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3章 龍王国
第93話 クモだーーー
しおりを挟むナレアさんと龍王国の王都を目指して出発してから一週間が経過した。
その間、特に問題の様なものは起こらなかった。
「ちっ、ちょこまかと!」
レギさんの斧が猿の魔物を吹き飛ばす。
「くそ、浅い!リィリ頼む!」
「了解!」
レギさんが吹き飛ばした魔物にリィリさんが止めを刺す。
そう、現在俺たちは魔物との戦闘中だ。
ここまでの道中は本当に何も問題はなかったのだが、本日宿泊予定にしていた村の近くで魔物の群れを発見したのだ。
しかも普段であればシャルやグルフの接近に気づいた魔物はこちらから逃げるように移動するのだが、何故かこの魔物たちは俺達の接近を無視して村の方に足を進めていた。
このまま放っておけばあのスラッジリザードに襲われた村のようになってしまうだろうことは想像に難くない。
そう言うわけで俺たちは魔物の処理を始めたのだが......。
「複数種類の魔物の群れですね......。」
「その様じゃな......!」
ナレアさんが腕を横に振るうと離れた位置に居た魔物が真っ二つになる。
あの横薙ぎタイプの攻撃ってホントに斬撃だったんだ......。
しかも切れ味抜群......。
『ケイ様、お気をつけください、魔物がこちらに向かってきます。』
真っ二つになった魔物を見ていたらシャルから注意を促される。
横からイノシシの魔物が俺に向かって突っ込んできていたようだ。
アレは前にも見たビッグボアかな?
真っ直ぐ突っ込んでくるイノシシを横にずれて躱しざまに足を斬り飛ばす。
足を失い動けなくなったイノシシに止めを刺して辺りを見渡す。
ここにいた魔物の数は七匹。
猿が三匹にイノシシが二匹。
後は非常にデカい蜘蛛が二匹いる。
とりあえず、あのデカい蜘蛛が超怖い......。
そうかぁ虫も魔物になるのか......あぁ、恐ろしい......動物型だと表情というか雰囲気的なものが何となくわかるんだけど......虫って何を考えているのか分からなくて怖い......。
とりあえずこの前ファラの配下のネズミ君達に囲まれた時と同じくらい怖い......出来れば戦いたくない......。
でも残念ながらレギさんとリィリさんは少し離れた位置で生き残っている魔物と戦っている。
ナレアさんは......蜘蛛の魔物の方を向いているのだが、ちらちらこちらを見ながら微妙にニヤニヤして身構えてはいるものの何故か攻撃をしない。
うん、これは俺があのクモを怖がっているのに気づいている感じだね......。
「ケイ、残るはあの二匹のようじゃが......仕掛けないのかの?」
「えっとー、どうですかねー?」
戦闘中だというのに非常にナレアさんが楽しそうだ。
「よし、では妾が作戦立案をするのじゃ。ケイが前に出てあの二体を抑える。その隙に妾が側面を取る。ケイが妾とは反対方向に飛び相手の意識を釣る。その瞬間を狙って妾が片方を仕留める。残った一匹を二人で囲んで終わりじゃ。」
「......ナルホド。」
「相手の背後には回らない様に気を付けるのじゃ。糸で絡めとってくるのでやっかいじゃぞ。」
「......。」
「異論がなければ作戦開始といくのじゃ。」
「......リョウカイデス。」
ナレアさんのニヤニヤが止まらない。
「......。」
「妾はいつでもよいぞ?」
......分かりましたよ、行きますよ!行けばいいんでしょ!
アレはぬいぐるみ、アレはぬいぐるみ、アレはぬいぐるみ、いやこれはぬいぐるみじゃないな!
