山羊乳から作られる物ですか......保存が効くような物なのでしょうか?』
「えっと......多分、結構長持ちすると思う......。」
『でしたら牧畜をしている村で作られたものが売られていてもおかしくはないですね。』
「なるほど.....ファラに聞いたら一発かもしれないけど......それは微妙だな。食材だけどリィリさんなら知ってるかな?」
もし有名なチーズとかあったら知っている可能性はあるか。
「よし、じゃぁチーズを探しながら王都を散策してみよう。」
『承知いたしました。』
「さて、とりあえず......何処に行けばいいんだ?」
いくら王都っていってもスーパーとかコンビニはないよね......。
よく考えたらこの世界にきて食材って殆ど買ったことないな。
特に生鮮食品は一度も買ったことないかも......?
旅の保存食とかはあるんだけど......そういえばチーズって保存食だよね?
「よし、冒険者ギルドに行ってみよう。そこで保存食を売っている場所を教えてもらうか。」
『ケイ様、保存食を売っている場所は私がファラから聞いて把握しております。それとケイ様、差し出がましいようですが、魔術師ギルドへは行かなくてもよろしいのですか?』
「あ......忘れてた......。」
そうだオグレオさんに書いてもらった紹介状を魔術師ギルドに持って行って、魔道具がちゃんと動くかチェックする為の魔道具を買わないといけないんだ。
「ありがとう、シャル。折角書いてもらったのに忘れるところ......いや、思い出させてくれてありがとう。」
『いえ、宿を出る前に言うべきでした。』
「助かったよ。紹介状はちゃんと持っているからこのまま行けるかな。荷物になるから先に保存食を見に行って、その後で魔術師ギルドでいいかな。」
『承知いたしました、ではまずはこちらです。』
シャルが先導して歩き出す。
王都はあまりごちゃごちゃしておらずシャルが蹴飛ばされる危険がなさそうなので、俺の肩に掴まらずに自分で歩いているのだ。
しかしいつの間にシャルはファラから街の情報を聞いたのだろう?
ファラは部屋に入ってからずっと俺に向かって話をしていたし、俺との話が終わったらすぐに部屋から出て行ったと思う。
シャルもファラも何をどうやったらこんな風に出来るんだろう......俺なんか毎晩練習している魔道具作りの事にも拘わらず紹介状の事をすっかり忘れていたというのに......。
真面目さというか使命感の差......?
俺は前を歩くどこか得意げなシャルの後ろ姿を見ながら何となく気落ちしていた。
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