心の中でぬいぐるみを連呼しながら一気に魔物に接近したがどこからどう見ても生モノだ。
わさわさと動く足が俺目掛けて振り下ろされる。
殴り掛かって来たのかと思ったがどうやらそうではなく、俺を足で抱き込もうとするような動きだ、恐らく本命はかみつきなのだろう。
とりあえず一気に後ろに下がって距離を取りたいところだけどナレアさんは俺を盾に移動を開始しているはずだ、ここで距離を取ったら意味がない。
勿論側面に移動するのも無し、前に出ればそのまま伸し掛かられるだろう......。
そこまで考えた俺はクモ二匹に弱体魔法を掛ける。
効果はナレアさんに掛けたのと同じく脚力の低下、込める魔力量は手加減無しだ。
次の瞬間、俺が一歩下がるのと同時に二匹のクモが潰れたように動きを止める。
「む?なんじゃ倒してしまったのかの?」
側面に回り込もうと移動をしていたナレアさんが足を止めて聞いてくる。
「いえ、この前のナレアさんと同じように立ち上がる力を奪っただけです。まだ生きているので止め刺してもらっていいですか?」
「なるほど、あれをやったのじゃな......ん?ケイが止めを刺せばいいのではないかの?」
「いや、まぁ、それはー......。」
「妾がやるとなると魔力を使わねばならぬのじゃ。極力魔力の消費は抑えたいのう。ケイであればその武器でやればいいのじゃからすぐに済むのではないかの?」
ナレアさんがとてもいい笑顔でこちらに近づきながら提案してくる。
確かに魔力や魔道具を使わせるのはもったいないですけど......。
「レギ殿達も、もう全て片付け終わったようじゃな。ぱぱっと処理をして村に行って休むとするのじゃ。」
「......レギさんに......。」
「おや、向こうはイノシシの解体を始めるようじゃな。ならば、こっちはこっちで処理しておくのじゃ。ささ、ケイ。早く終わらせてしまうのじゃ。」
レギさん達はイノシシを近くにあった川に運んで解体を始めている。
もはや頼ることは出来ない......。
ナレアさんがにやにやしながら俺の目の前まで来る。
「早くとどめを差してやるのも慈悲なのじゃ。」
その慈悲、俺にもくれませんかね?
全力で脚の力を奪ったからクモは身動き一つすることはない。
ここで一つ俺の心に去来したことがある。
お願い......使うか......?
......いや、やりたくないことを押し付けるというのはどうなんだ......?
しかも内容が女性に虫の処理って......うん。
「ナレアさん......お願いしていいですか?」
「......なんか葛藤していたけど最終的に下種な方に流されたようじゃな。」
ナレアさんが半眼でこちらを見ている。
......もう頭の中だけで会話出来るんじゃないかな......?
「......くっ......すみません。僕がやります......。」
情けないのはこの際どうでもいいが......やはり押し付けるのは良くないだろう。
「うむ、このような事で願いを使われるのもちょっと切ないしのう。」
薄目......薄目で行けば......行ける......!
薄暗くぼやけた視界の中、気合で斬りつける。
緑色の体液がぶちゅっと飛び出し......気付いたら俺は二十メートル程クモから離れた位置に居た。
「やれやれ、随分と情けない事じゃのう......仕方ない、これはサービスじゃ。」
そういってナレアさんが腕を一振りすると、クモが二匹とも真っ二つになった。
あの魔道具......すごく欲しい。
「す、すみません。ありがとうございます。」
せめて燃やすくらいはしたいけど......たとえ死んでいても近寄りたくない......。
『ケイ様、私が処理しておきます。』
シャルが気を使って申し出てくれる。
でもこのくらいは自分でやらないと......。
「ありがとう、シャル。でも俺がやるよ。」
何故か分からないけどシャルがやってくれようとすると自分でやらないとって気になってくるな。
「とりあえずレギさんに魔物の素材で必要なものを確認しないとな......ナレアさんも必要なものがあったら教えてください。」
「妾は特にないのう。食料になるのはイノシシくらいじゃしのう。」
「分かりました、じゃぁすみません。少し確認してきますね。」
蜘蛛の死骸に背を向けて河原で解体作業をしているレギさん達の方にいく。
蜘蛛の素材が必要って言われないといいなぁ......。
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